偽装フリーランスとは?
労基法上の「労働者」の判断基準や裁判例・
偽装フリーランスと判断されないための
留意点などを分かりやすく解説!
関連資料 ✅ ひと目でわかる要チェック条文 業務委託契約書編 |
- この記事のまとめ
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フリーランスの方との間で業務委託契約を締結することは、労務管理コストや社会保険の負担削減等、企業にとって様々なメリットがあるだけでなく、フリーランスの方にとっても自由度の高い働き方ができる等のメリットがあります。
しかし、偽装フリーランス、すなわち、形式上・表面上は業務委託契約であるが、実態は雇用契約であり、労働者であると判断された場合、企業はさまざまな法的リスクを抱えることになります。
2024年11月1日に、いわゆるフリーランス法が施行されたことにより、フリーランスに関する意識・関心が高まっていることから、フリーランスの方との間で適切な対応ができているかについて、改めて点検・確認するよい機会であるといえます。
そこで、本稿では、偽装フリーランスの問題点(法的リスク)、労基法上の「労働者」の判断基準や裁判例、偽装フリーランスと判断されないための留意点などについて解説します。
※この記事は、2025年4月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律…フリーランス法
- 労働基準法…労基法
- 労働契約法…労契法・労働者災害補償保険法…労災保険法
- 労働組合法…労組法
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律…独占禁止法
- 下請代金支払遅延等防止法…下請法
目次
フリーランスとは|フリーランス法にも注目
定義
「フリーランス」について、法令上、明確に定義付けしたものはありませんが、一般的には、特定の企業に属さず、事業者として相手方との間で業務委託契約を締結して業務を行い、業務遂行の対価として収入を得る者をいうと解されています。
なお、2024年11月1日に施行されたフリーランス法の適用対象は、「特定受託事業者」とされており、「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の①、②のいずれかに該当するものをいうとされています(フリーランス法2条1項)。
① 個人であって、従業員を使用しないもの
② 法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの
「特定受託事業者」については、業種や業界の限定はなく、フリーランス法に関して策定された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A」では、以下のようなものが「特定受託事業者」に該当するとされています(ただし、いずれも従業員を使用しないものに限ります)。
- 建設会社から住宅建設の業務の一部を受託する一人親方
- フードデリバリーサービスの提供事業者が消費者から受注した飲食物の配達を受託する、当該サービスに登録して配送を行うもの
- 企業から同社の訴訟の代理を受託する弁護士
フリーランスの特徴・労働者との違い
フリーランスの特徴は、労働者との比較により明確になります。
まず、労働者は使用者と雇用契約を締結して労務を提供します。雇用契約においては、労働者は、就業規則や雇用契約書等で定められた労働条件に従って労務を提供する必要があり、使用者の指揮監督を受けて労務提供を行うことになります。
労使の関係は一般的に使用者の力が大きいことから、労働者保護のため、労働者には労基法や労災保険法等の各種労働法令が適用されます。また、各種社会保険の保険料については、使用者が全部ないし一部を負担します(例えば、労災保険は100%会社負担、健康保険や厚生年金保険は基本的に労使折半です)。
これに対し、フリーランスは、相手方と業務委託契約を締結して業務を遂行します。業務委託契約とは、民法における請負契約(民法632条)、委任契約(民法643条)、準委任契約(民法656条)という3つの契約類型の総称であり、各契約類型の法的性質については後に説明します。業務委託契約においては、一事業者として、契約の相手方と対等な取引関係に立つことから、業務遂行の場所・時間、業務遂行手順等について裁量を有し、相手方の指揮監督を受けることなく業務を遂行することができ、自由度の高い働き方が可能になります。
もっとも、労働者ではないことから、労基法や労災保険法等の各種労働法令による保護は受けられません(独占禁止法、下請法、フリーランス法等の適用により保護される場合はあります)。また、各種社会保険については、以下のように扱われます。
雇用保険:原則として加入できない
健康保険・厚生年金:法人化していない場合には加入できない
