ハラスメントとは?
定義・種類・関係する法律・
発生時の対応方法などを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
-
ハラスメントとは、相手の嫌がることをして不快感を覚えさせる行為全般を意味します。
ハラスメントには、さまざまな種類がありますが、特に、職場においては、セクシュアルハラスメント(セクハラ)やパワーハラスメント(パワハラ)などがよく問題になります。
ハラスメントは、従業員の離職などにつながり得るため、企業は未然に防止するための措置を講ずべきです。男女雇用機会均等法ではセクハラについて、労働施策総合推進法ではパワハラについて、それぞれ予防・対応に必要な措置を講ずることを事業主に義務付けています。
今回はハラスメントについて、種類・該当する行為・企業が講ずべき措置などを解説します。
※この記事は、2022年10月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 男女雇用機会均等法…雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
- 労働施策総合推進法…労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
- 育児介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
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目次
ハラスメントとは
ハラスメント(harassment)はハラスメント(harassment)は「いやがらせ」や「迷惑行為」などを指す言葉で、相手の嫌がることをして不快感を覚えさせる行為全般を意味します。パワハラやセクハラ、モラハラなどがハラスメントに該当します。
✅法令に定義されたもの
・セクシュアルハラスメント(セクハラ)
・パワーハラスメント(パワハラ)
・マタニティハラスメント(マタハラ)
・パタニティハラスメント(パタハラ)
・ケアハラスメント(ケアハラ)
✅社会通念上ハラスメントと認識されているもの
・モラルハラスメント(モラハラ)
・アルコールハラスメント(アルハラ)
など
日本におけるハラスメントの現状
日本におけるハラスメントの現状としては、結論から述べると、まだ多くの企業において、ハラスメントが発生していると考えられます。
厚生労働省が2020年に行った調査によれば、回答のあった企業・団体(6,426件)のうち、
・パワハラについては48.2%
・セクハラについては29.8%
が、過去3年間に相談を受けたと回答しています。(厚生労働省ウェブサイト「職場のハラスメントに関する実態調査について」)
また、パワハラ・セクハラについて相談があったと回答した企業・団体のうち、実際にハラスメントに該当すると判断した例があったものは、
・パワハラについては70.0%
・セクハラについては78.7%
と高い割合を示しました。
ハラスメントのレベル
ハラスメントはその悪質性などに応じて、以下のレベル(段階)に分けることができます。なお、上位レベルのハラスメントに該当する行為は、下位レベルのハラスメントにも該当します。
①刑法上の犯罪
刑法上の犯罪に該当する行為をした者は、逮捕・起訴されたり、刑事罰を受けたりする可能性があります。ハラスメントの中でも、きわめて悪質性が高い類型の行為といえるでしょう。
- 刑法上の犯罪に該当するハラスメントの例
-
✅ 暴行罪(刑法208条)
→他人に対して暴力を振るう行為✅ 傷害罪(刑法204条)
→他人に対して暴力を振るい、けがをさせる行為✅ 名誉毀損罪(刑法230条)
→何らかの事実(※真偽は問わない)を不特定に対して示した上で、他人の名誉を毀損する行為✅ 侮辱罪(刑法231条)
→公然と他人を侮辱する行為✅ 強制わいせつ罪(刑法176条)
→暴行・脅迫を用いて、被害者の反抗を著しく困難にした上でするわいせつな行為など
②民法上の不法行為(権利侵害)
ハラスメントによって被害者の権利を侵害し、損害を与えた場合には不法行為に該当します(民法709条)。
- 不法行為とは
-
不法行為とは、故意または過失によって、他人に損害を与えることを意味します。
例えば、「上司が部下を殴る」というパワハラが発生したとします。その場合、部下は
・病院で治療を受ける
・会社を休まなければならない
