月額変更届(随時改定)とは?
書き方や電子申請のやり方などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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月額変更届(随時改定)とは、昇給や降給など、固定的賃金の変動によって報酬が大幅に変動したとき、算定基礎届(定時決定)を待たずに行う手続きです。
・固定的賃金の変動、標準報酬月額が2等級以上変わる、3カ月間の支払基礎日数が17日以上という3つすべての条件を満たした場合に提出が必要です。
・固定的賃金とは、基本給や役職手当、住宅手当などの、毎月固定で支払う賃金のことです。
・非固定的賃金(残業代や出張手当など)のみに変動があった場合は、提出が不要です。本記事では、月額変更届(随時改定)について、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025年8月22に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
月額変更届(随時改定)とは
月額変更届(随時改定)とはどのような届け出なのかについて、算定基礎届との違いに触れながら解説します。
標準報酬月額を変更するための手続き
月額変更届は、昇給や降給など、固定的賃金の変動に伴って大幅な報酬の変更があったときに、算定基礎届(定時決定)を待たずに行う手続きです。
目的は、社会保険料の基準となる標準報酬月額を実際の給与に早く反映させることにあります。
例えば、4月に昇給した場合、算定基礎届では反映は9月からですが、月額変更届を提出すれば7月から適用されます。給与の変動に合わせて保険料を適正化し、会社と従業員双方の負担を公平に保つための重要な届け出です。
標準報酬月額とは
標準報酬月額は、健康保険や厚生年金の保険料を計算するために、従業員の給与を等級ごとに区分した金額です。
健康保険は50等級、厚生年金は32等級に分けられ、保険料はこの標準報酬月額をもとに決定されます。
算定基礎届(定時決定)との違い
算定基礎届と月額変更届はどちらも標準報酬月額を決める手続きですが、目的とタイミングが異なります。
算定基礎届は毎年7月に全従業員を対象に行う定期手続きで、4〜6月の給与をもとに9月から翌年8月までの保険料を決定します。
月額変更届は特定の従業員に昇給などがあり、標準報酬月額が大きく変わったときに臨時で行う手続きです。
月額変更届の提出が必要となる3つの条件
月額変更届の提出が必要となる3つの条件は、以下のとおりです。
- 固定的賃金に変動があった
- 標準報酬月額が2等級以上変わった
- 3カ月間の支払基礎日数が17日以上である
上記の条件をすべて満たした場合は、月額変更届の提出が必要です。各条件の内容と、1等級差でも提出が必要になる例外ケースについて解説します。
固定的賃金に変動があった
月額変更届の対象となるのは、固定的賃金に変動があった場合です。
固定的賃金とは、毎月決まって支給する給与のことで、以下の賃金が該当します。
- 基本給
- 役職手当
- 住宅手当
- 通勤手当(定期代の変更など)
- 家族手当 など
支給総額の変動ではなく、固定的賃金部分に変動があるかで提出の必要性を判断します。
標準報酬月額が2等級以上変わった
新しい標準報酬月額と従前の額を比べて2等級以上の差がある場合は、月額変更届の対象です。1等級差では原則提出不要です。
例えば、20等級から22等級になれば対象ですが、21等級なら提出する必要はありません。等級の確認はミスが起こりやすいため、必ず最新の保険料額表を用いて正しく判定することが重要です。
3カ月間の支払基礎日数が17日以上である
3カ月すべてで支払基礎日数が17日以上あることも、月額変更届の提出条件のひとつです。
支払基礎日数とは、給与計算の基礎となった日数のことです。月給制の場合は暦日数を記入しますが、欠勤により賃金が控除される場合には、就業規則等で定められた日数から欠勤日数を差し引いた日数を記入します。一方、日給制や時給制の支払基礎日数は、実際に出勤した日数です。
短時間労働者は支払基礎日数が11日以上で判定されます。
【例外】1等級差でも提出が必要なケース
原則、2等級以上の差で届け出が必要ですが、以下の場合は1等級差であっても提出が求められます。
- 標準報酬月額の上下限の1等級下(上)
- 「育児休業等終了時報酬月額変更届」の対象になる場合
まず、標準報酬月額には上下限が設けられているため、最高等級または最低等級に達した人は、報酬が増減しても2等級以上の差が生じない場合があります。そのため、最高(低)等級から1等級下(上)に変動した際は月額変更届の提出が必要です。