労災保険:加入できるが保険料は全額自己負担となる
偽装フリーランスとは
定義
「偽装フリーランス」についても、フリーランスと同様に法令上、明確に定義付けしたものはありませんが、一般的には、形式上・表面上は業務委託契約であるが、契約の実態は雇用契約と同様になっているケースをいうと解されています。
フリーランスに労働者性が認められた場合の法的リスク
フリーランスとの契約が実質的に雇用契約と同様であると判断され、労基法上の労働者(労基法9条)であると認められた場合、会社には以下のようなリスクが発生します。
- 偽装フリーランスの法的リスク
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①会社がフリーランスから未払残業代を請求されるリスク
②フリーランスが業務によって負傷、発病、死亡した場合に、労働災害と認定されるリスク
(労災保険制度は労基法に定める使用者の災害補償責任を填補するものであることから、労災保険法上の「労働者」は労基法上の「労働者」と同義であると解されています。)
③フリーランスの業務上の負傷、発病、死亡について、会社が安全配慮義務違反(労契法5条)を問われるリスク
(労基法上の「労働者」は基本的に労契法上の「労働者」と一致すると解されています。)
等
なお、フリーランスが労組法上の労働者(労基法上の労働者とは若干概念が異なると解されています。)と認められた場合は、その者が加入する労働組合から団体交渉を求められた場合、誠実に交渉しなければならず、団体交渉に応じない、あるいは応じても不誠実な対応であると判断された場合は、不当労働行為(労組法7条2号)と認定されるリスク等が発生します。
労基法上の労働者性の判断基準
はじめに
上記のとおり、フリーランスが 労基法上の労働者であると認定された場合、すなわち、偽装フリーランスと評価されてしまった場合は様々な法的リスクが発生し得ますので、労基法上の労働者に該当するか否かを正しく判断できるようにしておく必要があります。
労基法上の労働者性の判断基準に関しては、「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)」において整理されており、裁判実務においても、同報告に記載されている要素を考慮して労基法上の労働者性を判断しているものが多数あります。
厚生労働省労働基準局が策定した「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」(以下「参考資料集」)においても、同報告をベースにして労基法上の労働者性の判断基準が示されていますので、以下では、参考資料集の記載を基に説明します。
判断基準|「使用従属性」に注目
労基法9条において、「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と規定されていることから、労基法の「労働者」に当たるか否かは、①労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか(「指揮監督下の労働」)、②報酬が「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか(「報酬の労務対償性」)により判断されることになります。
この①②の基準を総称して「使用従属性」と呼ばれており、「使用従属性」が認められるかどうかは、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称に関わらず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断されます。
➀「指揮監督下の労働」といえるか否かについては、「(a)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無」、「(b)業務遂行上の指揮監督の有無」「(c)拘束性の有無」を考慮して判断され、指揮監督関係を補強する要素として、「(d)代替性の有無」が位置付けられています。
また、労働者性の判断を補強する要素として、㋐事業者性の有無、㋑専属性の程度、㋒その他があります(各要素の内容、具体例等については以下で説明します)。
各判断基準の関係・位置付け
各判断基準の関係・位置付けを図示すると、以下の表のようになります。
引用元|「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」5頁)
以下では、各判断基準およびその要素の内容、具体例等について説明します。
「指揮監督下の労働」について
上記のように、①「指揮監督下の労働」といえるか否かについては、以下の要素が位置付けられています。
(a) 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
(b) 業務遂行上の指揮監督の有無
