通勤時間2時間は労働基準法違反?
違法性や長時間通勤のリスク、
対処法を分かりやすく解説!

無料で資料をダウンロード
 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 >
✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント >
この記事のまとめ

通勤に片道2時間かかることが、直ちに労働基準法違反になることはありません。しかし、長時間通勤を放置することは、安全配慮義務違反や離職など組織運営上のリスクにつながる場合があります。

・通勤時間は労働基準法上労働時間には含まれず、通勤時間の上限もありません。
・ただし、長時間通勤による従業員の健康被害が発生し、企業が適切な対策を講じていなかった場合、企業は「安全配慮義務違反」として損害賠償請求を受ける可能性があります。
・企業は健康被害・離職リスクを軽減するため、業務特性に応じて、在宅勤務や時差出勤、フレックスタイム制、通勤手当増額、社宅提供などの対策を講じることが重要です。

本記事では、長時間通勤の従業員への影響や、企業が講じるべき具体的な対策について、詳しく解説します。

ヒー

 片道2時間の通勤時間は、労働基準法違反にはならないのでしょうか。

ムートン

原則として通勤時間は労働時間に含まれないため、直ちに労働基準法違反になることはありません。ただしその状態を放置することにはリスクがあるため、法的な扱いや企業が講じるべき対策について詳しく解説します。

※この記事は、2025年12月5日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

2時間の通勤時間は労働基準法違反にはならない

通勤時間が長時間に及んでも、直ちに労働基準法違反になることはありません。労働基準法における労働時間の定義に通勤時間が含まれないことが主な理由です。

原則として通勤時間は「労働時間」ではない

通勤時間は、原則として労働基準法上の労働時間に含まれません

労働基準法における労働時間とは「使用者の指揮命令下にある時間」を指します。通常、通勤時間は使用者の監督が及ばず、労働者が自由に使える時間であるため、業務には該当せず、賃金の支払い義務も発生しません。

ただし、既に職場で始業した後の現場などへの移動は、業務遂行上必要な移動として従業員の自由が拘束されるため、使用者の指揮命令下にあり、労働時間とみなされます。移動中に業務を行うよう指示されている場合も同様です。また、物品の運搬・監視を義務付けられている場合も、労働時間として扱われるのが一般的です。
このような労働時間とみなされる移動については、賃金の支払い義務が発生します。

労働基準法が規定するのは「労働時間」のみ

労働基準法32条では、労働時間の上限を「1日8時間・週40時間」と定めていますが、労働基準法の規制対象はあくまで労働時間であり、通勤時間の上限に関する規定は存在しません

したがって、労働時間に含まれない通勤時間の長さによって労働基準法32条違反と評価されることはありません。

通勤時間と直行直帰・出張時の移動時間との違い

自宅から取引先へ直接向かう直行や、出先から自宅へ戻る直帰に要する時間は、原則として労働時間には該当しません。

上司の具体的な監督がなく、移動中に私用や休息を行える状態であれば、使用者の指揮命令下に置かれているとはみなされないためです。

通勤時間が2時間以上かかることの法的リスク

長時間通勤が直ちに労働基準法違反にはならない一方で、長時間の移動による心身への負担を放置することによって、企業が法的責任を問われるリスクもあります。

安全配慮義務違反のリスク

長時間通勤が原因で従業員に健康障害が発生した場合、安全配慮義務違反として、企業は従業員から賠償金を請求されるリスクがあります

労働契約法5条に基づき、企業には従業員の健康に配慮する義務があり、長時間通勤の健康リスクを予見できたにも関わらず放置することは、この義務を怠ったと判断されるためです。

判例|長時間通勤を伴う配転命令をめぐる法的トラブル

企業が長時間通勤に関する配慮を怠ったために法的責任を問われた裁判例をご紹介します。

メレスグリオ事件(東京地判平成9年1月27日、東京高判平成12年11月29日)では、通勤時間が片道約1時間から約2時間に延長される配転命令を拒否した従業員への懲戒解雇が、無効と判断されました

会社は人員削減を図る中、退職勧奨を断った従業員に対し、埼玉県比企郡の本社・玉川工場への配転を命じました。従業員は、通勤時間が従来の2倍になることや、居住している公団住宅に老後も住み続けたいという理由から配転を拒否したため、会社は業務命令違反として懲戒解雇しました。