といった対応を取らざるを得ず、治療費や、会社を休んだことによる金銭的損害などが発生します。この場合、上司(加害者)は、民法709条のルールに従い、相手に対しこれらの損害を賠償しなければなりません。
※もちろん、①刑法上の暴行罪や傷害罪にも該当します。
不法行為に当たるハラスメントを受けた被害者は、加害者に対して損害賠償請求を行うことができます。
また、加害者を雇用していた企業も、安全配慮義務違反(労働契約法5条)や使用者責任(民法715条1項)に基づき、被害者に対する損害賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。
- 民法上の不法行為に該当するハラスメントの例
-
✅ 被害者を侮辱して、精神的なダメージを与える行為
✅ 度重なる恫喝やセクハラによって、被害者をPTSDに陥らせる行為
など
③労働法上のハラスメント該当行為
ハラスメントの中でも、
・パワハラ
・セクハラ
・マタハラ/パタハラ
・ケアハラ
については、労働法による規制がなされています。
具体的には、労働法の領域で、各ハラスメントの定義を明確化しているとともに、企業に対して、ハラスメントの防止・対応のために必要な措置を講ずるよう義務付けています。
犯罪に該当するか否か(①)、あるいは被害者が損害を受けるか否か(②)にかかわらず、企業は労働関係法規が定義するような4つのハラスメントが発生しないように、適切な措置を講じなければなりません。(各ハラスメントの定義については「ハラスメントの種類」で解説しています)
もしハラスメントの防止・対応に関する措置を講じる義務を怠った場合、厚生労働大臣による行政処分の対象になり得ます。
④企業秩序違反行為
社内規程によって、法令を上回る厳格なハラスメント防止基準などを定めた場合には、企業はその基準に従ってハラスメントに該当するかどうかを判断すべきです。
社内規程などで定められたハラスメント防止基準に違反した従業員に対しては、懲戒処分などの対応も検討しましょう。
ハラスメントの種類
ハラスメントには、以下に挙げるようにさまざまな種類があります。
✅ セクシュアルハラスメント
✅ パワーハラスメント
✅ マタニティハラスメント/パタニティハラスメント
✅ ケアハラスメント
✅ その他のハラスメント
・リストラハラスメント
・モラルハラスメント
・ジェンダーハラスメント
・セカンドハラスメント
・アルコールハラスメント など
以下、それぞれ解説します。
パワーハラスメント(パワハラ)
「パワーハラスメント(パワハラ)」とは、職場における優越的な関係を背景とした言動により、労働者の労働環境を害することを意味します。
パワハラの要件(定義)
労働施策総合推進法30条の2では、パワハラの要件を以下のとおり定めています。
- パワハラの要件
-
①職場にて、優位的な関係に基づいて行われること
→上司の部下に対する言動、集団の個人に対する言動、知識や経験に優れた労働者のそうでない労働者に対する言動などが該当します②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
→合理的な業務指示や指導の範囲内であれば、パワハラには該当しません③労働者の就業環境を害する言動であること
→典型的には、パワハラの6類型(後述)に当たる行為が該当します
パワハラの6類型
厚生労働大臣が定める指針では、パワハラの代表例として、以下の6類型を挙げています。
6類型 | 例 |
---|---|
身体的な攻撃 | ・殴る ・蹴る ・物を投げる |
精神的な攻撃 | ・人格否定 ・侮辱 ・過度に長時間の叱責 ・他の従業員の面前での叱責 |
人間関係からの切り離し | ・合理的な理由のない別室隔離や自宅研修 ・集団での無視 |
過大な要求 | ・達成困難な目標を課し、達成できなかった場合に厳しく叱責する ・必要性がない業務の指示(お茶くみなど) |
過小な要求 | ・能力に見合った仕事を与えない ・追い出し部屋に異動させて何もさせない |
個の侵害 | ・プライベートな事柄を過度に詮索する ・職場外で継続的に監視する ・私物の写真を撮影する |
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」とは、職場における性的な言動により、労働者に対して不利益を与えることを意味します。
セクハラの要件(定義)
- セクハラの要件
-