(c) 拘束性の有無
(指揮監督関係を補強する要素として)
(d) 代替性の有無
以下では、各項目を具体的に解説します。
仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無
諾否の自由の有無に関し、「発注者等から具体的な仕事の依頼や、業務に従事するよう指示があった場合などに、それを受けるか受けないかを受注者が自分で決めることができるか」という基準です。
業務の依頼や業務従事の指示等について、受けるか受けないかを、受注者が自分で決めることができる場合には、指揮監督関係にないことを示す重要な要素となるとされています。
参考資料集では、具体例として、以下のような記載があります。
指揮監督関係を肯定する要素となる例 | 肯定する要素とは直ちにならず、 契約内容なども考慮する必要がある例 |
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・発注者等から指示された業務を拒否することが、病気等特別な理由が無い限り認められていない場合 | ・いくつかの作業からなる「仕事」を自分の判断で受注した結果、それに含まれる個々の作業単位では、作業を断ることができない場合 ・特定の発注者等との間に専属の下請契約を結んでいるために、事実上仕事の依頼を拒否することができない場合 ・例えば建設工事などのように、作業が他の職種との有機的な連続性をもって行われているため、業務従事の指示を拒否することが業務の性質上そもそもできない場合 |
また、「諾否の自由の有無」に関して、裁判例では以下のような事情が指摘されています(参考資料集7~9頁)。
諾否の自由を否定する方向に働く事情 | 諾否の自由を肯定する方向に働く事情 |
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✅契約において、主たる業務の他に裏方業務に積極的に参加することとされ、実際に各裏方業務について「課」または「部」に所属して、具体的な業務を割り振られ、事業活動に滞りが生じないよう各担当「課(部)」の業務を行っており、担当しないことを選択する諾否の自由はなかったこと(エアースタジオ事件―東京高裁令和2年9月3日判決〔労判1236 号35頁〕) ✅業務用携帯端末を持たされ、同端末を介し前日の一定時刻に翌日の業務が配信されていたところ、一度、配信された業務については、個別に断ることができなかったこと(東陽ガス事件―東京地裁平成25 年10 月24 日判決〔労判1084 号5頁〕) | ✅業務の依頼をされた場合、これを断りたい旨の申出をすることも相当程度には見受けられ、その場合にはそれ以上強いて依頼されることはなく、そのような拒否ないし辞退に対して直接的な不利益処分がなされることもなかったこと(ソクハイ事件―東京地裁平成25年9月26日判決〔労判1123号91頁〕・東京高裁平成26年5月21日判決〔労判1123号83頁〕) ✅稼働日・稼働時間は、あらかじめ自らが所定の日までに毎月の稼働予定を申告することにより決定するものとされ、その申告により稼働をしていたこと(前掲ソクハイ事件) |
業務遂行上の指揮監督の有無
業務遂行上の指揮監督の有無とは、「業務の内容や遂行方法について、発注者等から具体的な指揮命令を受けているかどうか」という基準です。
業務に従事するに当たり、具体的な指揮命令を受けている場合は、指揮監督関係にあることを示す基本的かつ重要な要素となります。
参考資料集では、具体例として、以下のような記載があります。
指揮監督関係を肯定する要素となる例 | 肯定する要素とならない例 |
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・例えば運送業務において、運送経路、出発時刻の管理、運送方法の指示等がなされているなど、業務の遂行が発注者等の管理下で行われていると認められる場合 ・例えば芸能関係の仕事において、俳優や(撮影、照明等の)技術スタッフに対して、演技・作業の細部に至るまで指示がなされている場合 ・発注者等の命令、依頼等により、通常予定されている業務以外の業務に従事することがある場合 | ・設計図、仕様書、指示書等の交付によって作業の指示がなされているが、こうした指示が通常「注文者」が行う程度の指示にとどまる場合 |
また、「業務遂行上の指揮監督の有無」に関して、裁判例では以下のような事情が指摘されています(参考資料集10~13頁)。
業務遂行上の指揮監督を肯定する方向に働く事情 | 業務遂行上の指揮監督を否定する方向に働く事情 |
