不法行為とは?
4つの要件・効果・条文・
具体例・消滅時効などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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不法行為とは、故意(わざと)または過失(うっかり)によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為です。
不法行為をした者は、被害者に生じた損害を賠償しなければなりません。
民法では一般不法行為のほか、特殊不法行為(責任無能力者の監督義務者等の責任・使用者責任など)を定めています。
損害賠償請求等を行うに当たっては、各要件を正しく踏まえた主張・立証を行うことが大切です。
この記事では不法行為について基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年8月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
不法行為とは|根拠条文も含め解説!
不法行為とは、故意(わざと)または過失(うっかり)によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為です。
(不法行為による損害賠償)
「民法」e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
不法行為の具体例
不法行為に当たる行為としては、以下の例が挙げられます。
・他人を殴ってけがをさせる行為
・誹謗中傷をして他人に精神的損害を与える行為
・他人の知的財産権を侵害する行為
・交通事故を起こして被害者にケガをさせる行為
など
不法行為の種類|一般不法行為・特殊不法行為
不法行為は、以下の2つに大別されます。
- 民法で定められている不法行為の種類
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①一般不法行為(民法709条)
②特殊不法行為
・責任無能力者の監督義務者等の責任(民法714条)
・使用者責任(民法715条)
・工作物責任(民法717条)
・動物占有者の責任(民法718条)
・共同不法行為者の責任(民法719条)
原則的な類型である一般不法行為に対して、特殊不法行為については、行為者や被害者の利益衡量を踏まえて要件が修正されています。
【不法行為の種類まとめ】
不法行為の立証責任を負う者
「不法行為の要件」については、原則として被害者が立証責任を負います。
したがって、被害者が損害賠償請求を行う際には、不法行為の要件を全て立証しなければなりません。一つでも立証に失敗すれば、被害者の請求は棄却されます。
ただし、知的財産権の侵害では、損害額の推定規定が設けられているなど、立証責任が緩和されるケースもあります。
不法行為の4つの要件
不法行為は、以下の4つの要件を全て満たす場合に成立します。
①故意または過失があること
②権利・利益の侵害があること
③損害が発生していること
④侵害行為と損害の間に因果関係があること
要件1|故意または過失があること
不法行為の成立には、行為者に故意または過失があることが必要です。
故意とは
「故意」とは、他人に損害を与える結果になることを認識しながら、それを容認して損害を与える行為をする状態を意味します。
過失とは
「過失」とは、予見可能性があった(損害の発生につき、信義則上必要とされる注意を払えば予見できたまたは予見すべきだった)にもかかわらず、回避する義務を怠った状態(結果回避義務違反がある状態)を意味します。
要件2|権利・利益の侵害があること
不法行為が成立するのは、被害者の権利または法律上保護された利益が侵害された場合に限られます。
法律上保護に値しない利益が損なわれたとしても、不法行為は成立しません。
(例)他人の行為によって違法な麻薬を購入する機会を逃したとしても、不法行為に基づく損害賠償は請求できない
どのような権利・利益が保護されるのかについては、憲法・法律・判例などによって決まります。
要件3|損害が発生していること
不法行為の効果は損害賠償であるため、その成立には損害の発生が要件となります。
損害は物理的なものに限らず、精神的損害も認められます。
例えば交通事故の場合、ケガの治療費や車の修理費などの財産的損害に加えて、被害者が受けた非財産的損害に対応する慰謝料も損害賠償の対象です。
なお、財産的損害は、さらに、
- 積極損害|ケガの治療費など、お金が出て行ってしまう損害
- 消極損害|給料など、将来もらえるはずだったお金がもらえなくなる損害
に分けられます。
要件4|侵害行為と損害の間に因果関係があること
さらに、不法行為によって損害が発生したという因果関係も必要になります。
因果関係は、「不法行為がなければ損害が発生しなかった」という条件関係に加えて、行為者にどこまで責任を負わせるべきかという社会的評価を考慮して判断されます。
不法行為の成立が否定されるケース
上記の不法行為の要件を満たすとしても、以下のいずれかに該当する場合は不法行為が成立しません。
①責任能力がない場合
