所定労働時間とは?
休憩や休日、有給、注意点などを
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- この記事のまとめ
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所定労働時間とは、労働契約や就業規則であらかじめ定められた労働時間といいます。
・所定労働時間は、法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)の範囲内で定めます。
・所定労働時間を超えても法定労働時間内なら、割増賃金は不要ですが、通常の賃金は支払う必要があります。
・所定労働時間は、雇用形態により異なるため注意が必要です。本記事では、所定労働時間について、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025年6月30日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
所定労働時間とは
所得労働時間とは、労働契約や就業規則であらかじめ定められた労働時間です。企業は、法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)の範囲内で、所定労働時間を定めます。
また、所定労働時間を超えても法定労働時間内に収まる労働(法定内残業)には、法律上の割増賃金の支払い義務はありません。ただし、労働時間分の基礎賃金の支払いは必要です。
所定労働時間と法定労働時間の違い
所定労働時間は、企業が就業規則や雇用契約書で定める労働時間を指し、法定労働時間は労働基準法で定められた1日8時間・週40時間の上限のことをいいます。
所定労働時間は法定労働時間の範囲内で自由に設定できますが、法定労働時間を超える労働には25%以上(月60時間超の部分は50%以上)の割増賃金の支払いが必要です。パートやアルバイトも同様で、法定労働時間を超えた場合は正社員と同じ割増率での残業代支払いが義務付けられています。
所定労働時間と実労働時間の違い
所定労働時間は「契約上定められた労働時間」であるのに対し、実労働時間は「実際に働いた時間」のことをいいます。労働基準法では実労働時間に基づいて賃金を支払う義務があるため、両者に差が生じた場合は実労働時間を基準に残業代を計算します。
企業には労働時間を客観的に把握する責務があり、タイムカードやICカード、PCログなどの客観的記録による勤怠管理が必要です。
雇用形態・勤務形態別の所定労働時間
働き方や契約内容が多様化している背景により、雇用形態や勤務形態によって所定労働時間は異なります。所定労働時間を把握しておくことで、残業の有無や給与計算、休憩時間の取り扱いなどに関する誤解の防止が可能です。以下では、雇用形態・勤務形態別の所定労働時間を紹介します。
- 短時間正社員(時短勤務)
- 派遣労働者(派遣社員)
- アルバイト・パートタイム労働者
- フレックスタイム制
- 変形労働時間制
- 固定労働時間制
- 裁量労働制
短時間正社員(時短勤務)
短時間正社員の所定内労働時間は、所定労働時間は法定労働時間の範囲内で柔軟に設定できます。企業の業務ニーズや本人の事情に応じて、通常の正社員より短い時間で働く仕組みです。
育児・介護休業法では、企業は労働者の育児や介護と仕事の両立を支援する義務があります。2025年4月1日からは法改正により、残業免除の対象が「小学校就学前の子」に拡大されました。また、子の看護等休暇も「小学校3年生修了まで」が対象となり、取得理由も追加されています。
さらに、2025年10月1日からは、3歳〜小学校就学前の子を養育する労働者に、企業は短時間勤務・フレックスタイム・テレワークなどの複数制度を提示し、選べるようにする義務が課されます。
派遣労働者(派遣社員)
派遣労働者の所定労働時間は、派遣元企業との雇用契約で定められます。ただし、実際の勤務は派遣先企業の指揮命令下で行われるため、両社間での労働時間管理の連携が欠かせません。
派遣労働者にも、他の労働者と同様に法定労働時間の上限(1日8時間・週40時間)が適用され、超過時には割増賃金の支払い義務が発生します。派遣先で残業を行う場合は、派遣元の36協定に基づいて指示される必要があります。
アルバイト・パートタイム労働者
アルバイトやパートタイム労働者の所定労働時間は、雇用契約書で個別に定められ、正社員より短い時間設定が一般的です。法定労働時間を超えれば、正社員と同じく残業代の支払い義務が発生します。
企業はシフト作成時に法定労働時間の上限を意識し、超過が予想される場合は事前に36協定を締結する必要があります。
フレックスタイム制
フレックスタイム制の所定労働時間は、最長3カ月の清算期間内であらかじめ定めた総労働時間の範囲内で設定されます。労働者は期間中、日々の始業・終業時刻を決定できます。
導入には就業規則への規定と労使協定の締結が必要です。さらに、清算期間が1カ月を超える場合は、労使協定を所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
変形労働時間制
変形労働時間制では、1日または1週間の所定労働時間を柔軟に設定できます。ただし、変形期間内で、労働時間の平均が週40時間以内になるよう調整する必要があります。
導入には労使協定の締結や労働基準監督署への届出が必要で、一度定めた労働時間の変更は原則として認められません。変形労働時間制については、以下の記事をご覧ください。