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✅発注者に対し各日の売上、顧客数、リピート顧客の数、顧客の性別、作業状況等について詳細な業務報告をしていたこと(イヤシス事件―大阪地裁令和元年10月24日判決〔労判1218号80頁〕) ✅発注者の会社名等が入った機械、器具等を業務上使用していたこと(前掲東陽ガス事件) ✅制服を支給または購入させられていたこと(前掲東陽ガス事件) ✅サービス向上のための行動基準としてマニュアルが配布されていたこと(前掲東陽ガス事件) | ✅どのような手順で業務を行うか、業務終了後どこで待機するか、待機場所までどのような方法で戻るかなどを自由に決めていたこと(日本代行事件―大阪地裁令和2年12月11日判決〔労判1243号51頁〕) ✅朝礼への参加は必ずしも必要とされてはおらず、その内容も連絡事項の伝達や服装等の状況確認程度にとどまっていたこと(前掲ソクハイ事件) |
拘束性の有無
拘束性の有無とは、「発注者等から、勤務場所と勤務時間が指定され、管理されているか」という基準です。
勤務場所および勤務時間が指定・管理されていることは、一般的に、指揮監督関係にあることを示す基本的な要素となりますが、そのような場合であっても、業務の性質上場所や時間が特定されている場合(演奏業務など)や、施設管理や作業者等の安全確保の必要性から勤務の場所や時間が一定の範囲に限定されている場合(建設作業など)には、それのみをもって直ちに指揮監督関係を肯定する要素にはなりません。
したがって、拘束性の有無を判断するためには、勤務場所や勤務時間の指定が業務の性質等によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを見極めることが必要となります。
参考資料集では、具体例として、以下のような記載があります。
指揮監督関係を肯定する要素となる例 | 肯定する要素とならない例 |
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・例えば映画やテレビ番組の撮影で、監督の指示によって一旦決まっていた撮影の時間帯が変動したときに、これに応じなければならない場合 | ・勤務時間は指定され、管理されているが、それが他職種との工程の調整の必要性や、近隣に対する騒音等の配慮の必要性などを理由とするものである場合 |
また、拘束性の有無に関して、裁判例では以下のような事情が指摘されています(参考資料集14~17頁)。
拘束性を肯定する方向に働く事情 | 拘束性を否定する方向に働く事情 |
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✅週5日、基本的に平日は毎日事務所に出勤し、8時間以上稼働しており、他の従業員とほぼ同様の稼働時間・稼働形態であったところ、このような勤務時間および勤務形態を発注者から事実上求められていたこと(ワイアクシス事件―東京地裁令和2年3月25日判決〔労判1239号50頁〕) ✅作業場所は事業所内/作業時間は1カ月当たり151時間から185時間までの間とされた上で、作業実績報告書により作業時間を報告することを要求されたほか、平日の午前9時30分から午後6時15分まで作業し、午後5時に退社するときや、前記時間に外出するときにはその旨報告して了承を得ており、また、休日とされる土曜日に出勤をすることを会議で確認されるなどしていたこと(AQソリューションズ事件―東京地裁令和2年6月11日判決〔労判1233号26頁〕) | ✅日中、明らかに私用と認められる行動を行っており、これについて承認を受けた形跡もなかったこと(末棟工務店事件―大阪地裁平成24 年9月28 日判決〔労判1063 号5頁〕) ✅稼働日および稼働時間帯を自ら決定することができ、一定日、一定日数の稼働を義務付けられているわけでもなかったこと(前掲ソクハイ事件) ✅朝の一定時刻までに所属営業所へ出所することや、業務終了後に所属営業所へ帰所して業務に当たることも義務付けられていなかったこと(前掲ソクハイ事件) |
代替性の有無(指揮監督関係の判断を補強する要素)
代替性の有無とは、「受注者本人に代わって他の人が労務を提供することが認められているか」「受注者が自分の判断によって補助者を使うことが認められているか」という基準です。
労務提供に代替性が認められるかどうかは、指揮監督関係そのものに関する基本的な判断基準ではありませんが、受託者が、発注者等の了解を受けることを必要とせず自らの判断で、発注者等から受けた仕事を他の人にやってもらうことや、他の人に依頼して手伝ってもらうことができるなど、代替性が認められる場合には、指揮監督関係にないことを示す要素となるとされています。
代替性の有無に関して、裁判例では以下のような事情が指摘されています(参考資料集18~19頁)。
代替性を否定する方向に働く事情 | 代替性を肯定する方向に働く事情 |