②正当防衛が成立する場合
③緊急避難が成立する場合
④被害者の承諾がある場合
⑤正当行為に当たる場合
⑥自力救済を行うやむを得ない事情がある場合
ケース1|未成年者かつ責任能力がない場合
未成年者が他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、不法行為に基づく損害賠償責任を負いません(民法712条)。
また精神上の障害により、自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者も、不法行為に基づく損害賠償責任を負いません(民法713条)。
ただし例外的に、故意または過失によって一時的に責任能力を欠くに至った時は、不法行為責任を負います(例えば、アルコールを飲んで酩酊状態になった場合など)。
ケース2|正当防衛が成立する場合
他人の不法行為に対し、
- 自己
- 第三者の権利
- 法律上保護される利益
を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、不法行為に基づく損害賠償の責任を負いません(民法720条1項)。これを「正当防衛」といいます。
- 正当防衛が成立する場合の例
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・殴りかかってくる他人を止めるため、格闘技の技を用いて押さえつけた。
・家族が殴られそうになったので、殴ってきた人を先に蹴り飛ばした。
ケース3|緊急避難が成立する場合
他人の物から生じた急迫の危難(生命にかかわるような、危ないこと)を避けるため、その物を損傷した者も、不法行為に基づく損害賠償責任を負いません(民法720条2項)。これを「緊急避難」といいます。
- 緊急避難が成立する場合の例
-
・他人が飼っている犬が噛みついてきたので、力づくで振りほどいたところ、犬がケガをした。
・隣家のブロック塀が今にも崩れそうなので、所有者の許可を得ないまま取り壊した。
ケース4|被害者の承諾がある場合
明文の規定はないものの、被害者の承諾がある場合には、不法行為の成立が否定される場合があると解されています。
ただし、被害者の承諾は自由意思に基づき、かつ社会通念上の合理性がなければなりません。
例えば、脅されて承諾した場合は、自由意思に基づいていないので、有効な承諾が認められません。また、「手術に当たって、何が起こっても一切文句を言わない」という承諾も、社会通念上の合理性がないので、その効力は否定されると考えられます。
ケース5|正当行為に当たる場合
公務その他の正当な業務の執行によって損害を加えた場合にも、不法行為の成立が否定される場合があります。
例えば、刑事訴訟法に基づいて適法に行い得る逮捕などが、正当行為の典型例です。また、医師の医療行為についても、身体への侵襲を伴う点で不法行為の要件に該当しますが、正当行為として不法行為は不成立となります。
ケース6|自力救済を行うやむを得ない事情がある場合
裁判手続きなどを経ずに、実力行使によって権利を実現する「自力救済」は、原則として違法です。
ただし判例では、権利に対する違法な侵害に対抗して、現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急でやむを得ない特別の事情が存在する場合に限り、必要の限度を超えない範囲内で、例外的に自力救済を許容する余地があるとされています(最高裁昭和40年12月7日判決)。
きわめて限定的ではありますが、このような場合には、自力救済について不法行為が成立しないと考えられます。
不法行為が成立する場合の効果
不法行為が成立する場合、被害者は加害者に対して以下の請求ができます。
①損害賠償
②名誉毀損における原状回復
③差し止め
効果1|損害賠償(慰謝料)
不法行為に基づく損害賠償は、金銭によるのが原則とされています(民法722条1項、417条)。
被害者は、加害者に対して、不法行為により被った損害の賠償を請求できます。
効果2|名誉毀損における原状回復
名誉毀損を受けた被害者は、裁判所に対して訴訟を提起し、加害者に対する名誉回復措置命令を求めることができます(民法723条)。
裁判所は訴訟手続きを通じて審理を行った上で、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、被害者の名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができます。謝罪広告などが名誉回復措置の典型例です。
効果3|差し止め
知的財産権(特許権・商標権・著作権など)の侵害については、各法律によって差し止め請求が認められています。差し止め請求に当たっては、通常の不法行為とは異なり、加害者の故意・過失は要件とされていません。
また、法律上の明文の根拠がなくても、一定の場合には不法行為に基づく差止請求が認められると解されています(例:プライバシー権の侵害など)。
特殊不法行為の類型
民法では一般不法行為のほか、以下の特殊不法行為が定められています。
①責任無能力者の監督義務者等の責任
②使用者責任
③工作物責任
④動物占有者の責任
⑤共同不法行為者の責任
