損害賠償責任とは?
発生原因・事例・責任範囲・過失相殺・
金額を決める手続きなどを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

損害賠償責任」とは、法律関係の相手方に生じた損害を賠償する責任です。損害賠償は、金銭によって行うのが原則とされています。

損害賠償責任の基本的な発生原因は、債務不履行不法行為です。また、債務不履行と不法行為の特別類型として、民法その他の法律によってさまざまな損害賠償責任が定められています。

損害賠償責任の範囲は、債務不履行については「通常損害」と「特別損害」、不法行為については「相当因果関係」によって規定されますが、実質的にはどちらも同じです。
なお、契約に基づく損害賠償責任の範囲については、当事者の合意(=契約上の損害賠償条項)によって変更できます。

実際の損害賠償責任の額は、示談交渉・調停・労働審判・訴訟などの手続きによって定めます。なお、債権者側にも過失がある場合には、その程度を考慮して過失相殺が行われることがあります。

この記事では損害賠償責任について、発生原因・責任範囲・過失相殺・金額を決める手続きなどを解説します。

ヒー

損害賠償責任って契約書に必ず定めが置かれていると言ってもおかしくないですよね。どのくらい大事なものなのでしょうか?

ムートン

トラブルがあった際に想定の範囲内で解決するため、契約書で損害賠償責任について定めておくことは大切です。具体例なども確認していきましょう!

※この記事は、2024年4月9日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

損害賠償責任とは

損害賠償責任」とは、法律関係の相手方に生じた損害を賠償する責任です。債務不履行不法行為などによって他人に損害を与えた場合には、その損害を賠償しなければなりません。

損害賠償と損失補償の違い

損害賠償と同じように、発生した損害を補填するものとして「損失補償」があります。

損害賠償と損失補償の大きな違いは、原因となった行為が違法であるか、それとも適法であるかの点です。
損害賠償は、違法な行為によって生じた損害を賠償するものです。これに対して損失補償は、適法な行為によって生じた損失を補填するものになります。

また、損害賠償は私人(=民間の個人・法人)同士の法律関係にも、公権力と私人の間の法律関係にも発生しますが、損失補償は公権力と私人の間の法律関係に限って問題となります。

損害賠償は金銭によって行うのが原則

損害賠償は、別段の意思表示がないときは金銭をもってその額を定めるものとされています(民法417条・722条1項)。

例えば、交通事故によって他人の車を壊してしまったとします。
この場合、同等の車を調達して引き渡すのではなく、発生した損害の額を見積もった上で、金銭によって損害を賠償する義務を負います。

損害賠償責任の発生原因|主な種類や事例を紹介

損害賠償責任の基本的な発生原因は、債務不履行不法行為です。また、債務不履行と不法行為の特別類型として、民法その他の法律によってさまざまな損害賠償責任が定められています。

損害賠償責任の主な発生原因としては、以下の種類が挙げられます。それぞれ事例とともに解説します。

損害賠償責任の主な発生原因

① 債務不履行
② 役員等の株式会社に対する任務懈怠責任
③ 役員等の第三者に対する損害賠償責任
④ 不法行為
⑤ 責任無能力者の監督義務者等の責任
⑥ 使用者責任
⑦ 工作物責任
⑧ 動物占有者等の責任
⑨ 無権代理人の責任
⑩ 製造物責任

債務不履行

債務不履行」とは、契約によって約束した義務を果たさないことをいいます。

債務不履行によって損害を被った債権者は、原則として債務者に対し、その損害の賠償を請求できます。ただし、債務不履行が債務者の責めに帰することができない事由による場合は、損害賠償請求が認められません(民法415条1項)。

債務不履行の例

AはBから100万円を借りたが、返済期限が過ぎても100万円を返さなかった。

債務不履行については、以下の記事も併せてご参照ください。

役員等の株式会社に対する任務懈怠責任

株式会社の取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人が、その任務を怠ったときは、それによって株式会社に生じた損害を賠償しなければなりません(会社法423条1項)。これを「任務懈怠責任」といいます。

役員等による任務懈怠の例

A社の取締役であるBは、別の取締役であるCによる横領の事実を知りながら、取締役会への報告等をせずに見逃した。

役員等の第三者に対する損害賠償責任

株式会社の取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人が、その職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、それによって第三者に生じた損害を賠償しなければなりません(会社法429条1項)。

役員等が第三者に対して損害賠償責任を負う場合の例

A社の取締役であるBは、融資を申し込んだC銀行に対して意図的に虚偽の財務諸表を提出した。C銀行がA社に対して実行した融資は回収不能となり、C銀行に多額の損害が生じた。

なお、重要な文書への虚偽記載・記録などを行った役員等は、原則として第三者に対する損害賠償責任を負います。ただし、その者が当該行為について注意を怠らなかったことを証明したときは、例外的に責任を免れます(同条2項)。

不法行為

不法行為」とは、故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為です。
不法行為によって他人に損害を与えた者は、その損害を賠償しなければなりません(民法709条)。

不法行為の例

A社は、保有していたBの個人情報を不正に流出させ、Bに精神的損害を与えた。

不法行為については、以下の記事も併せてご参照ください。

責任無能力者の監督義務者等の責任

以下の場合においては、行為者は不法行為責任を負わないものとされています(民法712条、713条)。

  • 未成年者が自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとき
  • 不法行為の時点において、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にあったとき(故意または過失によって一時的にその状態を招いたときを除く)

