【2026年公表】AI利活用における
民事責任の解釈適用に関する手引きとは?
経済産業省で検討された一般不法行為・
製造物責任などのポイントを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」とは、経済産業省が公表している資料です。業務においてAIを利用した際、不適切な出力等が原因で他人に損害を与えた場合に、AI利用者やAI開発者・提供者が責任を負うかどうかが論じられています。
本手引きでは、AIが「補助/支援型AI」と「依拠/代替型AI」の2つに大別されています。
「補助/支援型AI」は、利用者の判断を補助・支援する目的で用いられ、最終的に人の判断や行動を介在させることが予定されているAIです。
AI利用者については従来の過失の判断枠組みを適用することができる一方で、AI開発者・提供者が責任を負う場面は限定的とされています。「依拠/代替型AI」は、人の判断や行動を代替する前提で提供され、AIの判断に依拠しながら用いることが予定されるAIです。
AI利用者については、業務プロセスの適正な構築・運用について注意義務違反の有無を判断すべきとされています。他方でAI開発者・提供者については、安全性を発揮・維持するための設計上の措置や、AI利用者に対する情報提供などが求められると指摘されています。この記事ではAI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引きについて、要点を解説します。
※この記事は、2026年5月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- ・本手引き…AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き[第1.0版](令和8年4月)
目次
【2026年公表】「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」とは
「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」とは、経済産業省が公表している資料です。業務においてAIを利用した際、不適切な出力等が原因で他人に損害を与えた場合に、AI利用者やAI開発者・提供者が責任を負うかどうかが論じられています。
ただし、本手引きは新しいルールを定めたり、法的な拘束力を持つものではなく、既存の法律がAI利活用の場面でどう当てはめられるかを整理したものです。
近年では生成AIの登場に伴い、事業領域におけるさまざまなAIサービスの利活用が急速に拡大しています。AIサービスは便利である一方、時には不適切な出力等が行われ、他人に損害を及ぼすリスクがある点に注意が必要です。
AIサービスの利用に伴って発生した損害につき、誰が責任を負うのかは大きな法律上の問題の一つです。
AIそのものを想定した法律上の規定は十分に整備されていないものの、民法などの一般的な法律に従って判断し得るケースもあります。本手引きは、主に不法行為法などの観点から、AI を用いたサービスやシステムが事故に寄与する事例について論点や考え方の整理を行ったものです。
AI利活用について発生し得る民事責任の主な種類
本手引きでは、AIの利活用によって第三者に損害を及ぼした場合に、その責任を負う主体として「AI利用者」「AI開発者」「AI提供者」の3者が挙げられています。
一般不法行為責任に加えて、AI開発者・AI提供者については製造物責任も検討の対象とされています。
AI利用者の責任|一般不法行為
「AI利用者」とは、AIシステムまたはAIサービスを利用する事業者を意味します。
なお、「AIシステム」と「AIサービス」は次のものを指します。
AIシステム:自律性をもって動作し学習する機能を有するソフトウェアを要素として含むシステム
AIサービス:AI システムを用いた役務
AIシステムまたはAIサービスを利用した際に、不適切な出力などが行われ、それによって第三者に損害を及ぼした場合には、AI利用者は不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条)。
AI開発者・提供者の責任|一般不法行為・製造物責任
「AI開発者」とは、AIシステムを開発する事業者を意味します。AIを研究開発する事業者も、AI開発者に含まれます。
