屋号とは?
商号との違い・メリット・デメリット・
確定申告での記載・決める際の注意点などを解説!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
契約業務の基本がわかる一冊
この記事のまとめ

屋号」とは、個人事業主が事業を表示するために使用する名称のことです。
個人事業主は、任意で屋号を決めることができます。屋号を決めた場合は、請求書・領収書・名刺などに記載するのが一般的です。また、開業届や確定申告書などの届出・申告書類にも、屋号がある場合はそれを記載します。

屋号を決めることには、事業内容店舗名を認知してもらいやすい、法人化した際に継続使用できる、屋号付き口座を開設してプライベート口座と区別できるなどのメリットがあります。その反面、屋号のイメージによって業務の依頼が限定されがちである点がデメリットといえるでしょう。

屋号を決める際には、分かりやすい名称とすることや、競合他社または有名企業との重複を避けることが、顧客および潜在顧客の認知を獲得する観点から重要です。また、公序良俗に反する不適切な名称を屋号として用いることは避けましょう。

この記事では屋号について、商号との違い・メリット・デメリットや決める際の注意点などを解説します。

ヒー

フリーランスの方からもらった名刺に、「〇〇ラボ」と書いてありました。これって会社名みたいなものでしょうか?

ムートン

それは「屋号」かもしれません。個人事業主が事業内容や店舗名を表示するために付けるもので、自由に付けることができます。屋号について詳しくご紹介します。

※この記事は、2024年1月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

屋号とは

屋号」とは、個人事業主が事業を表示するために使用する名称のことです。個人事業主は、任意で屋号を決めることができます。

屋号を決めるかどうかは任意|必須ではない

個人事業主が屋号を決めることは必須ではありません。屋号を決めずに営業することもできます

実際には、店舗を構える個人事業主は屋号を決めているケースが多いですが、無店舗で営業する個人事業主は屋号を定めないケースが多いです。
しかし後述するように、無店舗であっても屋号を定めるメリットはあるので、営業の実態に合わせて屋号を決めるかどうかを判断しましょう。

屋号と商号の違い

屋号と同じく、個人事業主が事業を表すために用いる名称として「商号」があります。「商号」とは、商人が自己を表示するために使用する名称です。

個人事業主の商号については商法11条以下、会社の商号については会社法6条以下においてルールが定められています。
不正の目的をもって他の商人(会社)と誤認されるおそれのある商号を使用することが禁止されているなど、商号については一定の法的保護が与えられているのが特徴です。

これに対して、屋号については商号のような保護規定がありません。しかし、屋号は個人事業主が事業を表示するために使用する名称であるため、商号に該当すると考えられます。商号に当たる屋号については、商法に基づいて法的保護が与えられます

屋号に使用できない文言

屋号は原則として、個人事業主が自由に決められます。

ただし、以下の文字については、屋号に用いることが法律上禁止されているので注意が必要です。

屋号に使用できない文言

① 法人であると誤認される文字
「会社」「一般社団法人」「一般財団法人」「銀行」など、法人を表す文字は、該当する種類の法人だけが商号中に用いることができます。
個人事業主が、これらの法人であると誤認されるおそれのある文字を屋号中に用いることは禁止されています(会社法7条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律6条、銀行法6条2項など)。

② 商標登録されている文字
登録商標と同一または類似の文字については、商標権者の許諾を受けない限り、当該登録商標の指定商品または指定役務について使用することが禁止されています(商標法25条・37条)。
したがって、指定商品または指定役務に該当する営業については、屋号中にその登録商標を用いることができません。

なお、指定商品または指定役務に該当しない営業については、登録商標を屋号中に使用することも可能です。

屋号を記載する主な文書

個人事業主の屋号は、さまざまな文書に記載することになります。

屋号を記載する主な文書としては、以下の例が挙げられます。

① 請求書や領収書など
② 名刺
③ 開業届・確定申告書などの届出・申告書類

請求書や領収書など

屋号を決めている場合には、取引先や顧客などに対して交付する請求書領収書に屋号を記載するのが一般的です。
特に飲食店では、利用客に対して交付する領収書に、屋号として用いている店舗名を記載する例がよく見られます。

