監査とは?
目的・種類・会社法と金融商品取引法上の義務・
手順などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「監査」とは、法令や社内規程などに照らして、会社の会計や業務が適切に行われているかどうかをチェックする手続きです。
会社法では、一定の会社に監査役・監査役会・会計監査人の設置が義務付けられています。また金融商品取引法では、上場会社等に対して財務諸表に関する監査証明の取得を義務付けています。
監査業務は、あらかじめ年度監査計画を定めた上で、その内容およびスケジュールに沿って実施するのが一般的です。監査報告書にまとめられた監査結果を踏まえて、コンプライアンスの観点から経営改善を図りましょう。
この記事では監査について、目的・種類・会社法および金融商品取引法上の義務・手順などを解説します。
※この記事は、2024年3月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 監査証明府令…財務諸表等の監査証明に関する内閣府令
目次
監査とは
「監査」とは、法令や社内規程などに照らして、会社の会計や業務が適切に行われているかどうかをチェックする手続きです。
監査の目的
監査の目的は、会社の会計や業務の適法性や妥当性をチェックすることにあります。
特に規模の大きな企業は多数のステークホルダーを有するため、透明性のある経営を行うことが必要不可欠です。また、上場会社においては企業情報の詳細な開示が義務付けられているため、会計や業務の状況を定期的にチェックする必要があります。
これらの要請を満たすため、一定規模以上の企業においては、定期的に監査が行われています。
監査の種類(分類)
監査の種類については、さまざまな分類方法があります。一例として、以下のように分類されることが多いです。
- 監査の種類
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① 法定監査・任意監査
② 内部監査・監査役監査・外部監査
③ 会計監査・業務監査
④ 適法性監査・妥当性監査
法定監査・任意監査
「法定監査」「任意監査」は、法令上の義務の有無に着目した分類です。
「法定監査」とは、法令によって義務付けられた監査です。会社法や金融商品取引法などの法令によって、一定の要件を満たす会社には法定監査が義務付けられています。
これに対して「任意監査」は、法定監査以外の監査を意味します。法令によって義務付けられていないにもかかわらず、コンプライアンスの向上等の観点から任意に行うのが任意監査です。
内部監査・監査役監査・外部監査
「内部監査」「監査役監査」「外部監査」は、監査を行う主体に着目した分類です。
「内部監査」は、会社の内部者が行う監査です。大企業には監査部門が設けられていることがあり、監査部門が実施するのが内部監査に当たります。
「監査役監査」は、監査役が行う監査です。
監査役は会社の役員(=内部者)ですが、取締役などからの独立が法律上保障されているため、外部者に近い立場にあります。そのため、監査役監査は内部監査と区別されるケースが多いです。
「外部監査」は、会社の外部者が行う監査です。公認会計士や監査法人などが会社の依頼を受けて行う監査は、外部監査に当たります。
会計監査・業務監査
「会計監査」「業務監査」は、監査の対象事項に着目した分類です。
「会計監査」は、財務諸表が公正妥当とされる会計慣行に沿って作成されているかどうかをチェックする監査を意味します。
企業の財務状態を正しく公表することは、多くのステークホルダーを有する株式会社にとって非常に重要な事項です。
そのため、一定の要件を満たす株式会社には会計監査人の設置が義務付けられています。また、金融商品取引法では上場会社に対し、開示書類について監査証明の取得を義務付けています。
「業務監査」は、会計業務以外の業務活動全般を対象とする監査です。特に、取締役の職務の執行が法令や定款に違反していないかどうかがチェックされます。
株式会社においては、主に監査役が業務監査を行います。
適法性監査・妥当性監査
「適法性監査」「妥当性監査」も、監査の対象事項に着目した分類です。
「適法性監査」は、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかについての監査で、業務監査と同義です。
これに対して「妥当性監査」は、法令・定款遵守の観点に限らず、幅広い観点から業務執行の是非をチェックする監査です。
学説上、監査役は適法性監査のみを行う権限を有する一方で、監査等委員会や指名委員会等設置会社における監査委員会は、適法性監査と妥当性監査の両方を行う権限を有すると解されています。
会社法上の監査義務
会社法では、一定の会社に監査役・監査役会・会計監査人の設置を義務付けています。監査役・監査役会・会計監査人は、それぞれの役割に応じて監査に関する業務を行います。
監査役の設置が義務付けられた会社
監査役とは、取締役および会計参与の業務を監査する機関です。
以下の株式会社においては、1人以上の監査役の設置が義務付けられています(会社法327条2項・3項)。
✅ 取締役会設置会社
※監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社、および公開会社でない会計参与設置会社を除く
✅ 会計監査人設置会社
※監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く
上記以外の株式会社では、定款の定めによって監査役を置くことができます(会社法326条2項)。
監査役には、以下の義務および権限が与えられています。
・取締役および会計参与の職務の執行を監査し、監査報告を作成しなければなりません(会社法381条1項)。
・取締役の不正行為等を発見した場合には、遅滞なくその旨を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に報告しなければなりません(会社法382条)。
・取締役会に出席し、必要に応じて意見を述べなければなりません(会社法383条1項)。
・取締役が株主総会に提出しようとする議案や書類等を調査し、法令違反・定款違反・著しく不当な事項を発見したときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければなりません(会社法384条)。
・取締役の不正行為等によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、取締役に対して当該行為の差し止めを請求できます(会社法385条)。
