コンプライアンスと関係の深い法令とは?
事業者が注意すべき法律を
分野別に分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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法令遵守はコンプライアンスの根幹ともいえるものです。知らないうちにでも法令違反をしてしまうと、事業者の行為や契約が無効となってしまったり、罰則や行政処分などを受けることもあり得ます。
事業者はコンプライアンスを検討する際に、まず関連する法令を把握して、どのような場面で問題となるのかを理解しておかなければなりません。
しかし、対象となる法令の範囲はとても広く、初めから漏れなく把握することは難しいため、まずは消費者・事業者・労働者との関わり方や、法令の分野ごとなどから、概要を押さえておくことが大切です。
この記事では、法分野ごとに、コンプライアンスに関係する主要な法令を分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年3月13日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
・特定商取引法…特定商取引に関する法律
・景品表示法…不当景品類及び不当表示防止法
・個人情報保護法…個人情報の保護に関する法律
・独占禁止法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
・下請法…下請代金支払遅延等防止法
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目次
コンプライアンスと法令の関係とは
法令遵守はコンプライアンスの根幹ともいえるものです。知らないうちにでも法令違反をしてしまうと、事業者の行為や契約が無効となってしまったり、罰則や行政処分などを受けることもあり得ます。
事業者はコンプライアンスを検討する際に、まず関連する法令を把握して、どのような場面で問題となるのかを理解しておかなければなりません。
消費者との契約に関する法律
民法
民法は、私人間の権利関係等を定める私法の基本的な法律です。契約で定めていない事項は民法やその特別法が適用されます。「私人」には法人も含まれますので、事業者と消費者との契約にも民法が適用されることとなります。
消費者との契約に関して実務上重要と考えられるポイントとして、意思表示、代理、時効、契約不適合責任が挙げられます。
意思表示:契約が成立するには意思表示の合致が必要です。勘違い(錯誤)、詐欺または強迫等の一定の場合に、その意思表示は取り消すことができます(民法95条・96条等)。
代理:契約の当事者ではない他人が、本人に代理して契約を締結できます(同法99条等)。代理の場合、代理権の有無を確認する必要があります。
時効:契約により発生した権利は永久ではなく、原則として10年で時効となり消滅します(同法166条等)。
契約不適合責任:売買において、引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合には、買主は、その修補等の履行の追完、代金減額、損害賠償および契約の解除をすることができます(同法562条~564条)。
消費者契約法
消費者契約法は、消費者と事業者との契約に適用される法律であり、民法の特別法に当たります。
消費者契約法では、
- 消費者が誤認した場合における取り消し(消費者契約法4条1項・2項)
- 消費者が困惑した場合における取り消し(同法4条3項)
- 契約の目的となる分量等が過量である場合(過量契約)における取り消し(同法4条4項)
といった取り消しの規定が設けられているほか、
- 事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効(同法8条)
など、消費者にとって不当な条項は無効とされています。
また、消費者の被害の発生または拡大を防止するため、適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることが認められています(同法12条~47条)。
特定商取引法
特定商取引法は、消費者と事業者との契約の中で、特にトラブルを生じやすい契約の類型(特定商取引)について規制をする法律です。
- 訪問販売
- 通信販売
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売取引
- 特定継続的役務提供(外国語教室等)
- 業務提供誘引販売取引(モニター商法等)
- 訪問購入
- ネガティブオプション(送り付け商法)
これらの類型が規制の対象で、販売類型ごとに、クーリング・オフ、過量販売解除権、不実告知等の取消権、中途解約権、適格消費者団体による差止請求が定められています。
割賦販売法
割賦販売法は、割賦販売等に係る取引の公正の確保、購入者等の損害の防止などにより、割賦販売等の取引の健全な発達を図るとともに、購入者等の利益を保護することなどを目的としたものです(同法1条)。
同法はいくつかの契約類型を定めて規制していますが、事業者と契約者との間で特にトラブルに発展しやすい契約類型として、
- 包括信用購入あっせん(クレジットカードでの後払い)
- 個別信用購入あっせん(商品の購入ごとに後払いの申し込みをするもの)
があります。
これらの契約類型では、販売業者等との間の「契約の無効・取り消し・解除等」(抗弁事由)をもって、クレジット会社等にも対抗することができる「抗弁の接続」が認められていることが特徴です(同法30条の4・35条の3の19)。
商品の安全性に関する法律
