担保とは?
意味・種類・設定や実行の手続き・
注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「担保」とは、債務の履行を確保するために、債務者が債権者に対して提供する財産や人を意味します。債務者が債務を履行しなかった場合、債権者は担保を実行して、強制的に債権を回収することができます。
担保は、特定の財産に設定する「物的担保」と、債務者以外の人の財産全体を回収の対象とする「人的担保」の2つに分類されます。
物的担保としては、民法において「留置権」「先取特権」「質権」「抵当権」の4つが定められているほか、「譲渡担保」「仮登記担保」「所有権留保」などが実務上認められています。
人的担保に当たるのは「保証」で、「単純保証」「連帯保証」「根保証」などに分類されます。担保を設定する際には、物的担保の場合は担保権設定契約、人的担保の場合は保証契約を締結します。また、物的担保については速やかに対抗要件を具備すべきです。
この記事では担保について、種類・設定や実行の手続き・注意点などを解説します。
※この記事は、2024年11月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
担保とは
「担保」とは、債務の履行を確保するために、債務者が債権者に対して提供する財産や人を意味します。債務者が債務を履行しなかった場合、債権者は担保を実行して、強制的に債権を回収することができます。
担保の目的
担保の目的は、債務不履行に備えて回収できる財産を確保しておくことです。
例えば、AがBに1000万円を貸したとします。Bがお金を返せなくなって破産すると、Aは1000万円をほとんど回収できなくなってしまいます。
しかし、Bが所有している不動産を担保にとっていれば、Aはその不動産を競売にかけるなどして、1000万円の全部または大部分を優先的に回収することができます。
債権者にとっては、担保を確保すれば債務不履行のリスクが小さくなるので、安心してお金を貸せるようになります。
担保の分類|物的担保と人的担保
担保は、「物的担保」と「人的担保」の2種類に分類されます。
① 物的担保
特定の財産に設定する担保です。
② 人的担保
債務者以外の人の財産全体を回収の対象とする担保です。「保証」とも呼ばれます。
物的担保と人的担保(保証)の違い
物的担保と人的担保(保証)の違いは、主に以下の2点です。
- 物的担保と人的担保(保証)の違い
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① 債権回収の対象となる財産の範囲
物的担保の場合、担保権が設定された特定の財産の売却によって債権を回収します。その他の財産は、債権回収の対象になりません。
これに対して人的担保(保証)の場合は、保証人が所有する財産全体が、債権回収の対象となります。② 債権回収の優先順位
物的担保の場合、担保権者は他の債権者に優先して、担保物の売却により債権を回収できます。物上保証人が破産しても、破産手続外で担保権を実行可能です。
これに対して人的担保(保証)の場合、債権回収の優先順位は、原則として保証人の他の債権者と同じです。したがって、保証人が破産した場合には、他の債権者と同順位で配当を受けられるにとどまります。
担保の効力
担保の効力は、物的担保と人的担保のそれぞれについて、以下のとおりです。
① 物的担保の効力
債務者が債務を履行しなかった場合に、担保物を売却して債権の弁済に充当することができます。
② 人的担保の効力
債務者が債務を履行しなかった場合に、保証人に対して代わりに債務を履行するよう請求できます。
物的担保の種類
物的担保としては、民法において「留置権」「先取特権」「質権」「抵当権」の4つが定められているほか、「譲渡担保」「仮登記担保」「所有権留保」などが実務上認められています。
留置権
「留置権(りゅうちけん)」とは、物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる権利です(民法295条)。
- 留置権の例
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Aが、時計の修理業者であるB社に対して、壊れた時計の修理を依頼した。
→B社は留置権に基づき、Aが修理代金を支払うまで、修理した時計の引渡しを拒むことができます。
相手方が債務を履行しない場合、留置権者は留置物を競売した上で、競売代金の返還債務と相手方に対して有する債権を相殺することにより、事実上の優先弁済を受けることができます。
先取特権
「先取特権(さきどりとっけん)」とは、債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(民法303条)。
債務者の総財産について発生する「一般の先取特権」と、特定の財産についてのみ発生する「特別の先取特権」の2種類があります。
- 一般の先取特権の例
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個人事業主であるAが、雇用していたBに対する給与を支払わないままに破産した。