監査役会の設置が義務付けられた会社
以下の条件をいずれも満たす株式会社は、監査役会を設置しなければなりません(会社法328条1項)。
① 大会社であること
大会社:最終事業年度の貸借対照表における資本金額が5億円以上、または負債の部の合計額が200億円以上の株式会社
② 公開会社であること
公開会社:発行済株式の全部または一部につき、譲渡制限を設けていない株式会社
③ 監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社でないこと
監査役会は、常勤1名以上を含む3名以上の監査役で組織され、以下の業務を行います(会社法390条2項)。
- 監査報告の作成
- 常勤の監査役の選定および解職
- 監査役の職務の執行に関する事項の決定
なお、各監査役は監査役会の決定に関わらず、独立して監査権限を行使することができます。
会計監査人の設置が義務付けられた会社
会計監査人は、会社の計算書類などについて会計監査を行う者です。公認会計士または監査法人のみが会計監査人に就任できます(会社法337条1項)。
以下のいずれかに当たる株式会社は、会計監査人を必ず設置しなければなりません(会社法327条5項・328条)。
✅ 監査等委員会設置会社
✅ 指名委員会等設置会社
✅ 大会社
会計監査人は、取締役の不正行為等を発見したときは、遅滞なく監査役に報告しなければなりません(会社法397条1項)。
また、計算書類等の法令・定款への適合性について監査役と意見を異にするときは、定時株主総会に出席して意見を述べることができます(会社法398条1項)。
金融商品取引法上の監査証明
上場有価証券の発行会社(=上場会社)などは、貸借対照表・損益計算書その他の財務計算に関する書類(=財務諸表)および内部統制報告書につき、特別利害関係のない公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければなりません(金融商品取引法193条の2第1項・2項)。
監査証明とは
監査証明とは、財務計算に関する書類や内部統制報告書が、企業の状態を適正に表しているかどうかについて、専門的な視点から意見を述べることを意味します。
金融商品取引法によって求められる監査証明は、会社との間で特別利害関係のない公認会計士または監査法人によらなければなりません。
監査証明の取得が義務付けられた企業
財務計算に関する書類や内部統制報告書について監査証明の取得が義務付けられる対象者は、以下の者です(金融商品取引法施行令35条・35条の2)。
① 財務計算に関する書類の監査証明
・有価証券届出書を提出しようとする者
・有価証券報告書の提出義務が生じる有価証券(上場有価証券など)の発行者
② 内部統制報告書の監査証明
・有価証券報告書の提出義務が生じる有価証券のうち、株券や優先出資証券など(金融商品取引法施行令4条の2の7第1項各号)の発行者
監査証明の対象となる書類
財務計算に関する書類については、貸借対照表や損益計算書をはじめとして、幅広い種類の財務諸表が監査証明の対象とされています(監査証明府令1条)。
また、上場株式の発行者などは、内部統制報告書についても、EDINETを通じて公衆縦覧に供する前に監査証明を取得しなければなりません。
監査業務の手順・進め方
監査業務は、以下の流れで行うのが一般的です。
- 監査業務の手順
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① 予備調査
② 年度監査計画の作成
③ 監査の実施
④ 監査報告書等の作成
⑤ 監査結果に基づく経営改善・監査結果の公表
予備調査
監査を初めて行う年度については、実際の監査に先立って予備調査を行います。
予備調査は、年度監査計画を作成するに当たり、会社の状況を把握するためのものです。財務諸表などの監査項目のうち、違反リスクが高いと思われる箇所をピックアップします。
2年目以降の監査(継続監査)については、予備調査は省略されるのが一般的です。
年度監査計画の作成
予備調査の結果を踏まえて、年度監査計画を作成します。
年度監査計画は、監査の実施スケジュールの大枠を定めるものです。「いつ」「誰が」「どこで」「何をするか」をスケジュール化し、年度監査計画としてまとめます。
予備調査において高リスクと判断された監査事項については、強力な監査手続きを集中的に実施すべきです。これに対して、リスクが相対的に低いと判断された監査事項については、監査手続きを簡略化してメリハリを付けます。
これらの監査の密度に関する事項も、年度監査計画に盛り込んでおきましょう。
監査の実施
年度監査計画に従い、時期が来たら実際に監査を行います。監査の方法としては、以下の例が挙げられます。これらの方法の中から、コストや違反リスクの高低などを勘案した上で、適切な監査方法を選択しましょう。
- 監査の方法
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・実査
→監査人自ら監査対象物が実在することを検証する・立会
→監査人が実地棚卸しの現場を訪問し、棚卸しが適切に行われているかどうかをチェックする・確認
→金融機関や取引先など外部の第三者に対し、文書による照会を行う・質問
→口頭または書面で会社担当者に問い合わせを行い、回答の正否や適否を検証する・視察
→監査人自ら監査対象物を見て、その状況を確認する・閲覧
→書面や証憑などを入手して閲覧する・証憑突合
→取引に関する資料を他の資料や記録と照合して、事実や記録の妥当性を検証する・帳簿突合
→会計帳簿と内訳帳簿や明細表などを照合して、その妥当性を検証する・勘定分析
→勘定科目の要素や、勘定科目間の金額の整合性などを検証する
監査報告書等の作成
監査が完了したら、監査担当者はその結果と経過を報告書にまとめます。
各担当者が作成した報告書は、監査の責任者が監査報告書等の形で取りまとめ、会社に対して提出します。
監査結果に基づく経営改善・監査結果の公表
会社においては、監査報告書に記載された監査結果に基づき、財務・会計や内部統制などについて、必要な改善対応を行うことが求められます。
また、監査を通じて不祥事が発覚した場合には、ステークホルダーに対する透明性を確保する必要があります。不祥事を隠蔽するのではなく、監査結果を報告することも検討すべきでしょう。
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