雇用保険とは?
加入条件・保険料の計算方法・
給付内容・事業主が
行うべき手続きなどを解説!

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この記事のまとめ

「雇用保険」とは、労働者が失業した場合、自ら職業に関する教育訓練を受けた場合、育児休業を取得した場合などに必要な給付を行う制度です。

1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上継続して雇用される見込みがある労働者については、雇用保険への加入が義務付けられています。雇用保険料は、事業主と労働者が分担します。

雇用保険の主な給付内容には、失業時にもらえる「基本手当」や、育児休業を取得した際にもらえる「育児休業等手当」などがあります。基本手当については、失業の理由によって給付期間と給付額が変わります。

事業主は、新たに労働者を雇い入れた場合や、労働者が離職した場合などに、雇用保険に関する手続きを行う必要があります

この記事では雇用保険について、加入条件・保険料の計算方法・給付内容・事業主が行うべき手続きなどを解説します。

ヒー

そもそも雇用保険とは、どのような制度なのでしょうか。

ムートン

失業や育児休業などの際、生活や就労を支えるための公的保険制度です。内容を見ていきましょう。

※この記事は、2025年8月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

雇用保険とは

雇用保険」とは、労働者が失業した場合、自ら職業に関する教育訓練を受けた場合、育児休業を取得した場合などに必要な給付を行う制度です

労働者が解雇や自主退職などによって失業した後、すぐに次の仕事が見つかるとは限りません。また、育児休業を取得している期間は基本的には給与を得られません。
このような状況にある労働者の生活を保障するため、雇用保険から給付が行われます。

また雇用保険には、労働者の再就職を促すという目的もあります。再就職に繋がる教育訓練を自主的に受けた場合にも、雇用保険から一定の給付が行われます。

雇用保険の加入条件

事業主は、雇用している労働者のうち、以下の要件を全て満たす者を雇用保険に加入させる必要があります。

① 雇用保険の適用事業所に勤務していること
労働者を1人以上雇用している事業所は、ごく一部の例外を除き、雇用保険の適用事業所となります

② 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
1週間の所定労働時間が20時間未満の労働者は、雇用保険の加入対象外です
ただし2028年10月からは、1週間の所定労働時間が10時間以上の労働者まで適用範囲が拡大される予定です。

③ 31日以上継続して雇用される見込みがあること
雇用継続の見込み期間が30日以下の者は、原則として雇用保険の加入対象外です
ただし、直前の2カ月間の各月において18日以上同一の事業主に雇用されている者は、雇用継続の見込み期間が30日以下でも雇用保険の加入対象となります。

④ 被保険者とならない者に当たらないこと
以下のいずれかに該当する者は、雇用保険の加入対象外です。
・会社の役員
・会社代表者の同居の親族
・雇用期間4カ月以内で、季節的業務に使用される人
・学生、生徒(卒業後も継続雇用される予定の者など、一部の例外を除く)
・家事使用人
・海外で現地採用される者
・臨時または内職的に日雇い労働を行う者
など

雇用保険料の計算方法

雇用保険料の計算式は以下のとおりです。

雇用保険料額=賃金総額×雇用保険料率

雇用保険料の基礎となる賃金総額とは

賃金総額」とは、労働の対償として支払う全てのものの総額をいいます。基本給や手当だけでなく、賞与残業代なども賃金総額に含めて、雇用保険料を計算しなければなりません

事業種別により異なる雇用保険料率

雇用保険料率は、事業の種類によって以下のとおり定められています(令和7年度)。

事業の種類労働者負担分事業主負担分合計
一般の事業0.55%0.9%1.45%
農林水産・清酒製造の事業0.65%1.0%1.65%
建設の事業0.65%1.1%1.75%

※「一般の事業」とは、農林水産・清酒製造の事業または建設の事業に当たらない事業をいいます。
※園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖および特定の船員を雇用する事業については、一般の事業の雇用保険料率が適用されます。

雇用保険料率は、毎年改定される可能性があります。令和7年度も、前年度から改定されました。最新の雇用保険料率を確認しておきましょう。

参考:
厚生労働省「令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内」

雇用保険の主な給付内容

雇用保険の被保険者は、主に以下の給付を受けられます。

① 求職者給付
② 就職促進給付
③ 教育訓練給付
④ 雇用継続給付
⑤ 育児休業等給付

求職者給付(基本手当など)

求職者給付」は、失業した人が安定した生活を送りつつ、1日も早く再就職できるように支援することを目的としています。以下の給付などが含まれており、その中でも「基本手当」が代表的です。

