物流業界の2024年問題とは?
取引環境と長時間労働の改善による
物流業界への影響・企業がとるべき対策を
分かりやすく解説!

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三浦法律事務所弁護士
慶應義塾大学法科大学院法務研究科中退 2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2016年~18年三宅・今井・池田法律事務所において倒産・事業再生や一般企業法務の経験を積み、2019年1月より現職。
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この記事のまとめ

物流業界の2024年問題とは、2024年4月1日から適用される働き方改革関連法により、物流業界に生じる影響のことです。同法の施行によって、ドライバーの時間外労働時間上限規制が設けられ、これに伴い、
・ 運送会社の荷物量が減少する
・ 配送運賃が値上げされる
・ ドライバーの賃金が減少し、離職などにつながる
などの問題が生じるとされています。

このような時間外労働の上限規制は、元々、物流業界では、他の産業と比べて労働時間が長い一方で賃金が低水準にあることから設けられたものです。しかし、このような規制によって、運送会社としては、業務の効率化や勤務体制の見直しを迫られるのもの事実です。

この記事では、物流業界に生じる2024年問題とこれに対して企業がとるべき対策について、解説します。

ヒー

2024年問題…。ノストラダムスの大予言のような言葉ですが、2024年になると、物流業界に何かが起こるということでしょうか?

ムートン

すごく簡単にいうと、物流業界の働き方に関する規制が強化された結果、物流会社や物流会社で働くドライバーの方、ひいては一般消費者にさまざまな影響がでると予想されており、これを2024年問題といいます。

※この記事は、2023年10月1日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • 労基法…労働基準法案
  • 働き方改革関連法…働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律
  • 改善基準告示…自動車運転者の労働時間等の改善のための基準

物流業界の2024年問題とは

物流業界の2024年問題とは、働き方改革関連法によって、自動車運転業務の時間外労働時間を年間960時間までとする規制が設けられることによって、物流業界に生じるとされるさまざまな問題をいいます。

物流業界では、現在、人手不足が進んでおり、ドライバー1人当たりの時間外労働時間が長時間に及んでいます。

しかし、ドライバーの時間外労働時間に上限規制が設けられることによって、ドライバー1人当たりが運ぶ荷物の量が減ることになります。それに伴って、荷物1個当たりの配送運賃を上げなければ、運送会社の売上・利益が減少することが見込まれます。

このような配送運賃の値上げは、商品の値上げに転嫁されて、運送会社を利用する一般消費者の負担が増えることになりかねません。

さらに、時間外労働時間の上限規制が設けられることによって、これまで長時間労働を行って割増賃金を受け取っていたドライバーの賃金も減少することになります。賃金が減少すれば、モチベーションが低下したドライバーが離職して、さらなる人手不足が進むことも予想されます。

これらの問題が、物流業界の2024年問題といわれています。

物流業界の労働時間制限の背景・経緯

物流業界のドライバーは、全産業平均と比べて長時間労働、低賃金となっており、「2割長く、2割安い」職業といわれています。そのため、物流業界では、人手不足が厳しい状況です。

また、ドライバーの年齢も年々上昇し、中高年層の労働力への異存が加速しています。その他、物流業界においては、厚生労働省の平成28年賃金構造基本統計調査によれば、以下のような特徴があります。

物流業界の働き方をめぐる状況

労働時間:全職業平均より約1割~2割長い。
所定外労働時間:全職業平均の約2~3倍の長さ。
年間賃金:長い労働時間にもかかわらず、約1割~3割低い。
人手不足:有効求人倍率は全職業平均の約2倍。
高齢化:全職業平均より平均年齢が約3~17歳高い。
女性比率:全職業平均の1割未満。

参考元|国土交通省「自動車運送事業の働き方改革について」

このような状況から、物流業界の維持・発展には、ドライバーの労働条件を改善し、若年労働者を呼び込む対策が不可欠とされています。そこで、自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議が開催され、自動車運送事業(トラック・バス・タクシー事業)について、省庁横断的な検討を行い、長時間労働を是正するための環境を整備することが進められてきました。

また、2018年6月には、働き方改革関連法が成立しました。働き方改革関連法では、

  • 時間外労働時間の上限規制
  • 割増賃金の引き上げ
  • 勤務間インターバル制度の導入

など、従来の働き方を改革する制度が導入されました。

ムートン

このうち、時間外労働時間の上限規制は、大企業は2019年4月1日から施行、中小企業は2020年4月1日から施行されています。

しかし、物流業界においては、ドライバーによる長距離走行があり得ること、人手不足から上限規制への対応に時間が必要であることなどから、他の企業とは異なる上限規制が定められ、また適用も猶予されていました。

