捺印(署名捺印)とは?
押印との違い・法的効力・
方法などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「捺印」とは、「押印」と同じ意味で、印章(いわゆる印鑑・ハンコ)を押すことです。
このほか、実務上で「捺印」という場合、「署名捺印」を略したものとして、氏名を自書した上で印鑑を押すこと(=署名押印)を指すこともあります。契約書、銀行に提出する書類、稟議書・決裁書、発注書・発注請書など、幅広い書類について署名押印が行われています。
これに対して、印字した氏名・名称の横に印鑑を押すことは「記名押印」と呼ばれます。署名または押印には、文書の成立の真正を推定させる効力があります。契約書などの重要な書類については、署名押印を行うことが望ましいです。
署名押印を行う際には、押印をする箇所や印鑑の種類や印鑑証明の要否などに注意しましょう。
電子契約の場合は、電子署名が署名押印の代わりとなります。業務の効率化の観点から「脱ハンコ」が進む昨今では、電子契約を導入する企業が増えている状況です。
この記事では、捺印について、押印との違い・法的効力・方法などを分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年8月3日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
捺印(署名捺印)とは
「捺印(なついん)」とは「押印(おういん)」と同じ意味で、印章(いわゆる印鑑・ハンコ)を押すことです。
このほか、実務上で「捺印」という場合、「署名捺印」を略したものとして、氏名を自書した上で印鑑を押すこと(=署名押印)を指すこともあります。
契約書、銀行に提出する書類、稟議書・決裁書、発注書・発注請書など、幅広い書類について署名押印が行われています。
署名または押印には、文書の成立の真正を推定させる効力があるため(後述)、特に契約書などの重要な法的書類については、署名押印を確実に行うことが重要です。
捺印と押印の違い
「捺印」と「押印」は同じ意味です。「捺印」のほうがやや古い言い方となっています。
- 捺印と押印の違い
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旧民事訴訟法326条 「…本人又ハ其ノ代理人ノ署名又ハ捺印アルトキ…」
現民事訴訟法228条4項 「…本人又はその代理人の署名又は押印があるとき…」
実務上で使い分けをしている場合、「捺印」は「署名押印(署名捺印)」を指すものと考えられます。
氏名を自書+印鑑を押す → 署名押印(※捺印と呼ぶことも)
印字した氏名・名称の横に印鑑を押す → 記名押印
署名押印は、主に個人が書面を作成する際に行われます。
これに対して記名押印は、法人が書面を作成する際に行われるケースが多いです。
捺印・押印に関連する用語
捺印および押印に関連して、以下の用語の意味を理解しておきましょう。
① 記名・署名
② 調印
③ 押捺
④ 印章・印影
⑤ 印鑑・電子印鑑
⑥ 印鑑証明
記名・署名
「記名」とは、自書(手書き)以外の手段で氏名を記載することをいいます。PCなどで文書を作成する際に印字するのが一般的です。
「署名」とは、氏名を自書することをいいます。署名は本人の筆跡が残るため、本人が文書を作成した事実について、記名よりも証明力が強いと考えられます。
調印
「調印」とは、文書の作成者がその文書に署名などを行うことをいいます。調印の方法は、署名押印・記名押印・署名のみなどさまざまです。
特に、条約文書や契約書などを作成することは「調印」と呼ばれることが多いです。
押捺
「押捺(おうなつ)」とは、文書などに印影を残すことをいいます。やや古い言い方で、印章を用いる場合のほか、拇印・指印を押すことも「押捺」と表現することがあります。
印章・印影
「印章」とは、いわゆる「ハンコ」本体のことです。日常的に「印鑑」という場合、「印章」を指すことが多いです。
印章には、
- 実印
- 銀行印
- 認印(角印)
- 役職印
- 個人印
などさまざまな種類があります。
「印影」とは、印章や拇印を押した際に残る朱肉の跡のことです。文書などに印影を残すことは、捺印・押印・押捺などと表現されます。
印鑑・電子印鑑
