役員のコンプライアンスとは?
立場に応じた責務・違反時の責任・
違反防止の取り組み・研修などを
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

株式会社の役員等は、その立場に応じて、会社におけるコンプライアンス違反の防止に関する責務を負っています。

コンプライアンス違反が発生した場合は、会社に対する任務懈怠責任や第三者に対する損害賠償責任を負うことがあるほか、役員等から解任されることもあるので注意が必要です。

特に取締役には、現場に対する十分な理解をベースとして、社内全体におけるコンプライアンス体制の整備に取り組むことが求められます。取締役間の相互監視を強化することや、内部通報制度を導入・運用することなどは、コンプライアンス違反の防止につながる取り組みといえます。

この記事では役員のコンプライアンスについて、立場に応じた責務や違反時に役員が負う責任、コンプライアンス違反の防止に向けて取り組むべきことなどを解説します。

ヒー

従業員だけでなく、役員にも会社のコンプライアンス違反を自分ごととして考えてほしいです。

ムートン

立場や職務に応じて、他の役員や従業員による違反を防ぐ役割も求められます。役員としての責務と、違反を防ぐための取り組みを確認しましょう。

※この記事は、2026年10月29日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

役員のコンプライアンスとは

役員のコンプライアンスとは、法令をはじめとする社会的な規範を守り、適切に事業を運営するための職責を果たすことを意味します。役員は自ら違反行為をしないようにするだけでなく、その地位と職務に応じて、会社全体におけるコンプライアンス違反を防ぐ役割も担います。

コンプライアンスとは|役員・経営に関する注意点

「コンプライアンス」とは、企業などが事業活動を行うに当たり、法令などの社会規範を遵守することをいいます。法令のほか、官公庁のガイドラインや社内規程、契約や社会常識など、幅広い社会規範がコンプライアンスの対象となります。

特に近年では、SNSの普及やセキュリティに関する不祥事の続発などを背景として、コンプライアンスの重要度がいっそう高まっています。不祥事は企業としての信頼の失墜につながりかねないため、コンプライアンスを徹底して未然防止に努めることが重要です。

会社の役員等には、取締役・執行役・会計参与・監査役・会計監査人といった職責に応じて、それぞれの立場でコンプライアンスに貢献することが求められます。自らコンプライアンス違反を犯さないことだけでなく、他の役員等や従業員によるコンプライアンス違反を防ぐための監視や体制整備に取り組むことも期待されます。

役員によるコンプライアンス違反事例

役員によるコンプライアンス違反にはどのような事例があるのか、以下では2つの具体例をご紹介します。

商業施設の企画・設計などを手掛けるラックランドでは、前代表取締役社長によって、事業との関連性が認められない不適切な経費精算が継続的に行われていました。不適切な経費精算は、少なくとも2018年12月期以降の決算に影響を及ぼしていました。
また、前社長や管理担当取締役が重要な情報を社内や監査法人等に十分共有せず、取締役会などによる監視も機能していませんでした。
東京証券取引所は2024年7月、虚偽と認められる開示が行われたことを理由に、同社に改善報告書の提出を求めるとともに公表措置を行いました。

参考:日本取引所グループウェブサイト「改善報告書の徴求及び公表措置:(株)ラックランド」

旅行会社の旅工房では、2020年頃から2022年11月まで、複数の元取締役が関与して雇用調整助成金の不正受給が行われていました。また、不正受給した助成金に関する不適切な会計処理も行われていました。
東京証券取引所は2025年11月、内部管理体制等に問題があるとして、同社株式を特別注意銘柄に指定し、上場契約違約金960万円を請求することを決定しました。

参考:日本取引所グループウェブサイト「特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求:(株)旅工房」

会社のコンプライアンスに関する役員等の責務

株式会社における役員等や役員によって構成される機関は、その職責に応じて、会社のコンプライアンスに貢献することが求められます。次の役員等・機関が、会社のコンプライアンスに対して果たすべき責務を解説します。

① 取締役・取締役会・執行役
② 会計参与
③ 監査役・監査役会
④ 会計監査人

取締役・取締役会・執行役の責務

取締役には、自らが担当する業務を法令や社内規程などに従って適切に遂行するとともに、他の取締役による違反行為を防止するための監視を行うことが求められます。

特に取締役会設置会社では、取締役会が重要な業務執行を決定し、各取締役の職務執行を監督する役割を担います(会社法362条2項)。各取締役は、担当部門の状況を把握するだけでなく、取締役会での報告や審議などを通じて、他の部門で発生している問題も適切に把握・対応することが重要です。