→Bは先取特権に基づき、Aの他の債権者に先立って未払いの給与を回収できます。
※破産法により、労働債権は優先度の高い「財団債権」または「優先的破産債権」とされています。
- 特別の先取特権の例
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BはAから高価な壺を預かったが、AはBに対して寄託費用を支払わなかった。
→Bは先取特権に基づき、預かっている壺を競売して、競売代金から未払いの寄託費用を回収できます。
質権
「質権(しちけん)」とは、債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(民法342条)。
質権は動産のほか、不動産や権利に対して設定することもできます。
- 質権の例
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BがAに対して貸した100万円を担保するため、BがAから高級時計を質物として預かった。その後、AはBに対する返済を怠った。
→Bは質権に基づき、預かっている高級時計を競売して、競売代金から未回収の貸付金を回収できます。
抵当権
「抵当権(ていとうけん)」とは、債務者または第三者が占有を移転しないで担保に供した不動産につき、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(民法369条)。
質権とは異なり、抵当権は不動産のみに設定できます。
- 抵当権の例
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B銀行はAに対し、不動産を購入するための資金として5000万円を貸し付け、その担保として当該不動産につき抵当権の設定を受けた。その後、AはBに対する返済を怠った。
→B銀行は抵当権に基づき、不動産を競売して、競売代金から未回収の貸付金を回収できます。
非典型担保|譲渡担保・仮登記担保・所有権留保など
「非典型担保(ひてんけいたんぽ)」とは、民法で認められているもの(=典型担保)以外に、慣習上認められている物的担保を意味します。
実務上、以下のような非典型担保が認められています。
- 非典型担保の例
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・譲渡担保
→債権者が債務者から、所有権などの財産権を担保として形式上譲り受けます。債務が不履行となった場合は、担保物を売却して弁済に充当し、残額があれば債務者に返還します。・仮登記担保
→債務不履行が発生した場合は担保物を代物弁済等に充てることを約し、その旨の仮登記を行います。・所有権留保
→売買の目的物の所有権を形式上売主に残し、代金が支払われなかった場合には売主が目的物を引き上げます。自動車ローンの担保などとして活用されています。
人的担保の種類
人的担保(保証)は、「単純保証」「連帯保証」「根保証」などに分類されます。
単純保証
「単純保証」とは、連帯保証ではない保証を意味します。
単純保証の場合、保証人は債務者が履行しなかった債務を支払う責任を負いますが、その際に以下の3点を主張することができます。
① 催告の抗弁権(民法452条)
いきなり保証人へ請求するのではなく、まず主たる債務者に請求するよう求めることができます。
② 検索の抗弁権(民法453条)
主たる債務者が容易に強制執行できる財産を持っていることを証明すれば、保証人に対して強制執行をする前に、主たる債務者に対して強制執行をするよう請求できます。
③ 分別の利益
保証人が複数いる場合には、人数割りした金額のみを支払えば足ります。
連帯保証
「連帯保証」とは、催告の抗弁権・検索の抗弁権・分別の利益が認められていない保証です。
単純保証とは異なり、連帯保証人には上記3点の権利(利益)が認められていません。したがって、債務不履行が発生した後に債権者から請求を受けたら、連帯保証人は直ちに全額を弁済する義務を負います。
根保証
「根保証」とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証です。単純保証も連帯保証も、被担保債務が特定されていなければ根保証に当たります。
- 根保証の例
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AがBに対して負担する、建物賃貸借契約に基づく一切の債務を、Cが保証した。
→「建物賃貸借契約に基づく一切の債務」は、賃料だけでなく将来発生する損害賠償なども含むため特定されておらず、根保証に当たります。
個人が保証人となる根保証については、保証人の責任が過大になることを防ぐため、極度額の設定を必須とするなどの規制が設けられています(民法465条の2など)。
担保を設定する手続き
担保を設定する際には、物的担保の場合は担保権設定契約、人的担保の場合は保証契約を締結します。また、物的担保については速やかに対抗要件を具備すべきです。