製造物責任法
製造物責任法(PL法)は、製造物の欠陥により人の生命、身体または財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図ることなどを目的としています(同法1条)。
同法によって、ある製品の欠陥により事故が発生し他人の生命、身体または財産を侵害した場合には、当該製品の製造業者、輸入業者が損害の賠償義務を負うことになります。
民法の不法行為に基づく損害賠償請求をする場合は、被害者が加害者の故意または過失を証明しなければならないというハードルがありますが、製造物責任法に基づく請求の場合は、この証明の負担が緩和される点に特徴があります。
食品衛生法
食品衛生法は、食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止することなどを目的としています(同法1条)。
同法では上記の目的の達成のため、
- 営業許可(同法51条)
- 施設基準(同法52条)
- 不衛生食品等の販売等の禁止(同法6条)
- 規格基準の設定と不適合品の製造、販売禁止(同法11条)
- 事故が発生した場合の食品の回収、廃棄(同法50条2項、各条例等)
等が定められています。
同法の委任に基づき、実際の実務は条例に委ねられている部分も多いため、全国の条例を把握しておくことも重要です。
消費者安全法
消費者安全法は、消費者の消費生活における被害を防止し、その安全を確保するため、
①内閣総理大臣による基本方針の策定
②都道府県および市町村による消費生活相談等の事務の実施および消費生活センターの設置、消費者事故等に関する情報の集約等
③消費者安全調査委員会による消費者事故等の調査等の実施
④消費者被害の発生または拡大の防止のための措置その他の措置を講ずること
により、関係法律による措置と相まって、消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に寄与することを目的としています(同法1条)。
商品の表示に関する法律
不正競争防止法
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争およびこれに関する国際約束の的確な実施を確保することを目的としています(同法1条)。
同法は、「不正競争」に当たる行為を規制しています。具体的には、
- 周知な商品等表示の混同惹起
- 著名な商品等表示の冒用
- 他人の商品形態を模倣した商品の提供
- 営業秘密の侵害
- 限定提供データの不正取得等
- 技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供
- ドメイン名の不正取得等
- 商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示
- 信用棄損行為
- 代理人等の商標冒用
などが「不正競争」に当たります(同法2条各号)。
これらの規制に違反すると差止請求、損害賠償請求を受ける可能性があり(同法3条・4条)、裁判所から営業上の信用を回復するのに必要な措置を命ぜられる場合もあります(同法14条)。
景品表示法
景品表示法は、商品および役務の取引に関連する不当な景品類および表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限および禁止について定める法律です(同法1条)。
同法による規制は、大きく、景品規制と表示規制に分けられます。
景品規制とは、事業者が「景品類」を提供する場合に、その最高額等について規制をするものです。
表示規制とは、事業者が、自己が供給する商品等について、①優良誤認表示、②有利誤認表示、③その他誤認されるおそれのある表示を規制するものです。
なお、消費者庁のウェブサイトでは、同法に関するパンフレット等が公開されており、参考になります。
食品表示法
食品表示法は、販売の用に供する食品に関する表示について、基準の策定その他の必要な事項を定めることにより、その適正を確保し、もって一般消費者の利益の増進を図ることなどを目的とし(同法1条)、事業者に対し、食品表示基準に定められた所定の事項についての表示を義務付けています。
食品表示基準については、消費者庁がウェブサイトでQ&Aを公表しており、参考になります。
消費者の情報に関する法律
個人情報保護法
個人情報保護法は、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的としています(同法1条)。
同法は、民間事業者と対象とする定めと、行政機関を対象とする定めに分かれています。前者との関係で、実務上重要なものとして、
- 利用目的の特定等の利用目的に関する規制
- 個人データの第三者提供に関する規制
- 保有個人データの開示等の請求に対する対応
などが挙げられます。
個人情報に関する規制は個人情報保護法のみで完結しているものではなく、個人情報保護委員会が策定するガイドラインやQ&Aの内容も理解しておくことが非常に重要です。
会社の運営・情報開示に関する法律
会社法
会社法は、会社の設立、組織、運営および管理について広く定めるもので(同法1条)、会社(株式会社、合名会社、合資会社および合同会社)を取り巻く利害関係者との間の利害を調整するため、様々な観点からルールを定めています。
株式会社を念頭に置くと、その設立から株式等の発行による資金調達、取締役会等の機関設計、計算書類等の作成、事業譲渡、清算および組織変更など、会社の始まりから終わりまでのあらゆる場面に関する定めが存在し、会社の事業活動においては常に会社法の定めを気にしておく必要があると言え、実務上非常に重要な法律です。
