内規とは?
法的効力・就業規則やその他社内規程
との関係など含め分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
-
内規とは、組織内部の決まりごとやルールです。
企業が内規を作成・制定する主な目的は、
① 会社運営の適正性を確保する
② 法令違反を予防する
ことにあります。こうした目的を達成するため、多くの会社では、さまざまな内規を定めていますが、基本的に、内規について、法律上の根拠や定義はなく、法的拘束力もありません。
しかし、就業規則など、法律で作成が義務付けられている内規は、例外的に法的拘束力をもちます。
この記事では、内規について基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年10月23日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- 労基法…労働基準法
- 労基則…労働基準法施行規則
目次
内規(内部規則)とは
内規とは、文字どおり、組織内部の規則です。
具体的には、会社や行政機関などの組織内(以下では、会社を前提として解説します)の業務を円滑に進めるために定められた決まりごとやルールのことです。内規について、法律上の根拠や定義はありません。
しかし、会社が適正に経営を行っていくためには、役員や従業員がそれぞれ好き勝手なことを行うわけにはいきません。会社に所属する役員や従業員において、それぞれが担うべき役割を決めて、決裁手続きや責任を決めておく必要があります。このために定められるのが内規です。
内規の代表例
内規の代表的なものとして、以下のような規程があります。
規程例 | 内容 |
---|---|
業務分掌規程 | 会社の各部門等の組織単位が分掌する業務範囲を明確にするために定めたもの |
職務権限規程 | 会社の業務執行に関する各職位の責任と権限を定めたもの |
経理規程 | 会社の経理に関する基本方針や手続き、処理方法等を定めたもの |
文書管理規程 | 会社が社内の文書管理(作成、保存、廃棄等)について、統一的なルールを定めたもの |
情報管理規程 | 会社の情報(機密情報、個人情報等)を守るために、情報の取扱いに関する体制やルールを定めたもの |
副業・兼業規程 | 会社が従業員に副業や兼業を認める場合のルールを定めたもの |
企業が内規を定める目的
目的1|適正な会社経営
企業が内規を定める目的は、適正な会社運営を実現するためです。
会社が一定程度の規模となった場合、役員や従業員一人一人で、日常業務を行っていくことは困難となり、部署や部門を設置するかたちでの組織運営が必要となります。他方で、部署や部門ごとに、どのような職務内容や責任、権限が与えられているか不明確になると、各自が行うべき職務が不明確になったり、誰にどのような相談を行ったり、決裁を行ったりするのか分からなくなり、統制された組織運営がなされなくなります。
そのため、組織的かつ効率的に組織が運営できるような統制の仕組みとして、一定の規則を定める必要があります。これらの内規があることで、部署や部門間の業務内容や職務の遂行方法を明確にできるだけではなく、責任の所在も明確にすることができます。
目的2|法令違反の予防
また、内規は、会社が法令違反を犯さないようにする目的でも定められます。
前提として、会社は、労基法や会社法をはじめとして、さまざまな法令を守りつつ、経営を行っていく必要があります。
これらの法令の適正な履行を確保するためには、役員や従業員が、これらの法令に違反しないようなかたちで社内のルールを決めて、運用することが必要です。
内規の法的効力
原則|内規に法的拘束力はない
内規には、原則として法的拘束力がありません。
そのため、役員や従業員は、内規に従わなかったからといって、直ちに刑罰が科せられたり、懲戒処分を受けたりするものではありません。
例外1|法令で義務付けられた一部の内規は法的拘束力をもつ
ただし、例外的に、法令で作成などが義務付けられた内規は、法的拘束力をもちます。例えば、就業規則(労基法89条)であり、詳細は「内規と就業規則の関係・違い」解説します。
例外2|内規が労使慣行になる場合も法的拘束力をもつ
内規が労使慣行になる場合も、例外的に、法的拘束力をもつことがあります。
労使慣行とは、会社と従業員との間(労使間)で一定のルールが長い間、反復継続して遵守され、これに従うことが双方で当然とされているものをいいます。
就業規則や労働協約のように文書化されていなくても、労使間で規範として確立されたルールになっているのであれば、労働契約の内容となり、契約としての法的拘束力が生じる場合があります。
もっとも、どの程度の期間、反復継続して運用されていれば、労働契約の内容になるかについては、会社ごとの事情によらざるを得ません。そのため、このような不明確な状態を避けるためには、ルールの位置づけを明確にしたり、その適用対象や期間を明確化したりするなどした上で、文章化しておくことが考えられます。
内規と内部統制システムの関係
内規は、会社の内部統制システムとの関係でも問題となります。
内部統制システムとは、組織の業務の適正を確保するための体制を構築していくシステム全般をいいます。
会社では、会社法により、取締役会の権限として、内部統制システムの構築が定められています(会社法362条4項6号)。大会社では、内部統制システムの構築は義務にもなっています(会社法362条5項)。
会社法において、内部統制システムの構築が義務として定められていなかったとしても、会社の業務を適正に遂行するために、このようなシステムを構築することは望ましいことです。
内部統制システムの主な内容は以下のとおりです(会社法施行規則100条1項)。
- 会社法における内部統制
-
① 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
② 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
③ 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
④ 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
⑤ 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
⑥ (以下略)
上表のとおり、内部統制システムの主な内容は、
- 情報管理
- リスク管理
- 職務執行の効率性
- 法令遵守
にあります。会社は、これらの観点を踏まえてさまざまな内規を制定し、正しく運用することによって、会社の業務を適正に進めることが求められます。
