慶弔休暇(忌引き休暇)とは?
日数の例・有給休暇との違い・
人事担当者が知っておくべきポイントなどを
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

慶弔休暇(忌引き休暇)とは、結婚や親族の不幸など私的な事情に対応する企業独自の休暇制度です。

法定ではないため内容は企業ごとに異なりますが、就業規則への明記や多様な家族形態への配慮、パート社員との均衡など、明確かつ柔軟な運用が重要です。

この記事では、慶弔休暇の制度概要や就業規則への記載方法、実務上の留意点について詳しく解説します。

ヒー

「親族に不幸があり、休みたいのですが…」という問い合わせがありました。慶弔休暇はどんなときに取ることができましたっけ?

ムートン

慶弔休暇のルールは会社によるため、就業規則や休暇規程などの内容を確認しましょう。慶弔休暇について解説します!

※この記事は、2025年5月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

慶弔休暇とは|法定休暇との違いを詳しく解説

慶弔休暇の概要

慶弔休暇(忌引き休暇)とは、従業員の結婚・出産・親族の死亡といった私的な慶事・弔事に際し、会社から与えられる特別休暇のことです。この休暇は法律で義務付けられているものではなく、企業が福利厚生の一環として独自に定める制度です。そのため、休暇の対象事由や付与日数、取得条件は会社ごとに異なります。

慶弔休暇の目的は従業員の私生活における重大な出来事に対して心の整理や儀式の参加のために設けられたものであり、従業員の生活と労働の両立を支援する役割があります。

年次有給休暇との違い

慶弔休暇年次有給休暇の違いは、目的と法的な位置付けが異なります。

慶弔休暇と年次有給休暇の違い

年次有給休暇労働基準法で定められた法定休暇であり、労働者が用途を選ばずに自由に取得可能です。
慶弔休暇会社が定める特定の事由に限り付与される法定外の休暇制度で、就業規則などで定めた場合に適用されます。

また、年次有給休暇には会社側が有給取得時期を指定する時期変更権がありますが、慶弔休暇は就業規則等で定められた条件を満たせば、原則として希望日時で取得できます。

慶弔休暇の対象範囲|誰が取得できるのか

配偶者・親族の範囲と判断基準・対象外となるケース

慶弔休暇の対象となる親族の範囲は、企業によって異なりますが、一般的には二親等以内(配偶者・子・父母・兄弟姉妹・祖父母・義父母など)が多く採用されています。三親等(叔父・叔母・甥・姪など)まで認めるケースもあり、企業文化によって対象範囲はさまざまです。

ヒー

「きょうだいの結婚式」などは慶事ではありますが、会社によっては対象外となるため、有給休暇を取得することになりますね。

弔事においては「葬儀の準備をする必要がある」「喪主を務める」など、役割に応じて個別に付与日数を増減させる運用も見られます。

同性パートナー・事実婚の取り扱い

近年では、多様な家族のあり方に配慮し、同性パートナー事実婚も慶弔休暇の対象とする企業が増えています。例えば、就業規則に「配偶者(婚姻の届出をしていない者を含む)」と明記することで、対象範囲を広げることが可能です。

運用については、同性パートナーシップ証明書や住民票の同一世帯記載などをもとに、事実婚を認定するといった方法があります。このように、慶弔休暇の対象範囲から、企業の多様性尊重の姿勢を表現することができます。

慶弔休暇の日数基準|一般的な設定と実務例

慶弔別にみる平均取得日数

慶事・弔事それぞれにおける一般的な休暇日数は以下のとおりです。

本人の結婚:本人の結婚で5日
子の結婚:1日
配偶者の出産:1〜2日
配偶者・親・子の死亡:3〜5日
祖父母・兄弟姉妹・義父母の死亡:1〜3日

※上記はあくまで一般的な例であり、会社によって差異があります。

業種や会社規模による違い

大企業や上場企業では制度設計が進んでおり、慶弔休暇制度が明文化されている傾向があります。一方、中小企業やベンチャー企業では、慶弔休暇が就業規則に規定されていない場合や、個別対応で運用していることも少なくありません。

近年では、慶弔休暇の代替としてフレキシブルな勤務制度(時短勤務、テレワーク)を活用するケースも増えています。

就業規則における慶弔休暇の記載方法

記載例と実務上の注意点

就業規則に慶弔休暇を記載する際には、以下の事項を具体的に明示することが望ましいです。

就業規則に記載すべき事項

✅ 対象となる慶弔事由(結婚、出産、死亡など)
✅ 対象親族の範囲(二親等までなど)
✅ 付与日数(本人の結婚は5日など)
✅ 申請方法と提出書類(死亡証明書など)

記載例:「社員が本人の結婚を行う場合は5日間、配偶者の死亡時は5日間の慶弔休暇を付与する」

具体的かつ網羅的に記載することで、従業員にとっても理解しやすい内容となります。

従業員への周知方法

制度を整備するだけでなく、従業員への周知も欠かせません。就業規則や周知文の掲載、入社時のオリエンテーション等を通じて制度の存在と内容を丁寧に伝えることが大切です。

定期的な見直しや社内FAQの整備など、従業員が制度を活用しやすくする仕組み作りが重要です。

 パート・契約社員の慶弔休暇はどう扱う?