裁判所は、配転命令自体については業務上の必要性があり、不当な目的も認められないとして、「本件配転命令は有効である」との判断を下しています。

しかし、懲戒解雇については、会社が従業員に対して必要な情報(通勤時間や経路、バスの運行状況など)を提供せず、通勤緩和措置も検討しないまま発令した点が問題視されました。従業員が配転を受け入れるか判断する材料を与えなかったとして、裁判所は「本件懲戒解雇の効力は認めることができない」と述べ、解雇を無効と判断しています。

メレスグリオ事件は、配転命令自体が有効であっても、従業員が合理的な判断をするために必要な情報提供を怠った場合、配転拒否を理由とする懲戒解雇は権利濫用として無効となり得ることを示した重要な裁判例です。

通勤時間が2時間かかることを理由に退職した従業員の扱い

通勤時間が2時間かかることを理由に従業員が退職した場合、雇用保険の失業給付は退職理由により、以下の3つに区分されます。

  • 特定受給資格者
  • 特定理由離職者
  • 自己都合退職

特定受給資格者となるケース

事業所の移転や配置換えに伴い、通勤が困難となったために離職したと公共職業安定所(ハローワーク)に認められた従業員は、会社都合退職として特定受給資格者に該当します

ハローワークの運用基準における通勤困難の定義は、一般的な交通機関を利用した往復の所要時間がおおむね4時間以上となる場合です。この所要時間には、歩行時間や乗換の待ち時間も含まれます。

特定受給資格者に該当する場合、通常の自己都合退職に適用される1カ月または3カ月の給付制限期間が設定されません。そのため、受給資格決定後の待期期間(7日間)が経過した時点から、基本手当の支給対象となります。

さらに、基本手当の給付日数も、一般の離職者に比べて手厚いのが特徴です。例えば、「45歳以上60歳未満で被保険者期間が20年以上」の条件を満たす場合、給付日数は最大330日となります。

特定理由離職者となるケース

通勤困難者として特定受給資格者に該当しないものの、結婚や配偶者の転勤に伴う転居によって通勤が長時間化した、健康上の理由により現在の通勤時間での通勤が困難になったなど、自身のやむをえない事情により、自己都合退職した場合には特定理由離職者となります

認定には、離職者本人が配偶者の転勤辞令や医師の診断書、介護認定の通知書など、離職理由を裏付ける客観的資料を公共職業安定所(ハローワーク)へ提出し、実態に基づいた判断を受ける必要があります。

この区分に認定された場合も、特定受給資格者と同様に給付制限を受けず、基本手当の受給が可能となります。

自己都合退職となるケース

特定受給資格者、特定理由離職者のいずれにも該当せず、労働者自身の判断で退職する場合は、自己都合退職となります。

例えば、入社当初から通勤時間を承知していたにもかかわらず退職した場合や、自ら選択した転居により通勤困難となった場合などが代表的な例です。

2025年4月1日以降の離職からは、雇用保険の失業給付に関する要件の見直しにより、自己都合退職であっても、給付制限期間が原則2カ月から1カ月に短縮されます。さらに、教育訓練の受講などの一定の条件を満たせば、給付制限が解除される制度も導入されます。

ただし、離職日からさかのぼって5年間のうちに2回以上正当な理由なく自己都合離職し、受給資格決定を受けた場合は、給付制限期間が3カ月となります。

自己都合退職については、以下の記事でも詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。

長時間通勤の従業員に対し企業がすべき配慮

長時間通勤の従業員に対し、企業には適切な配慮が求められます。具体的には以下のような配慮を行うことが推奨されます。

  • フレックスタイム制を導入する
  • 在宅勤務・リモートワークを導入する
  • 時差出勤を認める
  • 通勤手当の増額や特別手当を支給する
  • 社宅・借上社宅制度を提供する

フレックスタイム制を導入する

フレックスタイム制を導入すると、従業員が通勤ラッシュを避けた時間帯に出退勤できるようになります

コアタイムへの出社を除き、始業・終業時刻を従業員が決定できるようになるため、長時間通勤者は混雑のピークを避けることが可能です。例えば、早朝など空いた時間帯を選択することで、電車内で着席できる可能性が高まり、移動中の疲労軽減が期待できます。

導入には就業規則の改定と、労働者の過半数を代表する者または労働組合との間で労使協定の締結が必要です。なお、清算期間が1カ月を超える場合は、労使協定の労働基準監督署への届出も必要となります。

