商標使用許諾契約(商標ライセンス契約)とは?
商標法のルール・規定すべき主な条項などを解説!
- この記事のまとめ
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「商標使用許諾契約(商標ライセンス契約)」とは、商標権をもつ者が第三者に対して、
✅ 自分たちが保有する商標の使用を許諾して、使用料を受け取る契約
✅ 禁止権(自分たちが保有する商標と類似点のある商標を他人が使用していた場合に、その商標の使用を排除できる権利)を行使しないことを約束する契約
です。登録商標(商標登録されている商標。商標権は特許庁への申請後、登録されてはじめて発生)のブランド力を活用することや、商標に関するトラブルを未然に防ぐことなどを目的として締結されます。
商標ライセンス契約を締結する際には、取引の実情に合わせて必要な事項を盛り込むことが大切です。商標法に基づくルールの内容を十分に踏まえた上で、商標ライセンス契約の内容を慎重にチェックしてください。
今回は商標使用許諾契約(商標ライセンス契約)について、締結の目的・商標法のルール・規定すべき主な条項などを解説します。
※この記事は、2022年6月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
商標使用許諾契約(商標ライセンス契約)とは
「商標使用許諾契約(商標ライセンス契約)」とは、商標権をもつ者が第三者に対して、
- 自分たちが保有する商標の使用を許諾して、使用料を受け取る契約
- 禁止権(自分たちが保有する商標と類似点のある商標を他人が使用していた場合に、その商標の使用を排除できる権利)を行使しないことを約束する契約
です。
なお、商標の使用を許諾する側/される側はそれぞれ、ビジネス上、以下のように呼ばれます。
- 商標の使用を許諾する側:ライセンサー(又は、商標権者)
- 商標の使用を許諾してもらう側:ライセンシー
本記事でも、この表現を用いていきます。
商標ライセンス契約を締結する主な目的
商標ライセンス契約は、ライセンシーが登録商標のブランド力を活用することや、商標に関するトラブルを未然に防ぐことなどを目的として締結されます。
- 登録商標とは
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商標のうち、特許庁に申請を行い、商標登録が認められた商標のこと
登録商標のブランド力を活用する
登録商標が社会的に周知されており、ブランド力を有する場合には、その商標を付して商品やサービスを販売すれば安定的な収益が期待できます。そのため、ライセンシーの側から商標権者に対して、商標使用の許諾を依頼するケースが多いです。
商標権者の側としても、契約締結のみで商標の使用料を得ることができるため、使用許諾に応じる場合があります。
商標に関するトラブルを未然に防止する
登録商標の使用をしたいわけではない(意図してはいない)ものの、登録商標と似た部分がある商標を使用する場合には、商標権の侵害と主張されるなど、後に商標権者との間でトラブルになるかもしれません。
そこで、対象となる商標について、商標権者に禁止権(自分たちが保有する商標と類似点のある商標を他人が使用していた場合に、その商標の使用を排除できる権利。詳しくは、「禁止権」にて後述)を行使しないことを約束してもらい、トラブルを未然に防ぐ目的で商標ライセンス契約が締結されることがあります。
商標権とは
商標ライセンス契約を理解する前提として、「商標権」とは何かについて基本的な事項を確認しておきましょう。
「商標」の定義・具体例
商標とは、「事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)」のことです。(特許庁「商標制度の概要」)
商標法2条1項により、「商標」は以下のとおり定義されています。
(定義等)
「商標法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第2条 この法律で「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
(1) 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
