雇用契約の業務委託契約への切り替えとは?
両者の違い・注意点・
労働基準法上の労働者性などを分かりやすく解説!

この記事を書いた人
アバター画像
弁護士法人高井・岡芹法律事務所弁護士
2007年弁護士登録(東京弁護士会所属)。人事・労務、企業法務一般(株主総会、CSR、その他会社経営一般)、M&A、訴訟・紛争解決等、スポーツ法務を取り扱う。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます
労働法に関する研修資料
この記事のまとめ

働き方改革関連法による労働基準法の改正に伴い2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から施行されている時間外労働の上限規制については、一部の業界では適用が猶予されていましたが、2024年4月1日からは、建設業自動車の運転の業務医師などについて、規制が適用されることになります。

これを受けて、上限規制が猶予されていた業界において、これまで雇用契約を締結していた労働者について、上限規制が適用されない個人事業主として業務委託契約に切り替えるという流れがあるところ、個人事業主の場合、業務委託契約に切り替えたものの、実態は労働基準法9条の労働者に該当するのではないか、と争われる可能性があり、結果として労働者に該当すると判断されると、企業は想定外の負担を負うことになります。

そこで、本稿では、2024年4月1日から上限規制が適用される物流・運送業界のドライバーに焦点を当て、労働者性の判断基準について解説します。

ヒー

これまでアルバイトで依頼していた配送業務を、これからは同じ人に業務委託契約でお願いしようかと検討しています。法的な問題点は何かあるでしょうか?

ムートン

個人事業主との業務委託契約では、企業は個人事業主と指揮命令関係にないかなどに注意が必要で、丁寧に検討すべきといえます。判断のポイントや注意点も解説しますね。

※この記事は、2024年3月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • 下請法…下請代金支払遅延等防止法
  • フリーランス保護法…特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
  • 労働者派遣法…労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
  • 独占禁止法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

雇用契約から業務委託契約への切り替えとは

雇用契約から業務委託契約への切り替えとは、法律上の定義があるわけではありませんが、企業と雇用契約を締結していた労働者が、当該雇用契約を終了させたうえで、当該企業との間で新たに業務委託契約を締結することをいいます。

業務委託契約とは

業務委託契約とは、一般的には、委託者が受託者に対して業務を委託し、受託者がこれを受託する契約のこととされています。

雇用契約と業務委託契約の違い

雇用契約(労働契約)とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことを内容とする労働者と使用者の間の契約であり(労働契約法6条)、労働者が雇用契約の相手方である企業から指揮命令を受けて業務を行うものであるのに対し、業務委託契約においては、委託先事業者はあくまでも契約において委託された業務を自己の責任において遂行することが予定されています。

このように、契約の相手方である企業から指揮命令を受けて業務を行うか否かが主たる違いといえます。

個人事業主と有期雇用労働者・短時間労働者の違い

個人事業主は、委託元企業との間で、個人として業務委託契約(請負契約を締結しており、当該委託元企業からの指揮命令を受けずに自己の責任において委託された業務を行うことが予定されています。これに対して、有期雇用労働者短時間労働者は企業との間で雇用契約を締結しているため、当該企業から指揮命令を受けて業務を行うことが予定されています。

このように、両者の基本的な違いは、上記の雇用契約との違いと同様に契約の相手方である企業から指揮命令を受けて業務を行うか否かという点になります。

個人事業主と派遣労働者の違い

派遣労働者は、派遣元企業との間で雇用契約を締結しているものの、派遣元企業と派遣先企業との労働者派遣契約に基づき、派遣先企業に派遣され、派遣先企業から指揮命令を受けて業務を行うのに対し、前述のとおり、個人事業主は、あくまでも企業との間で業務委託契約や請負契約を締結し、当該企業からの指揮命令を受けずに自己の責任で委託業務を行うことが予定されているため、この点が両者の違いになります。

