算定基礎届(定時決定)とは?
対象者や書き方・提出方法などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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算定基礎届(定時決定)とは、社会保険料の計算の基礎となる標準報酬月額を決定するために、事業主が提出する年に一度の届け出です。
・4月から6月に支払った給与を基準に報酬額を集計し、7月1日から10日までに日本年金機構や健康保険組合へ届け出ます。
・提出の対象になるのは、7月1日時点で社会保険に加入している従業員です。
・算定基礎届によって決まった標準報酬月額が9月から翌年8月までの各月に適用されます。本記事では、算定基礎届(定時決定)について、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025 年8月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
算定基礎届(定時決定)とは
算定基礎届(定時決定)とは、どのような書類なのか、随時改定(月額変更届)との違いも含めて解説します。
社会保険料を決めるための届け出
算定基礎届とは、社会保険料の計算の基礎となる標準報酬月額を決定するために、事業主が提出する年に一度の届け出です。
対象となるのは4月から6月の給与で、その内容をもとに従業員の社会保険料を改定します。
算定基礎届は、給与の変動による標準報酬月額との乖離を是正し、公平な保険料負担を確保するための制度です。
全従業員の給与を一斉に見直すことで、個別の変動に都度対応するよりも事務負担を抑えながら、制度を安定的に運営できる仕組みになっています。
月額変更届(随時改定)との違い
標準報酬月額の見直しには、定時決定と随時改定の2種類があります。
定時決定は、全従業員を対象に年1回実施する手続きです。
一方、随時改定は昇給や降給などで給与が大きく変わった従業員が対象で、条件を満たした場合にその都度行われます。
具体的には、固定給が変動し、3カ月の給与平均と現在の等級に2等級以上の差がある場合などです。
定時決定で標準報酬月額が決まりますが、その後に随時改定の条件を満たした場合は、定時決定の結果に代わって新しい標準報酬月額が適用されます。
算定基礎届の提出対象者
算定基礎届の提出対象者と、対象にならない人について解説します。
算定基礎届の提出対象になる人
算定基礎届は、7月1日時点で社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入しているすべての従業員(被保険者)と、70歳以上被用者が対象です。
正社員だけでなく、社会保険に加入しているパートやアルバイトも含まれます。
また、育休や病気休職中で給与が支給されていなくても、社会保険資格が継続していれば提出が必要です。
70歳以上被用者とは、厚生年金の適用事業所で働く70歳以上の従業員のことです。具体的には、以下の要件を満たす者が該当します。
- 70歳以上
- 厚生年金の適用事業所に勤務
- 厚生年金の加入条件を満たす
- 厚生年金の被保険者期間を有する
算定基礎届の提出対象にならない人
算定基礎届の提出が不要なのは、以下のいずれかに該当する従業員です。
- 6月30日以前に退職した従業員
- 6月1日以降に入社した従業員
- 7月改定の月額変更届を提出する従業員
- 8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出を行った従業員
6月30日以前に退職した人は提出不要で、年金事務所から届いた名簿に名前があれば二重線で抹消します。
また、6月に入社した人は、入社時の手続きで決定した標準報酬月額が翌年8月まで適用されるため、その年は定時決定の対象外です。
算定基礎届で決定される標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、従業員の4月から6月の給与を基準に算定され、社会保険料を決定するための基礎となる金額のことです。
実際の給与額ではなく、一定の幅ごとに区分された等級表に当てはめた標準報酬月額によって、社会保険料が決定されます。
標準報酬月額の対象となる報酬やならない報酬、算出方法について解説します。
標準報酬月額の対象となる報酬
