企業のハラスメント対策とは?
企業が対策すべき理由や何をすべきかを
基礎から分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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パワハラ、セクハラ、マタハラといった職場のハラスメントの問題がますます深刻さを増しています。
企業は職場のハラスメントに対して「防止措置」を取る義務があります。また、ハラスメントの加害者や企業には被害者に対する賠償責任が生じます。ハラスメント対策を進めることは、従業員を守ると同時に、職場環境や経営環境の改善につながります。
この記事では、「職場のハラスメント」について、基礎知識から企業が取るべき対策まで、分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年3月7日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- 労働施策総合推進法…労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
- 男女雇用機会均等法…雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
- 育児・介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
- パワハラ指針…事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
- セクハラ指針…事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
- マタハラ指針…事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
- 育介指針…子の養育又は家族介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針
目次
ハラスメント対策の必要性
ハラスメントとは
ハラスメントとは、英語でharassment、辞書には「いやがらせ」「悩ますこと」などとあります。いじめ、嫌がらせというイメージが強いかもしれませんが、実際にはもう少し広く、相手の人格などを傷付けるさまざまな発言や行動(言動)がハラスメントに当たると考えてください。
数字で見るハラスメント
厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和2年度報告書)によると、なんと3人に1人が、過去3年間に職場でパワーハラスメントを受けたことが「ある」と回答しています。誰もが被害者や加害者になりうるのがハラスメントで、起きない企業は「ない」と言ってよいでしょう。
なぜ対策が必要なのか?
企業がハラスメント対策を行わなければならない理由は、大きく2つあります。
1つは、後で述べるように「法的責任」があるからです。法律上の義務として対策を行い、従業員をハラスメントから守らなければなりません。また、法的に損害賠償責任等を問われないためにも、対策が必要です。
もう1つは、ハラスメントが職場環境の悪化、ひいては経営の悪化をもたらすからです。この2つめの視点はあまり意識されていない面もありますので、以下で説明します。
職場環境への影響
ハラスメントがまん延する職場は、雰囲気が良いはずがありません。生産性(Performance)の低下、離職の増加といった悪影響が必ず生じます。
特に離職については、パーソル総合研究所の「職場のハラスメントについての定量調査」によると、2021年にはハラスメントを理由に86.5万人もの人が離職していると推計されています。人手不足が社会的に問題となっている現在、ハラスメントで離職者が増えることは企業にとって大きなダメージとなります。 また、ハラスメントの発生が報じられることで、企業の評判(社会的評価:レピュテーション)が下がり、取引や人材の採用などに響いてくる可能性もあります。
ハラスメント対策の効果
企業がしっかりと対策を行い、ハラスメントを予防し、また発生したハラスメントの問題を解決できれば、職場環境はより良いものとなります。生産性の向上や人材の定着も期待できます。
職場のハラスメントの典型例
3つの典型的なハラスメント
「〇〇ハラ」という言葉は日々増えているような印象さえありますが、職場で起こる典型的なハラスメントは次の3つです。まずはそれぞれのイメージを確認しましょう。
- 職場のハラスメントの典型例
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1|パワーハラスメント(パワハラ)
2|セクシュアルハラスメント(セクハラ)
3|マタニティハラスメント等(妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメント)
1|パワーハラスメント
パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場における地位や権限といった「パワー」を利用したハラスメントです。上司が発言の中で部下の人格を否定するといった例が挙げられます。
2|セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、相手の意に反する不快な性的言動とまとめられます。性的な冗談・からかいや、誘いを断ったことを理由に不利に扱うといった例が挙げられます。
3|マタニティハラスメント等
これは「等」とあるように、妊娠や出産を理由とするマタニティハラスメント(マタハラ)、育児休業や介護休業の利用等を理由とするハラスメントが広く含まれます。また、父親の育児に関するハラスメントはパタニティハラスメント(パタハラ)と呼ばれ、マタハラ等に含まれます。
パワハラの定義と類型
以上3種類のハラスメントのうち、パワハラは、注意・指導として行われたことがパワハラに該当することがあるなど、他に比べて分かりにくいという特徴があります。そこで、定義と類型に注目してみましょう。
パワハラの定義(パワハラ3要素)
パワハラは、労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)で、以下の3つの要素を全て満たすものと定義付けられています。
- パワハラの定義
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① 優越的な関係を背景とした言動で、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されること
①は「上司⇔部下」の関係が典型例です。ただ、部下が数のチカラで優位に立ち上司をいじめる場合など、さまざまな場面が含まれます。
②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」か否かの判断が最も悩ましい部分です。ケースごとに慎重に見ていく必要がありますが、少なくとも、相手方の「人格」を否定したり攻撃したりする言動は②に当たると考えることができます。
③では被害者が精神疾患等に追い込まれるケースも少なくないことに注意が必要です。
パワハラの定義に関する注意点
上記の定義には、「行為者(加害者)に悪意があったこと」は含まれていません。したがって、「パワハラをするつもりはなかった、だからパワハラではない」といった言い訳は通らないことに注意が必要です。
なお、定義の3要素を全て満たしていなくとも、従業員同士のトラブルとして、企業として対応が必要な場合があることにも注意してください(例えばお互いに①の優越的な関係がない、完全な同僚同士のトラブル)。「パワハラとは言えないから企業は何も対応しなくてよい(対応できない)」という理解は誤りであることを確認しておきましょう。
パワハラの6類型
定義を満たす典型的な類型として、以下の6つが挙げられます(後掲のパワハラ指針等参照)。
- パワハラの6類型
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① 暴力などの「身体的な攻撃」
② 人格を否定する発言などの「精神的な攻撃」
③ 無視するなどの「人間関係からの切離し」
④ 仕事に関する「過大な要求」
⑤ 仕事に関する「過小な要求」
⑥ プライベートへの干渉などの「個の侵害」
①②は比較的イメージしやすいですが、③以下もパワハラに当たりうることに注意が必要です。
企業の「防止措置義務」とは|法律と指針に照らして判断
ハラスメントは何の法律が関わるのか?