担保権設定契約・保証契約の締結
物的担保を設定する場合は、担保権設定契約を締結します。
- 担保権設定契約に明記すべき主な事項
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・被担保債権を特定する事項
・担保物を特定する事項
・担保権の種類
・担保物に担保権を設定する旨
・担保権設定に関する対抗要件の具備
・担保実行の手続き
・担保権を消滅させる場合の手続き
など
人的担保を設定する場合は、保証契約を締結します。
- 保証契約に明記すべき主な事項
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・被担保債権を特定する事項
・連帯保証の場合は、その旨
・保証債務の請求手続き
・主たる債務の履行状況に関する、債権者の保証人に対する情報提供
・根保証の場合は、極度額の定めと元本確定の手続き
など
なお保証契約は、書面または電磁的記録で締結しなければ効力を生じません(民法446条2項・3項)。担保権設定契約については、書面等は必須とされていませんが、契約書を作成するのが一般的です。
契約書においては、上記に挙げたような契約条件を明確に記載しましょう。
【物的担保の場合】対抗要件の具備
物的担保を設定した場合は、担保権設定契約の締結と同日付で対抗要件を具備するのが一般的です。対抗要件を具備することにより、担保権の存在を第三者に対抗できるようになります。
- 物的担保の第三者対抗要件
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① 質権
※質物の引渡しは効力要件(民法344条)
(a) 動産質
継続して質物を占有すること(民法352条)(b) 不動産質
質権設定登記(民法177条)(c) 債権質
以下のうちいずれか
・確定日付ある書面による、第三債務者に対する通知(民法364条・467条2項)
・確定日付ある書面による、第三債務者の承諾(同条)
・債権譲渡ファイルへの質権設定登記(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律14条、4条1項)② 抵当権
抵当権設定登記(民法177条)③ 譲渡担保
(a) 動産譲渡担保
担保物の引渡し(民法178条)(b) 不動産譲渡担保
所有権移転登記(民法177条)(c) 債権譲渡担保
以下のうちいずれか
・確定日付ある書面による、第三債務者に対する通知(民法467条2項)
・確定日付ある書面による、第三債務者の承諾(同項)
・債権譲渡ファイルへの質権設定登記(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項)
担保を実行する手続き
物的担保の実行は、民事執行法に基づいて行うのが原則です。ただし譲渡担保などについては、民事執行法によらない実行も慣例上認められています。
人的担保は、保証人に対する請求によって実行します。
物的担保の実行|強制執行によるのが原則
物的担保は、原則として民事執行法上の手続きに従って実行します。
担保権者が裁判所(または執行官)に対して担保実行を申し立てると、担保物が差し押さえられます。
不動産と動産については、原則として競売が行われた後、代金が債権の弁済に充当されます。
債権については、差押えから一定期間が経過すると、担保権者が直接取り立てることができるようになります。
人的担保の実行|保証人に対する請求
人的担保の場合は、債務不履行の発生後、債権者が保証人に対して債務の履行を請求します。請求の方法はさまざまで、内容証明郵便で請求書を送付する方法や、訴訟を提起する方法などが一般的です。
ただし前述のとおり、連帯保証でない場合(=単純保証の場合)は、先に主たる債務者への請求を求められる可能性がある点にご注意ください。
担保を設定する際の注意点
担保を設定する際には、担保価値が債権額に見合っているかどうかを確認することが大切です。また、特に債権者の立場では、担保価値が減少した場合の対応を決めておくことも重要になります。
担保価値が債権額に見合っているかどうかを確認する
被担保債権の額に比べて、担保物の価値が不足していると、債務不履行が発生した際に債権全額を回収することができません。
債権者としてはできる限り、債権全額を十分カバーできるような価値を有する物を担保にとることが望ましいです。
反対に、被担保債権の額を担保物の価値が大幅に上回る場合は、債務者側の負担が重くなります。
このような場合には、債務者は担保物の変更を求めて交渉すべきでしょう。
担保価値が減少した場合の対応を決めておく
担保物の価値は、時間の経過とともに変化することがあります。設定当初は十分な価値を持っている担保物も、時間が経つと価値が下落し、被担保債権の額を下回ってしまうかもしれません。
債権者としては、担保価値が減少した場合は追加担保の差入れを請求できるようにするなどの対策を講じておくことが望ましいです。
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