(2) 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
例えば以下の標章のうち、商品やサービス(役務)に付されるものが「商標」に当たります。
- 商品やサービスの名称
- ロゴ
- マーク
- 商品やサービスを象徴する音声
など
商標権は設定登録によって発生
商標権は、商標を生み出した時点で自然発生するわけではなく、特許庁に申請をし、登録が認められること(=設定登録)によって発生します(商標法18条1項)。
特許庁の審査官による審査において、拒絶査定事由(商標権を付与すべきでない何らかの理由)が特になければ、商標登録が認められます(商標法16条)。
商標権の効力
商標権が発生すると、以下の2つの権利を行使できるようになります。
- 専用権
- 禁止権
専用権
商標権者は、指定商品又は指定役務について、登録商標を独占的に使用する権利を専有します(商標法25条)。これを「専用権」と言います。
より端的に言えば、専用権とは「登録商標そのものを独占的に使用できる権利」です。ただし、あくまでも登録時に設定された「指定商品又は指定役務」の範囲内でのみ、専用権が発生することに注意しましょう。
禁止権
禁止権とは、自分たちの登録商標と類似点のある商標を他人が使用していた場合に、商標権の侵害を理由として、その商標の使用を排除できる権利です。
具体的には、以下の行為が商標権侵害とみなされます(商標法37条)。
- 指定商品・指定役務についての、登録商標と類似する商標の使用(「同一+類似」型)
- 指定商品・指定役務に類似する商品・役務についての、登録商標の使用(「類似+同一」型)
- 指定商品・指定役務に類似する商品・役務についての、登録商標と類似する商標の使用(「類似+類似」型)
など
2種類の商標ライセンス契約
商標権の効力に専用権と禁止権の2つがあることに対応して、商標ライセンス契約も以下の2種類に分類できます。
- 使用許諾型
→商標権者がライセンシーに対して、登録商標そのものの利用を許諾します。 - 禁止権不行使型
→ライセンシーが使用を予定している商標について、(仮に登録商標の禁止権の範囲に含まれているとしても)商標権者が禁止権を行使しないことを約束します。
商標法に基づく専用使用権と通常使用権について
商標ライセンス契約によって登録商標の使用を許諾する場合、ライセンシーには
- 「専用使用権」
- 「通常使用権」
専用使用権とは
「専用使用権」とは、商標権者を含めた他人の使用を排除し、契約上で指定した商品・役務において登録商標を独占的に使用できる権利です。専用使用権が設定された場合、その範囲内では、商標権者さえも登録商標を使用できなくなります(商標法25条ただし書)。
専用使用権は強力な権利であるがゆえに、契約書上で専用施用権を設定するだけでは効力が生じません。商標権者・ライセンシー間で、専用使用権を認める旨の契約を締結したあと、特許庁に専用使用権設定契約証書を添付して申請を行い、設定登録がなされて初めて、効力を発揮します(商標法30条4項、特許法98条1項2号)。
通常使用権とは
「通常使用権」とは、指定商品・指定役務について登録商標を使用できる権利です。
専用使用権とは異なり、通常使用権を設定した商標権者は、引き続き登録商標を使用できます。また、通常使用権は独占的に与えられるとは限らず、複数のライセンシーに対して設定することも可能です。
通常使用権については、商標権者・ライセンシー間で、通常使用権を認める旨の契約が締結された時点で効力を発揮し、特許庁への設定登録は必要ありません(商標法31条4項、5項)。
商標使用許諾契約書(商標ライセンス契約)に定めるべき主な条項
商標ライセンス契約に定めるべき事項は、以下のとおり多岐にわたります。
- 登録商標・使用商標の表示
- 使用権の許諾内容
- 使用権の登録の有無・方法
- 商標使用料(ロイヤリティ)に関する事項
- 商標使用に当たっての遵守事項
- 使用許諾期間・更新の手続
- 契約の解約に関する事項
- 契約の解除事由
- 使用許諾期間終了後の措置
- 第三者によるクレームへの対応に関する事項
- 保証の否認
- 秘密保持
- 損害賠償
- 反社会的勢力の排除
- 合意管轄・準拠法
