労務管理とは?
業務内容や役割、対策すべき課題などを
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この記事のまとめ

労務管理は、労働者の労働環境の改善や、労働トラブルのリスク回避などに関わる業務です。

・具体的な仕事内容は勤怠管理や賃金計算、社会保険手続きなど多岐にわたります。
・労務管理が適切にできれば、労働者の満足度や企業の生産性向上が期待できます。
・労務管理の課題は、多様な働き方やコンプライアンス、個人情報保護への対応などです。

本記事では、労務管理の概要や役割などを解説します。

ヒー

労務管理の仕事にはさまざまな業務があり、複雑だと感じます。

ムートン

労務管理が適切にされていれば、労働者は安心して働くことができ、企業の業績アップなどの効果も期待できます。労務管理の仕事内容や適切に管理するメリットを解説します。

※この記事は、2025年6月30日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

労務管理とは

労務管理とは、労働者が安心して働ける環境を整備し、企業と労働者の良好な関係の維持やトラブルリスクの回避をする業務です。まずは、労務管理の目的や勤怠管理・人事管理との違いを解説します。

労務管理を行う目的

企業が労務管理に力を入れる主な目的は、労働者の労働環境の改善や労働基準法違反による罰則やトラブル回避のためです。現代の企業では働き方の多様化、頻繁な法改正、コンプライアンス強化により、労務管理の重要性が高まっています。

また、近年は柔軟な働き方への対応が求められており、労働者の労働環境をよりよくすることも重要になっています。そのため、適切な労務管理が求められるのです。

勤怠管理や人事管理との違い

労務管理と似たような言葉に勤怠管理人事管理があります。それぞれの言葉の定義は以下のとおりです。

勤怠管理労務管理の一部で、出退勤や残業、休暇の管理など労働時間を把握する業務
人事管理採用や人員配置、人事評価、人材育成など、人材を最大限に活用する仕組みを作る業務

労務管理の担当者は、社会保険の手続きや雇用契約書の管理などを中心に行うと考えておくとよいです。

具体的な労務管理の業務

労務管理の主な業務は、以下の6つです。

  • 勤怠管理・給与計算
  • 労働契約や就業規則の整備
  • 社会保険・労働保険の手続き
  • 法定三帳簿の作成
  • 安全衛生や職場環境の整備
  • 福利厚生の企画運用
ムートン

それぞれの業務内容を詳しく見ていきましょう。

勤怠管理・給与計算

勤怠管理給与計算は労務管理のなかでも比重の大きな業務です。正確な労働時間を把握し、賃金を適切に支払います。主な業務内容は以下のとおりです。

  • タイムカードやシステムを通じた労働時間・残業時間の管理
  • 賃金・割増賃金の適正な計算
  • 労働者の休暇管理
  • 36協定など労働に関する取り決めの遵守奨励
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これらの業務は、労務管理の基盤となる業務といえます。

労働契約や就業規則の整備

労働契約就業規則の整備は、企業と労働者の権利義務を明確化し、労働トラブルの予防と円滑な労働関係の構築を実現する業務です。主に以下のような業務を行います。

  • 就業規則の作成・整備
  • 雇用契約書の作成・変更手続き

法改正に都度対応する必要があるため、法令関連情報の把握が重要です。

社会保険・労働保険の手続き

社会保険・労働保険の手続きは、労働者の生活の保障や企業の責任を果たすための業務です。主な業務は以下のとおりです。

  • 社会保険・労働保険の資格取得届や資格喪失届などの提出
  • 労働保険料の申告・納付
  • 社会保険料の見直し
  • 各種給付の申請サポート
  • 労災事故発生の報告や手続き

複数の手続きがありますが、それぞれ漏れなく済ませることが重要です。

法定三帳簿の作成

法定三帳簿とは、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の3つの総称です。各帳簿の作成は労働条件の管理や法令遵守の証拠保全のために行います。主な業務は以下のとおりです。