求職者給付の種類対象者
基本手当失業した一般被保険者
高年齢求職者給付金失業した高年齢被保険者
特例一時金失業した短期雇用特例被保険者
雇用保険の被保険者区分

(a)一般被保険者
被保険者のうち、高年齢被保険者・短期雇用特例被保険者・日雇労働者被保険者以外の者

(b)高年齢被保険者
65歳以上である雇用保険の被保険者のうち、短期雇用特例被保険者または日雇労働者被保険者に該当しない者

(c)短期雇用特例被保険者
季節的に雇用される被保険者のうち、次のいずれにも該当しない者
・4カ月以内の期間を定めて雇用される者
・1週間の所定労働時間が30時間未満である者

(d)日雇労働者被保険者
被保険者のうち、以下のいずれかに該当する者
・日々雇用される者
・30日以内の期間を定めて雇用される者

参考:
厚生労働省ウェブサイト「基本手当について」
厚生労働省ウェブサイト「離職されたみなさまへ <高年齢求職者給付金のご案内>」
厚生労働省ウェブサイト「離職されたみなさまへ <特例一時金のご案内>」

就職促進給付

就職促進給付」は、失業者の早い段階での再就職を促すことを目的とするものです。以下の給付などが含まれています。

就職促進給付の種類対象者
再就職手当基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上ある状態で、安定した職業に就いた人
就職促進定着手当再就職手当の支給を受け、引き続きその再就職先に6カ月以上雇用されたものの、離職前に比べて賃金額が低下した人
常用就職支度手当障害があるなど就職が困難な状態で、安定した職業に就いた人
※再就職手当の受給資格者は対象外

参考:
厚生労働省ウェブサイト「就職促進給付について」

教育訓練給付

教育訓練給付」は、再就職などにつながる主体的なキャリアアップの支援を目的とするものです。厚生労働大臣が指定した教育訓練を受講・修了した人が受給できます。

参考:
厚生労働省ウェブサイト「教育訓練給付制度」

雇用継続給付

雇用継続給付」は、高年齢者の就業意欲を維持・喚起し、65歳までの雇用継続を援助・促進することを目的とする給付です。60歳になった時点に比べて、賃金が75%未満に低下した状態で働く60~64歳の人が受給できます。

雇用継続給付に含まれる給付は、以下のとおりです。

雇用継続給付の種類対象者
高年齢雇用継続基本給付金被保険者期間(基本手当を受給したことがある場合は、受給後の期間)が通算5年以上で、60歳到達後も継続して雇用されており、60歳になった時点に比べて賃金が75%未満に低下している60~64歳の人
高年齢再就職給付金基本手当を受給した後、60歳になった後に再就職して、基本手当の基準となった額から賃金が75%未満に低下しており、以下の3つの要件を満たす60~64歳の人
・基本手当について算定基礎期間が5年以上ある
・再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上ある
・安定した職業に就いた

参考:
厚生労働省ウェブサイト「雇用継続給付について」

育児休業等給付

育児休業等給付」は、仕事と育児の両立の支援を目的とするものです。子どもを育てるために休業する労働者が受給でき、以下の給付が含まれています。

育児休業等給付の種類対象者
出生時育児休業給付金出生時育児休業(=子の出生後8週間以内に合計28日まで取得できる育児休業)を取得した人
育児休業給付金通常の育児休業を取得した人
出生後休業支援給付金出生時育児休業給付金または育児休業給付金の支給を受け、かつ被保険者および配偶者がともに一定期間内に14日以上の育児休業を取得した人
育児時短就業給付金2歳未満の子を養育するために時短勤務を行い、賃金が低下した人

参考:
厚生労働省ウェブサイト「育児休業等給付について」

雇用保険の基本手当の給付期間と給付額

雇用保険の給付の中で最も代表的なものは、労働者(一般被保険者)が失業した際に受給できる「基本手当」です。

基本手当の給付期間と給付額は、「特定受給資格者」または「特定理由離職者」に当たるかどうかによって変わります

特定受給資格者・特定理由離職者とは

特定受給資格者」とは、雇用主の倒産や事業の縮小・廃止、解雇などの理由によって離職した者です(雇用保険法23条2項、雇用保険法施行規則34条~36条)。
特定理由離職者」とは、有期労働契約の不更新(=雇い止め)、その他のやむを得ない理由によって離職した者です。

特定受給資格者または特定理由離職者に当たる場合は、雇用保険の基本手当を有利な条件で受給できます

参考:
ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」

基本手当の給付期間

雇用保険の基本手当の給付期間は、以下のとおりです。多くのケースでは、特定受給資格者または特定理由離職者に当たる場合の方が、そうでない場合よりも長く基本手当を受給できます

<特定受給資格者または特定理由離職者に当たる場合>
被保険者期間1年未満1年以上5年未満5年以上10年未満10年以上20年未満20年以上
30歳未満90日90日120日180日
30歳以上35歳未満90日120日180日210日240日
35歳以上45歳未満90日150日180日240日270日
45歳以上60歳未満90日180日240日270日330日
60歳以上65歳未満90日150日180日210日240日