「AI提供者」とは、AIシステムをアプリケーション・製品・既存のシステム・ビジネスプロセス等に組み込んだサービスとして、AI利用者や業務外利用者に提供する事業者を意味します。
AIシステムまたはAIサービスによる不適切な出力などに起因して、第三者に損害を及ぼした場合には、AI開発者・AI提供者は不法行為または製造物責任に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条、製造物責任法3条)。
不法行為責任は、故意または過失の存在が要件とされています。これに対して、製造物責任は無過失責任であり、免責が認められるケースもきわめて狭く限定されているのが特徴的です。
AIの種類|補助/支援型AIと依拠/代替型AI
本手引きにおいては、利用するAIの種類を「補助/支援型AI」と「依拠/代替型AI」の2つに分類し、それぞれについてAI利用者とAI開発者・AI提供者の責任を論じています。
補助/支援型AIとは
「補助/支援型AI」は、AI利用者の判断の補助・支援としてのみ用いられ、最終的に人の判断や行動を介在させることが予定されているAIです。
AIを補助/支援型AIとして用いるべきケースとして、本手引きでは次の例が挙げられています。
① AI の機能や利用される場面を踏まえると人の判断を代わりに行っているとはいえないケース
② 規制法上の理由により人の最終的な判断が要求されるケース
③ AI の出⼒内容が潜在的に第三者の権利を侵害するリスクを内包しており、この点について人の評価や検証が必要なケース
依拠/代替型AIとは
「依拠/代替型AI」は、人の判断や行動の全部または一部を代替する前提で提供され、AIの判断に依拠しながら用いることが予定されるAIを指します。補助/支援型AIとは異なり、必ずしもAI利用者の最終的な判断や行動の介在が求められません。
依拠/代替型AIに該当するためには、次の2つの要件が求められるとされています。
① 人による判断や行動を介在させることでは実現困難な効用が見込まれること(必要性)
② AI が一定の精度や安全性を備えていること(精度および安全性)
責任判断に関する一般的な傾向
一般論として、補助/支援型AIについては従来の過失判断の枠組みが妥当する場面が少なくないとされています。
他方で、依拠/代替型AIについては、従来の考え方をそのまま適用することが困難な類型であるとして、異なる責任判断の方向性が検討されています。
補助/支援型AIの責任判断と想定事例
補助/支援型AIの利用によって第三者に損害を及ぼした場合に、AI利用者とAI開発者・AI提供者がどのような形で責任を負うのかにつき、本手引きにおける議論と想定事例を紹介します。
補助/支援型AIに関するAI利用者の責任
補助/支援型AIに関しては、AI利用者が「本来払うべき適切な注意を払いながらAIを用いたか否か」を評価することにより、責任の有無を判断します。この考え方は、従来の過失の判断枠組みに整合するものです。
AI利用者が負う注意義務としては、典型的には出力内容の正確性や適切性を評価することが求められます。
ただし、出力を一見するだけではリスクの所在が不明瞭であり、検証や是正が容易でないケースもあります。この場合、事前に一定の情報収集を行うことや、必要な利用上の措置を講ずることも、AI利用者の注意義務の内容になり得るとされています。
補助/支援型AIに関するAI開発者・提供者の責任
補助/支援型AIの出力については、AI利用者が適切かどうかを是正・検証する責任を負います。
ただし、AI利用者が適切に是正・検証を実施できるように、AI開発者・AI提供者は、AIの機能・性能の限界・使用方法・重要なリスクなどについて、明確な説明を行うことが求められます。
また、AI利用者においてリスクを具体的に予見したり、その出⼒をコントロールしながら用いたりすることが必ずしも容易でない場合については、AI開発者・AI提供者が一定の権利侵害防止措置等を講ずる義務を負うことも想定されます。
AI開発者・AI提供者がこれらの注意義務を怠ったときは、第三者に生じた損害について賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。
補助/支援型AIの想定事例
本手引きでは、補助/支援型AIの想定事例として次の4つが挙げられています。
- 補助/支援型AIの想定事例
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① 配送ルート最適化AI
