人材紹介契約とは?
職業安定法上の注意点・ひな形・規定すべき条項などを解説!
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※この記事は、2022年5月17日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
人材紹介契約とは
「人材紹介契約」とは、人材紹介会社が他の企業に対して人材を紹介し、正式に雇用契約が締結されたことを条件として報酬を受け取る契約です。
人材紹介契約を締結する場合には、職業安定法に違反した内容になっていないか、十分注意する必要があります。(職業安定法に定められたルールの詳細については、後述の「人材紹介会社が遵守すべき職業安定法上のルール」で解説します。)
なお人材紹介契約は、民法上、準委任契約に該当します。
人材紹介の契約業務に携わっている方は、以下の資料を活用して業務を効率化してみてください。
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人材紹介業の仕組み
人材紹介会社は、運営する求人サイトの登録者を募ったり、転職勧誘の電話をかけたりして、求職者をリスト化します。
その一方で人材紹介会社は、求人を開始したい企業と人材紹介契約を締結した上で、募集要項などを人材紹介会社の求人サイトに掲載する・個別にヘッドハンティングをするなどを行い、企業と求職者のマッチングを試みます。
企業と求職者は、リクルーターの仲介の下で採用面接などを行います。その結果、求職者が企業へ正式に雇用されれば、人材を雇用できた企業から人材紹介会社に報酬が支払われるという仕組みです。
人材紹介と労働者派遣(人材派遣)の違い
企業に対して人材を紹介・融通するという点では、人材紹介は「労働者派遣」と共通する部分があります。しかし、人材紹介と労働者派遣は、法律上の位置づけが全く異なるので、注意が必要です。
人材紹介の場合、人材紹介会社はあくまでも、企業と求職者の間を「仲介」する立場に過ぎません。
これに対して労働者派遣の場合、派遣元会社は、自社で雇用する従業員を派遣先に紹介します。実際に派遣先で働くことになっても、従業員と派遣元会社の雇用関係は維持され、派遣先に雇用されるわけではない点が、人材紹介との大きな違いです。
人材紹介契約と労働者派遣契約の違い
人材紹介契約 | 人材の紹介を行う内容の契約 雇用契約:人材と正式雇用を決めた企業の間で締結(人材紹介会社と人材の間に雇用契約はない) |
労働者派遣契約 | 人材の派遣を行う内容の契約 雇用契約:人材と派遣元会社の間で締結(派遣先会社と人材の間に雇用契約はない) |
人材紹介契約だけでなく労働者派遣契約についても検討している方は、以下の資料をダウンロードして活用してみてください。
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人材紹介会社が遵守すべき職業安定法上の注意点|禁止事項を解説
人材紹介会社は、適法に人材紹介事業を行うため、職業安定法のルールを遵守する必要があります。
以下、職業安定法で定められた主要なルールを解説します。
有料職業紹介事業の許可を厚生労働省から得る必要がある
企業から報酬を受け取って人材を紹介するという「有料職業紹介事業(人材紹介事業)」を行う場合、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません(職業安定法30条1項)。
有料職業紹介事業の許可を受けるためには、厚生労働省が定める許可基準の要件を満たした上で申請を行うことが必要です。許可基準の詳細は、厚生労働省のウェブサイトで確認できます。
✅厚生労働省ウェブサイト「令和4年4月1日から適用される職業紹介事業の業務運営要領 第3 許可基準」 |
無許可で有料職業紹介事業を行った場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されます(職業安定法64条1号)。
名義貸しは禁止されている
有料職業紹介事業者は、自己の名義を他人に貸して、有料の職業紹介事業を行わせてはなりません(職業安定法32条の10)。有料職業紹介事業の許可は、事業者ごとに審査を行い判断されるため、他事業者への名義貸しが禁止されるのは当然と言えます。
有料職業紹介事業者が名義貸しを行った場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されます(職業安定法64条3号)。
手数料・紹介料に関する規制を守る
有料職業紹介事業者が得る手数料については、以下の規制が設けられています(職業安定法32条の3)。