各条項のポイントをおさえた上で、契約交渉を通じて適切な内容にご調整ください。
登録商標・使用商標の表示
使用許諾の対象となる登録商標を特定・明示します。
なお禁止権不行使型の場合は、登録商標と使用商標が異なるケースが多いので、両方を明示しておきましょう。
使用権の許諾内容
使用許諾型の場合は、登録商標の使用を許諾する旨を記載します。
禁止権不行使型の場合は、登録商標に係る禁止権を行使しない旨を記載します。
また使用許諾型では、以下の事項についても記載しておきましょう。
- 使用許諾の範囲(どの地域・店舗等で販売される、どのような商品・サービスに商標を使用してよいか)
- 専用使用権か通常使用権か
など
使用権の登録の有無・方法
使用許諾型の場合、使用権について商標法上の設定登録を行うかどうかを定めます。
専用使用権であれば、設定登録は必須です(商標法30条4項、特許法98条1項2号)。これに対して通常使用権については、第三者対抗要件を備える必要がない限り、設定登録は任意となります。
- 第三者対抗要件とは
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商標権などの、権利関係に変更があった事実を第三者に主張するための要件。
※通常使用権の場合、特許庁へ設定登録を行うことで、商標権者以外の第三者との間で訴訟などに発展した場合に、自分が正当な権利者であることを主張できる。
いずれにしても、使用権の設定登録を行う場合は、併せてその手続も定めておきましょう。
商標使用料(ロイヤリティ)に関する事項
商標使用料(ロイヤリティ)に関する契約交渉のポイントとしては、以下の各点が挙げられます。
商標使用料(ロイヤリティ)の計算方法
商標使用料の主な計算方法は、以下のとおりです。
✅ ランニング・ロイヤリティ(出来高払方式) 売上や販売数量などの実績値に、一定のライセンス料率を乗じて商標使用料額を決定する方式です。ライセンス料率は交渉次第で決まりますが、標準的には4~10%程度です。 ✅ ランプサム・ペイメント(固定額払方式) 売上や販売数量などにかかわらず、契約期間ごとに固定額の商標使用料を支払う方式です。 ✅ イニシャル・ペイメント+ランニング・ロイヤリティ 上記の2つを組み合わせた方式です。最初に固定額の商標使用料を支払い、後に売上や販売数量などの実績値に応じた金額の精算を行います。 純粋なランニング・ロイヤリティの場合よりも、実績値に応じた商標使用料率は低く抑えられるのが一般的です。 |
商標権者としては、ライセンシーの売上等が期待できるのであれば出来高払方式、不透明であれば固定額払方式を採用することが望ましいでしょう。
反対にライセンシーとしては、売上等が期待できる場合は固定額払方式を採用した方が、手元に残る利益は多くなります。出来高払方式を採用すると、売上等が芳しくない場合には商標使用料を低額に抑えられる一方で、好調な場合は高額の商標使用料を支払わなければならない点がデメリットです。
商標使用料(ロイヤリティ)の最低保証額
出来高払方式が採用されている場合(固定額払方式と組み合わせる場合を含む)には、商標使用料の最低保証額を設定する場合があります。
最低保証額の設定は、商標権者にとって有利に働きます。売上等が低調な場合における商標使用料を増額し、安定的な収入が見込めるようになるからです。
ライセンシーとしては、最低保証額を設定しないように契約交渉を試みることも考えられますが、最終的には当事者間のパワーバランスで決まることが多いでしょう。
その他
商標使用料に関しては、上記以外に以下の事項を取り決めておきましょう。
- 商標使用料の計算期間
- 商標使用料の支払方法
- 商標使用料の支払時期
など
商標使用に当たっての遵守事項
ライセンシーが商標使用に当たって遵守すべき事項として、以下の内容を定めておきましょう。
- 商標の表示方法(表示箇所・大きさ・フォント・色など)
- 商標を表示する商品の品質管理基準
- ブランドイメージを毀損する行為等の禁止
など
使用許諾期間・更新の手続
登録商標の使用を許諾する期間と、使用許諾期間の更新手続についても取り決めます。更新手続については、当事者の個別合意による場合と、原則自動更新とする場合の2とおりが考えられます。
