委嘱とは?
委託・嘱託・委任との違いや
委嘱状・委嘱契約書の記載例などを
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

委嘱(いしょく)」とは、専門的知識を要する業務や役割を外部者に任せることを意味します。例えば「学術に関する調査・研究を委嘱する」「演奏会用の新曲の制作を委嘱する」などのように用いられます。委嘱の対義語は「解嘱」です。

委嘱と同じく、外部者に業務や役割を任せるという意味の用語として「委託」「嘱託」「委任」などがあります
委託は、専門性の有無を問わず、外部者に業務等を依頼する場合に広く用いられます。
嘱託は、非正規社員を雇用する場合や、官公庁が外部機関に事務を依頼する場合などに用いられます。
委任民法で定められる典型契約の一種で、委任者が受任者に法律行為を委託するものです。法律行為以外の事務を委託する場合は「準委任」と呼ばれます。

委嘱をする際には、委嘱状を交付するか、委嘱契約書を締結します。記載例(テンプレート)を参考に、委嘱内容を適切に反映した書面を作成しましょう。

この記事では「委嘱」について、委託・嘱託・委任との違いや委嘱状・委嘱契約書の記載例などを解説します。

ヒー

委託、嘱託、委任など、同じような言葉が多くて混乱します。

ムートン

確かに紛らわしいですね。それぞれの法的意味や用いられ方など、詳しく見てみていきましょう。

※この記事は、2023年9月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

「委嘱」とは

委嘱(いしょく)」とは、専門的知識を要する業務や役割を外部者に任せることを意味します。

委嘱の具体例

「委嘱」が用いられるのは、専門性の高い業務や役割を外部者に委託する場合です。例えば以下のような場合に「委嘱」が用いられます。

① 学術に関する調査・研究を外部委託(委嘱)する場合
② 演奏会用の新曲の制作を委嘱する場合(「委嘱初演」は、委嘱によって制作してもらった新曲を初めて演奏すること)

行政・公務員の「委嘱」とは

行政機関においても、特定の業務を外部者に任せる場合に「委嘱」を用いることがあります。

行政機関による委嘱は、主に審議会や調査会の委員などを任命する際に行われます。
審議会や調査会の委員は、担当行政機関に所属しない民間人や公務員から任命されるのが一般的です。また、審議会や調査会では学術的・専門的な検討が行われるため、委員は専門的知識を有している必要があります。

上記のような職務の性質を考慮して、審議会や調査会の委員などを任命することを「委嘱」と言う場合があります。

委嘱の対義語は「解嘱」

委嘱の対義語は「解嘱」です。解嘱は委嘱した業務の責任や役割を解くことを意味します。

業務や役割を委嘱した者を解嘱する際には、契約や社内規程などに従った手続きを踏む必要があります。

委嘱と似た用語の違い

委嘱と同じく、業務や役割を任せるという意味の用語として「委託」「嘱託」「委任」などがあります。これらの用語は、委嘱との間で以下のとおり使い分けられています。

委嘱と委託の違い

委託」とは、業務や役割を任せることを意味します。委嘱は委託の一種であり、委託が委嘱を包含する関係にあります。

委嘱」は、特に専門性の高い業務や役割を任せる場合に絞って用いられます。これに対して「委託」は、業務や役割を任せる場合に幅広く用いられるのが特徴です。

委嘱と嘱託の違い

嘱託」も、業務や役割を任せることを意味します。言葉としては、嘱託と委託はほぼ同じ意味です

ただし「嘱託」は、委託の中でも、非正規社員を雇用する場合や、官公庁が外部機関に事務を依頼する場合などに用いられる傾向にあります。特に非正規社員のうち、定年後に再雇用されている者を「嘱託社員」と呼ぶことが多いです。

嘱託と委嘱は、いずれも委託の一種である点は共通しているものの、委託先の属性に違いがあるということです。

委嘱と委任の違い

委任」とは、委任者が受任者に対して法律行為を委託する契約です。また、法律行為以外の事務を委託・受託する契約は準委任」と呼ばれます。委任および準委任は、いずれも民法で定められた典型契約の一種です。

委嘱の契約としての性質は、雇用・請負・委任・準委任のいずれかに該当すると考えられます

① 雇用
業務等の委嘱を受ける者が、委嘱する者の指揮命令下で労働する場合は、雇用に当たります。
(例)
研究所のメンバーとして、上司(所長など)の具体的な指示に従ってフルタイムで働く場合

② 請負
委嘱される業務が仕事の完成を目的とする場合は、請負に当たります。
(例)
演奏会用の新曲の制作を委嘱する場合(新曲を完成させることが委嘱業務の目的)

③ 委任
委嘱される業務が仕事の完成を目的とせず、かつ法律行為を内容とする場合は、委任に当たります。委嘱業務の中に、委任と準委任が混在することもあります。
(例)
研究機関における統括業務を委嘱した上で、統括者として契約締結権限を付与する場合