①職場において行われる性的な言動であること
→承諾のないボディタッチ、身体的な特徴に関する言動、性的な行動や考え方を詮索する言動などが該当します②以下のいずれかに該当すること
(a)労働者の対応により、当該労働者が労働条件について不利益を受けること(=対価型セクハラ)
(b)労働者の就業環境を害する言動であること(=環境型セクハラ)
男女雇用機会均等法11条では、セクハラの要件を以下のとおり定めています。
対価型セクハラと環境型セクハラ
セクハラは「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2種類に分類されます。
- 対価型セクハラ
-
「優遇する対価として性的な言動を要求する」「労働者の対応(例:拒否や抵抗)を理由に、その労働者を解雇・降格・減給にするなどの不利益を与える」タイプのセクハラ
(例)
・上司が部下に対して、昇進したければ性交渉に応じるように求める
・部下が上記を拒否したことを理由に、降格させる
- 環境型セクハラ
-
「職場内での性的な言動」により、労働者の就業環境が害されるタイプのセクハラ
(例)
・職場の休憩時間中に性的な内容の会話をする
・事務所内にヌードポスターを掲示している
・懇親会の際にお酌を強制する
マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ)
「マタニティハラスメント(マタハラ)」とは、妊娠・出産・育児に関する言動により、女性労働者の就業環境を害することを意味します。
「パタニティハラスメント(パタハラ)」とは、育児に関する言動により、男性労働者の就業環境を害することを意味します。
- マタハラ・パタハラに当たる言動の例
-
・「(出産や育児で)休むなら仕事を辞めてほしい」「休むことで他の人に迷惑が掛かっていることを自覚するように」などと言う
・産前産後休業や育児休業を取得することを理由に、役職を剥奪する
・産前産後休業や育児休業を取得することを理由に、派遣社員との契約を更新しない
ケアハラスメント(ケアハラ)
「ケアハラスメント(ケアハラ)」とは、介護休業の利用に関する言動により、労働者の就業環境を害することを意味します。
- ケアハラに当たる言動の例
-
・「(介護休業により)休むなら仕事を辞めてほしい」「休むことで他の人に迷惑が掛かっていることを自覚するように」などと言う
・介護休業を取得することを理由に、役職を剥奪する
・介護休業を取得することを理由に、有期雇用労働者との契約を更新しない
モラルハラスメント(モラハラ)
「モラルハラスメント(モラハラ)」とは、労働者に対する精神的な嫌がらせ全般を意味します。
職場において行われる、優越的な関係を背景とした精神的な嫌がらせはパワハラに当たります。これに対してモラハラには、優越的な関係が背景にある場合に限らず、対等な関係にある者の間で、あるいは劣位者から優越者に対して行われる嫌がらせも該当します。
- NG 例
-
・同期入社の他の従業員から日常的に暴言を受けている
・部下が自分に聞こえるところで悪口を言っている
・仕事で関わりのない他の部署の従業員に付きまとわれている
など
ジェンダーハラスメント
「ジェンダーハラスメント」とは、性別によって社会的役割が異なるという固定観念に基づき、嫌がらせや差別を行うハラスメントです。
セクハラとは異なり、ジェンダーハラスメントは必ずしも性的な言動であるとは限りません。「男性だから すべき」「女性だから であるべき」などの固定観念に基づいて、労働○○○○者に対して差別的・不平等な取り扱いをすることがジェンダーハラスメントに当たります。
- NG 例
-
・女性であることを理由にお茶くみをさせる
・男性であることを理由に営業を担当させる
など
なお、性差を考慮して男女間で異なる取り扱いをする場合でも、その区別が合理的であれば、ジェンダーハラスメントには当たりません。
- OK 例
-
・妊娠中の女性従業員に、身体をケアするための特別休暇を与える
・筋力に劣る女性従業員が力仕事をする際、男性従業員にサポートさせる
など
アルコールハラスメント(アルハラ)
「アルコールハラスメント(アルハラ)」とは、労働者に対して行われる、飲酒に関する嫌がらせや迷惑行為全般を意味します。
飲み会への参加・不参加や、参加した場合に酒類を飲むかどうかは、労働者が自由に決めるべき事柄です。飲み会への参加や飲酒を強制する行為は、アルハラに該当します。