業務委託契約への切り替えのメリット・デメリット

企業が、雇用契約から業務委託契約に切り替えた場合、労働者は個人事業主という立場になることから、雇用契約を締結していた場合に比して、保護の程度が弱くなるといわれることがあります。
しかし、後述のように、個人事業主に対しても一定の法的保護は図られており、業務委託契約に切り替えるか否かは、メリット・デメリットを慎重に検討して判断することになります。

業務委託契約のメリット・デメリット

【メリット】
〈個人事業主〉
・依頼された業務を拒否することができる
・価値が高い業務を行える実力があれば高収入に繋がる

〈企業〉
・主体的に業務に取り組むことが期待できる
・人件費を固定化せずに一定の売上を確保できる
・社会保険料の負担を削減できる

【デメリット】
〈企業〉
・人材が他社に流出してしまう可能性が高まる
・仕事の依頼や指示を受諾するか否かは個人事業主に決定権があり、必ず受諾される保障はない
・仕事を進めていく上で場所や時間、進行方法を管理・指定することはできない

〈企業・個人事業主双方〉
・企業と労働者の双方が業務委託契約を理解していないとトラブルが生じやすい

働き方改革と2024年問題|雇用形態への影響とは

働き方改革により、2019年4月(中小企業は2020年4月)から、時間外労働の上限規制が強化されましたが、自動車運転の業務などの一定の業務については、当該強化された上限規制の適用が5年間猶予されていました。

2024年3月末をもってこの適用猶予期間は終了し、同年4月1日からは、建設業自動車の運転の業務医師などについて、(それぞれ若干内容は異なりますが)上限規制が適用されることになります。
この上限規制の適用についてどう対応すべきかが、いわゆる働き方改革の「2024年問題」です。

また、このような「2024年問題」がマスコミ等においても取り上げられることもあり、上限規制の適用が猶予されていた業界において、これまで雇用契約を締結していた労働者について、上限規制が適用されない個人事業主として、業務委託契約に切り替えるという流れがあり、これにより新たな問題が生じる可能性があるとの指摘もなされているようです。

働き方改革における時間外労働の上限規制

働き方改革関連法による労働基準法の改正に伴い、すでに2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から、改正労働基準法の適用が猶予されない業種の労働者については、

月45時間・年360時間

の時間外労働の限度時間が設けられ、また、特別条項付き36協定を締結する場合でも、時間外労働時間は

✅ 年720時間以内
✅ 2カ月から6カ月の時間外労働と休日労働の月平均が各々80時間以内
✅ 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満

といった制限が設けられました。

物流・運送業界の2024年問題

すでに述べたように、物流・運送業界においては、2024年4月1日から、自動車の運転の業務を行うドライバーの時間外労働について新たな上限規制が適用されることになります。

このことにより、常態化しているとされるドライバーの長時間労働などの労働環境が改善される可能性が考えられますが、他方で、これまでドライバーの長時間労働に頼ってきた輸送能力の低下等について懸念が広がっているのも事実です。

当然のことですが、物流・運送業界の輸送能力が低下すれば、物流・運送に関わる企業の売上げや、そこで勤務するドライバーの収入、さらには荷主や一般消費者にもさまざまな影響が出ることが予想され、これらの問題は、総称して「物流・運送業界の2024年問題」とされることがあります。

事業者の注意点|偽装請負・下請法・フリーランス保護法など

雇用契約と業務委託契約の労務管理上の大きな違いとしては、労働関連法令の適用の有無や、雇用保険・健康保険・厚生年金保険・労災保険といった社会保険等の適用の有無があります。

すなわち、雇用契約であれば、労働基準法等によって、

  • 労働時間の上限規制
  • 最低賃金・割増賃金
  • 全額払いや毎月一定期日払い等の賃金支払いに関する各種原則
  • 休日・休暇
  • 同一労働同一賃金