運送事業者が配送ルートを決定する際に用いるAIです。配送先、車両情報、時間制限などの条件を入力すると、効率性や安全性の観点から最適化した配車とルーティングの計画を自動で作成できます。② 弁護士業務支援AI
弁護士の業務を補助するAIです。弁護士が調査したい内容や具体的事案の情報を入力すると、関連性の高い文献や裁判例を表示したり、法的な分析をまとめたレポートを生成したりする機能を有します。③ 画像生成AI
プロンプトを入力すると、自動的に画像を生成するAIです。利用規約上、生成された画像の商用利用が認められているケースが想定されています。④ 取引審査AI
賃貸物件の入居申込者について、信用スコアを算出するAIです。不動産業者が入居申込者に関する情報を入力すると、信用スコアが定量的に算出され、かつ一定の閾値に基づく合否も提示されます。
依拠/代替型AIの責任判断と想定事例
依拠/代替型AIについては、補助/支援型AIには妥当しやすい従来型の過失の判断枠組みとは異なる方法論の検討がなされています。
AI利用者とAI開発者・AI提供者がどのような形で責任を負うのかにつき、本手引きにおける議論と想定事例を紹介します。
依拠/代替型AIに関するAI利用者の責任
依拠/代替型AIの場合、AI利用者の判断が介在しません。そのためAI利用者の注意義務は、適切な判断や行動をすることではなく、AIシステムを組み込んだ業務プロセスを適正に構築・運用することとなります。
結果的に依拠/代替型AIが不適切な出力をしても、その前段階として業務プロセスの構築・運用が適正に行われていれば、AI利用者は責任を負わないと考えられます。
依拠/代替型AIに関するAI開発者・提供者の責任
依拠/代替型AIは、一定の精度や安全性を備えていることが要件とされています。
AI開発者とAI提供者は、依拠/代替型AIの安全性を発揮・維持するため、合理的に可能な設計上の措置や、リスク情報をAI利用者に提供するなどの説明上の措置を行うことが求められます。
これらの措置を怠ったために、第三者に損害を及ぼしたときは、AI開発者またはAI提供者は不法行為責任や製造物責任を負うことになります。
依拠/代替型AIの想定事例
本手引きでは、依拠/代替型AIの想定事例として次の3つが挙げられています。
- 依拠/代替型AIの想定事例
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① 外観検査AI
製造品を検査して、金属片などの異物を高精度で発見することができる検品サービスです。画像認識AIとX線検査装置を組み合わせたものが例示されています。② 自律走行ロボット(AMR)
倉庫や工場などの現場で稼働する、台車型の自律走行ロボットが例示されています。③ AIエージェント
例示はカスタマーサポートを代行するAIです。顧客からの質問がなされた際、回答マニュアル・製品情報・インターネット上の情報等から情報収集を行い、回答を出力します。
AI利活用における民事責任の立証に関する論点
他人のAIの利活用によって損害を受けた被害者が、加害者に対して損害賠償を請求する際には、不法行為や製造物責任などの請求原因を主張・立証しなければなりません。
ただし立証に役立つ証拠は、事業者である加害者側に偏在しており、被害者がアクセスするのは困難なケースが多いです。
こうした立証上の困難を解消・緩和するため、従前から次に挙げる各種制度・法理が適用されてきました。本手引きでは、これらの制度・法理に関するAI事案への適用可能性や、今後の課題などが議論されています。
① 文書提出命令
② 過失の事実上の推定
③ 欠陥の事実上の推定
④ 因果関係の認定
文書提出命令
「文書提出命令」は、民事訴訟法の規定によって設けられている制度です。一定の場合には、文書の所持者が裁判所に対して文書を提出する義務を負います。
裁判所によって文書提出命令が発せられたにもかかわらず、それに背いて文書を提出しない場合や、相手方の使用を妨げる目的で文書を滅失させたときは、裁判所は要証事実に関する相手方の主張を真実と認めることができます。
AI事案に関しては、AIの開発・提供・利用の過程で作成された文書に営業秘密が含まれるケースがあることが指摘されています。営業秘密が含まれている文書については、文書提出義務が免除され得るため、営業秘密該当性が訴訟における争点となることが予想されます。
過失の事実上の推定
「過失の事実上の推定」は、本来であれば原告(被害者)側が立証すべき被告(加害者)側の過失につき、一定の条件の下で原告の立証責任を緩和する法理です。