労働者名簿労働者の従事業務や雇入・退職年月日などの記載
賃金台帳賃金計算期間や労働日数・時間数、基本給・手当の額などの記載
出勤簿始業・終業時間や労働時間などの記載

効率化を図るために、勤怠管理システムなどを活用して作成するケースも多数あります。

安全衛生や職場環境の整備

安全衛生や職場環境の整備は、労働者の健康や安全の確保、企業の安全配慮義務の履行のために行います。主な業務は以下のとおりです。

  • 50人以上の事業場において衛生管理者や安全管理者、産業医の選任、衛生(安全)委員会の設置
  • 年1回の健康診断の実施やストレスチェックの実施
  • 安全衛生教育の実施や作業環境の測定

テレワークを認めている場合は、長時間労働の防止やコミュニケーション不足によるメンタルヘルスの悪化などにも気を配る必要があります。

福利厚生の企画運用

福利厚生の企画運用は、労働者の満足度向上や人材確保・定着の実現のために行います。主な業務は以下のとおりです。

  • 手当の拡充
  • 社員食堂など施設の充実
  • 健康診断の充実
  • 育児や介護の支援制度の拡充
  • 自己啓発の支援
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多様な働き方やニーズに対応すべく、労働者からのヒアリングをもとに企画や制度の運用をするとよいでしょう。

適切な労務管理がもたらすメリット

労務管理を適切に行うことで、以下のようなメリットが生まれます。

  • 労働者の満足度が上がる
  • 企業の生産性が上がる
  • 企業の信頼性が高まる

適切な労務管理は、働きやすさや企業の業績に直結します。メリットをひとつずつ見ていきます。

労働者の満足度が上がる

適切な労務管理は労働者の満足度の向上につながり、人材定着や採用強化につながります。公正な処遇や明確な労働条件の提示、有給休暇の取得促進などにより、ワークライフバランスの充実が期待できます。また、多様な働き方の導入で、子育てや介護との両立なども可能です。

メンタルヘルスやハラスメントの対策などもできれば、さらに充実した労働環境を構築できます。

企業の生産性が上がる

労務管理が適切にできれば、企業の生産性向上につながります。とくに、業務の効率化や労働者のパフォーマンス向上を重視するとよいです。

例えば、労務管理部署では勤怠管理システムを導入すれば、労働時間の集計や賃金計算といった時間のかかる事務が効率化され、残業の削減が期待できます。

無駄な時間外労働を少なくするためのツール導入などで、企業の生産性アップを図ることが効果的といえます。

企業の信頼性が高まる

適切に労務管理をすれば、企業の信頼性を高められ、取引先の拡大や持続的な事業成長が期待できます。法令遵守に加え、労働基準監督署からの勧告・処分リスクを排除できれば、企業の社会的な信頼性の維持が可能です。

企業ブランドの構築やESG(環境・社会・ガバナンス)強化のためにも、労務管理は重要な業務です。

労務管理を怠った場合に発生する問題

労務管理を怠ってしまうと、以下のようなトラブルが起きる可能性が高まります。

  • 法令違反による罰則を受ける恐れがある
  • 労使トラブル発生のリスクが高まる
  • 労働者のモチベーションが低下する
  • 採用活動に影響が出る

罰則や訴訟など、規模の大きなトラブルにつながる可能性があるため、労務管理には常に気を配らなければなりません。

法令違反による罰則を受ける恐れがある

労務管理を怠ると、労働基準法・労働安全衛生法などのさまざまな法令違反の可能性が生まれ、場合によっては刑事罰行政処分などの制裁を受けることがあります。労働に関する法令は、企業の規模や業種関係なく、全ての事業者が遵守しなければなりません。

法令違反は自社の信用失墜や取引先との関係悪化など、幅広い影響をもたらすケースも多いです。法令違反を避けるため、労務管理は適切に行うことが大切です。

労使トラブル発生のリスクが高まる

労務管理に不備があると、労働者とのトラブルが起こりやすくなります。特に賃金や残業代の未払い、不当な解雇、ハラスメントなどは訴訟の原因となるため、避けなければなりません。