在宅勤務・リモートワークを導入する

在宅勤務を導入して通勤時間をなくすことで、従業員は睡眠時間や休息時間を確保できます

業務の性質上、完全な在宅勤務が困難な組織においても、週の半分を在宅とするハイブリッドワークを導入すれば、長時間通勤による疲労の蓄積を緩和する効果が期待できます。

時差出勤を認める

時差出勤制度は、1日の総労働時間は変えず、始業および終業時刻をあらかじめ設定された複数のパターンから選択して前後させる仕組みです

例えば、通常の「9時〜18時」以外に「8時〜17時」や「10時〜19時」といった勤務時間を設定することで、従業員が混雑の少ない時間帯での通勤が可能になります。

通勤ラッシュによるストレスや疲労の蓄積を防ぐことは、勤務開始時における集中力の維持につながります。

通勤手当の増額や特別手当を支給する

通勤手当の増額や特別手当の支給により、長時間通勤の経済的負担を軽減できます。例えば、特急券や新幹線通勤定期代の一部または全額を企業側が負担し、移動時間を短縮させることも可能です。

なお、新幹線や特急列車の利用が「経済的かつ合理的」と認められれば、所得税法上の非課税限度額(月額15万円)までは非課税の通勤手当として支給可能です。

ただし、一般的な就業規則において通勤手当は「最も経済的な経路」が支給基準となるため、特急利用を認める場合は、就業規則において適用範囲を明確に定めておく必要があります。

社宅・借上社宅制度を提供する

勤務地近くへの転居を支援する「社宅・借上社宅制度」は、物理的に通勤時間を短縮する仕組みです

転居を伴う異動を命じる場合、単に辞令を出すだけでなく、企業が初期費用の負担や家賃補助といった経済的な支援を行えば、従業員は会社の近くへの引越しを検討しやすくなります。

結果として、長時間通勤による疲労蓄積を防ぎ、業務のパフォーマンス維持を期待できます。

通勤時間に関するよくある質問

通勤時間に関するよくある質問について回答します。

Q. 通勤時間中の怪我は労災の対象ですか?

通勤中に発生した怪我は、原則として通勤災害として労災保険の給付対象となります

労災認定を受けるには、移動が「住居と就業の場所との間の往復」であり、かつ「合理的と認められる経路および方法」で行われている必要があります。

合理的な経路とは、必ずしも会社へ届け出た最短経路に限定されません。自転車通勤の労働者が雨天の場合のみ公共交通機関を利用する場合など、合理的と認められる経路であれば、複数の経路が認定対象となります。

ただし、移動の経路を逸脱したり、移動を中断したりした場合、原則として当該逸脱または中断の間およびその後の移動は、労災の対象外です。例えば、映画館に立ち寄る、居酒屋で飲酒するなどの行為が該当します。

一方、日用品の購入や病院への通院、選挙の投票など、厚生労働省令で定める日常生活上必要な行為のために最小限の寄り道をした場合は例外です。寄り道をしている最中は対象外ですが、用事を済ませて元の経路に戻った後の移動については、再び労災の対象となります。

Q. 通勤手当に上限を設けることは可能ですか?

労働基準法では通勤手当の支払い方法を直接定めていませんが、就業規則で規定した場合はその規定に基づく支給義務が発生します

例えば、就業規則や賃金規程において「通勤手当は月額3万円を上限とする」といったルールを明確に定めていれば、実費が上限を超過しても支払額を上限額までとすることが可能です。

ただし、既存制度を変更する場合、特に上限額を引き下げるなどの不利益変更には、労働契約法9条に基づき、原則として労働者の合意が必要となります。

Q. 通勤時間の平均はどのくらいですか?

総務省の社会生活基本調査によると、日本の通勤時間の全国平均は片道約39分(往復約1時間19分)です。首都圏(東京圏)に限ると、片道約48分(往復約1時間36分)程度が平均的な数値です。片道2時間(往復4時間)という通勤時間は、全国平均の約3倍、首都圏平均の2倍以上に相当します。

ムートン

最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

無料で資料をダウンロード
 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 >
✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント >

参考文献

e-Gov 法令検索「労働基準法」

e-Gov 法令検索「労働契約法」

e-Gov 法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」

監修者

アバター画像
涌井好文 社会保険労務士(神奈川県会横浜北支部)
就業規則作成、社会保険手続き、給与計算、記事執筆及び監修