慰謝料とは?
法的根拠・会社が支払義務を負うケース・
金額相場・時効・
請求された場合の対処法などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「慰謝料(いしゃりょう)」とは、精神的な損害(肉体的苦痛や精神的苦痛)に対する賠償金です。
会社は、ハラスメント・労働災害・従業員が社用車で起こした交通事故などに関して、被害者に対して慰謝料の支払義務を負うことがあります。慰謝料発生の法的根拠は、不法行為・使用者責任・安全配慮義務違反・運行供用者責任などです。
特に被害者が重い後遺症を負った場合や、被害者が死亡した場合には、高額の慰謝料が発生することがあるので注意を要します。
慰謝料を請求されたら、和解交渉や訴訟を通じて解決を図ります。
その際には、請求内容の当否を検討するため、相手方に対して損害に関する客観的証拠の提示を求めましょう。また、過失相殺によって慰謝料を減額できないかどうか検討することも大切です。この記事では慰謝料について、法的根拠・会社が支払義務を負うケース・金額相場・請求された場合の対処法などを解説します。
※この記事は、2024年10月31日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
慰謝料とは
「慰謝料(いしゃりょう)」とは、精神的な損害(肉体的苦痛や精神的苦痛)に対する賠償金です。不法行為や債務不履行(契約違反など)により、他人に肉体的苦痛や精神的苦痛を与えた場合は、それを金銭に換算した額の慰謝料を支払う義務を負います。
例えば、以下のような場合に慰謝料が発生します。
- 慰謝料が発生するケース
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・他人に暴力を振るってけがをさせた場合
・配偶者がいるにもかかわらず、不貞行為(不倫)をした場合
・配偶者の承諾を得ずに別居した結果、離婚することになった場合
・交通事故を起こし、被害者にけがをさせた場合
など
会社が慰謝料の支払義務を負うケース
会社も、役員や従業員の行為に関して慰謝料の支払義務を負うことがあります。
一例として、以下のようなケースでは会社が慰謝料の支払義務を負います。
- ハラスメント
- 労働災害(業務災害)
- 従業員が社用車で起こした交通事故
ハラスメント
「ハラスメント」とは、相手の嫌がることをして不快感を覚えさせる行為全般を意味します。職場においては、以下のようなハラスメントが問題になることがあります。
- 職場におけるハラスメントの例
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・セクシュアルハラスメント(セクハラ)
→職場における性的な言動により、労働者に対して不利益を与え、または労働者の就業環境を害すること・パワーハラスメント(パワハラ)
→職場における優越的な関係を背景とした言動により、労働者の労働環境を害すること・マタニティハラスメント(マタハラ)
→妊娠・出産・育児に関する言動により、女性労働者の就業環境を害すること・パタニティハラスメント(パタハラ)
→育児に関する言動により、男性労働者の就業環境を害すること・ケアハラスメント(ケアハラ)
→介護休業の利用に関する言動により、労働者の就業環境を害すること
会社の役員や従業員が、別の役員や従業員に対して上記のようなハラスメントをした場合、行為者本人に加えて、会社も使用者責任または安全配慮義務違反に基づき慰謝料の支払義務を負います。
労働災害(業務災害)
「労働災害」とは、業務上の原因により、または通勤中に生じた労働者の負傷・疾病・障害・死亡をいいます。
労働災害のうち、業務上の原因によって発生するものを「業務災害」といいます。
- 業務災害の例
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・商品を運んでいる途中に転倒して、足を捻挫した。
・建築作業中に足場から転落して、足を骨折した。
・製品の製造中に手が機械に巻き込まれ、指を切断した。
業務災害による被災労働者の損害は、労災保険によって補償されます。ただし、被災労働者が被った精神的損害に対する慰謝料は、労災保険による補償の対象外です。
被災労働者以外の従業員の故意・過失によって発生した場合や、安全対策の不備によって発生した場合などには、会社が被災労働者に対して損害賠償責任を負います。
この場合、労災保険では補償されない慰謝料は、会社が全額被災労働者に対して賠償しなければなりません。
従業員が社用車で起こした交通事故