等の各種保護があります。

しかし、業務委託契約においては、そのような保護や労災保険による補償はなく、健康保険や年金についても、自ら手続や支払い等を行う必要があります。

もっとも、「偽装請負」(実態は雇用関係や労働者派遣であるにもかかわらず、請負契約のように偽装すること)という言葉もあるように、例えば、個人事業主との契約形式が業務委託契約になっていたとしても、実態として雇用契約であると認定された場合は、当該個人事業主は各種労働関係法の保護を受ける可能性があります(なお、労働者派遣法または同法により適用される労働基準法等の適用を免れる目的で、請負契約等の契約を締結し、実際には労働者派遣を受けた場合には、労働契約申込みみなし制度が適用される可能性もあります。労働者派遣法40条の6第1項5号)。

したがって、企業としては、業務委託契約に変更する場合は、偽装請負にならないように注意する必要があります。

さらに、企業と業務委託契約を締結している個人事業主が労働基準法の労働者とは認められない場合においても、何らの規制もないというわけではなく、民法商法のほか、労働組合法独占禁止法下請法労働安全衛生法の一部(同法31条・31条の4等)、労災保険の特別加入制度(労働者災害補償保険法33条)などが適用されることがあります(2024年11月までに施行される予定であるフリーランス保護法が施行されれば、同法の適用の対象にもなります)。

このように、企業が個人事業主との間で業務委託契約を締結したとしても、企業に対して何らの法的制約がないということではなく、個人事業主を保護するための法令等は存在している点について、企業は注意する必要があります。

個人事業主が「労働者」と判断される場合

それでは、どのような場合に個人事業主が「労働者」だと判断されるのでしょうか。
労働基準法9条において、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(……)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定されています。
そして、企業と個人で業務委託契約等を締結している個人事業主であっても、上記に該当すると判断される場合は、労働基準法上の「労働者」として、上記の労働関係法による各種保護を受ける可能性があります。

ヒー

「使用される者」で「賃金を払われる者」…うーん、具体的な判断はできそうにありません。

ムートン

実際に、どのような場合に労働基準法上の労働者と判断されるのか、見て行きましょう。

労働基準法上の労働者性の判断基準

すでに述べたように、雇用契約から業務委託契約へ切り替えたとしても、業務委託契約に切り替えた個人が労働基準法の労働者であると認定された場合は、企業は、労働関係法による各種の義務を負うことになります。

したがって、業務委託契約に切り替える際には、労働基準法上の労働者と認定される可能性の有無・程度について、慎重な検討を行い、切り替えるか否かを判断すべきであり、その前段階として、労働基準法の労働者に該当するか否かがどのように判断されるのかを知っておく必要があります。

この点について、労働者性に関する定めは、労働基準法上は、上記9条の規定しかないことから、かかる条項の解釈が問題となるところ、行政解釈および裁判例において、労働基準法の労働者性の判断基準が示されています。

ムートン

以下、行政解釈、裁判例の判断の順に解説していきます。

行政解釈の具体例|傭車運転手の労働者性に関する行政解釈

労働基準法の労働者に該当するか否か判断基準については、以下に引用する労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者性』の判断基準について」(以下「昭和60年報告書」という)が行政機関等の判断基準となると考えられ、企業にとっても参考となります。

そこで、まず、労働基準法上の労働者をどのような基準で判断するかを理解しておくために、以下において、「昭和60年報告書」の労働者性判断の概要をご紹介します。

第2「労働者性の判断基準」
1 「使用従属性」に関する判断基準
(1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準
イ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
「使用者」の具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して諾否の自由を有していれば、他人に従属して労務を提供するとは言えず、対等な当事者間の関係となり、指揮監督関係を否定する重要な要素となる。
これに対して、具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して拒否する自由を有しない場合は、一応、指揮監督関係を推認させる重要な要素となる。……