標準報酬月額には、基本給だけでなく従業員が労働の対価として受け取るほぼすべての支給が含まれます。金銭だけではなく現物支給するものも報酬に該当します。
標準報酬月額の対象となる主な報酬は、以下のとおりです。
【金銭で支給される主な対象】
- 基本給(月給、週給、日給など)
- 各種手当(役職手当・家族手当・住宅手当・残業代・通勤手当など)
- 年4回以上支給される賞与
【現物で支給される主な対象】
- 通勤定期券
- 食事や食券
- 社宅
賞与は年4回以上支給される場合のみ対象です。 集計の際は、賃金台帳を見直し支給項目の漏れがないかを確認することが、正確な算定につながります。
標準報酬月額の対象とならない報酬
生活給とはいえない臨時的な支給や実費精算は、標準報酬月額の対象外です。
標準報酬月額の対象外となる主な報酬は、以下のとおりです。
【金銭で支給される主なもの】
- 大入袋
- 見舞金
- 退職手当
- 出張旅費
- 年3回以下の賞与
【現物で支給される主なもの】
- 制服
- 作業着
- 見舞品
これらはいずれも一時的・臨時的な支給や実費補填にあたるため、継続的な給与とは区別されます。
なお、誤って算入すると保険料に過不足が生じるため、集計時には対象外の支給を明確に切り分けることが重要です。
標準報酬月額の算出方法
標準報酬月額は、4月・5月・6月の報酬平均で算出します。ただし、計算の対象となるのは、支払基礎日数が一定以上の月のみです。
労働者別の算出方法について解説します。
一般的な労働者の算出方法
標準報酬月額は、4月・5月・6月の3カ月に支払われた報酬の平均額をもとに決定します。
対象となるのは、支払基礎日数(報酬の支払い対象となった日数)が17日以上ある月です。
支払基礎日数ごとの算出方法は、以下のとおりです。
| 支払基礎日数 | 算出方法 |
|---|---|
| 3カ月とも17日以上 | 3カ月分の報酬を合計し、3で割った平均額で決定 |
| 1カ月または2カ月だけ17日以上 | 17日以上ある月だけを対象に平均額を算出して決定 |
| 3カ月すべて17日未満 | 新しい標準報酬月額は決めず、前年の標準報酬月額をそのまま継続 |
支払基礎日数が17日未満の月は標準報酬月額の計算に含めません。
短時間就労者の算出方法
短時間就労者とは、パートやアルバイト・契約社員など、正社員よりも短い時間勤務する従業員のことです。
支払基礎日数ごとの算出方法は、以下のとおりです。
| 4月・5月・6月の支払基礎日数 | 標準報酬月額の決定方法 |
|---|---|
| 3カ月とも17日以上ある場合 | 3カ月分の報酬を合計し、3で割った平均額で決定 |
| 1カ月または2カ月が17日以上で、他は17日未満の場合 | 17日以上ある月だけを対象に平均額を算出して決定 |
| 3カ月とも15日以上17日未満の場合 | 3カ月分の報酬を合計し、3で割った平均額で決定 |
| 1カ月または2カ月が15日以上17日未満で、他は15日未満の場合 | 15日以上17日未満の月を対象に平均額を算出して決定 |
| 3カ月とも15日未満の場合 | 新しい標準報酬月額は決めず、前年の標準報酬月額をそのまま継続 |
短時間就労者は出勤日数が変動しやすいため、賃金台帳や出勤簿を確認し、基準日数を正確に把握することが重要です。
短時間労働者の算出方法
短時間労働者とは、対象の事業所に勤務し、一定の条件を満たす従業員のことです。
【対象となる事業所】
- 特定適用事業所(従業員数51人以上 )
- 任意特定適用事業所(一定の条件で届け出た小規模事業所)
- 国・地方公共団体
【条件(すべて満たす必要あり)】
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額88,000円以上(年収換算106万円以上)
- 雇用期間が継続して2カ月を超える見込み
- 学生でないこと
短時間労働者は、支払基礎日数が11日以上ある月を対象として算出します。
支払基礎日数ごとの算出方法は、以下のとおりです。
| 支払基礎日数の状況 | 算定方法 |
|---|---|
| 3カ月とも11日以上 | 3カ月分の報酬を合計し、3で割った平均額で決定 |
| 1カ月または2カ月だけ11日以上 | 11日以上ある月だけを対象に平均額を算出して決定 |
| 3カ月すべて11日未満 | 新しい標準報酬月額は決めず、前年の標準報酬月額をそのまま継続 |