ムートン

しかし、2024年4月1日から物流業界にも、時間外労働時間の上限規制が適用されるため、それに伴い発生する問題を「2024年問題」と呼ぶようになりました。

法改正による物流業界への影響

影響1|物流業界の売上・利益の減少

ドライバーの時間外労働時間に上限が設けられることによって、これまで上限時間以上に働いていたドライバーについては、労働時間が減少することになります。ドライバーの労働時間が減少すれば、ドライバーの1人当たりが運送する荷物の数も減少することになって、ドライバー1人当たりの売上が減ってしまうことになります。

そうすると、運送会社としては、会社全体の売上・利益が減ってしまうことになります。

運送会社としては、不必要な労働時間を削減したり、業務効率を改善したりすることによって、ドライバーの労働時間を減らしつつも、運送数を減らさないようにしていくことが必要となります。

影響2|賃金の減少と人手不足の加速

先に述べたように、物流業界においてドライバーの賃金は高くなく、またその賃金は、長時間の時間外労働によって支えられています。

そのため、労働時間に上限が設けられることによって、ドライバーの賃金は減少することが見込まれます。元々、賃金水準が高くない業界であるため、さらに賃金が減少してしまうことによって、ドライバーの離職が加速してしまう可能性があります。そうすると、業界全体として、人手不足の負のスパイラルが生じてしまうおそれがあります。

運送会社としては、賃金の減少を最小限に抑えたり、ドライバーのモチベーションを維持できるような職場作りを行ったりする必要があります。

影響3|物流コストの上昇(消費者への価格転嫁)

会社全体の売上・利益が減少してしまうことによって、運送会社としては、荷物1個当たりの配送運賃を値上げしなければならなくなる可能性があります。このような配送運賃の値上げは、商品の値上げにつながり、一般消費者への価格転嫁となります。

昨今、既に燃料価格の高騰により配送運賃の値上げが進んでいますが、さらなる値上げにより一般消費者の家計への影響も避けられません。

働き方改革関連法の内容

働き方改革関連法とは

働き方改革関連法では、時間外労働時間の上限規制が導入されました。この規制については、大企業では2019年4月1日から、中小企業では2018年4月1日から施行されていました。

しかし、自動車運転の業務においては、異なる上限規制が定められ、またその適用も猶予されていました。

一般的な時間外労働の上限規制

そもそも労基法は、労働時間・休日について、以下のとおり定めています。

  • 労働時間:1日8時間・1週間40時間以内でなければならない(=法定労働時間
  • 休日:毎週1回以上または4週間に4日以上の休日を与えなければならない(=法定休日

法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合や法定休日に労働させる場合には、労基法36条に基づく労使協定(36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。

36協定で定める時間外労働時間の上限は、原則として1カ月45時間および年間360時間とされています。ただし、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、時間外労働は以下の上限までしか認められません。

特別条項により許容される時間外労働の上限

・時間外労働が年間720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計について、「2カ月平均」、「3カ月平均」、「4カ月平均」、「5カ月平均」、「6カ月平均」が全て1月当たり80時間以内
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6カ月まで

自動車運転業務の特則

時間外労働の上限規制の施行に当たっては、経過措置が設けられています。

自動車運転の業務」については、2024年3月31日まで猶予期間とされており、本記事執筆時点で、上限規制はまだ適用されていません。

しかし、2024年4月1日以降は、自動車運転の業務においても、時間外労働の上限規制が適用されます。ただし、その内容は、一般的な上限規制とは異なります。具体的には、以下のとおりです。

自動車運転の業務における時間外労働の上限

・時間外労働の上限が年間960時間以内
・時間外労働と休日労働の合計について、
  ・月100時間未満
  ・2~6カ月平均が全て1月当たり80時間以内
 とする規制は適用されない。
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6カ月までとする規制は適用されない。

対象となるのは、労基法9条にいう労働者であって、四輪以上の「自動車の運転の業務に主として従事する」者です(改善基準告示)。

ここにいう「自動車の運転の業務に主として従事する」か否かは、個別の事案の実態に応じて判断されます。実態として、物品・人を運搬するために自動車を運転する時間が現に労働時間の半分を超えており、かつ当該業務に従事数時間が年間総労働時間の半分を超えることが見込まれる場合には、該当すると考えられています。

そのため、運送会社における事務員や運行管理者などの自動車運転者以外は、上述する上限規制の対象ではなく、一般的な時間外労働時間の上限規制の対象となります。

ヒー

「物流会社だから、一律で全従業員に対して『自動車運転の業務における時間外労働の上限』が適用される」というわけではないんですね。

ムートン

そのとおりです。物流会社でも、「自動車の運転の業務に主として従事する者」にだけ適用されるのです。

【“一般的な規制”と“自動車運転の業務の規制”の違いまとめ】

上限規制に違反した場合の罰則

上限規制違反の罰則については、業界や企業問わず、一律で同じ内容が適用されます。

具体的には、事業者が、

  • 36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合
  • 36協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせた場合