また、飲み会であることや酔った雰囲気などにかこつけて、労働者が不快に感じる行為をすることもアルハラに当たります。
- NG 例
-
・従業員同士の懇親を目的とする飲み会への参加を強制する
・アルコールへの耐性が弱い従業員に無理やり酒を飲ませる
・「無礼講なんだから」などと言い、部下の従業員に対して異性に関する好みを執拗に質問する
・酒に酔っていることを言い訳にして、他の従業員に対してボディタッチをする
など
リストラハラスメント(リスハラ)
「リストラハラスメント(リスハラ)」とは、辞めてほしい(リストラしたい)労働者に対して嫌がらせを行い、自主退職を促すハラスメントです。単に気に入らない労働者を邪険に扱う意図のほか、解雇に関する厳しい規制を回避するため、自主退職に追い込みたい意図が背景にある場合もあります。
リスハラは通常、人事権を有する者(役員や管理職など)が主導して行うため、優越的な関係を背景とする点でパワハラにも該当するケースが多いです。
- NG 例
-
・辞めさせたい従業員を追い出し部屋に配置転換し、全く仕事を与えない
・辞めさせたい従業員を、あまりにも劣悪かつ過酷な労働環境で働かせる
・辞めさせたい従業員を連日罵倒し、精神的に疲弊させる
など
テクノロジーハラスメント(テクハラ)
「テクノロジーハラスメント(テクハラ)」とは、IT に関する知識に乏しく、IT 機器やネットワークなどの取り扱いが不得手な労働者に対して行われる嫌がらせを意味します。
近年ではテレワークの普及やAI ツールの発展など、業務におけるIT の重要性が増したことから、IT を活用できる労働者とそうでない労働者の間で断絶が生まれています。このような断絶を背景として、IT に対して苦手意識のある労働者を攻撃するテクハラが注目を集めています。
- NG 例
-
・デジタル機器やシステムの使用方法を全く教えようとせず、使えないことを過剰な言葉で責める
・IT 機器の取り扱いが苦手な従業員に対して、何らのレクチャー等を行うことなく、IT 機器を使いこなせなければ到底対応できない高度な業務を課す
・IT に関する知識のない従業員が参加している会議において、その従業員を疎外するため、意図的に専門的なIT 用語を使った議論に終始する
など
ハラスメントにおける単語の意味
セクハラ・パワハラの定義に登場する「職場」「労働者」について、それぞれの用語の意味を確認しておきましょう。
「職場」とは
「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所のことです。
会社のオフィスや工場、作業現場などが「職場」の典型例ですが、これらに限りません。例えば出張先・業務用車両の中・取引先との打ち合わせ場所・接待の席なども、労働者が業務を遂行する場所であるため「職場」に当たります。
さらに、勤務時間外の滞在場所についても、実質的に会社の業務を引き続き行っていると評価すべき場合は、「職場」に該当することがあります。例えば同僚の歓送迎会や打ち上げの会場なども、その場でなされた行為と業務の関連性、参加者の顔ぶれや人数、参加が強制であるなどの事情によっては「職場」に当たる可能性があります。
このように、会社のオフィス・工場・作業現場等以外の場所でも、実質的な観点から「職場」に当たると判断されることがあり、その場合はセクハラやパワハラの現場になり得るので注意が必要です。
「労働者」とは
「労働者」とは、会社と雇用契約を締結しているすべての者をいいます。
雇用形態を問わず、会社と雇用契約を締結していれば労働者に該当します。例えば正社員のほか、契約社員・パート・アルバイト・派遣労働者なども「労働者」です。
会社は、労働者がセクハラやパワハラの被害に遭わないように、雇用管理上適切な措置を講じなければなりません。派遣労働者については、派遣元・派遣先の双方がセクハラ・パワハラの防止措置を講じる必要があります。
これに対して、フリーランス・一人親方・請負業者などは、会社と雇用契約を締結していないため、原則として労働者に当たりません。
ただし、仕事の進め方や時間配分などにつき、会社がこれらの者に対して具体的な指示を行っている場合には、実質的に見て「労働者」と評価されることがあるので注意が必要です。
立場別|ハラスメントがもたらす影響・リスク
社内でハラスメントが発生した場合、企業・被害者・加害者の全てに不利益が発生します。企業は、多方面に弊害の大きいハラスメントの発生を、できる限り未然に防がなければなりません。