<特定受給資格者または特定理由離職者に当たらない場合>
被保険者期間1年未満1年以上5年未満5年以上10年未満10年以上20年未満20年以上
全年齢90日90日90日120日150日

基本手当の給付額

基本手当の1日当たりの金額(=基本手当日額)は、賃金日額の約50~80%(60~64歳の場合は45~80%)です
「賃金日額」とは原則として、離職した日の直前の6カ月に毎月きまって支払われた賃金の合計を180で割って算出した金額をいいます。賃金日額に対する支給率は、賃金の低い人ほど高くなります。

なお基本手当日額には、年齢区分ごとに上限額が定められています。

年齢区分基本手当日額の上限
30歳未満7065円
30歳以上45歳未満7845円
45歳以上60歳未満8635円
60歳以上65歳未満7420円
※2024年8月1日現在

雇用保険について事業主が行うべき主な手続き

雇用保険に関して、事業主は行うべき主な手続きを紹介します。いずれも、書類の提出は事業所の所在地を管轄するハローワークに対して行います。

初めて労働者を雇い入れる場合|事業所設置届・雇用保険被保険者資格取得届

雇用保険の加入対象となる労働者を初めて雇い入れる場合は、雇用保険適用事業所設置届」を提出する必要があります
また、雇用保険に加入する労働者ごとに「雇用保険被保険者資格取得届」も提出しなければなりません。

ハローワークが雇用保険被保険者資格取得届を受理すると、雇用保険被保険者証を発行します。
事業主が交付を受けた被保険者証は、労働者に交付するものとされています。ただし実際には、紛失防止などの目的で事業主が保管するケースもあるようです。

参考:
ハローワークインターネットサービス「雇用保険適用事業所設置届」
ハローワークインターネットサービス「雇用保険被保険者資格取得届」

2人目以降の労働者を雇い入れた場合|雇用保険被保険者資格取得届

2人目以降の雇用保険の加入対象となる労働者を雇い入れた場合も、1人目と同様に「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。

参考:
ハローワークインターネットサービス「雇用保険被保険者資格取得届」

年に一度の手続き(6月1日〜7月10日)|労働保険(雇用保険・労災保険)の年度更新

雇用保険または労災保険に加入している事業主は、毎年6月1日から7月10日までの間に「年度更新」の手続きを行う必要があります。

年度更新の際には、以下の2つの申告と保険料の納付を同時に行います

(a)前年度の保険料の確定申告
前年度(前年4月1日~本年3月31日)の賃金総額に基づいて確定した保険料額を計算・申告し、すでに概算で申告・納付した保険料との差額を精算します。

(b)今年度の保険料の概算申告
今年度(本年4月1日~翌年3月31日)の賃金総額の見込額に基づいて保険料の概算額を計算・申告し、その額を納付します。

労働者が離職または死亡した場合|雇用保険被保険者資格喪失届・離職証明書

雇用保険に加入している労働者が離職または死亡した場合は、「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出する必要があります。
また、離職の場合には「離職証明書」も提出しなければなりません。

参考:
ハローワークインターネットサービス「雇用保険被保険者資格喪失届」

雇用保険に関する手続きを怠った事業主が受けるペナルティ

雇用保険に関する手続きを怠った者は「6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」に処されます(雇用保険法83条)。
また、法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者が、法人の雇用保険に関する手続きを怠った場合には、法人にも「30万円以下の罰金」が科されます(同法86条1項)。

雇用保険料を原資とする雇用関係助成金とは

事業主および加入者が納付した雇用保険料は、「雇用調整助成金」の財源としても用いられています

雇用調整助成金とは、経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るために要した費用を助成する制度です。
雇用保険の適用事業主が休業・教育訓練・出向を実施した場合、要した費用の一部に当たる助成金が支給されます。

参考:
厚生労働省ウェブサイト「雇用調整助成金」
ムートン

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参考文献

厚生労働省「令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内」

厚生労働省ウェブサイト「基本手当について」

厚生労働省ウェブサイト「離職されたみなさまへ <高年齢求職者給付金のご案内>」

厚生労働省ウェブサイト「離職されたみなさまへ <特例一時金のご案内>」

厚生労働省ウェブサイト「就職促進給付について」

厚生労働省ウェブサイト「教育訓練給付制度」

厚生労働省ウェブサイト「雇用継続給付について」

厚生労働省ウェブサイト「育児休業等給付について」

ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」

ハローワークインターネットサービス「雇用保険適用事業所設置届」

ハローワークインターネットサービス「雇用保険被保険者資格取得届」

ハローワークインターネットサービス「雇用保険被保険者資格喪失届」

厚生労働省ウェブサイト「雇用調整助成金」