✅ 事前届出制 6か月間の賃金総額の11%(税込)※を上回る手数料を受け取る場合、厚生労働大臣への届出が必要です(職業安定法32条の3第1項、職業安定法施行規則20条1項、別表)。 ※受付手数料として、別途1件当たり710円(免税事業者は660円)は受け取り可能 ✅ 求職者からの手数料徴収は禁止 企業(求人募集をする者)ではなく、求職者側から手数料を収受することは、以下の職業を除いて禁止されます(職業安定法32条の3第2項)。 ・芸能家 ・モデル ・科学技術者 ・経営管理者 ・熟練技能者(職業能力開発促進法44条1項に規定された技能を保有・活用して業務を行う者) |
手数料に関する規制に違反した場合、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科されます(職業安定法65条2号)。
紹介が禁止されている職種の紹介はできない
港湾運送業務と建設業務に関する職種については、有料職業紹介事業の許可に基づく紹介が禁止されています(職業安定法32条の11第1項)。
また、それ以外の職種であっても、厚生労働大臣に届け出た取扱職種の範囲を超える場合、求職者に対する紹介は認められません(同法32条の12第1項)。
紹介禁止規制に違反した場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されます(職業安定法64条1号、4号)。
「就職お祝い金」の支払は禁止されている
「就職お祝い金」とは、転職が決まった求職者に対して、人材紹介会社が支払うお祝い金等の金銭です。2021年4月1日以降、職業安定法に基づく指針の改正により、人材紹介会社による就職お祝い金の支給は禁止されています。
指針に違反して就職お祝い金を支給した事業者は、厚生労働大臣の指導・助言を受ける可能性があります(職業安定法48条の2)。ただし、罰則規定は設けられていません。
職業紹介責任者を設置しなければならない
有料職業紹介事業者は、事業の統括管理や従業員教育を行わせるため、許可基準に適合する能力を有する「職業紹介責任者」を設置しなければなりません(職業安定法32条の14)。
✅厚生労働省ウェブサイト「令和4年4月1日から適用される職業紹介事業の業務運営要領 第3 許可基準」 |
職業紹介責任者は、厚生労働大臣の指定する機関が実施する講習を、5年ごとに受講する必要があります(職業安定法施行規則24条の6第2項1号)。
✅厚生労働省ウェブサイト「職業紹介責任者講習の実施機関等について」 |
職業紹介責任者の設置義務に違反した場合、「30万円以下の罰金」が科されます(職業安定法66条5号)。
人材紹介契約書に規定すべき主な条項|紹介料の計算方法などを解説
人材紹介事業(有料職業紹介事業)を行うに当たっては、求人をしたい企業との間で人材紹介契約を締結することになります。人材紹介契約に規定すべき主な事項は、以下のとおりです。
✅委託業務(人材紹介業務)の内容 ✅人材紹介手数料の計算方法 ✅人材紹介手数料の発生条件 ✅短期間で退職した場合の手数料返還 ✅直接取引の禁止 ✅損害賠償 ✅秘密保持 ✅反社会的勢力の排除 ✅契約の解除 ✅準拠法・合意管轄 ✅職業安定法上明示が必要な事項 |
以下、それぞれ詳しく解説します。
人材紹介契約書を作成しようとしているものの、どのように作ればよいか分からず困っている方は、以下のひな形をダウンロードして活用してみてください。
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業務委託(人材紹介業務)の内容
求人をしたい企業が人材紹介会社に対して、人材紹介業務を委託する旨を規定します。
なお、具体的な採用条件については、個別の求人依頼の際に指定するケースが大半です。そのため、人材紹介契約においては、「(求人をしたい企業が)別途指定する採用条件を満たす人材」などと抽象的に規定しておきます。
人材紹介手数料の計算方法
人材紹介業務の手数料は、6か月間の賃金総額の11%(税込)以下(受付手数料として、別途1件当たり710円(免税事業者は660円)は受け取り可能)とするか、又は厚生労働大臣に届け出た金額の範囲内とする必要があります。
※実際の手数料額は、理論年収の27.5~38.5%(税込)程度が標準的です(厚生労働大臣への届出が必要)。
人材紹介手数料の発生条件
人材紹介の手数料は、人材紹介を通じて求職者が企業に雇用された時点で発生する旨を規定しておきます。
なお、人材紹介会社による紹介後、一度採用が破談になったものの、別のルートから同じ企業に採用されるケースがあります。
紹介から採用までの期間が短い場合、人材紹介会社による紹介が採用に寄与していると考えられます。そのため、求職者の紹介から一定期間経過後に同じ企業に雇用された場合には、手数料が発生する旨を人材紹介契約に定めるケースが多いです。これを「オーナーシップ」と言います。