④ 準委任
委嘱される業務が仕事の完成を目的とせず、かつ法律行為以外の事務を内容とする場合は、準委任に当たります。委嘱業務の中に、委任と準委任が混在することもあります。
(例)
研究機関における調査研究業務を委嘱する場合

雇用に当たる委嘱については、民法雇用の規定のほか、労働基準法をはじめとする労働法の規定が適用されます。
請負に当たる委嘱については、民法請負の規定が適用されます。
委任または準委任に当たる委嘱については、民法の委任の規定が適用または準用されます。

委嘱と付託の違い

付託」とは、仕事・業務・物事の処理などを任せることをいいます。

特に、団体から団体に対する委任が「付託」と表現されることが多いです。例えば、国会において議長が所管の委員会に審査を任せることは「付託」と呼ばれます。

これに対して「委嘱」は、主に個人に対して業務や役割を任せるものです。 委嘱と付託とでは、委託先が個人であるか団体であるかが大きな違いとなります。

委嘱と管掌の違い

管掌」とは、自らが管轄する職務として責任をもって取り扱うことをいいます。

管掌する職務は、他人から任されたものではなく、元来自分が取り扱うべきものです。

これに対して「委嘱」は、他人に業務や役割を任せることをいいます。

したがって、実際に委嘱された業務や役割を担うのは、もともとその業務や役割を負っていた者とは別の者です。

委嘱と管掌とでは、業務や役割を他人に任せるのか、それとも自ら責任をもって取り扱うのかが異なります。

委嘱と任命の違い

任命」とは、特定の官職や役目に就くよう命じることをいいます。公務員を官職につける際に使われることが多いですが、民間企業における役職などを与えるときにも使われることがあります。

「任命」の特徴は、任命された人が単に業務や役割を担うだけでなく、何らかの地位や肩書を得る点です。

例えば日本国憲法6条では、天皇が内閣総理大臣および最高裁判所長官を任命するものと定められています。

任命された人は、大きな責任を伴う業務を実際に行うだけでなく、「内閣総理大臣」「最高裁判所長官」という権威ある地位・肩書を得ることになります。

これに対して「委嘱」は、何らかの業務や役割を任せる点では任命と共通していますが、委嘱を受けた人が必ずしも地位や肩書を得るとは限りません。

委嘱に地位や肩書を伴う場合もありますが、そうでない場合もあります。

委嘱と選任の違い

選任」とは、ある人を選んで職務に就かせることをいいます。

「選任」には、複数人の候補者から選ぶという意味合いがあります。例えば、委員会において「委員の中から議長を選任する」というような形で用います。

しかし実際には、候補者が1人しかいない状況でも「選任」を用いるケースがあるため、「複数人の候補者から選ぶ」という意味合いは相対化されているのが実情です。

これに対して「委嘱」には、「選任」とは異なり、複数人の候補者から選ぶという意味合いはありません。

ただし、「選任」について「複数人の候補者から選ぶ」という意味合いは相対化されているため、委嘱と選任の違いとして過度に強調すべき点ではないと考えられます。

委嘱と選任の主な違いは、委嘱が専門性の高い業務や役割を任せるものであるのに対して、選任は専門性の如何にかかわらず用いることができる点と考えるべきでしょう。

このように、委嘱がどの種類の契約に該当するかによって、適用される法律の規定が異なる点に注意が必要です

委嘱の手続き

委嘱の手続きは、以下の2つのパターンに大別されます。委嘱状は簡易的な書面とすることが多いですが、委嘱契約書には詳細な契約条件が定められる傾向にあります。

① 委嘱状を交付する
② 委嘱契約書を締結する

パターン1|委嘱状を交付する

委嘱状」とは、業務等を委嘱する側が作成し、委嘱を受ける側に対して交付する書面をいいます。

委嘱状は、委嘱業務の内容・委嘱期間・対価などの基本的な事項だけを記載し、簡易的な書面として作成されることが多いです。委嘱に関する手続きを簡素化したいなどの理由から、委嘱状を交付して済ませる例もよく見受けられます。

ただし、委嘱状を交付しただけでは、委嘱に関する契約が成立したとはいえません。委嘱を受ける側が承諾の返答をした時点で、初めて委嘱に関する契約が成立します。

したがって、契約の成立を明確化するため、委嘱を受ける側が委嘱をする側に対して、承諾書などを交付することが望ましいでしょう。

また、委嘱状には詳細な契約条件が定められないことが多い一方で、秘密保持契約などを別途締結する場合もあります。

委嘱状と委任状の違い

委嘱状と委任状は混同されがちですが、前者は「委嘱」を内容とするのに対して、後者は「委任」を内容とする点に違いがあります。それに伴って、委嘱・委託の対象となる業務の内容や、書面としての用途などが異なります。