なお、使用許諾期間中に商標権の存続期間(10年。商標法19条1項)が満了する場合には、商標権者による更新登録の申請についても定めておきましょう。
契約の解約に関する事項
契約の解約については、期間満了時の解約と中途解約の2パターンがあります。
原則自動更新とする場合には、期間満了時の解約について手続を定めることが必要です。一般的には、使用許諾期間満了前の一定期間に、いずれかの当事者から相手方に対して解約申入れを行うべき旨が定められます。
中途解約については一切認めないか、又は認めた上で違約金の精算を行うかのいずれかとする場合が多いです。
契約の解除事由
相手方の契約違反等が発生した場合に備えて、契約の解除事由も定めておきましょう。商標ライセンス契約では、主に以下の解除事由が想定されます。
- 契約違反が催告から一定期間を経ても是正されない場合
- 重大な契約違反が発生した場合
- 当事者について倒産手続が開始した場合
- 当事者について民事保全手続又は強制執行手続が開始した場合
- 当事者が解散した場合
- 当事者の信用状況が著しく悪化した場合
など
使用許諾期間終了後の措置
使用許諾期間が終了した際の措置として、以下の内容を定めておきましょう。
- 登録商標が付された商品やサービスの販売を終了すること
- 登録商標に関する資料等を返還・破棄すること
- 商標ライセンス契約が終了したことにつき、プレスリリースなどで報告すること
など
第三者によるクレームへの対応に関する事項
ライセンシーによる登録商標の使用に関して、第三者からクレームが寄せられる事態も想定されます。商標ライセンス契約では、第三者によるクレームへの対応に関する事項として、以下の内容を定めておきましょう。
- クレームを受けた際の商標権者に対する報告等
- クレーム対応の責任者(ライセンシー自身の責任で対応すべきとされることが多い)
- クレーム対応の費用分担(ライセンシー負担とされることが多い)
など
保証の否認
登録異議の申立て(商標法43条の2)又は無効審判請求(商標法46条)により、登録商標が取消し又は無効となる可能性がないわけではありません。
そのため商標権者としては、商標の有効性については一切の保証を提供しない旨を、念のため商標ライセンス契約に定めることが望ましいでしょう。
秘密保持
営業秘密などの流出を防止するため、商標権者とライセンシーの間でやり取りされる秘密情報につき、以下の秘密保持規定を定めておきましょう。
- 秘密情報の定義
- 第三者に対する秘密情報の開示・漏えい等を原則禁止する旨
- 第三者に対する開示を例外的に認める場合の要件
- 秘密情報の目的外利用の禁止
- 契約終了時の秘密情報の破棄・返還
- 秘密情報の漏えい等が発生した際の対応
など
損害賠償
当事者の契約違反によって、相手方に発生した損害についての賠償ルールを定めることも重要です。民法の規定をベースとするか、当事者のいずれかにとって有利な方向に調整するかは、契約交渉次第となります。
- 民法の原則どおりとする場合
→「相当因果関係の範囲内で損害を賠償する」など - 民法の原則よりも範囲を広げる場合
→「一切の損害を賠償する」など - 民法の原則よりも範囲を狭くする場合
→「直接発生した損害に限り賠償する」、損害賠償の上限額を定めるなど
反社会的勢力の排除
コンプライアンスの観点から、反社会的勢力の排除に関する条項(反社条項)として、以下の内容を定めておきましょう。
- 当事者(役員等を含む。以下同じ)が暴力団員等に該当しないことの表明・保証
- 暴力的な言動等をしないことの表明・保証
- 相手方が反社条項に違反した場合、直ちに契約を無催告解除できる旨
- 反社条項違反を理由に契約を解除された当事者は、相手方に対して損害賠償等を請求できない旨
- 反社条項違反を理由に契約を解除した当事者は、相手方に対して損害全額の賠償を請求できる旨
合意管轄・準拠法
商標権者とライセンシーの間で紛争が発生した場合に備えて、第一審の合意管轄裁判所を定めておきましょう。
また、商標権者又はライセンシーが海外企業の場合は、契約に適用される準拠法も定める必要があります。
この記事のまとめ
商標ライセンス契約の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!