短時間労働者に該当する条件が細かく決まっているため、対象者の判定や日数の確認を細かく管理することが重要です。
算定基礎届の書き方
実際の算定基礎届の様式に沿って、各項目をどのように記入すればよいのかを具体的に解説します。

記事内の番号は上記の算定基礎届の様式にしたがっています。
支払基礎日数を記載
「⑩給与計算の基礎日数」欄に、支払基礎日数を記載します。
支払基礎日数は、標準報酬月額の計算対象となる月を判断する基準になります。日数が基準に満たない月は計算に含めません。
月給制の場合は、暦日数を記載し、日給制や時給制は出勤日数(有給休暇取得日含む)を記載します。ただし、月給制で欠勤日数に応じて給与が控除される場合には、就業規則等で定める日数から欠勤日数を引いた日数を記載します。
通貨と現物支給とその合計額を記載
次に「報酬月額」の記入です。給与は「通貨によるもの」と「現物によるもの」に分け、それぞれ正確な記載が必要です。
「⑪通貨」には基本給、手当、残業代、通勤手当など金銭で支給したものの総額を記入します。
「⑫現物」には食事補助や社宅の貸与など現物支給したものを記入し、両方を合算して「⑬合計」に記載します。
総計額を記載
「⑭総計」欄には、対象となる月(支払基礎日数が基準を満たした月)の報酬合計額を足し合わせて記載します。
例えば、正社員で3カ月すべて基準を満たしていれば、その3カ月分の合計額を合算します。一方、パートで5月が基準未満なら、4月と6月分だけを合算した記載が必要です。
基準未満の月を誤って含めると平均額が低くなり、保険料が本来より少なく算定されてしまう恐れがあります。
平均額を記載
「⑮平均額」欄には、総計を対象月数で割った金額を記入し、1円未満は切り捨てます。対象月数は、支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)の月です。
記載した平均額をもとに標準報酬月額の等級が決まり、社会保険料の金額が確定します。
算定基礎届記載時に注意すべきケース
基本的な書き方に加え、実務で判断に迷いやすい特殊なケースの取り扱いについて解説します。
短時間就労者の場合
1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上でありながら、パートとして雇用されている場合は備考欄の「7.パート」に丸をします。
名称がパートであっても実際には一般の被保険者と同じ条件で働いていることを明示し、誤った取り扱いを防ぐためです。
短時間労働者の場合
短時間労働者を算定する際は、支払基礎日数の判定に加え、備考欄の「6.短時間労働者」に丸の記入が必要です。
年金事務所に対し「11日以上の基準で正しく算定している」ことを明示する役割を持ちます。
例えば、出勤15日の短時間労働者に該当する従業員を記載する場合、備考欄への記載を忘れると、17日未満と判断され誤算定とみなされ、差し戻しの原因になります。
繁忙期で残業が多い場合
算定期間である4~6月が繁忙期にあたり、残業代が多く支払われた場合は、通常より高い報酬となることがあります。
年間平均を用いた場合と3カ月平均の間に2等級以上の差が生じ、それが継続的と認められる場合は、「年間報酬の平均」で標準報酬月額を算定できます。
3カ月の平均で決定するのが著しく不当と判断されるケースに限られる特例です。
年間報酬の平均で算出したい場合は、算定基礎届に加えて以下の書類提出が必要です。
- 様式1:年間報酬の平均で算定することの申立書
- 様式2:健康保険 厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等
また、算定基礎届の備考欄「8.年間平均」に丸を付ける必要があります。
休職・育休中で給与がない場合
育児休業や病気休職で4~6月に給与がまったく支払われなかった場合も、在籍していれば算定基礎届の提出は必要です。
ただし、給与の支払い実績がないため、新しい標準報酬月額は決定せず、休職前の月額をそのまま継続します。
届出用紙には給与欄を「0」と記入し、備考欄の「5.病休・育休・休職等」を丸で囲み、「9.その他」に対象期間を記入します。
算定基礎届の提出について
作成した算定基礎届をどのように提出するのか、期限や方法について解説します。
提出期限
算定基礎届の提出期限は、毎年7月1日から10日までと定められています。10日が土曜または日曜の場合は翌営業日が提出期限です。