「印鑑」とは、厳密な意味としては、印鑑登録された印影のことです。慣例的に「ハンコ」本体を指して「印鑑」と表現される場合もありますが、本来の意味とは異なります。
狭義の「印鑑」を押すことのできる印章(ハンコ本体)のことを「実印」といいます。
「電子印鑑」とは、PDFファイルなどの電子文書への押印が可能な印影データです。電子契約が普及した昨今では、電子印鑑や電子署名を用いる企業が増えています。
印鑑証明
「印鑑証明」とは、自治体などに登録された印鑑が本物であることの証明書(印鑑登録証明書)のことです。
個人の場合、印鑑登録は任意とされています。居住する自治体で手続きができます。
ただし、会社の設立や不動産取引など、重要な法律行為をする際には、①印鑑登録された実印を用い、②印鑑登録証明書を提出することが求められます。印鑑登録は、住所地の自治体の窓口で行うことができます。
法人の場合、法人登記をする際に、登記地を管轄する法務局またはオンラインで印鑑の提出をします。しかし2021年2月15日以降、オンラインで登記申請を行う場合は、印鑑の提出は任意となりました。
登録された印鑑については、個人の場合は自治体の窓口・コンビニエンスストア・郵便局で、法人の場合は法務局またはオンラインで、印鑑登録証明書を取得できます。
署名押印(捺印)の法的効力
本人または代理人の署名または押印がある文書は、真正に成立したものと推定されます(民事訴訟法228条4項)。
署名押印には「署名」と「押印」の両方が含まれており、いずれについても文書の成立の真正を推定させる効力が生じます。したがって、契約書などの重要な文書を作成する際には、その有効性を確実なものとするため、作成者が署名押印を行うことが望ましいです。
なお、法人が文書を作成する際には、署名押印ではなく記名押印を行うのが一般的です。記名押印の場合は、押印部分についてのみ、文書の成立の真正を推定させる効力が生じます。
署名押印(捺印)の方法
文書に対して適切に署名押印を行うには、以下の各点について基本的な知識を備えておきましょう。
✅ 署名押印をする箇所
✅ 署名押印に用いる印章(印鑑)の種類
署名押印(捺印)をする箇所
文書に署名押印をする箇所については、特に決まったルールはありませんが、実務の慣例に従うのが適当です。
(例)
① 契約書や覚書など、複数の当事者が共同で作成する書類
→当事者の氏名や住所などを記載する署名欄(調印頁)を設け、そこに署名押印を行うのが一般的です。
② 発注書や発注請書など、単独で作成する書類
→末尾に作成者が署名押印を行うケースが多いです。
③ 銀行に提出する書類など、定型的な書式があるもの
→その書式に従って署名押印を行いましょう。
署名押印(捺印)に用いる印章(印鑑)の種類
署名押印に用いる印章(印鑑)には、主に以下の種類があります。
① 実印
② 銀行印
③ 認印(角印)
④ 役職印
⑤ 個人印
実印
「実印」とは、印鑑登録された(または法務局に届けられた)印章(ハンコ)のことです。
個人の場合は、会社の設立や不動産取引などの重要な法律行為をする際、実印による署名押印を求められます。
使える文字は住民票に記載されている氏名・氏のみ・名のみです。肩書や職業名(「弁護士」など)が入っているものは認められません。
法人の場合は、法人が当事者となる契約書を締結する際には実印を用いるのが一般的です。
印影の文字には法人名(株式会社〇〇)と役職名(代表取締役)などが入ります。会社の実印は丸い形状をしていることが多いため、「丸印」と呼ばれることもあります。
実印は、全ての印章の中で最も重要なものです。他人に盗用されることがないように、実印は厳重に保管しておきましょう。
銀行印
「銀行印」は、銀行に対する届け出が行われた印章(ハンコ)のことです。
銀行に提出する書類には、銀行印による署名押印が求められます。一例として、口座開設書類や登録情報の変更に関する書類を銀行に提出する際には、銀行印による署名押印が必要です。
銀行印を紛失すると、銀行との取引がスムーズに行えなくなってしまいます。実印と同様に、銀行印も大切に保管しておきましょう。
認印(角印)
「認印」とは、実印ではない印章(ハンコ)のことです。会社の認印は四角い形状をしていることが多いため、「角印」と呼ばれることもあります。
