残業代の計算方法は?
基本から計算式、割増率など
を分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

残業代は、「1時間あたりの基礎賃金 × 割増率 × 残業時間」で計算します。

・実働時間所定労働時間を超えた分を「残業時間」と定義します。
・法定時間外労働には25%以上、深夜労働には25%以上、休日労働には35%以上の割増賃金の支払いが必要です。
・1時間当たりの基礎賃金は、給与体系により計算方法が異なります。

本記事では、残業代の計算方法について、基本から詳しく解説します。

ヒー

従業員の残業代を計算しなくてはならないのですが、どのように計算するのでしょうか。

ムートン

残業代は法律で計算方法が定められています。基本給をもとに割増率をかけて計算します。まずはどのように計算するか、確認しておきましょう。

※この記事は、2025年6月30日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

残業代の計算の基本

残業代の計算の基本として、残業時間の定義を知ることが大切です。

いわゆる残業時間は、企業が定める所定労働時間を超えて行われた労働時間と労働基準法における法定労働時間(原則として1日8時間・週40時間)を超えて行われた労働時間のことを指します。所定労働時間を超え、かつ法定労働時間内におさまる労働は「法定内残業」、法定時間を超える労働は「法定外残業」にあたります。法定時間外労働(法定外残業)は、残業代(割増賃金)の支払い対象です。

また、法定休日に労働した場合は「休日労働」、22時から翌5時までの労働は「深夜労働」として、いずれも割増賃金の対象です。

残業時間は、実際の労働時間から所定労働時間を差し引いて算出します。ただし、休憩や遅刻・早退、有給休暇を取った時間は実働時間に含まれないため、正確に区別することが重要です。

残業代については、以下の記事で解説しているため、あわせてご覧ください。

残業代の計算方法

残業代の計算式は、「1時間あたりの基礎賃金 × 割増率 × 時間外労働時間(残業時間)」で計算します。ただし、会社の所定労働時間を超えていても、法定労働時間(1日8時間・週40時間)以内であれば「法定内残業」となり、割増賃金の支払い義務はありません。(就業規則で支給する企業もあります。)

労働基準法では、法定時間外労働と深夜労働には25%以上、休日労働には35%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。

基礎賃金には、基本給だけでなく職務手当や資格手当など、労働の対価として支払われる手当も含まれる一方で、通勤手当や家族手当などは除外されるのが一般的です。

正確な残業代を把握するには、給与明細を確認し、基礎賃金に含まれる手当と除外される手当を正しく理解することが重要です。

1時間当たりの賃金の計算方法

1時間あたりの基礎賃金は、給与体系により計算方法が異なるため注意が必要です。

月給制の場合は、「(月給総額-除外手当)÷月平均所定労働時間」で算出し、時給制の場合は支給されている基礎時給をそのまま使用します。

労働基準法施行規則では、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・臨時の賃金・賞与など、生活補助的な性質の強い手当は、残業代の基礎賃金から除外できると定められています。上記の手当は、労働の対価というよりも、生活補助の性格が強いためです。

基礎賃金に含まれる手当かどうかは、手当の名称だけで判断せず、支給基準や労働との関連性をもとに適切に確認することが重要です。

給与に関しては、以下の記事で詳しく解説しているため、参考にしてみてください。

残業時間の計算方法

残業時間は、1分単位で計算するのが原則です。1日8時間・週40時間を超える労働時間が法定時間外労働となり、割増賃金の対象です。

労働時間の端数処理については、使用者に有利な15分未満や30分未満の切り捨ては違法とされています。ただし、1カ月の残業時間合計に限り、「30分未満の切り捨て・30分以上は1時間切り上げ」が例外的に認められています。

正確な残業時間を把握するには、タイムカードやパソコンでの記録など客観的なデータをもとに、適切に管理することが重要です。

割増賃金の種類と割増率

労働基準法では、一定の条件下で通常の賃金に加えて支払う割増賃金が定められています。割増賃金は、長時間労働や深夜・休日勤務に対して、労働者の健康や生活を保護するための制度です。

割増賃金の対象となるのは、時間外労働・休日労働・深夜労働の3つで、それぞれ異なる割増率が適用されます。

以下では、各手当の具体的な割増率について解説します。

時間外手当(残業手当)

時間外手当は、1日8時間・週40時間を超える法定時間外労働に対して支払われる割増賃金です。割増率は25%以上と定められており、労働基準法により使用者に支払い義務があります。

2023年4月1日からは中小企業にも改正が適用され、月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増率が必要となりました。改正は、労働者の健康保護と長時間労働の抑制を目的としています。