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✅業務用携帯端末で業務内容の配信を受けた後は、当該業務内容につき責任をもたされ、その内容について交渉する余地がなかったこと(前掲東陽ガス事件)。 | ✅契約上、自らの労働の提供自体が契約の目的とされているものではなく、業務を自ら行うか、行うとしてどの程度の時間行うかは、自身の判断に委ねられており、実際に自らの親族や、自らが雇用したアルバイト従業員に業務を行わせていたこと(セブン-イレブン・ジャパン事件―東京地裁平成30年11月21日判決〔労判1204号83頁〕。なお、労契法上の労働者性に関する判断である) |
「報酬の労務対償性」について
報酬の労務対償性とは、「支払われる報酬の性格が、発注者等の指揮監督の下で一定時間労務を提供していることに対する対価と認められるか」という基準です。
報酬が仕事の完成の対価ではなく、労務の提供の対価と認められる場合には、「使用従属性」を補強する要素となります。
なお、報酬については、報酬の名目が「賃金」「給与」等であることを理由として「使用従属性」が認められることにはならないとされている点にはご留意ください。名目に関わらず、「労働者が使用者の指揮監督下で行う労働」に対して支払われるものが「賃金」と判断されることとなります。
参考資料集では、具体例として、以下のような記載があります。
報酬の労務対償性を肯定する要素となる例 | 報酬の労務対償性を肯定する要素とならない例 |
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・報酬が主として「作業時間」をベースに決定されていて、「仕事の出来」による変動の幅が小さい場合 ・仕事の結果や出来映えに関わらず、仕事をしなかった時間に応じて報酬が減額されたり、いわゆる残業をした場合に追加の報酬が払われるような場合 ・報酬が、時間給や日給など時間を単位として計算される場合 ・例えば映画やテレビ番組の撮影において、撮影に要する予定日数を考慮しつつ作品一本当たりいくらと報酬が決められており、拘束時間日数が当初の予定より延びた場合には、報酬がそれに応じて増える場合 | ・例えば文字起こしの仕事において、受注者ごとに音声の録音時間1時間当たりの単価を決めており、録音時間数に応じた出来高制としているなど、受注者本人の能力により単価が定められている場合 |
また、報酬の労務対償性の有無に関して、裁判例では以下のような事情が指摘されています(参考資料集20~21頁)。
報酬の労務対償性を肯定する方向に働く事情 | 報酬の労務対償性を否定する方向に働く事情 |
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✅報酬が時給計算されていたこと(わいわいサービス事件―大阪高裁平成29年7月27日判決〔労判1169号56頁〕) ✅報酬は歩合制であったものの、1日当たりの最低保証額が定められており、しかも業務従事時間が8時間に満たない場合には減額されていたこと(前掲イヤシス事件) | ✅報酬は、客先によって定まる料金に一定の利率(筆者注:控訴審では「割合」)を乗じて算定されていたものであって、出来高払方式に属するものであったこと(前掲ソクハイ事件) |
補強要素について
労働者性の判断を補強する要素として、㋐事業者性の有無、㋑専属性の程度、㋒その他があります。
事業者性の有無
㋐事業者性の有無として、参考資料集では、「(a)機械、器具等の負担関係」と「(b)報酬の額」が挙げられています。
(a)機械、器具等の負担関係は、「仕事に必要な機械、器具等を、発注者等と受注者のどちらが負担しているか」という基準です。受注者が所有する機械、器具等が安価な場合には問題になりませんが、著しく高価な機械等を受注者が所有、用意している場合、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」の性格が強くなり、労基法における「労働者性」を弱める要素となるとされています。
(b)報酬の額は、「仕事に対して発注者等から受け取る報酬の額が著しく高額ではないか」という基準です。受け取る報酬の額が、発注者等に雇用されて同様の仕事をしている労働者と比較して著しく高額である場合は、労務提供に対する「賃金」ではなく、事業者に対する代金の支払と認められ、労基法における「労働者性」を弱める要素となります。
もっとも、その報酬が長時間労働によるものであり、単位時間当たりの額をみると同種の業務に従事する正規従業員と比較して高額とはいえない場合もあることに留意が必要であるとされています。
事業者性の有無に関して、裁判例では以下のような事情が指摘されています(参考資料集22~23頁より)。
事業者性を否定する方向に働く事情 | 事業者性を肯定する方向に働く事情 |