また、一定の大会社等では、取締役会が法令遵守やリスク管理を含む内部統制システムの整備を決定しなければなりません(同条4項6号・5項など)。コンプライアンス違反を防止するためには、内部統制システムの運用状況を継続的に確認し、問題があれば改善を図る必要があります。

指名委員会等設置会社では、執行役が取締役会から委任された業務執行を担い、取締役会がその職務執行を監督します(会社法416条1項2号・418条)。

会計参与の責務

会計参与は、税理士・税理士法人または公認会計士・監査法人が就任し、取締役と共同して計算書類等を作成する役割を担います(会社法333条1項・374条)。

会計参与には、会計に関する専門的な知識を活かして、会社の財務状況や経営成績が計算書類に適正に反映されるようにする役割があります。
売上の架空計上や経費の隠蔽などの不適切な会計処理を防ぐため、必要に応じて会計帳簿や関連資料を確認し、取締役に説明を求めることが重要です。単に経営陣から提供された数字を転記するのではなく、専門家として適切なチェックを行い、計算書類の信頼性を確保することが求められます。

監査役・監査役会の責務

監査役は、取締役の職務の執行を監査します(会社法381条1項)。監査を通じて法令違反などの不正行為を発見・防止し、会社の適正な経営を確保する役割を担います。

監査役は、取締役や従業員に対して報告を求めることや、会社の業務・財産の状況を調査することができます(同条2項)。不正行為や重大な法令違反などを発見した場合は、取締役会等に報告する必要があり、状況に応じて違法行為の差止請求を行います(会社法382条・385条)。

監査役会設置会社では、監査役会が監査方針などを決定し、各監査役の活動を通じて組織的な監査を行います。

コンプライアンス違反を防ぐためには、監査役が経営陣からの報告だけに頼らず、必要に応じて現場の状況を確認し、問題の早期発見と是正につなげることが重要です。

会計監査人の責務

会計監査人は、公認会計士または監査法人が就任し、会社の計算書類などを監査する役割を担います(会社法337条・396条)。専門的かつ独立した立場から会計処理が適正に行われているかどうか検証し、財務情報の信頼性を確保することが求められます。

会計監査の過程で、取締役による不正行為や重大な法令・定款違反の事実を発見した場合は、遅滞なく監査役等に報告しなければなりません(会社法397条)。

会社のコンプライアンス違反について役員等が負う責任

会社においてコンプライアンス違反が発生すると、役員等は次の責任を負うことがあります。違反の内容や企業規模などによっては、大きな責任を負うこともあるので十分ご注意ください。

① 会社に対する任務懈怠責任
② 第三者に対する損害賠償責任
③ 役員等からの解任
④ 刑事責任

会社に対する任務懈怠責任

役員等は会社に対して善管注意義務を負い、それぞれの職務を適切に遂行することが求められます(会社法330条・402条3項、民法644条)。役員等が任務を怠ったことによって会社に損害が生じた場合は、その損害を賠償しなければなりません(会社法423条1項)。

例えば、取締役が違法な取引を主導して会社に損害を与えた場合や、他の取締役による不正行為を認識しながら必要な監督・是正措置を怠り、会社に損害を生じさせた場合などには、任務懈怠責任が問題となります。

第三者に対する損害賠償責任

役員等が職務を行うについて悪意または重大な過失があり、それによって第三者に損害が生じた場合は、被害者に対して損害賠償責任を負います(会社法429条1項)。「第三者」には、会社の債権者や取引先のほか、株主なども含まれます。

例えば、取締役が会社の財務状況を粉飾して取引先から融資を受けた結果、取引先や株主に損害が生じた場合などには、取締役個人が賠償責任を負う可能性があります。

役員等からの解任

取締役・監査役・会計参与・会計監査人は株主総会の決議、執行役は取締役会の決議によっていつでも解任できます(会社法339条1項・403条1項)。また、会計監査人については、職務上の義務違反や非行などの事由がある場合に、監査役等が解任できる制度も設けられています(会社法340条)。

これらの役員等が重大なコンプライアンス違反に関与した場合は、解任されることが十分考えられます。コンプライアンス違反が解任の正当な理由に当たる場合は、会社に対して解任に関する損害賠償を請求することもできません(会社法339条2項・403条2項参照)。