従業員が社用車を運転している時に交通事故を起こした場合は、使用者責任または運行供用者責任につき、会社も被害者に対する損害賠償責任を負うことがあります。この場合、被害者の精神的損害に対する慰謝料も支払わなければなりません。
なお、従業員が勤務時間外に、または会社の承諾を得ずに社用車を運転していた場合でも、社用車であることが外観上明らかであれば、会社が被害者に対する損害賠償責任を負うと判断される可能性が高いです(=外形標準説)。
慰謝料の主な法的根拠
会社が支払うべき慰謝料は、主に以下の法的根拠によって発生します。
- 使用者責任
- 安全配慮義務違反
- 運行供用者責任
使用者責任
故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、不法行為に基づき、被害者に生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。
従業員(被用者)が上記の不法行為責任を負う場合において、被害者の損害が会社の事業の執行について加えられた場合には、使用者責任に基づき、原則として会社も被害者の損害を賠償しなければなりません(民法715条1項)。
- 会社の使用者責任が認められる場合の例
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・会社の従業員が、別の従業員に対してハラスメントをした。
・会社の従業員のミスにより、別の従業員が工事現場で事故に遭い、けがをした。
安全配慮義務違反
会社は、従業員が生命や身体等の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な配慮をする義務を負っています(=安全配慮義務。労働契約法5条)。
会社が安全配慮義務に違反した結果、従業員の生命や身体などが害されたときは、安全配慮義務違反(債務不履行)に基づき、被害者に生じた損害を賠償しなければなりません。
- 会社の安全配慮義務違反が認められる場合の例
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・会社が適切にハラスメント対策を行わなかった結果、社内でハラスメントが発生した。
・会社が適切に安全確保の対策を行わなかった結果、工事現場において事故が発生した。
運行供用者責任
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その自動車の運行によって他人の生命または身体を害したときは、被害者に生じた損害を賠償しなければなりません(自動車損害賠償保障法3条)。
- 会社の運行供用者責任が認められる場合の例
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・従業員が社用車を運転している時に、交通事故を起こして被害者にけがをさせた。
慰謝料の金額相場
会社が支払うべき慰謝料の金額は、被害者に生じた肉体的苦痛や精神的苦痛の内容・程度によって決まります。
ハラスメントの慰謝料相場
ハラスメントの慰謝料は、50万円から100万円程度が標準的です。以下のような要素が、ハラスメントの慰謝料の具体的な金額に影響します。
- ハラスメントの慰謝料額を左右する主な要素
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・ハラスメントに当たる言動の悪質性
・ハラスメントの頻度、回数
・被害者が精神疾患を発症したかどうか
・被害者が退職に追い込まれたかどうか
など
労災・交通事故の慰謝料相場
労災や交通事故の慰謝料には、以下の3種類があります。
- 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
- 後遺障害慰謝料(障害慰謝料)
- 死亡慰謝料
傷害慰謝料(入通院慰謝料)
「傷害慰謝料(入通院慰謝料)」は、けがをしたことによる肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料です。
入通院慰謝料の適正額は、入院期間や通院期間の長さに応じて決まります。「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」の別表Ⅰまたは別表Ⅱに基づいて計算するのが一般的です。
- 傷害慰謝料(入通院慰謝料)の金額例
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工事現場で事故に遭い骨折、入院1カ月、通院6カ月