医療訴訟や環境訴訟など、専門技術性の高さや情報の偏在により立証が困難になりがちな分野において、過失の事実上の推定がなされるケースが散見されます。
本手引きでは、過失の事実上の推定は例外的に適用されるべき法理であり、医療訴訟や環境訴訟などの裁判例の考え方をそのままAIの文脈に適用し得るものではないとしています。
他方で、専門技術性や証拠の偏在といった特徴は、AI事案にも妥当する場合がある旨が指摘されています。こうした必要性に加えて、次に挙げるような正当化の根拠がみられる場合は、過失の事実上の推定を検討すべき場合があり得ると論じられています。
・生命身体等の重大な法益侵害
・一定の行為義務違反
・経験則
・高度の不確実性
など
欠陥の事実上の推定
「欠陥の事実上の推定」とは、製造物責任の要件である製造物の「欠陥」について、原告(被害者)側の立証責任を緩和する法理です。製造物を通常の用法に従って使用していたにもかかわらず、身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張・立証すればよいとされています。
本手引きでは、自律的に稼働する機械やロボットにも欠陥の事実上の推定は適用し得るとしつつ、人が使用することを想定した従来の製造物とは異なる考慮を要する旨が示唆されています。
具体的には、次の2点について指摘がなされています。
(a) 「通常の用法」の内容
機械が個々の挙動を自律的に決定し行動する場合でも、その運用が「通常の用法」に沿ったものであるか否かを評価することは可能と考えられるとされています。
(例)製造業者が指定した利用環境や利用方法を、重要な点において逸脱していないことが「通常の用法」に当たり得る
(b) 身体・財産に被害を及ぼす「異常」の内容
機械の挙動が意図した設計によるものなのか、それとも「異常」な挙動なのかの判断が難しいケースについては、後者であることを被害者において立証する必要が生じることも考えられるとされています。
因果関係の認定
AIの出⼒による損害発生リスクが統計的にしか把握できない場合、過失・欠陥と損害の間の因果関係の有無を判断しにくくなる可能性が指摘されています。
その例として、外観検査AIの検知精度として90%が要求されるところ、実際の精度は70%だったというケースが挙げられています。
精度70%のAIを用いた結果として異物の見落としが生じ、利用者にけがをさせたとしても、精度90%のAIを用いればけがによる損害を回避できたのかどうかは、必ずしも立証できるとは限りません。もし立証が成功しなければ、被害者の損害賠償請求は棄却されてしまいます。
こうした被害者の立証負担への対応方法として、統計的なリスクと他の間接事実を総合した事実認定や、公害事案や医療過誤事案を参考にした解釈論が提示されています。
AI利活用における国際的な紛争に関する手続上の論点
AIの利活用に起因する損害賠償請求は、異なる国・地域の間で行われることも想定されます。例えば、海外のAIサービスを利用する際などは、契約上の準拠法や仲裁条項が重要になります。
この場合、手続き上生じ得る論点として次の3つが指摘されています。
- 国際的な紛争に関する手続上の論点
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① 国際裁判管轄
問題となる紛争に関して、日本の裁判所が管轄権を有するか否かという問題です。
主に民事訴訟法の規定に従って国際裁判管轄の有無が決まりますが、仲裁合意が存在する場合は、被告の申立てによって訴えが却下されます(仲裁法14条1項)。② 準拠法
問題となる紛争に関して、どの国・地域の法令を適用すべきかという問題です。
当事者の合意があればそれに従いますが、合意がなければ法の適用に関する通則法などの規定に従って準拠法が決まります。③ 外国判決の執行
損害賠償請求等が外国の裁判所や外国の仲裁手続きによって行われた場合に、その判断を日本において執行できるかという問題です。
外国裁判所の判決については、日本の裁判所の執行判決を経て強制執行の申立てができるようになります。
外国の仲裁手続きにおける判断については、ニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)や仲裁法に基づき、日本の裁判所の執行決定を経て日本で執行できる場合があります。
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