などには、労基法32条違反となり、6カ月以下の懲役または30万円の罰金の処せられることになります(労基法119条1号)。

そのため、事業者としては、正しく36協定を締結し、労働者の労働時間を適正に管理することが必要です。

2024年問題に備え企業がとるべき対策

対策1|36協定の締結

法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合や法定休日に労働させる場合には、36協定の締結と届出が必要です。

そのため、自動車運転の業務に従事する労働者については、その上限規制に沿って、新たに36協定の締結を行う必要があります。

36協定の締結に当たっては、労働組合、または(労働組合が存しない場合には)労働者の過半数を代表する者の署名を得た上で、労働基準監督署への届出が必要です。

対策2|年間の時間外労働の確認

現在勤務しているドライバーの年間の時間外労働時間を集計して、確認する必要があります。もし、現時点において、年間の時間外労働時間が960時間を超えている場合には、現在の勤務状態が継続してしまうと、2024年4月1日以降、労基法違反となり罰則を受ける可能性があります。

そのため、ドライバーの年間時間外労働時間が960時間を超過している場合には、当該ドライバーには注意喚起した上で、会社としても、業務体制の見直し業務効率の改善を行うなどする必要があります。

対策3|労務管理の方法検討

労働時間の管理方法を見直すことも大切です。会社は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適切に記録する必要があります。

管理方法は、タイムカードやICカード、パソコンなどの客観的な記録によることが望ましいといえますが、ドライバーの職種の場合、ドライバーの自己申告に基づいている場合も多くあると思われます。自己申告制によらなければならない場合、ドライバーに対して、実態を正しく記録するように十分な説明を行い、また必要に応じて実態調査を実施する必要があります。

また、デジタコ(デジタルタコグラフ)と連携したり、デジタコの記録を活用したりできる、物流業界の勤務体系に対応した勤怠管理システムもありますので、このようなシステムを導入することも考えられます。

なお、働き方改革関連法の制定によって、2019年4月以降、管理監督者についても労働時間の把握が義務付けられています。この点にも注意しつつ、労働時間の管理方法を見直す必要があります。

対策4|雇用条件の再検討

ドライバーの離職防止するためには、これまでの賃金体系を見直すことが考えられます。

これまで、時間外労働に対する割増賃金の割合が多かった場合、割増賃金の減少が見込まれることを踏まえて、基本給の引き上げを行うことも考えられます。また、ドライバーの勤務成績を適切に評価して賞与を支給したり、昇給を実施したりすることによって、ドライバーのモチベーションを維持向上させ、会社への定着率を向上させることも考えられます。

もっとも、このような雇用条件や賃金体系の変更に当たっては、労働関係法令の手続きに従う必要があり、注意が必要です。具体的には、雇用条件や賃金体系を変更するためには、就業規則賃金規程の変更が必要になりますが、一方的な不利益変更は認められません。一部の労働者にとって不利益な変更となる場合には、変更内容を周知した上、労使でしっかりと話し合い、労働者から個別の同意を得るか、労働組合と合意を行う必要があります。

また、一度基本給を改定した場合には、再び基本給を下げることは不利益変更に当たりますので、引き上げを行う場合には、よくシミュレーションを行う必要があります。

ムートン

就業規則の変更に際しては、ぜひ以下の記事も参照ください。

対策5|働き方改革と人材の確保

ドライバーの離職を避けるために、魅力的な、働きがいのある職場づくりを考えることも必要です。

例えば、時間外労働時間が減少することによって、収入の減少を懸念するドライバーが現れることが予想されます。そこで、ドライバーによる副収入の途を確保するために、副業・兼業を解禁することが考えられます。ただし、副業・兼業を認める場合には、その手続きや労働時間の管理について、注意が必要です。

ムートン

副業・兼業の解禁に関しては、ぜひ以下の記事も参照ください。

また、昨今では、SDGs(持続可能な開発目標)への高まりも見られます。SGDs目標8においては、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)が掲げられています。働きがいのある職場づくりは、企業の魅力をアピールし、人材の確保にもつながります。

今後の物流業界の法的動向

物流業界では、昨今、燃料価格の高騰による売上・利益の減少といった問題が生じています。これに加えて、今回開設した2024年問題によって、さらに追い打ちを受ける可能性があります。

物流業界への働き方改革関連法の施行は、2024年4月1日からですが、早めに社内の勤務体制や雇用条件を見直し、業務の効率化を図ることによって、影響を最小限度にとどめていくことが大切です。

ムートン

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参考文献

厚生労働省ウェブサイト「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」

厚生労働省ウェブサイト「トラックドライバーの長時間労働改善等のノウハウをまとめました~「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」を公表~」

公益社団法人全日本トラック協会ウェブサイト「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」