金融商品取引法
金融商品取引法は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行および金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にすることなどを目的としています(同法1条)。
同法では、①有価証券について、投資者の投資判断の基礎となる情報の開示を義務づける情報開示規制や、②金融商品取引業者等に対する規制、③インサイダー取引等の不公正な行為に対する規制などが定められています。
事業者間の競争・取引に関する法律
独占禁止法
独占禁止法の目的は、公正かつ自由な競争を促進することにあります(同法1条)。
この目的のため、同法は、事業者や事業者団体が競争制限的または競争阻害的な一定の行為、すなわち、不当な取引制限(カルテル、入札談合等)、私的独占(不当な人為的手段によって新規事業者の市場参入を妨げるなど)、不公正な取引方法および企業結合などを規制しています。
下請法
下請法は、下請代金の支払遅延等を防止することによって、親事業者の下請事業者に対する取引を公正なものとさせるとともに、下請事業者の利益を保護することを目的としています(同法1条)。
同法では、本来優越的地位の濫用として独占禁止法違反になるものについて、別途簡易な手続を定めています。
同法は、
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
といった取引類型において適用され、同法が適用される場合、当該取引の親事業者には、書面の交付義務、書類の作成・保存義務、下請代金の支払期日を定める義務、遅延利息を支払う義務が課されるほか、買いたたき等の一定の行為が禁止されます。
知的財産権に関する法律
特許法
特許法は、発明の保護および利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的としています(同法1条)。
同法では、発明、すなわち、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものが保護の対象とされます。同法の要件をクリアして出願を行うと特許権を取得することができます。特許権を取得すると、特許権者が業として特許発明の実施をする権利を専有することとなります(同法68条)。
特許権の侵害に対しては、侵害行為の差し止めや損害賠償請求等によって救済が図られます。
著作権法
著作権法は、著作物などに関する著作者等の権利を保護することなどを目的としています(同法1条)。
著作権には、特許や商標と異なり登録制度は存在しませんが、作品などの表現が「著作物」に該当すると著作権の保護対象となります。著作物に該当すると、著作権法で定める利用に関しては、著作権者がその著作物を一定期間独占的に利用することができます。
著作権の侵害に対しては、侵害行為の差し止めや損害賠償請求等によって救済が図られます。
商標法
商標法は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的としています(同法1条)。
出願に基づく登録により初めて、商標権の発生が認められることに特徴があります(同法18条)。商標権者は、商標法に定める利用に関しては、その登録商標の使用をする権利を専有することができます(同法25条)。
商標権の侵害に対しては、侵害行為の差し止めや損害賠償請求等によって救済が図られます。
労働者に関する法律
労働基準法
労働基準法は、労働条件に関する最低基準を定める法律です。
同法では主に、
- 労働条件の明示
- 解雇の予告
- 賃金払いについての原則(通貨払い、直接払い、全額払いなど)
- 労働時間・休日
- 残業
- 有給休暇
- 就業規則
などについて定めています。
同法が定めるのは最低基準であるため、これに反する労働条件は無効とされ(同法13条)、一定の場合には付加金の支払いが命じられる場合があるほか(同法114条)、行政指導の対象となる場合もあります。
労働契約法
労働契約法は、労働契約に関する基本的事項を定める法律です。
実務上重要なものとして、解雇に関する規制が挙げられます。解雇は就業規則や労働契約にどのように定められているかには関係なく、「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」と認められない限りは無効となります(同法16条)。
要件自体は漠としていますので、実務では、過去の判例等の積み重ねによってある程度確立された、解雇の類型ごとの理論に基づいて整理をしていくこととなります。
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働基準法と相まって、職場における労働者の安全と健康を確保することなどを目的としています(同法1条)。
「労働基準法と相まって」とされますが、労働安全衛生法が労働基準法を超える部分としては、
①直接の労働契約関係を超えた関係者(請負等)も規制の対象としている点
②労働基準に関する最低基準について、関係者の努力義務を課している点
があります。
具体的な規制の内容の多くは、労働安全衛生法施行令をはじめとする政令・省令に委任がされていますので注意が必要です。
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参考文献
安達敏男・𠮷川樹士・安重洋介・吉川康代著『消費者法実務ハンドブック:消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法の実務と書式[第2版]』日本加除出版、2021年