日本では、「ハラスメント防止法」のような1つのまとまった法律はありません。パワハラ、セクハラ、マタハラ等の3つのハラスメントについて、それぞれ関係する「法律」と行政の「指針」で、企業に後述の防止措置等が義務付けられています。
法律 | 指針 | |
---|---|---|
パワハラ | 労働施策総合推進法 | パワハラ指針 |
セクハラ | 男女雇用機会均等法 | セクハラ指針 |
マタハラ等 | 男女雇用機会均等法、育児・介護休業法 | マタハラ指針、育介指針 |
法律と指針の関係
防止措置の具体的な内容については指針に書かれています。法律が企業に義務を課し、細かい内容は指針で具体化するというように、法律と指針で役割分担がなされています。
このため、例えばパワハラ指針に書かれた具体的な義務に違反すれば、おおもとの労働施策総合推進法に違反することになります。コンプライアンスの観点からは、法律だけでなく指針をしっかり理解しておくことが重要になります。
ハラスメント防止措置とは
防止措置の内容は各ハラスメントで基本的に共通しており、大きく以下の「3つのポイント」でおさえておきましょう。細かい内容や各ハラスメント間での相違などは各指針を参照していただくとして、まずは以下の3つがポイントです。
- ハラスメント防止措置の3つのポイント
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1|方針の明確化と周知・啓発
2|相談体制の整備
3|ハラスメントが発生した場合の迅速かつ適切な対応
1|方針の明確化と周知・啓発
ハラスメントは、企業自身が行うというより、従業員の間で発生するものです。そこで、「うちの会社ではハラスメントは絶対禁止」といった方針を定めること、これが方針の明確化です。
定めた方針に関して、従業員に周知・啓発を行います。社長がトップメッセージとして発信する、就業規則など社内のルールで明示するといったことが考えられます。また、ハラスメントが懲戒処分など処分の対象となることを示していくことも、防止のために必要です。
以上と並んで、研修(ハラスメント防止研修)も効果的です。繰り返し、定期的に研修を行うことがポイントになるでしょう。
2|相談体制の整備
相談体制の整備は、一言でいえば「相談窓口」を作ることです。ただ、窓口という形でなくとも、相談を受ける担当者を決めて周知するなど、従業員が相談できる環境を整えればOKです。
なお、言うまでもないことですが、相談を理由に不利益に扱うこと、例えば相談者を解雇して問題に蓋をしてしまうことは言語道断で、各法律で明確に禁止されています。
また、窓口等を作るだけでなく、しっかりと相談を受けられるように相談担当者へのサポートも必要です。ハラスメントで傷付いた相談者に寄り添いつつ、丁寧かつ的確に相談を受けるスキルは、一朝一夕に身に付くものではありません。さらに、担当者が安易に「それはハラスメントじゃないよ」などと答えてしまうと、被害者がさらに傷付く二次被害の可能性もあります。相談担当者には十分な研修の機会が必要です。
最後に、相談者等のプライバシーを守る仕組みも必要です。相談したことが周囲に知られてしまうようでは、誰も相談をせず、ハラスメントの問題が放置され深刻な事態を招きます。相談担当者はもちろん、ハラスメント対応に関わる全ての従業員に徹底してもらう必要があるといえます。
3|ハラスメントが発生した場合の迅速かつ適切な対応
ハラスメントの相談があった場合、事実の確認、一般にいう「調査」を行うことになるため、調査の仕組み(流れ)を社内で整えておく必要があります。
ハラスメントがあったと確認できた場合、加害者に必要な指導や処分を行うこと、被害者の心身をフォローすること、そして企業として再発防止策を講じることといった、さまざまな事後対応が求められます。
防止措置義務違反があった場合の対応
以上の3つのポイントは法律上の「義務」ですから、行わなければ法律違反です。行政、具体的には国が各都道府県に置いている「労働局」が、企業に対し働きかけを行う仕組みが作られています。
具体的には「助言」「指導」「勧告」(語感の通り、だんだん働きかけの度合いが強くなっていきます)、勧告にも従わない場合は「企業名の公表」がありえます。指導等を受けた場合は、改善のチャンスと捉え、しっかりと対応することが重要です。
企業・加害者の「損害賠償責任」とは
被害者に対する損害賠償責任|防止措置と並ぶもう1つの責任