類型1|責任無能力者の監督義務者等の責任
前述のとおり、加害者が
- 未成年者で自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとき
- 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠いていたとき
は、不法行為に基づく損害賠償責任を負いません。
しかし、それではあまりにも被害者の保護に欠けるため、「責任無能力者の監督義務者等の責任」が定められています(民法714条)。
責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(例:親権者・成年後見人など)は、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も同様です。
ただし例外的に、監督義務者等がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、損害賠償責任を免れます。
類型2|使用者責任
事業のために他人を使用する者(=使用者。例えば会社)は、被用者(例えば従業員)がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条)。これを「使用者責任」といいます。
使用者に代わって事業を監督する者も、同様の責任を負います。
ただし例外的に、使用者等が被用者の選任および事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、損害賠償責任を免れます。
類型3|工作物責任
土地の工作物の設置・保存に瑕疵(欠陥)があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負います。
ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければなりません(民法717条)。これを「工作物責任」といいます。
占有者 | 実際に工作物を使用している者 |
所有者 | 工作物の所有権をもっている者(実際に、工作物を使用しているとは限らない) |
また、竹木の栽植・支持に瑕疵がある場合も、土地の工作物と同様に工作物責任が発生します。
類型4|動物占有者の責任
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負います(民法718条)。占有者に代わって動物を管理する者も同様です。
ただし例外的に、動物占有者等が動物の種類・性質に従い、相当の注意をもってその管理をしたときは損害賠償責任を免れます。
類型5|共同不法行為者の責任
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負います(民法719条)。共同行為者のうち、いずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも同様です。
つまり、被害者は加害者のうち、誰に対しても損害全額の賠償を請求できます。請求の配分についても、被害者が選択可能です。
胎児に対する不法行為も成立する|損害賠償請求が可能
胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなされます(民法721条)。例えば胎児の段階で不法行為を受け、その結果身体に障害が残った場合は、胎児自身が加害者に対する損害賠償請求権を取得します。
なお、不法行為によって胎児が死亡した場合の取り扱いについては、民法において規定がありません。
相続と同様に、胎児が死産となった場合は胎児自身に権利能力が生じないと解さざるを得ないと思われますが(民法886条2項参照)、両親は加害者に対して、胎児の死亡について損害賠償を請求できます。
不法行為による損害賠償の過失相殺
不法行為の被害者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して、損害賠償の額を定めることができます(民法722条2項)。
実務上は、過失割合に応じて損害賠償が減額されます。これを「過失相殺」といいます。
例えば被害者が100万円の損害を受けたとしても、被害者と加害者の過失割合が「2対8」の場合、被害者は加害者に対して80万円の損害賠償を請求できるにとどまります。
不法行為による損害賠償請求権の時効期間(消滅時効)
不法行為に基づく損害賠償請求権は、以下の期間が経過すると時効消滅します(民法724条、724条の2)。
①人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
以下のいずれか早く経過する期間
(a)被害者またはその法定代理人が、損害および加害者を知った時から5年
(b)不法行為の時から20年
②①以外の不法行為に基づく損害賠償請求権
以下のいずれか早く経過する期間
(a)被害者またはその法定代理人が、損害および加害者を知った時から3年
(b)不法行為の時から20年
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