また、従業員が育児休業から復帰した場合には「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出します。育休後は短時間勤務や勤務形態の変更により報酬が大きく変動することが多いため、復帰後3カ月の報酬実績をもとに標準報酬月額を見直す仕組みです。
育児休業等終了時報酬月額変更届は通常の月額変更と異なり、1等級差でも提出の対象となります。
月額変更届の提出が不要なケース
月額変更届の提出が不要となるケースは、以下のとおりです。
- 休職中の従業員が休職給を受けている場合
- 非固定賃金のみの変更があった場合
- 固定的賃金の変動以上に非固定的賃金が変動した場合
給与に変動があっても、すべてが月額変更届の対象となるわけではありません。
休職中の従業員が休職給を受けている場合
休職中に通常の給与ではなく休職給(休職期間中に会社が任意で支給する手当や給与の一部)が支給されている場合は、月額変更届の提出は不要です。
休職給はあくまで会社の就業規則や制度に基づく一時的な支給であり、基本給や手当といった固定的賃金が変更になったわけではないためです。
非固定賃金のみの変更があった場合
非固定的賃金だけが変動した場合は、月額変更届の提出は不要です。
おもな非固定的賃金は、以下のとおりです。
- 残業代
- 深夜手当
- 休日手当
- 出張手当
- 業績連動のインセンティブ など
例えば、基本給が上がった、通勤手当が変更になった場合は提出が必要ですが、残業代が増えただけでは対象になりません。
固定的賃金の変動以上に非固定的賃金が変動した場合
固定的賃金が上がっても、残業手当などの非固定的賃金が減ったため、結果として2等級以上の差が生じた場合には、随時改定の対象とはなりません。
固定的賃金が下がり、非固定的賃金が上昇した結果、2等級以上の差が生じた場合も同様です。
月額変更届を提出しない場合のリスク
月額変更届を提出しない場合のおもなリスクについて解説します。
法令違反による罰則
月額変更届の提出は事業主の法的義務(健康保険法48条および厚生年金保険法27条)です。
正当な理由なく提出を怠ったり虚偽の内容を提出したりした場合、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(健康保険法208条・厚生年金保険法102条)が科される可能性があります。
担当者は事業主の義務であることを認識し、確実に対応する必要があります。
従業員からの不信感・クレーム
月額変更届の提出を怠ると、従業員に直接的な不利益が生じ、不信感やクレームにつながりかねません。
社会保険料は毎月の手取り給与に影響するため、降給後も高い保険料が続けば、手取り額が減ってしまいます。また、昇給後に保険料が据え置かれれば、将来受け取る年金額が少なくなる可能性があります。
賃金に変動があった際には、速やかに月額変更届を確認・提出することが重要です。
年金事務所からの是正指導・遡及処理
月額変更届の提出漏れは年金事務所の調査で発覚し、是正指導や過去に遡った修正・追加納付が必要となる場合があります。
修正の結果として、社会保険料が上がる場合には、不足する社会保険料の納付が必要です。社会保険料は2年で時効消滅するため、最大で過去2年分の納付が必要となります。
過去に遡って保険料を徴収する必要がある場合には、従業員に追加で保険料を請求しなければならないことも考えられます。遡及処理は、事務手続きが煩雑になるだけでなく、従業員にとって予期せぬ負担となり、信頼関係を損ねることにもつながりかねません。日頃から正確かつ迅速な提出を心掛けることが重要です。
月額変更届の書き方
実際の月額変更届の様式に沿って、各項目をどのように記入すればよいのかを具体的に解説します。

記事内の番号は上記の月額変更届の様式にしたがっています。
①被保険者整理番号
資格取得時に割り当てられた被保険者整理番号を記入します。健康保険証や資格取得届の控えで確認可能です。
③生年月日
従業員の生年月日を和暦で記入します。昭和・平成など元号の選択を誤らないように注意してください。
④改定年月
改定後の標準報酬月額が適用される年月を記入します。変動後の給与を支払った日から数えて4カ月目の年月が原則です。
⑤従前の標準報酬月額
現在の標準報酬月額を健康保険・厚生年金ごとに千円単位で記入します。
⑥従前改定月
現在の標準報酬月額が適用された年月を記入します。通常は算定基礎届による9月ですが、直近の月額変更届による改定がある場合はその年月を記入します。
⑦昇(降)給
昇給もしくは降給した月の支払い月を記入し、該当する方に○を付けます。
⑧遡及支払額
昇給等が遡って決定され、差額をまとめて支給した場合にその額を記入します。なければ記入不要です。
⑨給与支給月
計算対象となる3カ月分の給与の「対象月」を記入します。支払日ではなく「何月分の給与か」を基準にします。