→149万円交通事故でむちうち症、通院4カ月
→67万円
後遺障害慰謝料(障害慰謝料)
「後遺障害慰謝料(障害慰謝料)」は、後遺症が残ったことによる肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料です。
後遺障害慰謝料の目安額は、労災の場合は障害等級、交通事故の場合は後遺障害等級に応じて決まります。障害等級は労働基準監督署、後遺障害等級は損害保険料率算出機構が、それぞれ後遺症の部位や症状に応じて認定します。
後遺障害等級(障害等級) | 後遺障害慰謝料 |
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1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
死亡慰謝料
「死亡慰謝料」は、死亡したことによる本人の肉体的・精神的苦痛、および遺族の精神的苦痛に対する慰謝料です。
死亡慰謝料の目安額は、死亡した被害者の家庭内における立場に応じて、おおむね下表のとおりです。
家庭内における被害者の立場 | 死亡慰謝料の目安額 (被害者本人と遺族の慰謝料の総額) |
---|---|
一家の支柱 | 2700万円~3100万円 |
一家の支柱に準ずる立場(配偶者、母親など) | 2400万円~2700万円 |
その他 | 2000万円~2500万円 |
慰謝料請求権の消滅時効|改正民法のポイントを解説
慰謝料請求権は、一定の期間が経過すると時効により消滅します。
2020年4月1日に施行された改正民法により、消滅時効に関する規定が見直されました。その結果、現行法における慰謝料請求権の時効期間は、下表のとおりとなっています。
慰謝料の発生原因 | 時効期間 |
---|---|
不法行為・使用者責任 | (a) 被害者の生命または身体を害した場合 →以下のいずれか早く経過する期間(民法724条・724条の2) ・被害者または法定代理人が、損害および加害者を知った時から5年 ・不法行為の時から20年 (b) (a)以外の場合 →以下のいずれか早く経過する期間(民法724条) ・被害者または法定代理人が、損害および加害者を知った時から3年 ・不法行為の時から20年 |
安全配慮義務違反(債務不履行) | 以下のいずれか早く経過する期間(民法166条) ・被害者が権利を行使できることを知った時から5年 ・被害者が権利を行使できる時から10年 |
運行供用者責任 | 以下のいずれか早く経過する期間(自動車損害賠償保障法4条、民法724条・724条の2) ・被害者または法定代理人が、損害および加害者を知った時から5年 ・不法行為の時から20年 |
慰謝料請求を受けた場合の主な解決方法
会社が慰謝料請求を受けた場合、被害者との和解交渉(示談交渉)や訴訟などによってトラブルの解決を図りましょう。
和解交渉(示談交渉)
「和解交渉(示談交渉)」は、当事者同士で話し合い、合意によってトラブルを解決する手続きです。交渉がまとまれば、早期かつ柔軟な形でトラブルを解決できるメリットがあります。
訴訟
「訴訟」は、トラブルを終局的に解決することを目的とした裁判手続きです。裁判所の公開法廷において、当事者双方が主張や立証を行い、裁判所が判決によって結論を示します。
和解交渉がまとまらない場合、慰謝料請求を受けた会社としては、被害者からの訴訟提起を待って対応することになります。訴訟は長期化する可能性が高く、敗訴した場合のリスクも大きいので、顧問弁護士などと協力しながら準備を整えましょう。
慰謝料請求を受けた場合のチェックポイント
会社が慰謝料請求を受けた際には、特に以下の2点に留意しつつ対応しましょう。
- 損害の内容について、客観的な証拠の提示を求める
- 過失相殺による減額を検討する
損害の内容について、客観的な証拠の提示を求める
慰謝料請求を受けたら、まず相手方の請求内容が妥当かどうかを検討する必要があります。
請求内容の当否は、客観的な証拠に基づいて判断すべきです。相手方に対して、医師の診断書など、慰謝料の算定根拠となり得る客観的な資料の提示を求めましょう。
過失相殺による減額を検討する
会社が慰謝料の支払義務を負うとしても、相手方にも過失がある場合は、過失相殺による減額を主張することができます(民法418条・722条2項)。
慰謝料の原因となる事故や行為が発生した状況をよく調査して、その調査結果に基づき、相手方の過失を基礎づける事情がないかどうかを検討しましょう。
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