企業
社内でハラスメントが横行すると、
・従業員の離職率が上がり、優秀な人材の流出につながる
・「ハラスメントが行われている企業だ」という評判が広まり、新卒採用や中途採用がうまくいかない
といった悪影響が生じます。人材の確保が困難になると、企業の中長期的な成長は望めません。
また法的には、以下のリスクを負います。
・安全配慮義務違反(労働契約法5条)または使用者責任に基づき、被害者から損害賠償請求を受ける
・セクハラ・パワハラ・マタハラ・パタハラ・ケアハラについては、企業が対応・防止に関する雇用管理上必要な措置を講じていないと判断された場合、厚生労働大臣による行政処分を受ける
被害者
ハラスメントの被害者は、就業環境が害されてしまい、これまでどおりに働くことは難しくなってしまうでしょう。
また、メンタルヘルスが悪化し、うつ病などの精神疾患を発症する可能性があります。中には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの後遺症が残るケース・自殺に至ってしまうケースもあります。
そして、「被害者の家族」へも影響が大きいです。例えば、うつ病になり、仕事・家事・育児などができなくなったり、うつ病を原因として離婚したりといった事態になってしまうかもしません。
もちろん、加害者や企業に対する損害賠償請求は可能ですが、それだけで全ての精神的なダメージが癒えるわけではありません。
加害者
ハラスメントの加害者には、主に以下の悪影響があります。
・加害者自身の評判を落とす・社会的地位を失う
・懲戒処分を受ける
また、法的には以下のリスクを負います。
・被害者から損害賠償請求を受ける可能性がある(民法709条)
・刑法上の犯罪に該当すれば罪を問われる
種類別|ハラスメントが発生する主な理由・原因
ハラスメントが発生する原因としては、以下に挙げるようなさまざまなパターンが考えられます。
・ コミュニケーション不足
・ 個人の価値観の違い
・ アンコンシャス・バイアス
・ 性別役割分担意識(セクハラ)
・ 組織風土や職場環境(パワハラ)
・ 業務量の配分が不適切(マタハラ・パワハラ・ケアハラ)
共通|コミュニケーション不足
全てのハラスメントに共通しているのは、そもそもコミュニケーションが不足している、ということです。
ハラスメントは「相手の主観」によるところが大きく、何を嫌と感じるかは十人十色です。本来であれば、コミュニケーションを通して、相手の性格や抱えている事情などを知る必要があります。
しかし、コミュニケーションが不足していると、そうした情報を把握できず、結果として相手の性格を無視した言動・配慮に欠けた言動となり、ハラスメントへと発展してしまうリスクが高まります。
共通|個人の価値観の違い
ハラスメントが発生した際には、被害者が深刻なショックを受けている一方で、加害者は悪気がないというケースが多いです。このような場合、被害者と加害者の価値観に大きなずれが生じています。
ハラスメントに関する現代の常識からすれば、言動を受ける側の感じ方を基準として判断しなければなりません。つまり、被害者と加害者の価値観にずれがあるならば、基本的には加害者側が是正に努めるべきだということです。
共通|アンコンシャス・バイアス
「アンコンシャス・バイアス」とは、「無意識の偏見」を意味する言葉です。自分は差別的ではないと思っていても、これまで過ごしてきた環境などによってアンコンシャス・バイアスが定着し、気づかないうちにハラスメントを行ってしまうケースがあります。
アンコンシャス・バイアスを取り除くためには、研修などを通じ、現代的な感覚を身に着けることが必要不可欠です。
セクハラ|性別役割分担意識
性別役割分担意識とは、「男は仕事・女は家庭」のように、男性・女性という性別を理由として役割を分ける考え方のことです。性別役割分担意識が強いと、セクハラをしてしまう傾向が高まります。
性別役割分担意識は、現代では全く通用しません。特に高齢に差し掛かった男性労働者の間では、性別役割分担意識をもっている傾向にあるので注意が必要です。
パワハラ|組織風土や職場環境
パワハラの発生には、組織風土や職場環境が大きく影響します。パワハラは基本的に、上から下へ行われます。そのため、「上に立つ者は特別な権利をもっている」といった組織風土・職場環境が根付いてしまうと、パワハラが起こりやすくなるのです。
具体的には、
・指示・命令といった「上意下達のコミュニケーション」しか行われていない