休日出勤手当

休日出勤手当は、労働基準法で定められた法定休日に労働した場合に支払われる割増賃金です。法定休日とは、週に1回または4週で4日の休日を指し、勤務させた場合は35%以上の割増率が適用されます。

休日出勤手当は、労働者の休息の確保を目的とした制度であり、法定休日に労働を命じることは、原則として例外的な対応とされています。

休日出勤については、以下の記事で解説しているため、あわせてご覧ください。

深夜手当

労働基準法37条第4項では午後10時から午前5時までの時間帯に労働させた場合、通常の賃金の25%以上の割増賃金(深夜手当)を支払うことが義務付けられています。割増率は25%以上と定められており、時間外労働や休日労働と重複する場合は、それぞれの割増率が加算されます。

例えば、午後10時以降の時間外労働であれば、「時間外25%+深夜25%」で合計50%の割増賃金が発生します。また、法定休日の深夜労働では、「休日35%+深夜25%」で合計60%の割増です。

さらに、月60時間を超える時間外労働が深夜に及んだ場合には、「超過分50%+深夜25%」で合計75%の割増賃金が発生します。

深夜手当は、単に追加の賃金を補償するためのものではありません。人間は夜間に働くと、体内リズムが乱れたり、睡眠の質が下がったりして、健康に悪影響が出やすいと考えられます。深夜手当は、企業側に追加のコストを発生させることで、不必要な深夜労働の抑制につなげ、結果として労働者の健康を守る仕組みです。

なお深夜手当は、時間外労働や休日労働と異なり、労働時間の長短に関係なく、深夜時間帯に労働すれば割増賃金が発生する点が特徴です。

残業代計算の具体例

残業代の計算は、給与体系によって基礎賃金の計算方法が異なります。制度上のルールは共通でも、給与体系のそれぞれで注意すべきポイントがあるため事前に確認することが重要です。

以下では、各給与形態における具体的な残業代の計算方法を解説します。

時給制

時給制の残業代計算は、基礎時給に割増率を掛ける方法です。パートやアルバイトに多い給与体系で、月給制のように所定労働時間で割る手間がなく、1時間あたりの金額が明確に設定されています。

時給制では基礎時給が明確なため、残業代の計算は比較的簡単です。ただし、シフト制勤務では、時間外・深夜・休日労働を正確に区別し、タイムカードをもとに労働時間を給与明細と照らし合わせて確認することが重要です。

日給制

日給制の残業代は、所定労働時間あたりの時給を算出し、割増率をかけて残業代を求めます。計算式は、「基礎時給×割増率×残業時間」です。

日給制では、日給額と所定労働時間を正確に把握し、1時間当たりの基礎賃金を明確にすることが重要です。変則的な勤務が多い場合は、労働時間を正確に記録し、給与明細で適正な計算が行われているかを確認しましょう。

月給制

月給制の残業代は、「(月給総額−除外手当)÷月平均所定労働時間」で1時間あたりの基礎賃金を算出し、割増率と残業時間を掛けて計算します。正社員や契約社員など、月給で賃金が支払われる労働者に一般的な方式です。

通勤手当や家族手当などは基礎賃金から除外可能ですが、職務手当や資格手当など労働の対価に該当する手当は基礎賃金に含める必要があります。区別を誤ると、基礎賃金の金額が大きく変わるため注意が必要です。

月給制では、給与明細を確認し、各手当の支給目的と労働との関連性を見極めることが重要です。また、月平均所定労働時間は年間の所定労働時間を12で割って求めます。正確な1時間当たり基礎賃金をもとに、残業代を計算しましょう。

年俸制

年俸制の残業代は、「(年俸÷12カ月÷月平均所定労働時間)×割増率×残業時間」で計算します。

「年俸制だから残業代は出ない」という誤解が見られますが、労働基準法上は月給制と同様で、法定時間外労働・深夜労働・休日労働には割増賃金の支払いが義務付けられています。

また、年俸に固定残業代が含まれている場合でも、対象時間数と金額が明確に定められていることが前提であり、超過分については別途支払いが必要です。

年俸制の場合は、雇用契約書に固定残業代の有無や時間数が明記されているかを確認し、実際の残業時間が枠を超えていないか定期的にチェックすることが重要です。

歩合制

歩合制で残業代を計算する場合、歩合給にはすでに通常の労働時間分(1.0倍)の賃金が含まれているため、割増部分(0.25倍など)のみを追加で支払う必要があります。

例えば、1カ月の歩合給総額が300,000円で、月の総労働時間が160時間だった場合、1時間あたりの賃金は「300,000円÷160時間=1,875円」です。上記の場合の時間外労働に対する割増賃金は、「1,875円×0.25×残業時間」で計算します。