上記の状態にある者を「責任無能力者」といいます。責任無能力者が不法行為責任を負わない場合には、その監督義務者(またはそれに代わって責任無能力者を監督する者)が、原則として被害者に生じた損害を賠償しなければなりません(民法714条)。

責任無能力者の監督義務者等が責任を負う場合の例

小学校において、8歳の生徒Aが別の生徒Bに対して暴力を振るい、ケガをさせた。
→Aの保護者(親)が、Bに対して損害賠償責任を負う(監督義務を怠らなかったとき、または監督義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときを除く)

ムートン

子どもが物を壊してしまった場合に、保護者が賠償することなどが典型的ですね。

使用者責任

ある事業のために他人を使用する者は、原則として、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(=使用者責任)。ただし、使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、例外的に責任を免れます(民法715条1項)。

使用者責任が生じる場合の例

A社の従業員Bが、別の従業員Cに対してパワハラを行い、精神的損害を与えた。
→Bに加えて、A社もCに対して損害賠償責任を負う

工作物責任

土地の工作物の設置または保存の瑕疵によって他人に損害が生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に生じた損害を賠償する責任を負います(=工作物責任)。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が工作物責任を負います(民法717条1項)。

工作物責任が生じる場合の例

A社が管理している建物の天井の一部が崩落し、真下にいて破片の直撃を受けたBがケガをした。

動物占有者等の責任

動物の占有者(または占有者に代わって動物を管理する者)は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負います。ただし、動物の種類および性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、例外的に責任を免れます(民法718条)。

動物占有者等の責任が生じる場合の例

Aが飼っている犬が、散歩中にBを噛んでケガをさせた。

無権代理人の責任

他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき(=代理権が認められるとき)、または本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負います(=無権代理人の責任。民法117条1項)。

ただし例外的に、以下の場合には無権代理人の責任が発生しません(同条2項)。

  • 無権代理人が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき
  • 無権代理人が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき(無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときを除く)
  • 無権代理人が行為能力の制限を受けていたとき
無権代理人の責任が生じる場合の例

Aが勝手にBの実印を持ち出して、Bの代理人としてB所有の不動産をCに売却した。
→AはCに対して無権代理人の責任を負う

製造物責任

製造業者等は、製造・加工・輸入・氏名等の表示をした製造物の欠陥によって、他人の生命・身体・財産を侵害したときは、それによって生じた損害を賠償しなければなりません(製造物責任法3条)。

製造物責任が生じる場合の例

A社が製造した健康食品を食べたことが原因で、Bがショック症状に陥った。

製造物責任については、以下の記事を併せてご参照ください。

損害賠償責任の範囲

損害賠償責任の範囲は、債務不履行については「通常損害」と「特別損害」、不法行為については「相当因果関係」によって規定されますが、実質的にはどちらも同じです。

債務不履行に基づく損害賠償責任の範囲

債務不履行に基づく損害賠償の対象は、原則として、それによって通常生ずべき損害(=通常損害)に限られます(民法416条1項)。

ただし、特別の事情によって生じた損害(=特別損害)についても、債務者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は損害賠償を請求可能です(同条2項)。

不法行為に基づく損害賠償責任の範囲

不法行為に基づく損害賠償の対象となるのは、不法行為との間で因果関係がある損害です。

因果関係の有無は、「不法行為がなければ損害が発生しなかった」という条件関係に加えて、行為者にどこまで責任を負わせるべきかという社会的評価を考慮して判断されます。
この考え方は「相当因果関係」と呼ばれるものです。

損害賠償責任の範囲は、契約上の損害賠償条項により変更可能

契約に基づく損害賠償責任の範囲については、当事者の合意(=契約上の損害賠償条項)によって変更できます

損害賠償条項については、以下の記事を併せてご参照ください。

損害賠償責任の過失相殺について

債務不履行や不法行為などに関して、損害賠償請求権を有する側(被害者側)にも過失がある場合には、その程度を考慮して過失相殺が行われることがあります(民法418条・722条2項)。

例えば、交通事故によって100万円の損害を受けたとします。
この場合において、自分と相手方の過失割合が2対8(自分20%、相手方80%)であれば、過失相殺によって相手方に対して請求できる損害賠償額は80万円となります。

損害賠償責任の内容を決定する主な手続き

実際の損害賠償責任の額は、以下の手続きなどによって定めます。

① 和解交渉(示談交渉)
② 民事調停
③ 労働審判
④ 訴訟

和解交渉(示談交渉)

和解交渉は、当事者間で話し合って損害賠償の金額や支払方法などを合意する手続きです。和解交渉がまとまれば、損害賠償に関するトラブルをスムーズに解決できます。

和解がまとまった場合には、その内容を和解合意書に記載して締結するのが一般的です。

民事調停

調停は、調停委員の仲介によって損害賠償の精算を話し合う法的手続きです。簡易裁判所で行われます。

参考:裁判所ウェブサイト「民事調停手続」

労働審判

労働審判は、労使紛争を迅速に解決することを目的とした法的手続きです。不当解雇やハラスメントなど、労働問題に関する損害賠償請求については、労働審判で争うことができます。

参考:裁判所ウェブサイト「労働審判手続」

訴訟

訴訟は、紛争の終局的解決を目的とした法的手続きです。裁判所の公開法廷において行われます。
訴訟の判決が確定すると既判力が生じ、紛争解決の結果を蒸し返すことができなくなります。

参考:裁判所ウェブサイト「民事訴訟」
ムートン

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