名刺

取引先や顧客などに対して渡す名刺にも、屋号を記載するのがよいでしょう。名刺に屋号を記載することで、受け取った人に屋号を認知してもらいやすくなります。

開業届・確定申告書などの届出・申告書類|記載は任意

税務署などに提出する届出・申告書類にも、屋号の記載欄が設けられているものがあります。屋号を記載できる届出・申告書類の代表例は、開業届確定申告書などです。

屋号の記載欄があっても、記載するかどうかは任意です。屋号を決めていない場合には、記載しなくても構いません。

屋号を決めるメリット

個人事業主が屋号を決めることには、主に以下のメリットがあります。

① 店舗名や事業内容を認知してもらいやすい
② 法人化の際に商号として継続使用できる|ブランドイメージが引き継がれる
③ 屋号付き口座も開設可能|プライベート口座と区別できる

店舗名や事業内容を認知してもらいやすい

屋号を決めておけば、請求書・領収書・名刺などに屋号を記載することができます。これらの文書を取引先や顧客などに交付すれば、屋号を認知してもらいやすいでしょう。
特に店舗の場合、店舗名を顧客に認知してもらうことは、リピーターを獲得するために必須といえます。そのため、店舗を営む個人事業主は、必ず屋号を決めましょう。

また、屋号に事業内容を表す文言を含めておけば、どのような商品を販売しているのか、どのようなサービスを受けられるのかなどについて、屋号を見た人に直感的なイメージを与えることができます。屋号を見ただけで問い合わせや購入申込みをしてくる人もいるので、幅広い顧客にアプローチしたい場合には屋号を決めておいた方がよいでしょう。

法人化の際に商号として継続使用できる|ブランドイメージが引き継がれる

将来的に個人事業を法人化しようと考えている場合は、法人の商号を早い段階から広く認知させることで、法人化後の事業をスムーズに展開することができます。

そのためには、個人事業の段階から屋号を定めておき、取引先や顧客に周知させた後に法人化して、屋号をそのまま法人の商号に転用するのがよいでしょう。個人事業としてよく知られた屋号を法人の商号として継続使用すれば、築き上げたブランドイメージを引き継いで営業することができます。

屋号付き口座も開設可能|プライベート口座と区別できる

一部の金融機関では、屋号付き口座の開設も受け付けてもらえます。屋号付き口座を事業用とすれば、プライベート口座と明確に区別でき、適切な経理や税務申告に役立ちます

なお、屋号付き口座を開設する際には、屋号を用いて営業していることを証明できる書類を金融機関に提出しなければなりません。屋号を登記している場合は商業登記簿謄本、登記していない場合は開業届の写しなどを提出しましょう。

屋号を決めるデメリット|対応業務のイメージが限定されてしまう

屋号を決めることのデメリットとしては、対応業務のイメージが限定されてしまう点が挙げられます。

屋号から連想できる内容の依頼は来やすくなりますが、そうでない内容の依頼は来にくくなるかもしれません。屋号を決めずに営業していれば、名称にイメージが付きにくいので、いわゆる「何でも屋」として活動しやすいでしょう。

ただし、屋号のイメージが広まれば、認知度の向上によって潜在顧客を獲得できるメリットがあります。また、近年では分野に特化している事業者の方が重宝される傾向にあるため、屋号によって特定の分野のイメージが付くことには歓迎すべき側面が大きいでしょう。

業務の範囲を限定せずに手広くやっていきたいという段階では、屋号を決めない方がよいかもしれません。これに対して、注力すべき分野が定まったら、屋号を決めて周知を図ることも検討しましょう。