一度訴訟になると、解決までに1〜2年程度かかり、敗訴となると多額の支出をする必要があります。経営の圧迫や倒産の原因になりかねないため、労働者とは日頃から良好な関係を築くべきです。

労働者のモチベーションが低下する

労務管理が適切でないと、労働者の熱意や仕事へのモチベーションを低下させてしまう可能性があります。労働者のモチベーション低下は生産性の悪化や品質の低下、離職の増加などを招きます。

特に注意したいのは、不透明な人事評価や不公平な処遇、長時間労働、ハラスメントです。こうした状況が常態化すると、労働者のモチベーションに関わります。

労働者のモチベーションが低下して離職が増えると、残った労働者への業務負担が大きくなります。結果的にさらなる離職を招くケースもあるため、労働環境の改善や透明性のある制度設計で、労働者のモチベーションを損なわないことが重要です。

採用活動に影響が出る

労務管理を怠ってしまうと、人材採用に影響をおよぼします。労務管理がうまくいっていないと、企業や労働環境の評判に悪影響が出て、採用申込者が減ったり内定辞退者が増えたりする可能性があります。

評判が下がると、イメージを払拭するのには時間がかかってしまうものです。その結果、優秀な人材を失うこともあります。

結果的に人材不足に陥り、経営や労働者のモチベーションにも影響をおよぼしかねないのです。

労務管理に役立つ知識と資格

労務管理の業務では、法令の知識や社会保険労務士・衛生管理者などの資格が役立ちます。労務管理で習得したい知識や資格と、身につけた際の効果を解説します。

労働関連法規に関する知識

労働関連法規に関する知識は、労務管理業務に携わるのであれば、ぜひおさえておきたいものです。労働関連の主な法令は、以下のとおりです。

労働基準法労働時間や休憩時間、休日など労働条件の基本的な内容について記載されている。
労働安全衛生法安全配慮義務や健康診断、ストレスチェック、衛生管理者の責任などについて記載されている。
労働契約法雇用契約など、労働契約に関する内容が記載されている。
社会保険関連法令(厚生年金保険法など)社会保険や労働保険に関する内容が記載されている。

法令内容の把握に加えて、法改正の情報などもおさえておく必要があります。厚生労働省のウェブサイトや労働基準監督署の最新情報をチェックしながら、常に新しい情報をキャッチすることが大切です。

社会保険労務士や衛生管理者などの資格

社会保険労務士や衛生管理者などの専門資格の取得は、専門性の向上や企業のリスク軽減、労働者の信頼性の向上など、さまざまな面で好影響をもたらします。

社会保険労務士は、労働・社会保険関連法令の専門家として、複雑な法令の解釈や労使トラブルの予防・解決などの業務ができる国家資格です。労務担当者が資格を保有していれば、外部委託コストを削減できたり、トラブルを迅速かつ適切に解決できたりと多くのメリットがあります。

衛生管理者労働安全衛生法で50人以上の事業場に選任が義務付けられている資格です。労働者の健康や安全を守る専門知識を有しており、メンタルヘルスやハラスメントなど近年重要視される課題にも適切な対応ができます。

こうした有資格者が部署内にいれば、労務のスペシャリストとして活躍できます。

労務管理の課題や注意点

労務管理における課題や注意点は、以下の4つです。

  • 多様な働き方への対応
  • コンプライアンスの遵守
  • 個人情報の保護
  • ハラスメントやメンタルヘルスへの対応

どれも時代に応じて重要視されているものです。内容を理解したうえで、適切な対応が求められます。

多様な働き方への対応

テレワークやフレックスタイム制、時短勤務といった多様な働き方への対応は現代において重要な観点ですが、労務管理が複雑になることが課題です。タイムカードによる労働時間の管理が難しくなり、労働時間の把握や長時間労働の防止などがうまくいかなくなる可能性があるのです。