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✅契約において、自らが所有する機械や器具を持ち込んで使用するものではなく、車両については発注者の会社名が入った発注者が所有名義のものを発注者からリースし、また、業務用携帯端末については発注者が用意したものを持つこととされていたこと(前掲東陽ガス事件) ✅一般従業員の手取り平均月額約41万円に対し、月額約45万円の報酬であったこと(前掲東陽ガス事件) | ✅稼働に当たり使用する各種器具を自らの負担で用意し、これらの維持管理に係る経費も負担していたこと(前掲ソクハイ事件) |
専属性の程度
専属性の程度とは、「特定の発注者等への専属性が高いと認められるか」という基準です。特定の発注者等に対する専属性の有無によって、「使用従属性」の有無が直接左右されるものではなく、特に専属的な働き方をしていないことによって、労基法における「労働者性」を弱めることとはならないとされています。
他方、他の発注者等の業務を行うことが制度上制約されたり、時間的な余裕がなく事実上困難であるような場合や、報酬に固定給部分があるなど報酬に生活保障的要素が強いと認められるような場合には、専属性の程度が高く、労基法における「労働者性」を補強する要素となるとされています。
専属性の有無に関して、裁判例では以下のような事情が指摘されています(参考資料集24~25頁より)。
専属性を肯定する方向に働く事情 | 専属性を否定する方向に働く事情 |
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✅リースを受けている機械、器具について発注者の社名が記載されており、当該発注者以外から業務を受注することが想定されていなかったこと(前掲東陽ガス事件) ✅基本的に週5日、1日8時間以上発注者において稼働していたものであるから、事実上他の企業の依頼を個人として受けることは困難であり、実際にも他の企業の依頼を受けていなかったこと(前掲ワイアクシス事件) | ✅兼業が許されており、実際にも他の業種の業務に従事している者がいたこと(前掲ソクハイ事件) ✅営業時間が夜間であり、求人情報にも「Wワークの方も歓迎」と記載されていたこと(前掲日本代行事件) |
その他
上記のほかに、以下などの場合は発注者等が受注者を自らの労働者と認識していると推認されるとして、労基法における「労働者性」の判断の補強要素とされる場合があるとされています。
- 採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること
- 報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること
- 労働保険の適用対象としていること
- 服務規律を適用していること
- 退職金制度、福利厚生を適用していること
もっとも、上記はあくまで補強事由とされていること、また、上記の事情がないからといって、「労働者性」を否定する判断の補強事由となる訳ではないことに留意する必要があります。
偽装フリーランスと判断されないための留意点
企業が事業者との契約を偽装フリーランスと判断されないようにするためには、まず、各種契約類型の法的性質を正しく理解することが重要です。
例えば、業務委託契約は、民法における請負契約(民法632条)、委任契約(民法643条)、準委任契約(民法656条)という3つの契約類型の総称ですが、請負契約と委任契約・準委任契約では法的性質が異なります。
すなわち、請負契約は、仕事の完成を目的とし、仕事の結果に対して報酬を支払う契約であり、受注者(請負人)は契約不適合責任を負うのに対し、委任契約および準委任契約は、仕事の完成を目的とするものではなく、業務の遂行を目的とするものであり(委任契約は法律行為、準委任契約は法律行為でない事務が対象)、業務遂行に際して善管注意義務(民法644条)は負いますが、契約不適合責任は負いません。
これに対し、雇用契約(民法623条)は、労務の提供を目的とするものであり、労務の提供に対して報酬(賃金)を支払う契約です。
次に、目的(契約を締結して実現しようとしていること)達成のためにどの契約類型を選択することが適切かを見極められるようにすることが重要です。例えば、目的達成のために、相手方に対して、逐一、具体的な指示を出すことが必要となることが想定されるような場合は、業務委託契約ではなく、雇用契約を選択すべきという判断になります。
そして、契約類型として業務委託契約を選択する場合は、実質的には労働者であると判断されないように、契約の実態として、労働者と判断される要素をできるだけ排除することが重要です。
そのためには、上記で説明した労基法上の労働者性の判断基準や、労働者性に関する各種裁判例において、どのような事実がどのように評価されて労働者性が肯定あるいは否定されているか等を正確に理解する必要があります。
関連資料 ✅ ひと目でわかる要チェック条文 業務委託契約書編 |
参考文献
厚生労働省労働基準局「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集(令和6年10 月時点)」