ロ 業務遂行上の指揮監督の有無
(イ)業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
業務の内容及び遂行方法について「使用者」の具体的な指揮命令を受けていることは、指揮監督関係の基本的かつ重要な要素である。しかしながら、この点も指揮命令の程度が問題であり、通常注文者が行う程度の指示等に止まる場合には、指揮監督を受けているとは言えない。……
(ロ)その他
そのほか、「使用者」の命令、依頼等により通常予定されている業務以外の業務に従事することがある場合には、「使用者」の一般的な指揮監督を受けているとの判断を補強する重要な要素となろう。

ハ 拘束性の有無
勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には、指揮監督関係の基本的な要素である。しかしながら、業務の性質上(例えば、演奏)、安全を確保する必要上(例えば、建設)等から必然的に勤務場所及び勤務時間が指定される場合があり、当該指定が業務の性質等によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを見極める必要がある。

ニ 代替性の有無 -指揮監督関係の判断を補強する要素-
……労務提供の代替性が認められている場合には、指揮監督関係を否定する要素のひとつとなる。

(2)報酬の労務対償性に関する判断基準
……報酬が時間給を基礎として計算される等労働の結果による較差が少ない、欠勤した場合には応分の報酬が控除され、いわゆる残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給される等報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合には、「使用従属性」を補強することとなる。

2 「労働者性」の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
イ 機械、器具の負担関係
本人が所有する機械、器具が安価な場合には問題はないが、著しく高価な場合には自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」としての性格が強く、「労働者性」を弱める要素となるものと考えられる。

ロ 報酬の額
報酬の額が当該企業において同様の業務に従事している正規従業員に比して著しく高額である場合には、上記イと関連するが、一般的には、当該報酬は、労務提供に対する賃金ではなく、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」に対する代金の支払と認められ、その結果、「労働者性」を弱める要素となるものと考えられる。

ハ その他
……裁判例においては、業務遂行上の損害に対する責任を負う、独自の商号使用が認められている等の点を「事業者」としての性格を補強する要素としているものがある。

(2)専属性の程度
特定の企業に対する専属性の有無は、直接に「使用従属性」の有無を左右するものではなく、特に専属性がないことをもって労働者性を弱めることとはならないが、「労働者性」の有無に関する判断を補強する要素のひとつと考えられる。

(3)その他
……裁判例においては、①採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること、②報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること、③労働保険の適用対象としていること、④服務規律を適用していること、⑤退職金制度、福利厚生を適用していること等「使用者」がその者を自らの労働者と認識していると推認される点を、「労働者性」を肯定する判断の補強事由とするものがある。

労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者性』の判断基準について」(「昭和60年報告書」)1985年12月19日

以上のとおり、労働基準法上の労働者に該当するか否かについて、少なくとも行政機関においては、上記の判断基準に準拠して判断がなされるものと解されることから、業務委託契約に変更する場合は、同基準を十分斟酌して検討すべきといえます。

特に、業務委託契約とする場合には、以下の2点が、重要なポイントと考えられる点には留意が必要です。

✅ 諾否の自由を認めること
✅ 業務の内容および遂行方法について具体的な指揮命令を行わないこと

次に、「昭和60年報告書」において、「物流・運送業界の2024年問題」とも関係する、傭車運転手の労働者性について、具体的に検討している部分があり、実務上非常に参考になるため、以下において紹介します。

(事例1)庸車運転手A
1 事業等の概要
(1) 事業の内容
建築用コンクリートブロックの製造及び販売

(2) 傭車運転手の業務の種類、内容
自己所有のトラック(4トン及び11トン車、1人1車)による製品(コンクリートプロック)の運送
2 当該傭車運転手の契約内容及び就業の実態
(1) 契約関係
書面契約はなく、口頭により、製品を県外の得意先に運送することを約したもので、その報酬(運賃)は製品の種類、行先及び箇数により定めている。

(2) 業務従事の諾否の自由
会社は配車表を作成し、配車伝票によって業務を処理しており、一般的にはこれに従って運送していたが、時にこれを拒否するケース(特段の不利益取扱いはない。)もあり、基本的には傭車運転手の自由意思が認められている。