労務管理システムの導入や就業規則の見直し、管理職への研修などを通して、企業全体が多様な働き方に対応できる環境を作る必要があります。

コンプライアンスの遵守

コンプライアンスの遵守は、多くの企業で取り組むべき課題です。企業規模に関係なく、どの事業所も法令遵守が求められます。

とくに近年では労働基準法の改正による時間外労働の上限規制強化や、育児・介護休業法の改正、同一労働同一賃金への対応など、重要な法改正が相次いでいます。

法令違反は刑事罰や行政処分だけでなく、企業の社会的信用の失墜や労働者との信頼関係の破綻、取引先からの契約見直しなどさまざまな面に影響をおよぼすものです。

法改正情報を常に収集したり、コンプライアンスの対策について専門家に相談したりして、法的に適切な労働環境を作ることが大切です。

個人情報の保護

労務担当者は、個人情報の保護も適切に行わなければなりません。労務管理業務では、労働者の氏名、住所、給与情報、健康診断結果、マイナンバーなど、重要な個人情報を大量に取り扱います。

個人情報保護法では、不適切な取扱いに対する罰則が厳格化されました。そのため、情報漏洩が発生すると企業の社会的信用の低下や損害賠償など、重大な問題になる可能性が高いです。

トラブルを防ぐためには、情報へのアクセス制限や暗号化、セキュリティ監査の実施など、技術的・物理的にセキュリティを強化する必要があります。個人情報保護規程の策定と継続的な見直しもしておくとよいです。

ハラスメントやメンタルヘルスへの対応

ハラスメント・メンタルヘルスへの対応は、現代において早急に対策すべき課題です。労働施策総合推進法の改正により、全ての企業にハラスメント防止措置が義務付けられました。適切な対応を怠った場合は行政指導や企業名公表のリスクがあります。

ハラスメントやメンタルヘルス不調は、職場環境の悪化や生産性の低下、離職率の上昇などさまざまな影響をおよぼします。相談窓口の設置や管理職への研修の実施、産業医との連携などで、ハラスメントやメンタルヘルスの問題に早期に対応できる体制を整えることが大切です。

労務管理に関する相談先

労務管理に関する相談先としては、主に以下の3つが挙げられます。

  • 社会保険労務士
  • 弁護士
  • ハローワーク

相談したい内容や実情にあわせて最適な相談先を選ぶことが大切です。

社会保険労務士

社会保険労務士は前述のとおり、労働や社会保険に関する専門知識を有しており、労務管理に関する課題に対して適切なアドバイスがもらえます。社会保険労務士と顧問契約できれば、法改正への対応や労働基準監督署への対応などもスムーズに進められます。

このほか、雇用調整助成金などの申請や労働条件の見直し、各種規定の策定などの支援も依頼することができます。労務管理の制度運用や業務改善などを相談したいときに問い合わせてみるとよいでしょう。

弁護士

弁護士労働紛争や法的リスクの高いトラブルの相談先となってくれます。労働者とのトラブルや不当解雇、ハラスメントなどが発生した際は、法律に基づき適切に対応しなければなりません。弁護士は法解釈や裁判所での代理業務など、法的なサポートをしてくれます。

また、コンプライアンス体制の構築や個人情報保護など、リスク管理に関する相談も受け付けてくれます。リスク管理を徹底したい際に相談すると、有益な回答を得られるでしょう。

ハローワーク

ハローワークは厚生労働省が運営する公的機関として、企業の雇用に関するさまざまなサービスを無料で提供しています。求人募集の支援や面接会場の提供、雇用に関する各種助成金の申請サポートなどが受けられます。

また、障害者雇用や外国人雇用に関する相談や職業訓練制度の活用などの支援が受けられるのも特徴です。相談したいことがある際は企業の地域を管轄するハローワークを確認して訪問します。

ムートン

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参考文献

e-Gov法令検索「労働基準法」

e-Gov法令検索「労働安全衛生法」

e-Gov法令検索「労働契約法」

e-Gov法令検索「厚生年金保険法」

監修

アバター画像
涌井好文 社会保険労務士(神奈川県会横浜北支部)
就業規則作成、社会保険手続き、給与計算、記事執筆及び監修