企業にハラスメントの防止措置義務があり、義務違反を行政から注意される、これが1つの責任だとすると、もう1つの責任として、被害者に対して損害賠償を支払う責任が存在します。
加害者個人の損害賠償責任
ハラスメントは法的に「不法な行為=不法行為」に当たります(民法709条)。よって、大前提として、ハラスメントの加害者本人は、被害者に対し慰謝料などの損害賠償責任を負うことになります。
企業の損害賠償責任
企業自身は必ずしもハラスメントの直接の加害者ではありませんが、損害賠償責任を負うという点がポイントです。理由(理屈)は2つあります。
1つは、加害者の雇い主=「使用者」であるからという「使用者責任」です(民法715条)。もう1つは、企業は従業員の安全等に配慮する「安全配慮義務」を負っているため(労働契約法5条)、ハラスメントの被害が生じたということは企業に安全配慮義務違反があったと考えるものです(民法415条にいう債務不履行責任)。
この2つには細かい違いもありますが、どちらか1つが成立すれば被害者の救済につながるという点が、複数の理屈が存在するメリットといえます。
「民法」のルールが適用される
賠償責任というのは労働法独自の話ではなく、さまざまな分野で問題になります。そのため、ルールは契約等に関する最も一般的なルールである民法に置かれ、それを労働法、商法、知的財産法といった分野でも共用しています。そのため、各分野でも民法の規定を一部参照する必要があるわけです。
防止措置義務との関係
防止措置義務と安全配慮義務は、法的には全くの別物です。前者は企業が国に対して負っている義務で、違反があれば行政から注意されます。後者は企業が従業員に対して負っている義務で、違反があれば従業員から債務不履行責任を追及されることになります。
ただ、防止措置義務を果たしていない企業でハラスメントが起きた場合、その企業は従業員の安全に配慮していたといえないことも多いでしょう。つまり、この2つの義務は別物ではありますが、実質的には関連し合っている面もあります。防止措置義務をしっかり果たすことが、何かあったときの賠償責任を否定ないし軽減することにつながりうるということです。
労災との関係
ハラスメントと労災
ハラスメントが原因で精神疾患等になった場合、業務上の疾病として労働災害(労災)に該当します。従業員が労働基準監督署で手続を行う場合、企業も必要に応じ助力することが求められます。
労災認定の影響
労災と認定された場合、被害者は労災保険の補償を受けることができますが、企業側にとって、労災保険料が上がることは見過ごせません。ハラスメント対策を行い、労災につながるようなハラスメントを防止していくことが重要です。また、労災認定は報道で取り上げられるケースも多く、「○○社でハラスメントがあった」ことが社会に広まる点にも留意すべきといえます。
むすび|ハラスメント対策担当者に役立つポイント
ハラスメント研修の大切さ
ハラスメントは、これだけ社会的な関心が集まっている割に、「実はよく知らない」という人も少なくありません。また、ハラスメントという言葉が広まった結果、「上司がハラスメントを気にして部下を指導しない」「部下が何でもかんでもハラスメントと主張する」といった声を聞くことがありますが、ハラスメントとは何か、正確な知識を社内で共有することで、こうした問題を改善することができるでしょう。企業としては「研修」を充実させる取り組みを進めていくことが重要です。
参考にできるウェブサイト
研修を行う際は、厚生労働省の「あかるい職場応援団」の活用も考えられます。同サイトには指針等のさまざまな情報やデータのほか、動画で学べるコンテンツが沢山あります(余談ですが、筆者も先生役で出ています)。動画を見て感想を話し合うことも、研修メニューの1つとして有益です。研修の企画・運営の負担を軽減できますので、ぜひこのサイトもご活用ください。
おわりに
以上、今回はハラスメント対策がなぜ必要なのか、実施するときのポイントは何かといった点に焦点を当てて解説をしてきました。他にも、社外の顧客(Customer)から受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)など、近時、ハラスメントの問題は広がりを見せています。こうした新たな問題に対応する基礎としても、まずは今回の内容をしっかりとおさえていただけたらと思います。
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参考文献
厚生労働省ウェブサイト「あかるい職場応援団」