委託とは?
意味・委任や請負との違いや業務委託契約書の記載事項などを解説!
- この記事のまとめ
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「委託」とは、外部者に業務や役割を任せることを意味します。業務委託契約書に基づいて従業員以外の者に業務を依頼する場合(=業務委託)、製品の製造を依頼する場合(=製造委託)、および自社商品の販売を依頼する場合(=販売委託)などに用いられます。委任の対義語は「受託」です。
委託と同じく、外部者に業務や役割を任せるという意味の用語として「嘱託」「委任」「委嘱」などがあります。
嘱託は、非正規社員を雇用する場合や、官公庁が外部機関に事務を依頼する場合などに用いられます。
委任は民法で定められる典型契約の一種で、委任者が受任者に法律行為を委託するものです。法律行為以外の事務を委託する場合は「準委任」と呼ばれます。
委嘱は、専門的知識を要する業務や役割を外部者に任せる場合に用いられます。委託については、委任・請負・雇用・派遣のどれに該当するかに注意が必要です。該当する取引の種類によって、適用される法律のルールが異なります。委託の性質は、取引の実態によって判断されます。
他社に対して業務を委託し、または他社から業務を受託する際には「業務委託契約書」を締結します。請負・委任・雇用との違いや、主な記載事項を踏まえて、業務委託契約書が適切な内容となっているかどうかチェックしましょう。
※この記事は、2023年9月26日時点の法令等に基づいて作成されています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 労働者派遣法…労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
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目次
「委託」とは
「委託」とは、外部者に業務や役割を任せることを意味します。
業務委託契約書に基づいて従業員以外の者に業務を依頼する場合(=業務委託)、製品の製造を依頼する場合(=製造委託)、および自社商品の販売を依頼する場合(=販売委託)などに用いられます。
委託の具体例|業務委託・製造委託・販売委託など
「委託」は、外部者に業務や役割を任せる際に広く使われる用語です。
委託が行われる取引としては、以下の例が挙げられます。
① 業務委託
② 製造委託
③ 販売委託
業務委託
当事者の一方が相手方に対して何らかの業務を委託し、相手方がこれを受託する取引(契約)です。
委託される業務の内容は幅広く、例えば以下のようなパターンが挙げられます。
・清掃業務委託契約
・システムの保守業務委託契約
・コンサルティング業務委託契約
・弁護士や税理士などの顧問契約
・営業代行業務委託契約
・店舗運営に関する業務委託契約
・ウェブサイト制作の業務委託契約
・コンテンツ制作の業務委託契約
・建築設計監理業務委託契約
・研修講師の業務委託契約
など
製造委託
当事者の一方が相手方に対して製品の製造・納品を委託し、相手方がこれを受託する取引(契約)です。「製造物供給契約」と呼ばれることもあるほか、自社製品の製造を委託する場合は「OEM契約」と呼ばれることもあります。
販売委託
当事者の一方が相手方に対して自社商品の販売を委託し、相手方がこれを受託する取引(契約)です。「販売代理店契約」と呼ばれることもあるほか、その方式によって「販売店契約」と「代理店契約」に区別されることもあります。
委託の対義語は「受託」
委任の対義語は「受託」です。委託は業務や役割を任せること、受託は委託された業務や役割を受けることを意味します。
契約書においては、業務や役割を委託する側を「委託者」、それを受託する側を「受託者」と呼称するのが通例です。ただし、取引の種類によっては違う呼び方をすることもあります(委託者については発注者・注文者・委任者など、受託者については受注者・請負人・受任者など)。
委託の類語は「嘱託」「委任」「委嘱」
委託と同じく、外部者に業務や役割を任せるという意味の用語として「嘱託」「委任」「委嘱」などがあります。
① 嘱託
非正規社員を雇用する場合や、官公庁が外部機関に事務を依頼する場合などに用いられます。
非正規社員のうち、定年後に再雇用されている者を特に「嘱託社員」と呼ぶことが多いです。
② 委任
委任者が受任者に法律行為を委託する契約をいいます。民法で定められる典型契約の一種です。
法律行為以外の事務を委託する場合は「準委任」と呼ばれます。
③ 委嘱
専門的知識を要する業務や役割を外部者に委託する場合に用いられます。委託が幅広く用いられるのに対して、委嘱は特に専門性の高い業務や役割の委託に絞って用いられるのが特徴です。
委託と「委任(準委任)」「請負」の違い
民法で定められた典型契約である「委任(準委任)」と「請負」は、「委託」との間に深い関係があります。委託は委任(準委任)に該当する場合も、請負に該当する場合もあるからです。
委託が委任(準委任)や請負に該当する場合、対応する民法の規定が適用されます。委託の実態に応じて、どのような性質の取引であるかを確認しましょう。
委託と委任(準委任)の違い
「委任」とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約です(民法643条)。また、法律行為以外の事務を委託・受託する契約は「準委任」に当たります(民法656条)。
委託のうち、請負・雇用・派遣のいずれにも該当しないものは「委任」または「準委任」に該当します。
委託のうち「委任(準委任)」に該当するもの
委任は法律行為、準委任は法律行為以外の事務を委託および受託するものです。この要件だけを見れば、すべての委託は委任または準委任に該当するように思われます。
しかし実際には、請負・雇用・派遣に該当する委託については、委任・準委任からは除外されます。詳しくは後述しますが、以下の委任は請負・雇用・派遣に該当します。
① 委託業務が仕事の完成を目的とするもの
→請負
② 受託者が委託者の指揮命令下で業務を行うもの
→雇用