営業職や運送業などで導入されることのある歩合制は、毎月の基礎賃金が変動するため、計算が煩雑になりやすい給与体系です。割増対象となる歩合給の内訳や時間の記録を正確に管理し、最低賃金を下回っていないかもチェックが必要です。

計算方法に不明点がある場合は、労働基準監督署や社労士に相談することをおすすめします。

労働時間制・労働形態ごとの残業代の計算方法

働き方や労働時間の制度によって、残業代の計算方法や適用ルールは異なります。

以下では、それぞれの労働時間制度や働き方に応じた残業代の基本的な考え方と計算方法を解説します。自身の働き方がどの制度にあたるのかを正しく理解することは、法令遵守のためにも重要なため、確認しておきましょう。

変形労働時間制

変形労働時間制は、一定期間を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則40時間)以内であれば、特定の日や週に法定労働時間を超えて働かせられる制度です。

業務の繁閑に応じて労働時間を柔軟に調整できるため、繁忙期と閑散期がある業種で多く導入されています。この制度では、日や週によって所定労働時間が変動するため、残業(時間外労働)の判断基準も、日々一律ではなく、事前に定められた所定労働時間をもとに判断されます。

残業(時間外労働)時間の計算は、以下の3段階で判断します。

  1. 1日については、法定労働時間8時間を超える労働時間が定められた日はその所定労働時間を、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
  2. 1週については、法定労働時間40時間を超える労働時間が定められた週はその所定労働時間を、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(1を除く)
  3. 変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1. 2を除く)
参考:厚生労働省「変形労働時間制リーフレット」

変形労働時間制には「1週間単位」「1カ月単位」「1年単位」などの種類があります。なかでも一般的な「1カ月単位の変形労働時間制」を例に、残業代の計算方法を紹介します。

1カ月単位の変形労働時間制で31日の月の場合、法定労働時間の枠は「31日÷7日×40時間」の約177.1時間です。ただし、実際にどの時間が時間外労働となるかは、「1日」「1週間」「1カ月」の単位ごとに判断が必要です。

厚生労働省では、1カ月単位の変形労働時間制における時間外労働の考え方を、「1日の所定労働時間の超過」「1週間の労働時間の超過」「月の法定労働時間の超過」などに分けてグラフで整理しています。

以下の図は、それぞれの基準に基づく時間外労働の考え方を示したものです。

引用:厚生労働省「変形労働時間制リーフレット」

厚生労働省のリーフレットの例では、1カ月の所定労働時間が172.0時間、1カ月の法定労働時間は177.1時間とされています。図に基づいたモデルケースでは、1カ月の総労働時間が181時間となっており、そのうちグラフの①、③、④の部分は、所定労働時間や週40時間を超えて働いた時間外労働として示されています。

厚生労働省のリーフレットのグラフの詳細は以下のとおりです。

  1. 1日単位の時間外労働:法定労働時間8時間を超える所定労働時間が定められた日は、その所定労働時間を超えて働いた時間で、④の部分が時間外労働にあたる
    ※所定労働時間が8時間以内の日については、8時間を超えて働いた分、①の部分が時間外労働
  2. 1週間単位の時間外労働:法定労働時間40時間以内の週は、40時間を超えて働いた時間で③の部分が時間外労働にあたる
  3. 全期間の時間外労働:上記1. 2で計算した時間外労働(①、②、③)の合計3時間を除いた労働時間は178時間(181時間−3時間)となる。このうち、法定労働時間177.1時間を超える0.9時間が⑤に該当し、所定労働時間を超えていないが月の法定労働時間を超えるため時間外労働にあたる
    ※厚生労働省リーフレットのグラフ②の部分は、所定労働時間は超えるが時間外労働にあたらない

上記から1日単位の時間外労働が合計2時間、週単位の時間外労働が合計1時間、残りの時間が0.9時間となり、時間外労働の合計は「2時間+1時間+0.9時間=3.9時間」となります。時給1,200円の場合、割増率1.25をかけて「1,200円×1.25×3.9時間=5,850円」の残業代が発生します。

そのため、「1日→1週→全期間」の順で残業かどうかを確認する流れを理解し、勤務記録と制度運用を正確に管理することが重要です。

フレックスタイム制

フレックスタイム制は、清算期間内で労働者が始業・終業時刻を自由に決定できる制度です。残業代は、清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合に発生します。