遅れると年金事務所から電話や文書にて督促を受ける可能性があります。さらに、標準報酬月額の決定が遅れれば9月分からの社会保険料改定に間に合わず、給与計算に影響するリスクもあります。
郵送の場合は7月10日必着のため、数日前に投函するなど余裕を持つことが重要です。
提出方法
算定基礎届の提出方法は、電子申請・郵送・窓口持参の3種類があります。
推奨されるのは、電子申請です。24時間対応で移動や郵送コストがかからず、迅速な処理が可能です。
郵送で提出する場合は、日本年金機構から届く算定基礎届に同封されている返信用封筒を利用します。配達日数を考慮し、特定記録郵便など証跡が残る方法を選ぶ必要があります。
窓口持参は、事務センターもしくは管轄の年金事務所に持参することで提出可能です。
なお、2020年4月からは特定の法人で電子申請が義務化されています。特定の法人とは、以下に該当する法人です。
- 資本金、出資金または銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人
- 相互会社
- 投資法人
- 特定目的会社
引用:日本年金機構「2020年4月から特定の法人について電子申請の義務化が始まっています。」
電子申請のやり方
算定基礎届の電子申請は以下の手順で行います。
- GビズIDの取得
- 電子証明書の取得
- 届出データの作成
- 申請
電子申請を行う場合、GビズIDの取得が必須です。
GビズIDとは、1つのアカウントで複数の行政サービスにアクセスできる認証システムのことです。社会保険に関する電子申請を行うためには、GビズIDプライムを取得する必要があります。
GビズIDの取得まで2〜3週間かかるため、早めの準備が必要です。
届出データの作成には、日本年金機構が提供する届書作成プログラムや労務管理システム、e-Govを活用する方法があります。
いずれの方法を活用するかは、以下を参考に判断可能です。
| 届出データの作成方法 | 対象のケース |
|---|---|
| 届書作成プログラム | ・算定基礎届のみの提出かつ労務管理システムを使用していない場合 ・算定基礎届のみの提出かつCSV機能なしの労務管理システムを使用している場合 |
| 労務管理システム | CSV作成機能付きの労務管理システムを使用している場合 |
| e-Gov | 算定基礎届以外の書類も提出する場合 |
算定基礎届に関するよくある質問
算定基礎届の実務において、よくある質問に回答します。
算定基礎届はいつから反映される?
算定基礎届で決定された標準報酬月額は、その年の9月分の社会保険料から適用されます。
例えば、月末締め・翌月払いの給与体系を採用している企業の場合、実際に従業員の給与明細で反映されるのは10月支給分からです。
決定通知書が届いたらすぐに給与計算ソフトへ新しい保険料額を設定し、「10月給与から変更になります」と社内で周知すると、従業員の混乱や問い合わせを防げます。
7月1日以降に入社した従業員はどう対応する?
7月1日以降に入社した従業員は、その年の算定基礎届には含めません。対象となるのは「5月31日までに資格を取得し、7月1日現在在籍中の被保険者」だからです。
入社時には「被保険者資格取得届」を提出し、そのときに決定した標準報酬月額が翌年8月まで適用されます。
万が一、年金事務所から送られる用紙に名前が印字されていても対象外として処理します。
算定基礎届の提出が遅れた場合は?
期限である7月10日を過ぎてしまった場合は、すぐに年金事務所へ連絡し、指示を受けながら提出することが必要です。無断で放置すると督促や調査の対象となる可能性があります。
遅れは企業にも従業員にも不利益しかないため、スケジュールを前倒しで管理し、7月初旬には提出を完了する体制を整えておくことが根本的な解決策です。
提出した算定基礎届に誤りがあった場合は?
誤りが判明した場合は、速やかに訂正版の算定基礎届を提出しなければなりません。報酬額の計算ミスや記入漏れを放置すると、従業員の社会保険料や将来の年金額に影響を与えるためです。
訂正の際には、まず算定基礎届の表題の下に赤字で「訂正届」と記載します。そして、訂正前の内容を赤字、訂正後の内容を黒字で記載します。
訂正作業を防ぐためには、提出前にダブルチェック体制を整えることが重要です。
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参考文献
監修