③ 受託者が委託者以外の者の指揮命令下で業務を行うもの
→委託者との関係では雇用、派遣先との関係では労働者派遣
したがって委託のうち、請負・雇用・派遣のいずれにも該当しないものが「委任」または「準委任」に該当することになります。
例えば以下の委託は、委任または準委任に該当すると考えられます。
- 委任または準委任に当たる委託の例
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・清掃業務委託契約
・システムの保守業務委託契約
・コンサルティング業務委託契約
・弁護士や税理士などの顧問契約
・営業代行業務委託契約
・店舗運営に関する業務委託契約
・建築設計監理業務委託契約
・研修講師の業務委託契約
・販売委託契約(販売代理店契約)
など
「委任(準委任)」に当たる委託に適用されるルール
委任・準委任に該当する委託については、民法における以下の委任の規定が適用または準用されます。
- 受任者の善管注意義務(民法644条)
- 復受任者の選任(委任者の許諾またはやむを得ない事由が必要。民法644条の2第1項)
- 復受任者の権利および義務(同条2項)
- 受任者の報告義務(民法645条)
- 受任者の受取物の引渡義務等(民法646条)
- 受任者が委任者に引き渡すべき金銭を消費した場合の責任(民法647条)
- 受任者の報酬(特約がなければ無償。民法648条、648条の2)
- 受任者による費用の前払請求(民法649条)
- 受任者による費用等の償還請求等(民法650条)
- 委任の解除(民法651条、652条)
- 委任の終了(民法653条~655条)
なお、契約で別段の定めをした場合は、契約の定めが優先的に適用されます。ただし、契約による変更が制限される場合もあります(例:事業者と消費者の間の委任契約・準委任契約など)。
委託と請負の違い
「請負」とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって成立する契約です(民法632条)。
委託のうち、対象業務が仕事の完成を目的とするものは「請負」に当たります。
委託のうち「請負」に該当するもの
請負も委託の一種ですが、その大きな特徴は、委託業務の目的が仕事の完成である点です。何らかの仕事の完成を目的とした委託は「請負」に当たります。
例えば以下の委託は、請負に該当すると考えられます。
- 請負に当たる委託の例
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・ウェブサイト制作の業務委託契約
・コンテンツ制作の業務委託契約
・製造委託契約(製造物供給契約、OEM契約)
など
「請負」に当たる委託に適用されるルール
請負に該当する委託については、民法における以下の請負の規定(民法559条に基づき、有償契約について準用される売買の規定を含む)が準用されます。
・手付解除(民法557条)
・報酬の支払時期(目的物の引渡しと同時に支払う。民法633条)
・注文者が受ける利益の割合に応じた報酬(=出来高報酬。民法634条)
・請負人の契約不適合責任(民法562条以下、636条、637条)
・注文者による契約の解除(民法641条)
・注文者についての破産手続きの開始による解除(民法642条)
など
上記の規定にかかわらず、契約で別段の定めをした場合は、原則として契約の定めが優先的に適用されます。
ただし、契約による変更が制限される場合や、特例が適用される場合があります(例:請負人が宅地建物取引業者であって注文者が宅地建物取引業者でない場合、事業者と消費者の間の請負契約、新築住宅の工事請負契約など)。
業務委託契約書について
会社間で業務を委託および受託する際には、業務委託契約書を締結するのが一般的です。委託・受託の内容やルールを業務委託契約書に明記しておけば、当事者間におけるトラブル防止につながるほか、万が一トラブルが発生した際の解決基準となります。
業務委託契約書には、業務委託と雇用・派遣の違いに留意しつつ、必要な事項を過不足なく定めましょう。
業務委託と雇用・派遣の違い
業務委託契約書を締結するに当たっては、業務委託と雇用・派遣の違いに注意が必要です。
「雇用」とは、労働者が使用者に対して労働に従事することを約し、使用者がその労働に対して報酬(賃金)を与える内容の契約です(民法623条)。雇用の場合、労働者は使用者の指揮命令下で働く代わりに、労働者の保護を目的とした労働法(労働基準法など)が適用されます。
これに対して業務委託は、委託者と受託者の間に指揮命令関係がないことを前提とするのが一般的です。指揮命令関係がなければ、業務委託に労働法の規定は適用されません。
ただし業務委託の名目であっても、実質的に見て受託者が委託者の指揮命令下にあると評価すべき場合は、「偽装請負」として労働法が適用されてしまいます。
偽装請負を防ぐためには、業務委託契約書において指揮命令関係がないことを明記した上で、現場の実態についても指揮命令関係を疑われないようにすることが大切です。
また、受託者が委託者の指示に基づき、委託者以外の者の指揮命令下で業務を行う場合、委託者と受託者の関係は雇用となる一方で、委託者は派遣先に対して「労働者派遣」を行っていることになります。
労働者派遣を行うためには、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません(労働者派遣法5条1項)。無許可で労働者派遣を行った場合は、労働者派遣法違反となります。
業務委託契約書の主な記載事項
業務委託契約書に記載すべき主な事項としては以下の例が挙げられます。取引の内容に応じて、必要な規定を過不足なく定めましょう。
① 委託業務の内容等
② 受発注の方法
③ 禁止事項
④ 納品・検収の方法
⑤ 成果物の権利
⑥ 業務委託報酬の額・支払方法等
⑦ 再委託の可否
⑧ 契約期間
⑨ 反社会的勢力の排除
⑩ 秘密保持
⑪ 損害賠償
⑫ 契約解除
など
業務委託契約についての詳細は、以下の記事を併せてご参照ください。
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