(3) 指揮命令
運送業務の方法等に関して具体的な指揮命令はなく、業務遂行に当たって補助者を使用すること等も傭車運転手の自由な判断にまかされ、時に上記(2)の配車伝票に納入時刻の指定がされる程度で傭車運転手自身に業務遂行についての裁量が広く認められている。

(4) 就業時間の拘束性
通常、傭車運転手は午後会社で積荷して自宅に帰り、翌日、自宅から運送先に直行しており、出勤時刻等の定め、日又は週当たりの就業時間等の定めはない。

(5) 報酬の性格
報酬は運賃のみで、運賃には車両維持費、ガソリン代、保険料等の経費と運転業務の報酬が含まれていたと考えられるが、その区分は明確にされていない。

(6) 報酬の額
報酬の額は月額約40万円と、社内運転手の17~18万円に比してかなり高い。

(7) 専属性
契約上他社への就業禁止は定めておらず、現に他の傭車運転手2名程度は他社の運送にも従事している。

(8) 社会保険、税金等
社会保険、雇用保険等には加入せず(各人は国民健康保険に加入)、また報酬については給与所得としての源泉徴収が行われず、傭車運転手本人が事業所得として申告している。

3 「労働者性」の判断
(1) 「使用従属性」について
①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由があること、②業務遂行についての裁量が広く認められており、他人から業務遂行上の指揮監督を受けているとは認められないこと、③勤務時間が指定、管理されていないこと、④自らの判断で補助者を使うことが認められており、労務提供の代替性が認められていること、から使用従属性はないものと考えられ、⑤報酬が出来高払いであって、労働対償性が希薄であることは、当該判断を補強する要素である。

(2) 「労働者性」の判断を補強する要素について
①高価なトラックを自ら所有していること、②報酬の額は同社の社内運転手に比してかなり高いこと、③他社への就業が禁止されておらず、専属性が希薄であること、④社会保険の加入、税金の面で同社の労働者として取り扱われていなかったことは「労働者性」を弱める要素である。

(3) 結論
本事例の傭車運転手は、労働基準法第9条の「労働者」ではないと考えられる。

労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者性』の判断基準について」(「昭和60年報告書」)1985年12月19日

上記は、傭車運転手が労働基準法上の労働者に該当するか否かの検討において、どのような事情が労働者性を否定する要素となるのかについて、一般論ではなく、具体的な事例における判断が示されている点で、実務上参考にすべきものといえます。

特に、傭車運転手の報酬が、同様の業務を行っている労働者の給与よりある程度高く設定されていることが労働者性を否定する方向で斟酌されていることには留意すべきでしょう。

裁判例の判断基準|運送業務関係の裁判例

「昭和60年報告書」において労働基準法上の労働者性の判断基準が示された後は、裁判例においても基本的には、上記判断基準に沿って労働者性の判断がなされているといえます。