・部下は上司に絶対服従しなければならない
・成果を出している人が正義
というような組織風土や職場環境は、パワハラ発生のリスクが高い状態といえます。
マタハラ・パタハラ・ケアハラ|業務量の配分が不適切
マタハラ・パタハラ・ケアハラは、労働者が産前産後休業・育児休業・介護休業を取得することに伴い、業務のしわ寄せが行く他の労働者によって行われるケースが多いです。
しかし、産前産後休業・育児休業・介護休業によって他の労働者の業務状況がひっ迫するようでは、そもそも業務量の配分が不適切といえます。各休業の取得は労働者の権利であり、企業側はそれを織り込んだ上で業務配分を決めなければなりません。
ハラスメントに関係する法律
ハラスメントに関しては、以下に挙げる法令においてさまざまな規制が設けられています。企業がハラスメントの防止に取り組む際は、各法令における規制内容を正しく理解することが大切です。
・ 労働安全衛生法
・ 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)
・ 男女雇用機会均等法
・ 育児介護休業法
・ その他
労働安全衛生法
労働安全衛生法10条以下では、企業に対して、労働者の安全・衛生に関する管理者・責任者などを設置する義務が課されています。
労働者の安全・衛生に関する管理者・責任者は、ハラスメントに関する相談窓口を担当するケースも多いです。企業としては、安全・衛生に関する対応マニュアルや研修の中にハラスメントに関する内容を盛り込んで、管理者・責任者の教育に取り組むべきでしょう。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)
労働施策総合推進法30条の2以下の規定は「パワハラ防止法」とも呼ばれており、パワハラの防止・対応に関する事業主の責務を定めています。
特に、同条3項に基づき厚生労働大臣が定めた指針については、企業がパワハラの防止・対応に関する措置を講ずる上で、十分に参考とすることが求められます。
厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法11条ではセクハラについて、11条の3ではマタハラについて、それぞれの防止・対応に関する事業主の責務を定めています。
パワハラと同様に、セクハラ・マタハラについても厚生労働大臣が指針を定めており、企業は指針の内容を踏まえた上で適切な措置を講じなければなりません。
厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
育児介護休業法
育児介護休業法25条では、
・育児休業に関するマタハラ・パタハラ
・介護休業に関するケアハラ
について、それぞれの防止・対応に関する事業主の責務を定めています。
育児介護休業法で規制されるハラスメントについても、厚生労働大臣が指針を定めており(同法28条)、企業は十分にその内容を踏まえた措置を講じる必要があります。
厚生労働省「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」
その他
ハラスメントに該当する行為は、上記の各法律のほか、刑法・民法に違反する場合があります。
刑法では暴行罪・傷害罪・名誉毀損罪・侮辱罪・強制わいせつ罪などの犯罪について、民法では不法行為に基づく損害賠償などについて定めています。
これらのルールに抵触するハラスメントは、悪質性の高いものとして、企業としても厳正な処分を検討すべきでしょう。
ハラスメント防止のために事業主が講ずべき措置(予防法)
各ハラスメントに関して厚生労働大臣が定めた指針では、ハラスメント防止のために事業主が講ずべき措置として、以下の内容を共通して挙げています。
・ 事業主の方針等の明確化・周知・啓発
・ 相談・苦情に応じる体制の整備
・ ハラスメントが発生した場合の迅速・適切な事後対応
・ その他
事業主の方針等の明確化・周知・啓発
事業主は、職場におけるハラスメントに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、次の措置を講じることが求められます。
- 事業主の方針等の明確化・周知・啓発に関する措置
-
・ 職場におけるハラスメントの内容と、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する