オーナーシップの有効期間は、紹介後1年間程度とするのが標準的です。
短期間で退職した場合の手数料返還
紹介先の企業に採用された求職者が短期間で退職してしまった場合、フィットする人材を探してこられなかったということで、人材紹介会社の手数料が減額・返還となる旨を定めることがあります。
減額・返還の対象期間や返還率はケースバイケースですが、おおむね3か月から6か月程度の減額・返還期間が設定され、退職時期によって返還率が変動する形とするケースが多いです。
(例) 雇用開始後1か月以内に退職した場合:手数料の70%を返還 雇用開始後1か月超3か月以内に退職した場合:手数料の50%を返還 雇用開始後3か月超6か月以内に退職した場合:手数料の30%を返還 |
直接取引の禁止
人材紹介会社としては、紹介先の企業が人材紹介会社を通さずに求職者を採用し、手数料の支払を免れようとすることを防ぐ必要があります。そのため、企業が紹介を受けた求職者に直接連絡することを禁止する規定を設けるのが一般的です。
直接取引の禁止期間は、1年程度が標準的となっています。
人材紹介契約書の作成を担当しているものの、どんな条文を記載すればよいか分からず困っている方は、以下のひな形を活用してみてください。
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損害賠償
いずれかの当事者の契約違反により、相手方に損害が発生した場合の賠償に関しても、念のため定めておきましょう。
損害賠償の範囲の定め方としては、以下のパターンが考えられます。
- 損害賠償の範囲の定め方
-
✅ 民法の原則どおりとする場合
→「相当因果関係の範囲内で損害を賠償する」など✅ 民法の原則よりも範囲を広げる場合
→「一切の損害を賠償する」など✅ 民法の原則よりも範囲を狭くする場合
→「直接発生した損害に限り賠償する」、「損害賠償の上限額を定める」など
秘密保持
企業と人材紹介会社の間では、営業秘密に当たる情報などをやり取りしますので、秘密保持に関するルールを明記しておくことも大切です。
具体的には、以下の事項を契約中に定めておきましょう。
✅ 秘密情報の定義 ✅ 第三者に対する秘密情報の開示・漏えい等を原則禁止する旨 ✅ 第三者に対する開示を例外的に認める場合の要件 ✅ 秘密情報の目的外利用の禁止 ✅ 契約終了時の秘密情報の破棄・返還 ✅ 秘密情報の漏えい等が発生した際の対応 など |
反社会的勢力の排除
コンプライアンスの観点から、各当事者が反社会的勢力に該当しないことなどを、人材紹介契約に規定しておくのが一般的です。
反社会的勢力に関する条項としては、主に以下の内容を定めます。
✅ 当事者(役員等を含む。以下同じ)が暴力団員等に該当しないことの表明・保証 ✅ 暴力的な言動等をしないことの表明・保証 ✅ 相手方が反社条項に違反した場合、直ちに契約を無催告解除できる旨 ✅ 反社条項違反を理由に契約を解除された当事者は、相手方に対して損害賠償等を請求できない旨 ✅ 反社条項違反を理由に契約を解除した当事者は、相手方に対して損害全額の賠償を請求できる旨 |
契約の解除
相手方当事者による契約違反が発生した際、人材紹介契約を終了させられるように、解除規定を設けておきましょう。
人材紹介契約の解除事由としては、以下の例が挙げられます。
相手方当事者による契約違反が発生した際、人材紹介契約を終了させられるように、解除規定を設けておきましょう。 人材紹介契約の解除事由としては、以下の例が挙げられます。 |
準拠法・合意管轄
人材紹介契約を締結した企業が外資系であるなど、海外法人にも人材紹介の結果が波及する可能性がある場合には、準拠法を定めておきましょう。日本で行われる人材紹介に関する契約であれば、準拠法は日本法とするのが原則です。
また、万が一人材紹介契約に関して紛争が発生した場合に備えて、あらかじめ第一審の専属的合意管轄裁判所を定めておきましょう。専属的合意管轄裁判所は、自社の事業場の所在地からアクセスのよい場所とすることが望ましいです。
職業安定法上明示が必要な事項
職業安定法上、人材紹介会社はクライアントである企業(及び求職者)に対して、以下の事項を明示することが義務付けられています(職業安定法32条の13、同法施行規則24条の5第1項)。
✅ 取扱職種の範囲等 ✅ 手数料に関する事項 ✅ 苦情の処理に関する事項 ✅ 求人者の情報及び求職者の個人情報の取扱いに関する事項 ✅ 返戻金制度に関する事項 |
企業に対する明示は、人材紹介契約の締結によって兼ねることができるため、契約中に上記の事項を漏れなく規定しておきましょう。
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