例えば、清算期間1カ月(30日)で法定労働時間の総枠が約171.4時間の月に180時間働いた場合、時間外労働は「180時間-171.4時間」の8.6時間です。基礎時給1,300円なら「1,300円×1.25×8.6時間」で約13,975円の残業代が発生します。

フレックスタイム制は、自由度が高い制度だからこそ、労働時間の記録と清算方法を理解しておくことが重要です。なお、清算期間が1箇月を超える場合、月ごとの繁閑差による長時間労働抑止の観点から、労使協定の締結が義務化されています。

参考:厚生労働省「フレックスタイム制パンフレット」

裁量労働制(みなし労働時間制)

裁量労働制では、労使協定で定めた「みなし労働時間」を、実際の労働時間にかかわらず労働したものとして扱い、みなし労働時間分の賃金を支払います

例えば、1日のみなし労働時間が9時間で実際に12時間働いても、基本賃金は9時間分です。追加の3時間に対する残業代は発生しません。

ただし、みなし時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合、超過1時間分については、最初から時間外労働として25%以上の割増賃金を支払う必要があります。また、深夜(午後10時~午前5時)や法定休日に働いた場合は、実際の労働時間に応じて割増賃金が別途発生します。

上記のように、裁量労働制でもすべての残業代が不要になるわけではありません。みなし時間と割増の対象時間は区別して考えることが大切です。「裁量労働制だから残業代が出ない」という認識は誤りであり、割増賃金の支払い義務は一部残る点に注意しましょう。

パートタイム労働者・アルバイト

パートタイム労働者・アルバイトも、労働基準法は正社員と同様に適用されます。1日8時間・週40時間を超える労働に対しては、25%以上の割増賃金の支払いが義務付けられています。

所定労働時間が短くても、法定労働時間を超えた場合は、正社員と同じルールで残業代が計算されるのが一般的です。

例えば、時給1,000円、所定労働時間1日6時間、週5日勤務のパートタイム労働者が、1日9時間働いた場合、1日8時間までは時給1,000円、8時間を超える1時間分は1,000円×1.25=1,250円となります。

また、1日7時間×週6日(42時間)働いた場合は、「40時間×1,000円+2時間×1,250円」で42,500円です。

パートタイム労働者・アルバイトの方は、自分の所定労働時間と法定労働時間の違いを把握し、適正に残業代が支払われているか確認することが重要です。

固定残業代制

固定残業代制は、あらかじめ定めた残業時間分の割増賃金を給与に含めて支払う制度です。「みなし残業代制」とも呼ばれますが、「固定残業代を払えば何時間でも働かせられる」という考えは誤りです。

実際の残業時間が設定時間を超えた場合、超過分の残業代を別途支払う必要があります。固定残業代制を適法に運用するには、「固定残業代として支払う金額」「対象の残業時間数」「基本給との内訳の区別」を雇用契約書や給与明細などに明確に記載しましょう。

例えば、月給25万円(基本給20万円、固定残業代5万円・30時間分)の正社員が35時間残業した場合、固定残業代でカバーされるのは30時間分で、30時間を超えた5時間分には追加の残業代が必要になります。

基礎時給が1,200円なら「1,200円×1.25×5時間」で7,500円の追加残業代が必要です。

固定残業代制で働いている方は、契約書や給与明細で「金額・対象時間数・基本給との区別」が明記されているかを確認しましょう。また、実際の残業時間が設定時間を超えていないか、超えていれば追加の支払いがあるかを、定期的にチェックすることも大切です。

管理職(管理監督者)

労働基準法上の管理監督者に該当する管理職は、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払う必要がありません。ただし、深夜労働(午後10時〜午前5時)については、25%以上の割増賃金が必要です。

管理監督者と認められるには、課長や店長といった肩書きだけでは不十分です。

実態として、経営上の重要な権限を持ち、勤務時間に裁量があり、処遇も一般社員より優遇されている必要があります。

例えば、店舗責任者として働いていても、出退勤が自由でなく賃金が一般社員とほとんど変わらなければ、管理監督者とは認められません

管理職かどうかは肩書きではなく実態で判断されるため、企業側は職務内容や待遇との整合性をしっかり確認する必要があります。

残業代計算に関する人事・労務担当者の注意点

労働時間の管理や残業代の計算は、企業にとって法令遵守だけでなく、労働者との信頼関係を築くうえでも重要な業務です。

人事・労務担当者が注意すべきポイントは、以下のとおりです。

  • 時間外労働(法定外残業)・休日労働をさせるには「36協定」の締結が必要
  • 残業代は1分単位で計算する
  • 残業時間の上限規制に注意
  • 労働時間を正確に把握する
  • 残業代請求権の時効期間は3年