内規と似た用語
内規と(社内)規程の関係・違い
「内規」という言葉は広く多義的です。他方で、「社内規程」という言葉も多義的です。
そのため、世間一般では、内規も社内規程も、ほとんど同じ意味として考えられています。
この記事では、
- 内規=会社内部のルール一般
社内規程=法律やガイドラインの要請を踏まえて制定される内規
として、考えたいと思います。
例えば、改正労働施策総合推進法(通称・パワハラ防止法)では、パワハラの防止について企業が果たさなければならない義務を定めています。かかるパワハラの防止については、厚生労働省も「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を策定し、公表しています。
また、公益通報者保護法では、常時使用する労働者(従業員)の数が301人以上の事業者においては、指針で定める事項を内部規程において定め、当該規程の定めに従って運用する法律上の義務が課されています。このような法律に基づいて、内部通報規程が定められている場合があります。
内規と就業規則の関係・違い
就業規則は内規の一つととらえることができます。
ただし、就業規則は、労基法によって、常時10人以上の労働者(従業員)を使用する会社に対して、作成が義務付けられた「内規」であり、法的拘束力をもちます(労基法89条)。
他方で、内規には、既に解説したとおり法的根拠はなく、その制定に法的な手続きは必要ありません。そのため、法的には、従業員が内規に従う義務はありません。
しかし、内規についても、就業規則と同様または一体のものとして、取り扱われる場合があるため、注意が必要です。例えば、会社によっては、副業・兼業規程や情報管理規程などの内規が定められている場合があります。
このような規程は、法律の根拠によるものではありません。しかし、副業・兼業規程であれば労働条件の一内容として就業規則で引用されていたり、情報管理規程であれば同規程の違反が懲戒事由として定められたりして、就業規則とともに周知されていることがあります。その場合、就業規則と一体のものとして、法的拘束力が認められる場合があります。
内規に関する判例
ANA大阪空港事件|大阪高判平成27年9月29日
内規に基づいた退職金の請求が認められるか争われた裁判例があります。
ANA大阪空港事件(大阪高判平成27年9月29日)では、元従業員が退職功労金の支給基準が定められた内規が就業規則と一体のものであると主張して、退職功労金の支払いを求めた事案です。
同事案にて、裁判所は、
- 内規が就業規則の形式とは体裁が明らかに異なっていたこと
- 労働基準監督署への届出や労働者の過半数代表の意見聴取が行われていないこと
- 「内規」として位置付けられていることが明記されていること
- 会社が労働組合に交付した書面にすぎず労使間の合意として作成されたものではないこと
などから、就業規則の一部ではなく、労働契約の内容にならないと判断しています。
この事案では、そもそも、就業規則に定めがなく、内規を根拠に退職功労金の支給がなされていたという事案であったため、就業規則の一部ではないとの判断も合理的と考えられます。
しかし、会社によっては、退職金や賞与については、就業規則や賃金規程には抽象的な記載がなされているのみであって、具体的な支給基準は内規に委ねられている場合があります。
就業規則や賃金規程にて、これらの内規が引用されている場合には、上記事案とは異なり、就業規則等と一体のものであると判断される可能性もあり得るものと考えられます。
ゲオホールディングス役員不正支出控訴事件|名古屋高判平成28年7月29日
内規において取締役会の決議事項と定められていた取引が、「重要な職務執行」(会社法362条4項)に該当すると判断された裁判例があります。
ゲオホールディングス役員不正支出控訴事件(名古屋高判平成28年7月29日)では、取締役会決議を経ない取引あるいは会社にとって必要がない取引行為について、取締役としての任務懈怠ないし不法行為に基づく損害賠償責任が追及された事案ですが、その中で、取締役会決議を得ることなく、会社と代表取締役会長との間で子会社のコンサルティング契約の締結がされたことが、問題となっていました。
会社法362条4項は、以下のとおり定めており、「その他重要な業務執行」の内容が法令上明確ではありません。
会社法362条(取締役会の権限等)
「会社法」e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(中略)
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
(以下略)
しかし、同事案では、
- 会社の内規である職務権限基準表において取締役会の決議事項が定められていること
- 1件1億円以上の契約案件は決議事項に該当すること
などから、かかる内規は、同社にとって「重要な業務執行」(会社法362条4項)を類型化したものであって、取締役会の決議を得ることなく契約を締結したことは善管注意義務違反になると判断しています。
この事案では、職務権限基準表では金額の多寡を基準にして取締役会決議の要否を決めていたことから、契約類型にかかわらず、一定金額以上の場合には取締役会決議が必要と定められていると判断されています。
全ての取引について取締役会で決定するのでは、迅速な業務執行を行えなくなります。そのため、組織が一定の規模になれば、取締役会に諮るべき事項を内規で定めておくことで、効率的な経営を行っています。これは、内部統制システムのうち「取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制」にも関するものといえます。
上記の事案は、あくまでも事例判断ですが、内規と内部統制システムの関係においても参考になる事例といえます。
内規整備の際の留意点
内規を整備する際には、まず法令に違反したり、他の内規に抵触したりしないものであることが必要です。
内規が法令に違反してしまうと、会社の適正な運営ができなくなってしまいますし、他の内規に抵触してしまうと、どの内規に従ったらよいのか役員や従業員が判断できなくなってしまいます。
また、内規の位置づけについても意識して整備する必要があります。内規に関する裁判例にて解説したとおり、内規を根拠として権利義務の争いが生じる可能性があります。内規を整備する場合には、その意義・目的や適用関係等を明確にしておくことが望ましいといえます。
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参考文献
菅野和夫著『労働法 第12版 (法律学講座双書)』(弘文堂、2019年)