・ 職場におけるハラスメントに当たる言動を行った者については厳正に対処する旨の方針と、対処の内容などを定めて、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する
相談・苦情に応じる体制の整備
事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じることが求められます。
- 相談・苦情に応じる体制の整備に関する措置
-
・ 相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
・ 相談窓口の担当者が、相談に対して、内容・状況に応じ適切に対応できるようにする(被害を受けた労働者が相談を躊躇する例があることなども踏まえ、広く相談に対応する)
ハラスメントが発生した場合の迅速・適切な事後対応
事業主は、ハラスメントの相談があった場合、次の措置を講じることが求められます。
- ハラスメントが発生した場合の迅速・適切な事後対応に関する措置
-
・ 事実関係を迅速・正確に把握する
・ ハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
・ ハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、行為者に対する措置を適切に行う ・ 改めて職場におけるハラスメントに関する方針を周知・啓発するなど、再発防止に向けた措置を講じる
その他
上記のほか、事業主は次の措置を講じることが求められます。
- その他の措置
-
・ ハラスメントに関する事後対応に当たり、相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じるとともに、その旨を労働者に対して周知する
・ ハラスメントの相談をしたことなどを理由として、労働者が解雇その他の不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する
ハラスメントが発生したときの対応方法
社内におけるハラスメントの発生が発覚した場合は、以下の手順で迅速かつ適切に対応することが大切です。
①事実確認を行う
②関係者に対する措置(処分・フォロー)を講じる
③再発防止策を適切に実施する
①事実確認を行う
まずは、ハラスメントに関する正確な事実確認を行いましょう。被害者・行為者に加えて、必要に応じて周囲の従業員などからも事情を聴き、ハラスメントが行われていたか否かやハラスメントの内容などを把握します。
正確な事実確認は、その後の被害者のフォローや、行為者の処分などを適切に行うための前提となりますので、慎重に行う必要があります。
②関係者に対する措置(処分・フォロー)を講じる
事実関係を把握しハラスメントを確認できたら、被害者・行為者のそれぞれに対して、何らかの措置を講じましょう。
真っ先に考えられるのは、配置転換によって被害者と行為者を引き離すことです。また、被害者については産業医と連携して精神面のフォローを行いつつ、行為者についてはハラスメントの内容に応じた懲戒処分も検討すべきでしょう。
なお、行為者に対する懲戒処分は、ハラスメントの内容等に比して重すぎる場合は無効となるおそれがあるので注意が必要です(労働契約法15条)。
③再発防止策を適切に実施する
ハラスメントが発生した場合は、それを機に社内のハラスメント防止体制を強化し、再発防止に努めることが肝要です。
第一にハラスメントの原因を調査した上で、同じハラスメントが二度と発生しないように予防策を講じましょう。また、ハラスメントの発生や経過を社内全体に周知して注意喚起を図ることも、ハラスメント撲滅の空気を醸成する観点から効果的です。
この記事のまとめ
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参考文献
厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
厚生労働省「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
厚生労働省「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」
横山佳枝・倉田梨恵著『明日、相談を受けても大丈夫!ハラスメント事件の基本と実務 モデルストーリーとその実務、書式と裁判例』日本加除出版、2019年