固定労働時間制
毎日同じ始業・終業時刻で働く固定労働時間制の所定労働時間は、8時間が代表的で、就業規則で明確に定められます。法定労働時間を超過した労働には、残業代の支払いが必要です。
原則的な労働時間制度であり、特別な手続きを必要とせず導入できるのが特徴です。勤怠管理や労働時間の把握、給与計算がしやすいため、多くの企業で採用されています。
裁量労働制
裁量労働制では、業務の性質上、労働者の裁量に任せる必要がある業務に適用され、あらかじめ定めた「みなし労働時間」で勤務したものとみなされます。
2024年4月に施行された法改正により、専門業務型においても労使協定に加え、労働者本人からの書面同意が必須となりました。また、専門業務型・企画業務型ともに、同意撤回の手続きと、同意および撤回に関する記録の保存について、労使協定・労使委員会の決議に定めることが義務付けられています。
企画業務型では、労使委員会の運営改善や制度説明義務も強化されました。
導入を検討する企業は、対象業務が法定要件を満たすかを確認し、労働者の健康管理体制を整備する必要があります。
所定労働時間における休憩・休日・有給
所定労働時間に関連する休憩や休日、有給休暇の取り扱いは、労働者の健康や生活と直結する重要な要素です。勤務時間の長さに応じた休憩の付与や、週に最低1日の休日確保、有給休暇の取得ルールなど、法律に基づいた運用が求められます。
以下では、各取り扱いについて見ていきます。
休憩時間
所定労働時間は休憩時間を含まない労働時間で、労働基準法34条により労働時間に応じた休憩時間の付与が義務付けられています。
6時間を超える労働は45分以上、8時間を超える労働は1時間以上の休憩を、労働時間の途中に与える必要があります。休憩は労働者が自由に利用できる時間でなければなりません。
そのため、休憩時間中に電話番や来客対応をさせた場合は労働時間となり、別途休憩時間の付与が必要です。
休日
休日は、労働基準法35条で定められた法定休日(週1日または4週4日)と、企業が独自に設定する所定休日に分けられます。
所定労働時間は週40時間以内で設定する必要があるため、多くの企業では完全週休2日制を採用し、日曜日を法定休日、土曜日を所定休日に設定していることが一般的です。
また、祝日の扱いも企業により異なります。祝日が所定休日なら出勤時は所定休日労働、祝日が平日なら通常勤務となります。
有給
有給休暇は、労働基準法39条により継続勤務期間と出勤率に応じて付与される労働者の権利です。
正社員は入社6カ月後に10日付与され、以後1年ごとに11日、12日と増加し最大20日まで毎年付与されます。パートやアルバイトも週の所定労働日数に応じて比例付与され、例えば週3日勤務なら6カ月後に5日付与されます。
2019年4月からは法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者には、企業が年5日分を取得させなければなりません。取得日は、労働者の希望を踏まえて、企業が時季を指定することが求められています。
所定労働時間と残業の関係性と計算方法
所定労働時間を超えて働いた時間が全て残業になるわけではありません。残業時間とされるかどうかは、所定労働時間と法定労働時間の違いを正しく理解することがポイントです。以下では、両者の関係性と残業時間の計算方法について解説します。
法定労働時間内の残業
法定労働時間内の残業は、所定労働時間を超えているものの、法定労働時間の範囲内にある残業です。労働基準法37条の割増賃金規定は、法定労働時間を超えた労働のみに適用されるため、法定内残業には割増賃金の支払い義務はありません。ただし、通常の賃金は支払う必要があります。
一部の企業では、法定内残業にも一定の割増賃金を支払う制度を設けており、就業規則で「法定内残業には10%の割増賃金を支払う」など独自の規定を定めています。
法定労働時間を超える残業
法定労働時間を超える残業は、1日8時間・週40時間を超える労働のことを指し、25%以上の割増賃金の支払いが義務付けられています。
月60時間を超える時間外労働の割増率(50%以上)は、大企業では2010年から適用されています。中小企業については、2023年4月から同様の規定が適用されました。そのため、現在は企業規模を問わず、月60時間を超える残業には50%以上の割増賃金が必要です。
深夜労働(午後10時~午前5時)は25%以上、法定休日労働は35%以上の割増となり、重複する場合は割増率を合算します。
企業は法定労働時間を超える残業を理解し、適切に36協定を締結して法定外残業の上限を遵守することが必要です。
残業代の計算方法
残業代の計算は、「1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率」で求められます。
基礎賃金は、月給から家族手当や通勤手当、住宅手当などの控除手当を差し引いた金額を月平均所定労働時間で割って算出します。例えば、月給25万円のうち、家族手当1万円と通勤手当5千円を除いた23万5千円が計算の対象となる賃金です。23万5千円を月平均所定労働時間173.8時間で割ると、時間単価は約1,352円です。
法定外残業の賃金は「1,352円×1.25(25%割増)×残業時間」で算出します。深夜労働(午後10時〜午前5時)は通常25%の割増ですが、法定時間外労働と重なる場合は合計で50%(1.5倍)、さらに月60時間を超えると75%(1.75倍)の割増となります。
端数処理では、時間単価にあたる50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上は切り上げとするのが原則です。