屋号を決める際の注意点

個人事業主が屋号を決める際には、認知度の獲得や事業イメージの健全化などの観点から、主に以下の各点に注意しましょう。

① 分かりやすさを重視する|認知してもらいやすいように
② 競合他社や有名企業との重複を避ける
③ 公序良俗に反する不適切な名称は避ける

分かりやすさを重視する|認知してもらいやすいように

屋号は、顧客や取引先に認知してもらってこそ意味があります。そのため、一目で分かりやすい屋号を決めるのがよいでしょう。

例えば、読み方が分かりにくい屋号や、インターネットで検索しにくい屋号は、認知度向上の観点からは望ましくありません。
長すぎる屋号も通常はよくありませんが、インパクト重視で敢えて長い屋号を付けることは経営戦略としてあり得るでしょう。

また、顧客や取引先から見た分かりやすさの観点からは、事業内容を反映した屋号を用いるのがよいでしょう。
例えば飲食店であれば、提供する料理を表す文言を屋号に含めるなどの対応が考えられます。看板商品であるサービス名を、そのまま屋号に用いるのもよいでしょう。

どのような屋号が分かりやすいのかを、顧客や取引先の目線に立って考えることが大切です。

競合他社や有名企業との重複を避ける

屋号には、自身の存在や提供するサービスを、他の事業者やサービスと区別する機能もあります。
屋号によって差別化を図るためには、競合他社や有名企業が商号・屋号・サービスの名称などとして用いている文言を、自身の屋号に用いることは避けた方がよいです。

競合他社有名企業と同じような屋号を用いると、自身の存在やサービスを顧客や取引先に認知してもらいにくくなります。また、インターネット検索において競合他社や有名企業が先に表示されてしまい、ページビュー(PV)などの観点から不利になることも懸念されます。

さらに、競合他社や有名企業と混同されるような屋号を意図的に用いると、不正競争防止法違反の責任を問われかねません(不正競争防止法2条1項1号・2号・3条・4条)。
また、競合他社や有名企業の商号やサービス名が商標登録されている場合には、商標権侵害の責任を問われるおそれもあります。

競合他社や有名企業との重複を避けるためには、屋号を決める前に、あらかじめ同じような商号・屋号・サービス名等が存在しないかを調べることが大切です。
検索エンジン(Googleなど)を用いた検索や近隣の調査などに加えて、独立行政法人中小企業基盤整備機構の「法人検索システム」や、登録商標を検索できる「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」を活用しましょう。

参考:独立行政法人中小企業基盤整備機構ウェブサイト「法人検索システム」
参考:J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)

公序良俗に反する不適切な名称は避ける

屋号は、自身が運営する事業のイメージに直結するものです。したがって、公序良俗に反する不適切な文言を屋号に用いることは、イメージの悪化に繋がるので避けなければなりません。

例えば以下のような文言を屋号に用いることは、基本的に避けるべきでしょう。

× 性的な文言
× 暴力団などの反社会的勢力を連想させる文言
× 犯罪その他の違法行為を連想させる文言
× 差別的な文言
× 過激すぎる思想を表した文言
など

屋号を新設・変更する際の手続き

屋号を新たに決め、またはすでに用いている屋号を変更する際には、特に手続きは必要ありません。すぐに新しい屋号を使用し始めることができます。
屋号の新設・変更後に提出する文書(確定申告書など)には、新しい屋号を記載しましょう。

なお、屋号は商号として登記することが認められています(商法11条2項)。実際に登記している個人事業主は少ないですが、事業の社会的信頼を高められる点がメリットです。

登記事項に変更が生じ、またはその事項が消滅した際には、遅滞なく変更の登記または消滅の登記をしなければなりません(商法10条)。登記されている屋号を変更し、または屋号の使用を取りやめた場合には、変更登記手続きまたは消滅登記手続きを申請しましょう。

ムートン

最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
契約業務の基本がわかる一冊