均等待遇の観点からの対応

労働契約法20条では、有期・無期雇用間の不合理な待遇差を禁止しています。これを踏まえ、パートタイマー契約社員に対しても、合理的な理由がない限り、正社員と同様に慶弔休暇を認めることが望まれます。

トラブルを防ぐルール整備

非正規社員と正社員で差を設ける場合は、就業規則雇用契約書に明確な根拠と理由を示す必要があります。また、制度を周知し、曖昧な運用を避けることで、トラブルの防止につながります。

全形態の従業員を対象とした制度説明会などを通じ、共通理解を形成することも重要です。

慶弔休暇取得時の証明書類の取扱い

死亡診断書・案内状などの確認方法

慶弔休暇を取得する際に、企業が確認のために証明書類の提出を求めることがあります。代表的なものには以下が挙げられます。

結婚:結婚証明書、招待状のコピーなど
出産:母子健康手帳のコピー、出生届の写しなど
死亡:死亡診断書、訃報案内、会葬礼状など

ただし、過度な書類の提出要求は従業員の心理的負担となるため、必要最小限にとどめる配慮が望まれます。

個人情報保護と配慮のバランス

提出された書類には個人情報が含まれるため、取り扱いには十分な配慮が必要です。提出書類の保存期間を限定し、第三者への漏洩を防止する管理体制を整えることが求められます。

慶弔休暇の取得に際しては、前述のとおり証明書類の提出を求めることがある一方で、従業員のプライバシーへの配慮から「本人の自己申告のみで可」としている企業も増えています。

慶弔休暇と給与|賃金支給・控除の判断基準

慶弔休暇は有給?無給?

慶弔休暇は法律上の義務ではないため、その取得時の給与支給の有無についても企業が自由に定めることができます。しかし、制度設計に当たっては、従業員の心理的・経済的な安心感を確保する観点から、有給扱いとすることが望ましいとされています。実際に多くの企業では、慶弔休暇を有給の特別休暇として扱っています。

給与規程などにおいて慶弔休暇中の賃金支払いについて明記し、労使間の誤解やトラブルを未然に防ぐことが重要です。

社会保険や雇用保険への影響

慶弔休暇が無給であった場合でも、短期間であれば社会保険や雇用保険の資格喪失につながることは基本的にありません。ただし、月給制の社員で控除がある場合は、給与計算上の注意が必要です。

例えば、無給扱いの慶弔休暇で月の出勤日数が著しく減少した場合、社会保険料の標準報酬月額が変更となる可能性もあるため、注意が必要です。

給与計算担当者が注意すべき点

慶弔休暇は企業によって有給・無給の取り扱いが異なるため、給与計算においては就業規則や給与規程を十分に確認する必要があります。特に月給制の場合、無給扱いとする場合は日割り計算が適切に行われているか、欠勤控除が誤って二重で行われていないかなどをチェックすることが重要です。

また、特別休暇の賃金支給について誤解が生じやすいため、あらかじめ「慶弔休暇中も給与は支給されるのか」「通勤手当の支給日数に含めるか」など、処理方針を明確にし、必要に応じて関係部門とも共有しておくことが望まれます。

慶弔休暇と働き方改革

慶弔休暇を取得しやすい職場作りとは

慶弔休暇の取得を促進するには、まず制度の存在を従業員が十分に理解していることが前提となります。社内報や入社時のガイドブックに明記するほか、上司や人事担当者が日常的に制度の利用を促す文化を作ることが大切です。

また、取得理由を詮索しない風土や、急な取得にも柔軟に対応できる業務体制を整えることで、従業員は安心して申請できるようになります。慶弔休暇の取得が、人事評価にも影響しないという安心感を持たせる工夫も必要です。

取得しやすさを高めるには、形式的な運用にとどまらず、現場レベルでの柔軟性が求められます。例えば、「慶弔休暇の取得を事後申請でも認める」「リモートワークとの併用を可能にする」などの実態に即した対応が重要となります。

さらに、管理職への研修を通じて「部下が慶弔休暇を申し出やすい雰囲気作り」を促すことも効果的です。休暇取得がキャリアに不利になるという誤解を防ぎ、公平に制度を利用できる環境を整備することが、信頼と定着率の向上につながります。

多様性に配慮した制度運用

家族構成や価値観の多様化により、従来の慶弔休暇制度では対応しきれないケースが増えています。そのため、同性パートナーや事実婚の配偶者も対象に含めるなど、就業規則において家族の定義を柔軟に設定しておくことも重要です。

従来の慶弔休暇制度とは異なる先進的な事例を以下にご紹介します。

  • 「実質的な家族」や「育ての親」も対象とする
  • ペットの死去に伴う「ペット忌引き休暇」制度の導入
  • 多文化共生に配慮した宗教的儀式への特別休暇付与

また、制度利用に際して「証明書の提出が難しい」「配偶者の呼称が違う」などの理由で差別的な扱いが起きないよう、申請フローの簡素化や、プライバシーに十分配慮した対応を取ることが大切です。

「形式ではなく実態」を重視したルール整備を進めることで、ダイバーシティ推進の第一歩となります。

ムートン

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