委嘱業務が法律行為である必要はなく、幅広い業務が委嘱状による委嘱の対象になり得ます。

これに対して委任は、委任者が受任者に対して法律行為を委託する契約をいいます。したがって委任状は、法律行為の委託を内容とするものでなければなりません。
具体的には、登記手続きや公的書類の取得などに関する行政上の申請行為、契約締結の代理、訴訟行為などが、委任状によって委任される法律行為の代表例です。

また、委嘱状は通常、委嘱を受ける側に対する通知書面に過ぎません。
これに対して委任状は、代理権を授与したことを証明する書類としても用いられます。例えば法務局で代理人が登記手続きを行う場合は、代理権の授与が明記された委任状を提示しなければなりません。

パターン2|委嘱契約書を締結する

委嘱契約書」とは、委嘱の条件に関する合意内容を記載した上で、業務等を委嘱する側と委嘱を受ける側が締結する契約書です。

委嘱状は業務等を委嘱する側が単独で作成するのに対して、委嘱契約書は、委嘱する側と委嘱を受ける側が共同で作成(締結)します。1つの書面で委嘱に関する契約の成立を証明できる点が、委嘱契約書の大きなメリットです。

委嘱契約書には、委嘱状と比べると、契約条件が詳細に記載されることが多い傾向にあります。契約条件は当事者双方を拘束するので、委嘱契約書を締結する際には、自社(自分)にとって不当に不利益な条項が含まれていないかをよく確認し、不適切な条項は修正を求めましょう。

委嘱状の記載例(テンプレート)

委嘱状の記載例(テンプレート)を紹介します。

記載例における記載事項はあくまでも一例です。実際の記載事項は、委嘱の内容や条件に応じて個別にご検討ください。

委嘱状

△△殿

貴殿に以下のとおり、××に関する調査研究に関する業務を委嘱いたします。

1. 委嘱業務
(1)……
(2)……
(3)……
(4)前各号に付随関連する業務

2. 委嘱期間
□年□月□日から○年○月○日まで

3. 委嘱業務の対価
1か月当たり○万円(消費税及び地方消費税別途)

4. 備考
……

以上

□年□月□日

東京都……
株式会社○○
代表取締役 ×× 印

委嘱契約書の記載例(テンプレート)

委嘱契約書の記載例(テンプレート)を紹介します。

記載例の契約条項はあくまでも一例です。実際の契約条項は、委嘱の内容や条件に応じて個別にご検討ください。

委嘱契約書

株式会社○○(以下「甲」という。)と△△(以下「乙」という。)は、××に関する調査研究について、以下のとおり委嘱契約書を締結する。

第1条(委嘱)
甲は乙に対し、本契約の規定に従い、次条に定める業務(以下「本業務」という。)を委嘱する。

第2条(業務内容)
乙は、××に関する調査研究について、以下の業務を行う。
(1)……
(2)……
(3)……
(4)前各号に付随関連する業務

第3条(契約期間)
本契約の期間は、契約締結日から○年○月○日までとする。

第4条(業務の対価)
本業務に係る対価は、1か月当たり○万円(消費税及び地方消費税別途)とする。
2. 乙は、毎月末までに前項の対価に係る請求書を甲に対して交付し、甲は当該請求書を受領した日の翌月末日までに、乙の指定する銀行口座に振り込む方法により当該対価を支払うものとする。なお、振込手数料は甲の負担とする。

第5条(秘密保持)
乙は、甲から本契約に基づいて受領した一切の情報(以下「秘密情報」という。)を厳に機密として扱い、甲の事前の書面による承諾なくして、当該秘密情報を第三者に開示、提供若しくは漏洩してはならず、又は開示目的以外に使用しないものとする。ただし、秘密情報に以下の情報は含まれないものとする。
(1)甲による開示の時点において既に公知となっている情報
(2)甲による開示の時点において既に乙が保有していたことが証明される情報
(3)正当な開示権限を持つ第三者から機密保持義務を負うことなく適法に入手した情報
(4)開示後に自己の責に帰すべからざる事由により公知となった情報
(5)開示された情報に依拠することなく、それと無関係に生成、創出した情報
2. 前項にかかわらず、乙は裁判所、監督官庁、その他の公的機関から命令又は要請を受けた場合には、これに従い秘密情報を開示することができる。この場合、乙はあらかじめ甲に対し、当該開示の必要性について連絡し、開示の方法、時期等について甲と協議のうえ決定するものとする(事前の協議ができないやむを得ない事情がある場合は、事後の報告で足りる。)。

第6条(契約の解除)
甲は、乙が本業務に対して遂行できないと合理的に判断した場合は、本契約を解除できるものとする。

第7条(準拠法及び管轄裁判所)
本契約の準拠法は日本法とし、本契約に起因し又は関連する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙それぞれ記名押印又は署名捺印の上、各1通を保有するものとする。

□年□月□日

甲:
東京都……
株式会社○○
代表取締役 ×× 印

乙:
埼玉県……
△△ 印

ムートン

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