以下では、残業代の支払いに関する実務上の注意点を整理し、企業が違法な運用に陥らないために押さえておくべきポイントを解説します。

時間外労働(法定外残業)・休日労働をさせるには「36協定」の締結が必要

法定時間外労働や休日労働をさせるには、労働基準法36条に基づく「36協定」の締結と労働基準監督署への届出が必須です。未締結で労働させた場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。

36協定は、労働者の代表(労働組合または労働者の過半数代表者)と使用者が書面で締結することで、初めて法定時間外労働や休日労働が可能となります。

人事・労務担当者は、36協定の有効期限や時間数の管理、必要に応じた特別条項の準備を適切に行い、法令に沿った運用を徹底することが重要です。

36協定の詳しい情報は、以下の記事で解説しているため、参考にしてみてください。

残業代は1分単位で計算する

残業代は、1分単位で正確に計算するのが原則です。15分未満や30分未満の切り捨ては、労働基準法24条に反し、未払い残業として請求されるリスクがあるため注意が必要です。

ただし、例外として、1カ月単位で集計した残業時間の合計についてのみ、30分未満切り捨て・30分以上は1時間切り上げる処理が認められています

例えば、労働者100名の企業で、1日あたり7.5分の切り捨てが常態化していた場合、月20日で1人あたり150分(2.5時間)の未払いが発生します。基礎時給1,200円・割増率1.25で換算すると、月3,750円、年間で最大1,350万円の支払いリスクとなるため注意が必要です。

1分単位での勤怠記録と残業代計算を徹底し、すでに端数処理が行われている場合は速やかに是正し、過去の未払い分もあわせて精算することが重要です。

法令を下回る基準を独自ルールとして運用し、給与計算を実施している会社も散見されます。しかし、後々給与未払い問題として発覚した際に、取り返しのつかないダメージを受けることもあるため、最新の法令と照らし合わせながら正しい給与計算を実施しましょう。

残業時間の上限規制に注意

2019年の働き方改革関連法により、法定時間外労働の上限(月45時間・年360時間)が法律で定められ、36協定を締結していても原則として超えられません

また、特別条項付き36協定を締結した場合も、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満などの制限があります。上限を超える残業は労働基準法違反となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。

人事・労務担当者は、勤怠システムで月次・複数月平均の残業時間をリアルタイム管理し、特別条項の必要性や業務見直し、要員配置の調整などで恒常的な長時間労働を防ぐ仕組みを整備しましょう。

労働時間を正確に把握する

使用者には、労働者の労働時間を客観的な方法で正確に把握する義務があります。タイムカードやICカード、PCログなどで客観的に記録し、自己申告制の場合は実態との乖離がないか定期的な確認が必要です。

2019年4月の労働安全衛生法の改正により、客観的な労働時間把握が法的義務となり、適切に管理されていない場合は労働基準監督署の指導対象となります。

労働時間の把握が不十分だと、残業代の計算根拠が不明確となり、未払い請求への反証が困難になります。テレワークや外勤などでも、PC使用記録やGPSなどを活用した客観的な管理を徹底し、実態に合った方法で労働時間を把握することが重要です。

残業代請求権の時効期間は3年

未払い残業代の請求権は、2020年4月1日以降に支払日が到来する賃金から、時効期間が3年に延長されています(以前は2年)。期間内であれば、労働者は過去分をさかのぼって残業代を請求でき、企業は最大3年分の未払いリスクを負うことになります。

時効期間の延長は、2020年の民法改正により債権の消滅時効が原則5年に統一されたことを受け、労働基準法も同時改正され、賃金請求権の時効が2年から5年に延長されたことが背景にあります(ただし当分の間は3年の経過措置が適用)。あわせて労働基準法も改正されました。

請求可能な期間が24カ月から36カ月へと拡大したことで、企業が想定すべき未払い残業代の金額も最大で約1.5倍になる可能性があります。

労働者にとっては、請求できる機会が広がった一方で、企業側は残業代請求訴訟のリスクが高まっています。そのため、労働時間の監査や未払い分の是正、管理職向けの研修など、事前の対策が不可欠です。

ムートン

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参考文献

厚生労働省「変形労働時間制リーフレット」

厚生労働省「フレックスタイム制パンフレット」

監修

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遠藤良介 社会保険労務士(愛知社労士会所属)
Reメンバー労務オフィス
労務相談、社会保険・労働保険手続き、社内規定類作成、ライフプランニング相談ほか