債権管理とは?
目的・重要性・業務フロー・企業がすべきこと
などの基本を分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「債権管理」とは、企業が売掛金や貸付金などの債権を管理することをいいます。具体的には、債務者のコーポレートチェックや与信管理、リストによる各債権の管理、未払い債権の回収などを行います。
債権管理ができていないと、債務不履行や企業の倒産につながるリスクがあります。多数の取引を行う企業にとって、債権管理を適切に行うことは非常に重要です。適切な債権管理は、資金繰りの健全化や正確な経理によるコンプライアンス強化につながります。
債権管理を適切に行うに当たって、企業は以下のような体制・制度を整備する必要があります。
・管理部門・管理担当者の決定
・債権管理方法の決定
・債権管理に関する社内規程の策定
・債権管理ルールの社内向け教育・周知
・債権リストの作成・システムの導入この記事では、債権管理について、目的・重要性・業務の流れ・企業がすべきことなどを解説します。
※この記事は、2023年1月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
債権管理とは
「債権管理」とは、企業が売掛金や貸付金などの債権を管理することをいいます。
企業が事業活動を行う中では、多数の顧客や取引相手に対して売り上げを立て、売掛金債権を取得するのが一般的です。また、子会社や役員に対して資金を貸し付け、貸付金債権を取得するケースもあります。
このように、企業が事業上取得した債権につき、その弁済期や回収状況などを管理するのが「債権管理」です。
債権管理の主な目的
債権管理の目的としては、主に以下の各点が挙げられます。
✅ 債権の把握漏れを防ぐこと
✅ 期限どおりに債権を回収すること
✅ 債権の時効消滅を防ぐこと
債権の把握漏れを防ぐこと
債権管理の目的の一つは、企業が有する債権の把握漏れを防ぐことです。
企業は日々、さまざまな相手方と多数の取引を行います。企業の規模が大きくなればなるほど、取引の件数は増え、取得する債権の種類や数も多くなります。
債権管理をきちんと行うことは、企業が有する債権の把握漏れを防ぎ、それらを最大限回収することにつながります。
期限どおりに債権を回収すること
企業が取得する各債権には、それぞれ「弁済期」が設定されています。
弁済期が到来した債権は速やかに回収すべきですし、弁済期が過ぎても支払われない債権については、遅延損害金の請求も検討しなければなりません。
各債権の弁済期(支払期限)を把握することも、債権管理の目的の一つです。適切な債権管理を行えば、期限どおりに債権を回収できるようになり、企業の資金繰りの健全化につながります。
債権の時効消滅を防ぐこと
弁済期を過ぎても支払われない債権については、消滅時効の完成時期に注意が必要です。
一般に、債権は以下のいずれかの期間が経過すると、時効により消滅します(民法166条1項)。時効期間が経過した債権は、債務者が時効を援用(主張)すると回収できなくなってしまいます。
① 権利を行使できることを知った時から5年
② 権利を行使できる時から10年
債権管理を行うに当たっては、債権の弁済期とともに、消滅時効の完成時期も管理しなければなりません。消滅時効の完成が迫っている債権については、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などを行い、時効完成を阻止する必要があります。
債権管理が重要である理由
債権管理が重要であるのは、主に以下の2つの理由によります。
✅ 資金繰りの健全化につながる
✅ 正確な経理に必要不可欠
資金繰りの健全化につながる
債権管理を適切に行うことにより、売掛金債権などを期限どおりに回収できるようになります。
支払われるべき債権を期限どおりに回収できれば、運転資金に余裕を持たせることができ、企業の資金繰りには大きくプラスに働くでしょう。
正確な経理に必要不可欠
企業が取得した売掛金などの債権については、法人税等の税務申告を適切に行うため、時期・金額・取引相手などを正確に記帳しなければなりません。債権を回収した際にも、同じく帳簿への記帳が必要です。さらに、債権が回収不能になった場合には、帳簿上で損失処理を行う必要があります。
これらの経理上の処理を正確に行うためには、適切な債権管理が非常に重要です。債権の取得・回収等に関する把握漏れを防ぐことで、正しい経理と税務申告が可能となります。
債権管理業務の流れ(業務フロー)
債権管理業務は、以下の流れで行います。
①コーポレートチェック|実在性・反社該当性など
②与信限度額の設定・与信管理|債務者の信用力を考慮
③取引条件の整理・書面化|契約書・受発注書・請求書などの発行・交付
④債権のリスト化|検索可能性を確保
⑤債権ステータスの更新|発生・入金状況など
⑥帳簿への記録|売上計上・入金消込などの仕訳処理
⑦未払い債権の管理・対応|督促・回収・貸倒処理など
コーポレートチェック|実在性・反社該当性など
債権管理の前段階として、取引を始めるか否かを検討する段階があります。
取引の検討段階では、取引相手に関するコーポレートチェックを行う必要があります。具体的には、取引相手が実在するか、反社会的勢力に該当しないかなどをチェックします。
コーポレートチェックは、企業コンプライアンスの観点から重要なプロセスなので、新たな取引を開始する都度確実に行いましょう。
与信限度額の設定・与信管理|債務者の信用力を考慮
同じ取引相手に対して、未払いの債権残高が多くなればなるほど、債権が回収不能となる「貸し倒れ」のリスクが高くなります。したがって、貸し倒れリスクを限定するため、取引相手ごとに与信限度額を設定すべきです。
与信限度額は、取引相手の信用力(財務状況や過去の支払い履歴など)を考慮して設定しましょう。そして、未払いの債権残高を積算して把握し、与信限度額を超える取引は差し控えるよう所管部門に勧告することが求められます。
取引条件の整理・書面化|契約書・受発注書・請求書などの発行・交付
債権管理を円滑化するため、取引条件の整理・書面化を進めましょう。