認印(角印)は、重要な法律行為に関する書類を除き、幅広い書類への署名押印に用いられています。一例として、決裁書などの社内文書への署名押印(または記名押印)には、認印(角印)が用いられることが多いです。
役職印
「役職印」とは、会社の役職者(取締役・監査役など)の印章(ハンコ)のことです。
会社の稟議書・決裁書・議事録などには、各役職者がそれぞれの立場で署名押印すべき場合があります。このような場合に備えて、各役職者が役職印を保有・管理している企業が多いです。
役職印は、本人(またはその授権を受けた者)以外の者による利用を防ぐため、常に携帯するか鍵のかかる場所にしまっておくなど、厳重な管理が求められます。
個人印
「個人印」とは、個人の印章(ハンコ)を幅広く意味します。
個人のものであれば、実印・銀行印・認印などはいずれも個人印に当たります。
これに対して役職印など、プライベートではない立場で用いる印章(印鑑)については、個人印とは呼ばないのが一般的です。
契約書に押印がない場合はどうなる?
契約書に当事者の署名または押印がない場合、文書の成立の真正(=偽造でないこと)を推定させる効果が生じません(民事訴訟法228条4項)。
署名または押印がされた契約書は、特に疑わしい事情がない限り、真正に成立したものとして推定され、裁判で証拠として認められます。しかし、署名または押印のない契約書については、相手方が認めない場合、偽造でないことの立証が必要となります。
ただし、契約書に署名または押印がなくても、別の証拠や事実から総合的に判断して、文書の成立の真正が認められることはあり得ます。
例えばメールなどによって、当事者間で契約に関するやり取りが事前に行われており、締結日以降は契約書の内容に沿った取引が行われていれば、それらの証拠から、文書の成立の真正が認められたり、(契約書自体は証拠として認められなくとも)契約締結の事実が認められる可能性は高いでしょう。
しかし、署名または押印がある契約書に比べると、それらがない契約書は、契約トラブルのリスクが高くなってしまいます。契約書を作成する際には、全ての当事者が署名押印または記名押印をすることが望ましいです。
電子契約には署名押印(捺印)が不要
電子契約の場合は、電子署名が署名押印の代わりとなります。
「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、以下の要件をいずれも満たすものをいいます(電子署名及び認証業務に関する法律2条1項)。
① 当該情報が、当該措置を行った者が作成したことを示すためのものであること。
② 当該情報について、改変が行われていないかどうかを確認できること。
電子契約サービスなどを利用すると、契約書データに対して簡単に電子署名を付すことが可能です。
本人による電子署名が行われた電磁的記録は、真正に成立したものと推定されます(同法3条)。これは、紙の書類について署名または押印に認められている効果と同じです。
電子署名については、以下の記事も併せてご参照ください。
近年の脱ハンコ・ハンコレスに関する動き|政府見解も交えて解説
最近では、契約書などの書類作成事務を簡素化するため、押印の省略(脱ハンコ・ハンコレス)を推奨する動きが見られます。
内閣府・法務省・経済産業省は、2020年6月19日に連名で「押印についてのQ&A」を公表し、契約書などの私文書に押印しない場合の取り扱いについて、以下の見解などを示しています。
- 契約書への押印は必須でなく、押印がなくても契約の効力に影響は生じない(問1)
- 文書の真正な成立は、相手方が争わない場合には、基本的に問題とならない。また、本人による押印以外の方法によっても、文書の真正な成立を立証することは可能である(問3、問6)
- 本人による押印があれば、文書の真正な成立を立証する負担は軽減されるが、その効果は限定的である(問4、問5)
参考:内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」 |
行政手続きにおいても脱ハンコ・ハンコレスが進んでおり、契約実務においてもその流れは加速していくと考えられます。
脱ハンコ・ハンコレスについては、以下の記事も併せてご参照ください。
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