⑩給与計算の基礎日数
3カ月すべての給与支払基礎日数を記入します。原則17日以上(短時間労働者は11日以上)が必要です。
月給者は暦日数を記入しますが、欠勤により賃金が控除される場合には就業規則等で定められた日数から欠勤日数を差し引いた日数を記入します。日給・時給者は実出勤日数を記入します。
⑪通貨によるものの額
給与のうち、現金で支払われた総額を記入します。基本給・各種手当・残業代などが対象です。
⑫現物によるものの額
社宅や食事提供など、現物で支給された報酬がある場合に換算額を記入します。
⑬合計
⑪と⑫を合算した金額を記入します。
⑭総計
3カ月分の合計額を記入します。算定基礎となる数字なので必ず正確に記載してください。
⑮平均額
⑭の総計を3で割った額(端数は切り捨て)を記入します。この額が標準報酬月額の判定基準となります。
⑯修正平均額
遡及支払がある場合などは修正後の金額を記入します。
⑰個人番号(基礎年金番号)
70歳以上の方のみ、個人番号または基礎年金番号の記入が必要です。また、記入前には本人確認を実施します。
基礎年金番号を記入する場合は、基礎年金番号通知書等に記載されている10桁の番号を左詰めで記入します。
⑱備考
昇給・降給以外の理由や特記事項がある場合に記入します。なければ空欄で問題ありません。
月額変更届の提出方法
月額変更届の提出期限や必要書類・方法について解説します。
提出期限
月額変更届の提出期限は明確に定められていませんが、健康保険法施行規則には「速やかに」と明記されています(健康保険法施行規則26条)。そのため、固定的賃金の変動後3カ月間の給与が確定した時点で速やかに提出する必要があります。
例えば、10月に昇給した場合、10月〜12月の給与をもとに標準報酬月額を判定し、翌年1月から改定が反映される仕組みです。この場合、1月に入った時点で速やかに月額変更届を提出する必要があります。
必要書類
通常の昇給や降給の場合、提出書類は「被保険者報酬月額変更届」1枚のみです。行政手続き簡素化の観点から、標準的なケースでは追加書類は不要とされています。
ただし、例外として、年間報酬の平均で算定する場合は、「(様式1)年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)」が必要です。
提出先
月額変更届の提出先は、事業所の所在地を管轄する年金事務所、または広域を担当する日本年金機構の事務センターです。
提出前に日本年金機構の公式サイトで自社の管轄先を確認することが重要です。
提出方法(郵送・窓口・電子申請)
提出方法は、郵送・窓口持参・電子申請(e-Gov)の3つです。
推奨されるのは電子申請で、24時間365日提出でき、即時に受付通知が届きます。提出履歴もデータで残るため、後日の確認も容易です。
なお、2020年4月からは特定の法人で電子申請が義務化されています。特定の法人とは、以下に該当する法人です。
- 資本金、出資金または銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人
- 相互会社
- 投資法人
- 特定目的会社
引用:日本年金機構「2020年4月から特定の法人について電子申請の義務化が始まっています。」
月額変更届に関するよくある質問
実務において担当者が判断に迷いがちな点や、よくある疑問について、Q&A形式で分かりやすく解説します。
月額変更届の訂正が必要になったときの対処法は?
提出後に誤りが見つかった場合は、速やかに管轄の年金事務所や事務センターへ連絡し、訂正した届書を再提出する必要があります。
誤ったまま放置すると、社会保険料の過徴収や徴収漏れが起き、従業員や会社に不利益が生じるからです。
提出時には届書の表題に赤字で「訂正届」と明記し、備考欄に理由を記載します。訂正前の内容を赤字で、訂正後の内容を黒字で記載します。
月額変更届はいつから適用される?
月額変更届による新しい標準報酬月額は、変動月を1か月目として4か月目から適用されます。保険料は原則として翌月控除のため、実際に給与から天引きされるのは5か月目の給与からです。
当月控除を採用している企業では、4か月目の給与から控除される場合もあります。
役員報酬が変更になった場合も月額変更届の提出は必要?
役員報酬が変更になった場合も、月額変更届の提出は必要です。
例えば、6月の株主総会で役員報酬を増額し、7月支給分から反映する場合、固定的賃金が変動した月は実際に支給額が変更された7月となります。
そのため、7〜9月の3カ月の報酬で算定し、条件を満たせば10月改定として提出が必要です。
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参考文献
監修