具体的には、契約書・受発注書・請求書などの発行・交付に関して、ルールや書式を定めます。さらに、設定したルールや書式を社内向けに周知することも大切です。
きちんとルールや書式が浸透すれば、管理担当者の下には必要十分な債権情報が集まり、債権管理を適切に行うことが容易になります。
債権のリスト化|検索可能性を確保
債権管理を行うに当たり、不可欠のプロセスとなるのが債権のリスト化です。
企業が有する債権の概要やステータスについては、スムーズに確認できるようにしておく必要があります。例えば以下の検索項目を設定して、確認したいときにはすぐに債権の情報へたどり着ける状態にしておきましょう。
✅ 債権の発生日時
✅ 弁済期
✅ 消滅時効の完成時期
✅ 取引相手
✅ 債権額
✅ 仕訳項目(売掛金、貸付金、未収金など)
など
債権ステータスの更新|発生・入金状況など
企業が債権を取得した際には、債権リストにその情報を記録します。債権が支払われた場合には、未収から支払い済みへステータスを変更しましょう。
消滅時効との関係でも、債権のステータスに何らかの変更があれば、その内容を記録することが大切です。
例えば内容証明郵便で請求書を送付した場合、消滅時効の完成が6カ月間猶予されますので、猶予の旨や猶予期間の満了日などを記録しておきましょう。
そのほか、訴訟の提起等による時効の完成猶予や、判決等による時効の更新などについても、該当事由が発生次第速やかに記録すべきです。
帳簿への記録|売上計上・入金消込などの仕訳処理
債権リストに記録した債権の情報は、仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿にも記録する必要があります。
- 債権に関する仕訳例
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<売上を計上した場合>
<入金消込をした場合>
未払い債権の管理・対応|督促・回収・貸倒処理など
弁済期を過ぎても未払いとなっている債権については、債権回収を図る必要があります。まずは債務者に対して督促を行い、応じなければ訴訟などを通じて回収を図りましょう。
債権回収が不可能となった場合には、貸倒処理を行うことで、回収不能額を損金に計上できます。ただし、税務上の貸倒処理を行うことができるのは、債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合などに限られる点にご注意ください。
参考元|国税庁ウェブサイト「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」
債権管理業務における課題
債権管理業務に関して、企業によっては以下の課題に直面します。もしこれらの課題がネックとなる場合には、速やかに解決策を検討しましょう。
✅ 手作業での債権管理は煩雑、漏れが生じやすい
✅ 拠点が分散している場合、一元管理が重要
手作業での債権管理は煩雑、漏れが生じやすい
手作業で債権管理を行うことは煩雑で、債権の発生・回収・時効管理などに関して漏れが生じるリスクも高いです。特に企業の規模が大きくなればなるほど、手作業での債権管理には時間がかかり、ヒューマンエラーが発生するリスクも増大します。
会計ソフト・クラウドサービスの導入などによって、機械的に処理できる部分を可能な限り増やし、債権管理の効率化とヒューマンエラーのリスク減少を図りましょう。
拠点が分散している場合、一元管理が重要
事業場が複数に分散している企業では、事業場ごとに独立して債権管理を行うだけでなく、会社全体で一元的に債権管理を行うことも重要になります。
役員・従業員がアクセスできる共通のデータベース(クラウドサーバー、イントラネットなど)を設けて、各事業場における債権管理の状況を随時確認・更新できるようにしておきましょう。
債権管理について企業がすべきこと
企業が債権管理を行うに当たり、講ずべき主な対応は以下のとおりです。
① 管理部門・管理担当者の決定
② 債権管理方法の決定
③ 債権管理に関する社内規程の策定
④ 債権管理ルールの社内向け教育・周知
⑤ 債権リストの作成・システムの導入
①管理部門・管理担当者の決定
まずは、債権管理を行う部門と担当者を決定しましょう。
規模の大きな会社では、債権管理専門の部署を設けることも考えられます。
これに対して、中規模以下の会社では、バックオフィスを担当する部門が債権管理を兼務するケースが多いです。例えば経理部・総務部・法務部などが候補に挙げられますが、本来の業務とのバランスを考慮して、特定の従業員に業務が偏り過ぎないように配慮しましょう。
②債権管理方法の決定
債権管理の方法については、以下の事項などを取り決めておきましょう。
✅ 管理担当者に対する債権ステータスの報告方法
✅ 債権リスト(データベース)の項目設定
✅ 債権リストへの記録方法
✅ 債権リストの保存先
✅ 債権リストへのアクセス権
✅ 債権回収へ移行する際の手続き
など
③債権管理に関する社内規程の策定
債権管理の方法を決定したら、その内容を反映した社内規程を策定します。
社内規程は、法務担当者が案文を作成して所管部門のチェックを受け、取締役会等による決定を経て制定するのが一般的です。法務部門は、債権管理の担当部門と連絡を取り合い、業務の実態を反映した社内規程の策定に努めましょう。
④債権管理ルールの社内向け教育・周知
債権管理に関する社内規程の施行目処が立ったら、その内容を社内向けに教育・周知します。
債権管理を全社一元的に行うためには、従業員の一人ひとりにまで債権管理のルールを浸透させることが大切です。臨時の従業員研修を実施したり、債権管理担当者が日々の業務の中で周知を行ったりして、1日も早く債権管理ルールが浸透するような取り組みを行いましょう。
⑤債権リストの作成・システムの導入
債権管理を円滑に行うことができるかどうかは、債権リストの使い勝手の良さにかかっています。
特に、債権の発生日時・弁済期・取引相手などの事項について、スムーズに検索できる機能を備えることが非常に重要です。必要に応じてシステムを導入し、債権管理の効率化を図りましょう。
この記事のまとめ
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