以下において、自動車の運転業務に関連して労働基準法上の労働者性について判断し、結論として労働者性を否定した裁判例2件を紹介します。

判決年月日等最高裁平成8年11月28日判決
横浜南労基署(旭紙業)事件
【傭車の運転手】
大阪地裁令和5年3月3日判決
Y社事件
【配送業務従事者】
1 「使用従属性」に関する判断基準
(1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無会社の運送係の指示を拒否する自由はなかった担当する配達地域は、会社が一方的に定めていたのではなく、当該業務従事者との合意を経た上で決定されていたのであって、このことからしても、当該業務従事者は、会社からの業務指示を拒否し得る立場にあった
業務遂行上の指揮監督の有無会社の業務の遂行に関する指示は、原則として、運送物品、運送先および納入時刻に限られ、運転経路、出発時刻、運転方法等には及ばず、また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかった会社から、あらかじめ定められた担当地域において、会社が荷主から受託した荷物を配達することを求められていたものの、会社の従業員からは、具体的な配達ルートを指示されていたものではなく、配達業務の遂行方法については、自身の裁量が認められていた
拘束性の有無・勤務時間については、同社の一般の従業員のように始業時刻および終業時刻が定められていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は出社することなく、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていた
・毎日の始業時刻および終業時刻は、上記運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されていた
荷主が指定した一定の時刻までに荷物を配達することを求められているところ、このこと自体は、会社が当該業務従事者に対して委託している配達業務の性質上当然のものであり、これをもって、会社から業務遂行上の時間的拘束を受けていたと評価することはできない
代替性の有無会社から委託された配達業務を遂行するに当たり、第三者を使用することが許容されていたものであり、これにより、自身の配達業務の規模の拡大や効率化を図ることが可能であった
(2)報酬の労務対償性に関する判断基準
報酬は、トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表により出来高が支払われていた会社が支払っていた報酬の金額は、専らこなした配達業務の種類と量に応じて決定されていたのであって、上記の報酬に、一定時間の労務提供に対する対価としての性質があったとはいえない
2 「労働者性」の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
機械、器具の負担関係上告人(原告)の所有するトラックの購入代金はもとより、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等も、すべて上告人が負担していた会社から貸与された制服を着用し、PDT端末を所持した上、自らが所有する軽自動車に荷物を積み込み、担当するルートを回って配達業務を行い、配達が完了すれば、PDT端末に必要な情報を入力していた
報酬の額運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていた報酬額は、配達した荷物の種類と個数に基づいて計算されていた
その他
(2)専属性の程度
専属的に会社の製品の運送業務に携わっていた
(3)その他
報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収ならびに社会保険および雇用保険の保険料の控除はされておらず、上告人は、上記の報酬を事業所得として確定申告をした会社が報酬を支払うに当たって消費税を加算していたことや、源泉徴収および社会保険料控除をしていなかったことも併せて考えれば、会社が支払っていた報酬に労務対償性があったものと評価することはできない

まとめ

以上で述べた通り、雇用契約を業務委託契約に切り替えること自体は何ら責められるべきことではありませんが、切り替えた場合に労働基準法の労働者に該当すると判断された場合は、企業としては思わぬ負担を負う可能性もあるところです。

したがって、雇用契約から業務委託契約への切り替えを考える場合は、まず、契約形式の切り替えを行った場合に、労働基準法上の労働者に該当すると判断される可能性がどの程度あるか、という視点で検討することが重要になります。

そして、細かな点を挙げるとキリがないものの、特に、業務委託契約に切り替えた個人事業主が、労働基準法上の労働者であると評価される可能性を少しでも低減させるためには、以下の事項についてできるかぎり配慮することが肝要と思われます。

企業の留意すべきポイント

・仕事を受けるかについて諾否の自由を与える
・業務遂行方法に裁量をもたせる
・なるべく時間的・場所的な拘束をしない(ある程度拘束せざるを得ない場合は業務の性質上そうせざるを得ないことを具体的に説明できるようにしておく)
・再委託等は可能な限り認める
・業務委託で使用する器具等は委託先(個人事業主)に負担してもらう
・報酬は、業務を行った時間に対する対価ではなく、行った業務に対する対価として支払う
・報酬は、可能な限り高めに設定する

なお、本記事では、物流・運送業界のドライバーに焦点を絞って雇用契約から業務委託契約への切り替えについて解説しましたが、高年齢者雇用安定法において、努力義務ではあるものの、70歳までの就業機会確保措置に関する規定が設けられ、その措置の一つとして、「70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」が挙げられているところ、今後、このような観点からも雇用契約から業務委託契約への切り替えが増加することが考えられます。

企業は、70歳までの就業機会確保措置として業務委託契約の締結を選択する場合には、本稿で述べた点について留意することが必要となります。

ムートン

最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
労働法に関する研修資料