36協定における残業時間の上限
36協定で定める時間外労働には、法律で上限が設けられており、原則月45時間・年360時間が上限です。
上限規制は、これまで適用が猶予されていた一部の業種にも、2024年4月1日から原則適用されました(一部に特例あり)。対象となるのは以下の業種です。
- 建設事業
- 自動車運転の業務
- 医業に従事する医師
- 鹿児島県および沖縄県の砂糖製造業
以下の記事では、36協定について詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。
所定労働時間における注意点
所定労働時間は、就業規則や労働契約で定められる基本の勤務時間ですが、運用する際には以下の3つの点に注意が必要です。
- 所定労働時間を明示する
- 時間外労働や休日労働は36協定を締結する
- 時間外労働には割増賃金を支払う
適切に運用しないと、法令違反やトラブルの原因になる恐れがあるため、注意すべきポイントを正しく把握しておきましょう。
所定労働時間を明示する
労働契約を結ぶ際、企業は所定労働時間を労働条件通知書で書面により明示する義務があります。明示を怠ると、30万円以下の罰金が科される可能性があるため注意が必要です。
始業・終業時刻や所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日などを書面に正確に記載することで、労使間トラブルを防止できます。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則に始業・終業時刻等を記載し、厚生労働省管轄の労働基準監督署への届出が必要です。
時間外労働や休日労働は36協定を締結する
法定労働時間を超える労働や法定休日労働を行わせる場合、事前に36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。36協定なしに時間外労働をさせた場合、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
協定書には、対象労働者の範囲や対象業務、延長できる時間数(1日・1カ月・1年)、有効期間などを記載しなければなりません。さらに、特別条項付き36協定では、健康・福祉確保措置の実施も義務付けられています。
正しく運用するには、事業開始前に必ず36協定を締結・届出しましょう。
時間外労働には割増賃金を支払う
法定労働時間を超える時間外労働・深夜労働・休日労働には、割増率(25%以上~60%以上)による割増賃金の支払いが義務付けられています。
具体的には、時間外労働25%以上、深夜労働25%以上、休日労働35%以上、月60時間超の時間外労働50%以上の割増賃金支払いが義務付けられています。
割増賃金の未払いは労働基準法違反です。2020年4月1日の法改正により、賃金請求権の消滅時効期間が延長され、労働者は未払い賃金を過去に遡って3年間(法律上の原則は5年ですが、当面の間は3年)請求できます。
未払いが発覚した場合、企業は過去3年分の未払い分に加え、裁判所の命令により同額の「付加金」の支払いを命じられる可能性があるため注意が必要です。
所定労働時間に関するトラブルの予防と対策
所定労働時間に関わる労務トラブルを未然に防ぐためには、具体的な予防策と問題発生時の適切な対処方法について把握することが重要です。主な予防と対策方法は、以下のとおりです。
- 就業規則の見直し
- 労働者教育・社内相談窓口の設置
- 社労士へ相談
トラブルなく円滑に労務管理を行うためにも、以下では各予防と対策を紹介します。
就業規則の見直し
就業規則は企業の労働ルールの基盤であり、法改正に応じた定期的な見直しが不可欠です。対応が遅れると、コンプライアンス違反や労務トラブルの原因となる可能性があります。
近年では、就業規則への反映が求められる法改正が相次いでいます。
例えば、中小企業への月60時間超の残業に対する割増賃金率引き上げ(2023年4月〜)や、労働条件明示ルールの見直し(2024年4月〜)、裁量労働制の同意取得・撤回手続きの義務化(2024年4月〜)、育児・介護休業法の改正(2025年4月〜)などです。
労働時間・休憩・休日の規定をはじめ、有給休暇、時間外労働、育児・介護休業制度など、関連条項を定期的に確認する必要があります。
労働者への教育・社内相談窓口の設置
労働者に対する労働時間管理の教育と社内相談窓口の設置は、トラブルの早期発見・早期解決につながります。労働時間のトラブルの多くは、管理者や労働者の労働法に関する知識不足や誤解から発生します。
適切な残業管理や有給休暇の取得方法など、基本的な労働ルールを組織全体で共有することで、法令違反や認識相違によるトラブルの予防が可能です。
社労士へ相談
社労士への相談は、所定労働時間に関する専門的で複雑な問題に効果的な対策です。労働関係法令は頻繁に改正され、企業の人事担当者だけで全てを正確に把握・対応するのは困難です。したがって、専門家のサポートが欠かせません。
社労士は、最新の法改正情報や行政の動向などを熟知しており、企業の実情に応じた適切なアドバイスができます。顧問契約を結べば、月次での労務相談や法改正対応、就業規則や労働時間管理の見直しなどについて継続的に支援を受けられるため、適切な労務管理を実現しやすくなります。
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