刑事責任

役員等によるコンプライアンス違反が犯罪に当たる場合は、刑事責任を問われる可能性があります。

例えば、取締役が自己や第三者の利益を図る目的で任務に背き、会社に財産上の損害を与えた場合には、特別背任罪が成立することがあります(会社法960条)。また、会社財産の横領については業務上横領罪(刑法253条)、虚偽の有価証券報告書の提出については金融商品取引法違反の責任を問われるおそれがあります。

さらに両罰規定が設けられている犯罪については、違反行為をした役員等だけでなく、会社も罰金刑の対象となります。例えば、重要な事項について虚偽の記載がある有価証券報告書を提出した場合には、行為者が処罰されるほか、会社にも7億円以下の罰金が科されることがあります(金融商品取引法197条1項1号・207条1項1号)。

コンプライアンス違反を防ぐために取り組むべきこと

コンプライアンス違反を防ぐには、経営陣が率先して次に挙げる取り組みなどを進めましょう。

① 現場に対する理解とコミュニケーション
② 社内全体におけるコンプライアンス体制の整備
③ 役員向けコンプライアンス研修の実施
④ 取締役間の相互監視の強化
⑤ 内部通報制度の導入・運用

現場に対する理解とコミュニケーション

取締役が現場の実態を知らなければ、コンプライアンス違反の兆候を早期に把握して対応することは難しいでしょう。定期的な現場訪問や部門責任者との面談、従業員へのアンケートなどを通じて現場に対する理解を深めることや、コミュニケーションをこまめにとることが求められます。

特に、無理な目標設定や業務負担はコンプライアンス違反を誘発するおそれがあるので、発見次第速やかに是正することが重要です。

社内全体におけるコンプライアンス体制の整備

コンプライアンス違反を防止するためには、法令遵守に向けた社内のルールや体制を整備し、適切に運用することが重要です。

例えば、次のような事項を社内規程で定めるとともに、各対応に責任を持つ担当部署を設置または指定することが考えられます。

・契約の締結や経費の支出について承認手続きを定める
・重要な取引について複数の担当者がチェックする仕組みを設ける
・顧客情報や営業秘密の管理方法を明確にする
・不正が発覚した場合の調査、対応の手順や注意点を定める
など

定期的な内部監査やモニタリングを通じて、社内ルールが適切に守られているか確認することも大切です。違反が発覚したときは原因を分析し、適切に再発防止策を実施しましょう。

役員向けコンプライアンス研修の実施

役員のコンプライアンスに対する理解を深め、その意識を向上させるためには、定期的にコンプライアンス研修を実施するのが効果的です。

コンプライアンス研修で取り上げるべき事項としては、次の例が挙げられます。役員としての責務に関する事項や、自社の業務に関係が深い事項を重点的に取り上げましょう。

・会社法の基礎知識
・善管注意義務、忠実義務
・内部統制
・会計のルール、不正会計
・ハラスメント
・情報漏えい、セキュリティ対策
など

コンプライアンス研修のテーマは、法令改正や時事的な問題なども踏まえつつ検討することが求められます。

取締役間の相互監視の強化

複数の取締役がいる会社では、各取締役には他の取締役による業務執行を監督することが求められます。

他の取締役による不正行為や、それに伴う重大なリスクを把握した場合は必要な説明を求め、是正するよう働きかけることが重要です。また、取締役間で定期的に情報を共有し、問題の早期発見につなげましょう。

取締役会設置会社では、取締役会が取締役の職務執行を監督します(会社法362条2項)。会議資料の事前配布や十分な審議時間の確保、社外取締役の知見の活用などを通じて、取締役会による監督の実効性を高めることが大切です。

内部通報制度の導入・運用

内部通報制度の導入も、会社におけるコンプライアンス違反の早期発見や予防に役立ちます。

内部通報制度とは、従業員等が社内における法令違反などを発見した場合に、社内または社外に設置した窓口にて通報を受け付ける制度です。通常の業務報告等では表面化しにくい不正行為を早期に把握し、適切な是正措置を講じやすくなります。

内部通報制度を実効的に機能させるためには、通報者の秘密を保護し、不利益な取扱いを受けないようにすることが重要です。また、通報を受けた際に適切に対応できるように、調査・対応体制の整備や窓口担当者に対する研修などを実施しましょう。

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参考文献

日本取引所グループウェブサイト「改善報告書の徴求及び公表措置:(株)ラックランド」

日本取引所グループウェブサイト「特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求:(株)旅工房」